83話 氷の都レクステッド
レン、カリン、セイトの3人は、現在氷王レイスが治める南国の首都、レクステッドに来ている。
「一面真っ白だな、凄い景色だ…」
「ああ、地球では絶対にお目にかかれない光景だ」
「凄い!家が氷で出来てるよ!住めるのあれ!?」
「流石に中は住めるようになってるんじゃないか?」
レクステッドは他の国と違い、街の中に聖堂が無かった、氷で出来た洞窟のような場所に聖堂が建っており、聖堂を出て目の前すぐの所に、洞窟の出口がある、そこから出ると少し高台になっており、レクステッドの街並みが一望出来るのだ、どうやら氷山の中腹辺りにあるらしい。
「街の真ん中に建ってるお城も、少し青味がかった氷の城だな、垂れ下がってる氷柱がいい雰囲気を醸し出してる、まるで魔女の城みたいだ」
「街中から上がっている、白い冷気がまた幻想的だな、綺麗だ…」
「異世界に来た!って感じだよね、ねぇ!早く行ってみようよ!」
「ははは、そうだな、行くか」
「うむ」
「っていうかこれ、どうやって降りるの?」
「「あ…」」
ホントだ、これどうなってんだ?高台が突き出ているだけで、下へ行く道がないぞ?洞窟内に他の道はなさそうだし…
「他の町へ行って歩いてくるとか?」
「めんどくせぇ…」
しばらく呆然として、岩板を出すか、瞬光で行くか悩んでいると。
「「「…」」」
高台の縁からゆっくり人の顔が上がってきた。
えぇぇ、なにこれ…ていうか、おっせぇ…シュールだなぁ。
崖下から、真っ白のローブを着た、幼そうな女の子が、それはそれはゆっくりとせり上がってきた。
なにこの子…めっちゃ無表情なんですけど、この空気によく耐えられるな。
たっぷり数十秒後――
「ようこそ…レクステッドへ…」
「はい、案内の方かな?」
「……はい」
「「「…」」」
ねぇ大丈夫!?案内役これでいいの!?
「え、え〜っと、その氷の板に乗ればいいのか?」
「…イエス」
なんで英語!?くそっ…なんだこれは!また無表情なのがなんとも…耐えろ俺っ!
「じ、じゃあ乗ろうか、3人なんだが大丈夫かな?」
「……はい?」
何で疑問形?意味が伝わらなかったのか?ヤバい…
「ぶふっ、ゴホッゴホッ…すまん、冷気で少し喉をやられたみたいだ、とりあえず乗ろうか」
別に落ちそうになったら瞬光でどうにでもなる。
「…どうぞ」
「…」
無言で板の上に乗り込む3人。
普通横に避けない?板の縁ギリギリ、俺達の真正面に立ったままどうぞって…そんなに大きな板じゃないから結構邪魔なんですが?
「では…レクステッドの街へ…ゴー…」
ねぇホントにこの子で大丈夫!?
上がって来たときのようにゆっくりゆっくり下がっていく、そして…
「…あちらが…え〜……お城です…」
ガイドみたいな事をし始めた。
「んふっ…」
パンッ!
「痛っ!なんで!?」
堪えきれず漏れてしまったので、平気そうにしているセイトのケツを引っぱたいた。
「あ…あれは、なんだか…分かりません……すみませぬ」
せぬ!?もうやめて!無理に喋らなくていいから!
「そ、その、私はカリンだ、よろしくな、君の名前は?」
カリングッジョブだ!
