8話 じじいの異世界解説
皆それぞれ地べたに座り、楽な姿勢でじじいの話に耳を傾ける、一人だけケツを傾けているやつがいるが。
じじいが嬉々として語りだした。
レン達に救って欲しい世界は宇宙が無く、地上だけが存在する、その地上がじわじわと広がっていく世界なのだそうだ、さすがに宇宙のように光の速さの何倍とかではなく、本当にじわりじわりと広がっていくらしい。
その光景を見てみたいものだな。
宇宙は無いのに空があり、昼と夜もあって規則的にゆっくり切り替わる、もちろん宇宙がないので夜になっても星はなく、もちろん星が無いので太陽も月もない、でも昼は明るいし夜も月明かり程度には周りが見えるらしい。
惑星じゃないので四季もない、なぜかちゃんと空気や重力は存在し、空気があるので気圧の変化で風が吹いたり、雨も降る。
色々と考えたが、レンは理解できるほど頭は良くないので、そのへんはどうでもいいと考えながらじじいの話を聞いていく。
物理法則は地球とほぼ同じ。
いや、絶対嘘じゃん、同じなわけねぇだろ、ほぼ同じ、の”ほぼ”の中に、どんだけ地球の差と非常識が詰込まれてるんだよ。
さすがにそこまで鵜呑みにはせず多少は疑ってかかる。
人間からすればこの”ほぼ”の差は大きいかもしれんが、世界スケールで比較すれば対した差じゃないってか?やかましいわ!
世界からすれば対した差じゃなくても、適応するのは人間なのだ。
あと、町並みはラノベにありがちな中世ヨーロッパ的な感じではあるが貴族はいない、だが貴族みたいな階級がある場所が、あるにはある。
よく分からんな、なんだよ場所って、適当か?
封建制度はないのか、絶対王政か?はたまた実力主義で強者支配の世界なのか?
そのあたりは実際に行ってからだな。
地上の面積は地球の数倍、年に数cm〜数十kmずつ広がっているのだとか。
いや、広がりの差よ。
そしていよいよ。
お待ちかね、ファンタジー要素の説明です!まぁ今までも十分にファンタジーだったけども。
一気にテンションが上がるレン。
ぶっちゃけ前者の説明はどうでもいいんだ、宇宙がないのにどういう理屈で地上が存在してるの?とかそんなことはどうでもいい!そんなことを言うやつには、じゃあ、宇宙ってどんな理屈で存在してるの?って聞き返せばいいんだよ。
生きていければそれでよかろうなのだ、敢えて解説するなら、異世界だから、これに尽きる!だが地球、お前はだめだ、地球だから、は理由にならんからな、はははは!勝ったな!
くだらないことを考えるレンをよそに、異世界の解説は続く。
異世界の地表には、魔脈と呼ばれる魔力の元みたいなものが流れていて、目には見えない、始点も終点も謎、世界の端から端へと流れているらしく、その流れも常に変化しているのだとか。
世界の端とやらは闇に覆われていて、先に行こうとすれば弾き戻されてしまう。
そして地上が広がるのに比例して、その闇の奥から強力な魔物がやってきて、地上に溢れるのだとか。
数十Km広がるときなんか、めちゃくちゃ強い魔物が出てきそうだな。
そして強い魔物が弱い魔物を餌に、弱い魔物はさらに弱い魔物を餌に、ゆっくりと内側に進行している、幸いにも魔物はそこまで多くの食事を必要としないらしく、進行はほんとにゆっくりなのだとか。
一説には、魔物は空気中に漂う魔力を、体に吸収できる器官があるのだとか。
すでに地上にいたり、闇から新しく出てきた最弱の魔物は、強い魔物の目を盗んでコソコソ逃げて、人間を餌にしようとさらに人の住む世界に近づいてくる。
そんなわけで地上の外周部付近には強力な魔物、内周部は弱い魔物と階層のようになっていて、魔物が生息する区画は、全て危険区域とされている。
魔物に攻められ、人が住める面積は地球の半分にも満たない。
危険区域は人族基準でざっくりと10個の区画に分けられていて、浅層第1〜3区、中層第1〜3区、深層第1〜3区、最後に最深層区だ。
しかし日夜地上は広がっているのでいずれ最深層区にも1〜3区と呼び名がつくだろうとの事。
魔物は人間を見るやいなや襲いかかってくる。
知能は低そうだ、よくコソコソ逃げてこられたな、野生の勘か?
