82話 極寒の南国
サリーと挨拶を交わした後、部屋で剣の素振りをしていたカリンを引き連れ、爆睡していたセイトを叩き起こし、引きずって中央へやって来た、現在は3人でオーク串を食べながら、南の聖堂へと向かっている。
「そういえば、最北の村の名前なんだが、ダストにしろって言い始めたのは誰なんだ?」
「それは覚えている、エリカだ…鼻くそが、強い人間を育てるのには逆境が必要だって言っていて、その村の話をしていたんだ」
「話を聞いていたエリカが、じゃあ村の名前を無くしちゃえば?ってね〜、なんならゴミでいいよ、ダストよダスト!いい名前じゃない?って1人で騒いでたんだよ〜」
「あいつ…村の名前が村長にとってどれだけ大切か分かってねぇな、会ったらげんこつだ」
「ははっ、頭がめり込みそうだな」
「大丈夫、俺は回復が得意なんだ」
「レンちゃん、なんか怖くなったねぇ」
「お前らのせいだろうが、俺は一回この世界を滅ぼそうと考えたんだぞ」
「や、優しいままで良かったよ〜、はははー」
「余計な事をいうな!この駄目忍者が!」
「姉ちゃんごめんよ〜」
「ふん」
「カリンは少し雰囲気変わったな」
「そ、そうか?」
「ああ、少し知的になったと思う」
「最初、知能にステータスを振ったからかもしれないな」
「そうか、正解だったな、お前は少しおバカさんキャラだったから」
「おバカ…あたしが?」
「とにかく声はデカかったし、よく分からん事も堂々と発言していたからな」
「は、恥ずかしい…」
「下ネタなんか全然通じなかったもんねぇ」
「そうだったな」
「べ、別に下ネタなんか通じなくったっていいじゃないか!」
「確かにそうだ、とにかく今のカリンのほうが、好感が持てるし、信頼もできる」
「あ、ありがとう…」
「あっ、姉ちゃん照れてる〜」
「そういうお前は何に振ったんだよ」
「僕だって知能に振りたかったよ、でも振れなかったんだよ〜」
「はぁ、潜在能力が低かったんだな、そんなんだからセイトなんだよ」
「どういう事?」
マジで分かってなさそうだな…本当にこいつは顔と運動神経だけの男だ、知能はサンドといい勝負だぞ。
「お前…そこまで重症だったのかよ」
「弟がすまない、今後は勉強も教えていくよ」
「そうした方がいいな」
「ええ〜、勉強嫌だよ〜」
「まぁ、セイトが強くなりたくないならそれでもいいよ、俺とカリンは一足先に行くから」
「勉強頑張ります!」
その後は、魔法に関しての知識などを教えながら、南の聖堂へと到着した。
「さぁ、いよいよ南国だな、いつも思うけど遠すぎる、2時間は掛かったぞ、本当に大きな街だな」
「ははは、でもそれで良く道に迷わず真っ直ぐここに来られるな、あたしだったら迷ってもっと時間掛かるぞ」
「そういうのに便利な技能を持ってるんだよ」
「そうなのか、羨ましいぞ」
「僕は南国に行くのは初めてだよ、姉ちゃんも南は行ってないよね?」
「ああ、行ってないな、何故か鼻くそが行かせてくれなかったからな」
「なぁ、やけに厚着の奴が多くないか?」
「うむ、そう見えるな…」
「とりあえず1回行ってみない?」
「そうだな、行ってみようか」
―――――
「いらっしゃいませ〜、何をお探しですか?」
「この2人に防寒着を適当に見繕ってくれ、金に糸目はつけない」
「ほぉ、それはそれは…」
南国はめちゃくちゃ寒かった…
「なんであんなに寒いんだよ、四季は無かったんじゃないのかよ」
「南国の名前からは想像もつかないほどの寒さだったな」
「僕、鼻水凍ったよ〜」
カリンは、黒いぴちっとしたキャミソール、下は紫色のハイソックスに黒のミニスカート、脛が隠れる程度の白いロングブーツ、そして、その上に軽鎧をつけていた、お腹は薄いキャミソール1枚だし、腕には肘までの手甲をつけているが、肩から肘までは素肌だ。
セイトは忍者衣装、以上!
「なんか僕の紹介雑じゃない?」
「男なんてそんなもんだろ、あと俺のナレーションにつっこむんじゃない」
「はははっ、ついね、レンちゃんは買わないの?」
「俺はコートを持ってるからな」
「へぇ、準備がいい、流石だね〜」
「あたしは、鎧を外したほうがいいのだろうか」
「その辺は店主が考えてくれるんじゃないか?」
しばらく待っていると。
「お待たせしました、まずは女性のお客様から」
「うむ」
カリンが一歩前に出る。
「こちらなどはいかがでしょうか?」
「うん?マント?」
「はい、全身を包み込むことが出来る袈裟マントになります、全てサラマンダーの皮で作られており、高級品ですが、保温効果派は抜群ですよ」
表は黒、内側が紫色に染められており、今のカリンの格好に非常にマッチしている、そういう色を選んできてくれたんだろう、長い襟付きで顔の下半分まで隠せるようになっている、金色の刺繍がしてあり見た目もカッコいい、なんか…悪役の幹部みたいだな。
「いいなそれ、カッコいいぞ」
「うむ!これにしよう!」
「ありがとうございま〜す♪では次に男性のお客様ですが…こちらです!はいどん!」
「こ、これは!」
忍者衣装に合う、和風の着物調コートって感じだ、フード付きでもちろん色は黒、ところどころ赤い刺繍で、ファイアーパターンのような模様が、目立ち過ぎない程度に施されている、男心をくすぐる一品だ。
「カッコいいでしょう?サラマンダーの皮と耐水性のある生地で仕上げられており、先程のマント程ではありませんが、こちらもかなりの保温性となっております」
「ほぉ〜!かっこいい!凄いよこれ!」
この店に来て正解だったな。
「いくらだ?」
「マントの方が金貨150枚、コートの方は金貨135枚となっております」
「「え…」」
なんだ?自分で買おうと思ってたのか?