「??」
首を傾げて不思議そうにカリンを見つめる白い幼女。
「名前、私カリン、あなたは?」
「私は……シロ」
「う、うむ!いい名前だな!」
「そう…ですか…白いから…シロ…言われてます」
ん?なんか名前じゃなさそうだな…
「僕はセイトだよぉ、よろしくねっ」
「俺はレン、シロが本当の名前か?」
「名前…無いです…皆にシロ…言われてます」
「「…」」
やっぱりか、少し気に掛けておこう…
「よく似合った良い名前だと思うぞ、名前が無いなんて言うな、シロ、それが名前でいいだろ」
「ありが、とう…ございます…」
「ああ、ここでの案内がシロの仕事なのか?」
「…はい」
「そうか、頑張ってるな、偉いぞ」
フードの上から頭を撫でてあげる。
ん?なんか違和感が…
「そんな事、ない、です…いつも、怒られて…ます」
「そうなのか?」
「はいです…この台動かすの…遅いです…」
「ふむ…」
レンは、後で必ず様子を見に来ようと考えていた。
「おいシロ!もっと早く動かせよ!お客さんに迷惑だろ!」
「すみません、です…」
「お前はいつまで経っても下手くそだな!」
「…」
下からシロを説教する声が聞こえてきて、やがて地上に到着。
「いらっしゃい!ようこそレクステッドへ!寒い国ですが、楽しんで行って下さい!」
「は〜い!行こうよレンちゃん♪」
お前は…本当に馬鹿だな、シロの扱いを見てなかったのかよ、まぁ楽観視の技能が発動してるのかもな、確かに今シロの事をどうのこうの言ったら、扱いがもっと酷くなるかもしれないからな、可哀想だが今は行くか。
「シロ、世話になったな、お前のガイド、なかなか良かったぞ」
「!!…ありがとう…ござい、ます…」
「お客さん、甘やかさねぇでくれ、オイラはこいつの世話係をしてるんだが、なかなか成長しなくてねぇ」
「う〜ん、そうか…まぁでも少しは優しくしてやれよ、こんなに小さいんだ、まだまだ先は長いだろ」
「背は小せぇが…まぁ、そうだなぁ、分かったぜ、こんなんでも喜んでもらえたなら良かった、ありがとう!シロ、良かったな!」
「はい、です…」
「かぁ〜!相変わらず元気ねぇなぁ!あ、すいませんお客さん、どうぞゆっくりしてって下さいねぇ」
あれ?こいつ、なかなかいいやつだぞ?シロを見る顔が優しげだ、さっきのは本気の教育だからこその怒りだったのか。
「ああ、また次もよろしくな」
『レ〜ンちゃ〜ん!早く早く〜!』
「もうあんな遠くまで…馬鹿弟がはしゃぎ過ぎだ、後で説教だな!」
「ははっ、はしゃぐのも無理ないさ、こんなに綺麗な街なんだ、早く見てみたいんだろう」
「うむ!あたしも見てみたい!行こう、レン!」
お?少し昔のカリンに近づいてきたな、おバカにだけは戻るなよ?
「あ、カリン、すまんその前に、兄さんの名前は?」
「オイラかい?オイラはタイラーってんだ、覚えておいて損はないぜ?」
「どんな自信だよ、はははっ、よろしくな、タイラー、俺はレンだ」
「あたしはカリン、あの遠くにいる馬鹿が…セイトだ」
「おう、よろしくな、レン!カリン!」
「じゃあまたな」
手を振りながら別れ、2人はセイトを追いかけ、レクステッドの門に向かった―――
「城壁もすげぇ…滝が凍ったみたいだな」
「うむ、凄い迫力だ、今にも迫ってきそうだな」
「門もカッコいいよねぇ、半透明だよ、全部氷なんだね」
ホント、南国詐欺だなこの国は、まぁ詐欺とは言ってもいい意味で期待を裏切られたって感じだけど。
「見ない顔だねぇ、この街は初めてかい?」
「そうだ、なんなら南国自体が初めてだな」
「おおそうか!この街に来てくれてありがとな、んん!それでは…ようこそ旅のお方!俺の名前はグレイス!ここ南国氷王の治める街、氷の都レクステッドの門番だ!世にも珍しい氷の世界を堪能していってくれ!」
「おお!なんかそれっぽいな、門番はこうじゃなくちゃな」
「凄い、感動した!アトラクションが始まるみたいだねっ!」
「うむ、なんだか年甲斐もなくワクワクするな」
「ははは、照れるぜ、仕事だからな、お金をもらってるんだ、しっかり働くさ」
「じゃあ入らせてもらうが、このまま入っても?」
「いいぜ、ここでは俺が審査員だからな、お前らなら大丈夫だと、俺の勘がそう言っている!」
「ありがとうグレイス」
その後、3人はきちんと自己紹介をして、街へ入って行った。
「門も凄かったな、自動ドアか?」
「優秀な魔道具職人がいるのかもな」
「レンちゃん、まずはどうするの?」
「最初は宿探しだろ、もう結構良い時間だしな、できるだけ高級な宿を探すぞ」
「うへぇ、金遣いが荒いよ〜、僕達はあばら家でも大丈夫だよ?」
「そうだぞレン、いくらなんでも世話になりすぎている」
「ヤダ!高級宿がいい!」
「「…」」
それ以上何も言わなくなる2人、黙ってレンの後に付いていく―――
「ここだ」
「うわぁ…」
「むぅ、見るからに高そうな宿だな」
「よし行くぞ」
「うむ」
「…」
地上4階建ての大きな建物、いかにも高級そうな見た目にセイトはドン引きしている。