魔族とか魔王はいない、魔物と人間種と亜人種が地上の土地を奪い合い、日夜争っているとのこと。
魔族がいないのに亜人種はいるのか、亜人種=魔族みたいなものだと思っておけばいいか。
地上の中心に近いほど人間種が多く住み、浅層入口付近に近いほど亜人種が多いという。
亜人と魔物には、なにか関係性がありそうだな。
人間と亜人の姿は地球上と同じで、二足歩行という姿は変わらないとか。
いや、地球に亜人なんていないだろうが、実はいるのか?っていうか…
「ちょっと説明ストップだ」
解説なげぇよ!
オタクのように早口でペラペラと喋る、じじいの口を手で制して止める。
あんまりネタバレが過ぎると、異世界がつまらなくなるしな。
「もう説明はいい、お願いとやらをはよ言え」
「なんだ、これからが楽しいのに」
「うるせぇ、こっちがどんな気持ちかも察してんだろ」
「そうだな、わかった、では、お願いなのだが、今儂が言った世界に転移して欲しい」
「ああ」
…
…
「え、それだけ?」
「そうだが?」
「いやいや、世界の崩壊がどうだこうだ言ってただろうが」
「まぁそうなんだが、それはおぬしらが行ってくれれば、自然と崩壊は止められるというか、止まる結果になるだろうと思われるというか」
「ほんとにイージーだったよ!」
こんなんだったら異世界の説明なんて聞かなきゃよかった、お願いとか言わないで、黙って送ってくれればよかったのに、おかげさまで異世界初見の感動が薄れそうだ。
「ってか、その世界に行って欲しいってどういう意味だ?行く世界を選べるのか?」
「…うん」
「なんだよその知られたくなかったみたいな顔は」
「だからこそのお願いなんだよ」
「そうか、わかった、どの世界に行っても初見には変わらないしな、そこに行ってやる、みんなもいいよな?」
「いいぞ」
「いいよ〜♪」
「うむ」
「はい!」
「…」
あ、セイトは倒れてたんだった。
「なぁ、あいつは大丈夫なのか?障害が残りそうなほどの吹っ飛びかただったが」
「ん?ああ、大丈夫、ここでは怪我などはできないことになってるからな、ステータスが体に馴染むまで、まともに動けないだけだよ」
「そうなのか、実験台…いや、尊い犠牲だった、セイトは英雄だな」
「今実験台って言わなかった!?言い切ってから言い直しても遅いよ!」
あ、セイトが目を覚ました。
「ふん!」
「ぶっ」
シンが殴って気絶させた。
「怪我はしないと言ってたからな、思いっきりいかせてもらった、またこの場で一からセイトに説明するのは面倒だしな」
「それは、説明しなければいいだけの話では?」
「いや、この爺さんは嬉々として話すだろう」
確かにそうだな、約1時間ほども話を聞いたばかりなのに、すぐに再放送は視聴率に影響が出る、またいらん知識が入ってくるかもしれないしな。それに…
ここからが本題、最重要項目だ。
「爺さん、ステータスの詳細を教えてくれ」
「お、呼び方が変わったな、それでは殊勝なおぬしにわかるよう、まずはそやつのステータスを見ながら説明しよう」
そう言って爺さんはパチンと指を鳴らす、指先から光の玉が出て、セイトに当たって。
バリバリッ!
おお!セイトが一瞬光って、うっすら半透明のモニターみたいなものが出てきた。ちょっとびくびくってなってたけど。
あとでセイトのことは労ってやろうと、心に誓うレンだった。
「さあ、皆近くに寄って見てみよ」
ふむ、内容はよく見るゲームと同じような感じだが。
名前 紫水聖斗 30歳
職業 忍邪
貯蓄 0
体力 10000
筋力 1023
俊敏 1580
精神 1056
魔力 889
魔体 325
知能 332
技術 1226
才能
闇 風 楽
技能
黒影 風操1 楽観視5
なんか全体的に数値高いな、これが普通なのか?個々人の能力を細分化するにはこれくらい細かい数値じゃなきゃだめなのかもな。
そして職業の不穏加減よ、本当にこいつは…名前だけは勇者なのに。