ちなみに店員は金貨と言っているが、実際は小金貨である、金貨は10万サリーなので、あまり普段使いはしない為、小金貨は金貨、金貨を大金貨と言うのが常識だ。
「2人とも、そんな悲しい顔をするな、俺が払うに決まってんだろ」
「レンちゃ〜ん、ありがと〜」
「また迷惑を…すまない」
「285万サリーだな?」
「左様でございます」
「分かったよ、それじゃあ、はいよっと」
ジャリ
ステータス
貸与中[−B10,000,000]利息[+2,000,000]
よし!利息の端数無し、スッキリ〜♪
「この袋には3百9万9千サリー入っている、確かめてくれ」
「かしこまりました、では計算してお釣りを…」
「いや、釣りはいらない、そうだな…なんか適当なバッグみたいなものは無いか?」
「お二方用ですか?」
「そうだ、よく分かったな」
「お客様はバッグなんて必要ないのではと愚考いたしました」
流石プロだ、収納を見ても動じない、助かる。
「それでしたら、こちらなどはどうでしょう、あまり在庫はございませんが、様々な色を取り揃えており、選びやすいかと」
腰に巻くタイプの、まんま見た目はウエストポーチだ、いい皮を使っているらしく質感が高級そうだ。
「こちらは有名な工房で製作されておりまして、容量大の効果が付与されており、見た目以上の量が入る、収納ポーチとなっております」
「なんと!?そういうのがあるのかぁ、もう少し調べれば良かったぁ」
「容量は小さな小屋程でございます、しかもコチラの指輪も購入して頂きますと、ポーチ内への収納が念じるだけで一瞬となります」
「おぬし、商売上手よのぉ」
「いえいえ〜、そんな事は〜、ほほほほっ」
なるほどなぁ、指輪があればポーチの開口部よりも大きな物も出し入れ可能になると、そういう訳だな…
「よし買った!俺も1つ貰おう、全部で3つだ、いくらになる?」
「ポーチが金貨30枚、指輪が金貨10枚になります」
「おいおい、1つだけでもさっきのお釣りで買えないじゃないか、本当に商売上手だ、参った」
ジャリッ!
「追加で100万サリー、これで4万9千サリー多くなるが、報酬だと思って受け取ってくれ」
「宜しいので?」
「ああ、気に入ったから、あんたへの投資だ、また来た時はよろしくな」
「はい!お買い上げありがとうございま〜す!」
これで利息がぴったり100万サリーだな、よしよし♪
「いい買い物だった、ありがとうな、サリーにも報告しておくよ」
「へ?サリー…サーレック様!?」
「ははは、そんな驚かないでくれ、別に文句を言うわけじゃないんだから」
「よ、宜しくお願いします、またのお越しを〜♪」
実は下着や諸々の服を買いに何回かサリーと来ているのだが、偽装を解いたから気付いてないんだな、まぁいいだろう、これはこれで楽しいから、ふふふふ…
「レンちゃんはお金持ちなんだねぇ」
「レン、何から何まで本当に助かる、礼は必ずするからな」
「いいよ礼なんて、俺は金銭感覚が狂ってるんだ、お金なんて所詮は物を交換する為の道具に過ぎない、まだまだ数億分、下手すれば数十億分の魔物が収納に入ってるんだ、そんな感覚にもなる」
「ははは…なんか、住んでる世界が違うよね」
「うむ、あたし達も早く追いつかなくてはな」
「2人もすぐに金銭感覚が狂うことになるよ、覚悟しとけよ?」
「楽しみだねぇ、ねっ、姉ちゃん♪」
「あぁ、楽しみにしておこう」
セイトが珍しい店を見つけると、あれは何だこれは何だと走っていく、それをカリンが引き戻して説教したり、カリンがムキムキのおっさんに話しかけられ、セイトが威嚇していたり、それを見て笑って、楽しく歩いていく。
一緒に行動する事で過去のわだかまりが徐々に薄れ、学生時代に戻ったかのように会話を楽しみながら中央へ戻り、再び2時間掛けて南の門へ向かっていった…
「そうだった、俺はこんなふうに異世界を楽しみたかったんだよな…」
ボソッとつぶやき、少し瞳を潤ませながら先を歩くレン、その後ろを楽しそうに歩くカリンとセイトの2人はそれに気付く事はなかった…