どうしたセイト、いつもの元気がないぞ。
「いらっしゃいませ〜!ようこそ氷結の宿、フリージングインへ!」
赤髪おかっぱの可愛らしい元気な女の子だ、凄く小さくて、カウンターから頭しか出ていない、小さいが雰囲気で大人だと分かる、カウンターに手を乗せて一生懸命接客している姿がなんとも微笑ましい。
ティルより小さいぞ、シロとどっこいどっこいだな…
「3人なんだが、それぞれ個室で一泊頼みたい、空きはあるか?」
「はい、ブロンズ・シルバー・ゴールド、全てに空きがございます!いかがなされますかぁ?」
「ゴールドだ」
「ちょっ、レンちゃん!お金大丈夫なの?この服で結構使ったでしょ?」
「そうだぞレン、あくまでも魔物素材として持っているんだろ?現金は持っているのか?」
「3億と9百万持っているが?」
「3億!?」
「えぇ…その剣を買うのに3億使ったじゃん、どんだけ持ってるのさ…」
「いろいろあったんだよ」
「そ、そうなんだね…」
「一泊、金貨15枚、3人ですと45枚になりま〜すぅ!」
「この国は初めてなんだが、お金の単位…呼び方はなんて言うんだ?」
「クリです!」
「「「クリ!?」」」
なんだよクリって!ここへ来て法則外れかよ!レイとかだと思ったのに。
「45万…クリ、だな?」
「はい!45万クリです!」
違和感しかねぇ…
ジャリ…
「ふんふふん♪ひーふーみー…はい!ちょうどですね、まいど〜♪」
ヤバい、頭撫でたい…
「食事のお時間は、お夕飯が21時から23時、朝が8時から10時、昼食が15時から17時になってます!時間内に食堂に行かれますと、無料で食事できますので、是非ともご賞味くださいませ!チェックアウトは明日の今の時間までにこちらまでお願いします!」
「…」
「お、お客様?」
ナデナデナデナデ…
レンは我慢できなかった。
「すまん、あまりにも可愛らしいので、我慢できなかった」
「大丈夫ですっ、慣れてますから♪」
「あ、あたしも…」
カリンも我慢できなかった。
「お客様3名、ゴールド入りまーす!」
「はぁ〜い!」
案内の人について、氷の通路を歩いていく。
「中まで氷とは恐れ入る、なんで冷たくないんだ?街の中もそうだったが、床が全然滑らないし、なんなら少し暖かいぞ」
「こちらは全てレイス様の力にございます」
「魔法なのか?」
「いえ、そういう魔道具ですね」
「凄いな…一度会ってみたいんだが、可能かな?」
「それは…分かりません、一般の方はそう簡単に会えないと言われております故」
「そうか…」
「こちらから奥の3部屋が、お客様方のお部屋でございます」
案内の人と話をしながら廊下を歩いていると、いつの間にか部屋に着いていた。
「案内ありがとう」
「いえ、ではごゆっくり」
鍵を預かり、セイトとカリンに話しかける。
「お前らは時計を持ってるか?」
「いや、あるのは知っていたが、持ってないな」
「そうか、今はまだ18時くらいだ、地球だったら午後3時ってところだな、飯まで3時間もあるし、少し街を歩くか?」
「うん!行く行く〜♪」
「そうだな、氷王の情報も調べたほうがいいのだろう?」
「さすがカリン、セイトとは違うな」
「ふん、いいも〜ん、どうせ僕はこんなだよ〜」
「ははっ、それがセイトのいい所でもあるんだがな」
「レンちゃんよく分かってる〜♪」
「よし、少し部屋で休んでから行くか、1時間くらいしたら声かけるよ」
「うむ、分かった」
「おっけ〜」
案内から預かった鍵はブレスレット形で、腕に嵌めてそのまま氷の扉に手を触れると、スッと溶けるように扉が無くなった。
話は聞いていたが…なんだこの技術力は、これも魔道具なのか?凄すぎる…
部屋の中に入ると、右の壁に鉄板が貼り付けられており、そこには手の絵が描いてある。
「ここに触れると扉が出現するのか、扉を触ればまた消えると、案内人が言っていた通りだな」
扉だけは氷だが、そのほかは普通の部屋だった、しかしゴールドなだけあって、広さは普通じゃないが。
レンは部屋の奥へ行き、半透明の氷で出来た窓を押し開いてみた…
おいおいおい…ここ一階じゃないぞ!?どうなっている?階段なんて登った記憶ないのに…思えば通路は曲がり角も無く、ずーっと1本道だったよな、確かに歩いた時間を考えると宿の大きさを超えていたが…
「はぁ…」
ベッドに腰掛け、ため息をつく。
「別の意味で氷王が気になってきたぞ…」
―――1時間後
「お前らにこれを」
「「え…」」
カリンに155万クリ、セイトには115万3846クリが入った袋を渡す。
カリンには100万プラス利息の残りを全て、セイトにはファニーをクリに換金した端数の金額を渡した。
レートは
1.3ファニー→1.0クリ
だった。
「いくら入ってるのか見るのが怖いな」
「うん、僕も…少し心を落ち着かせてから中見るね」
「好きにしろ、時計でも見つけたらそれで買え」
夕食までの2時間〜3時間、レクステッド観光をするため、3人はフロントに向かって真っ直ぐ歩いていった。




