78話 硬剣黒王…
レンはカリン、セイトとの話し合いの結果、とりあえずは納得して和解し、精神を無理矢理落ち着かせた。
あそこまで謝罪してるのに、いつまでも腹を立てていては、自分が情けなくなってくるしな…怒りのやり場もないし、カリン辺りは性格上、ずっと内心償い続けるだろう、それを罰として今後は注意してもらえばいい。
「ラルファ、待たせた」
「おう、お?仲直りか?」
「ラルファさん、ごめんなさい」
「お、おう、もう二度と同じ真似しなければいいよ」
「あたしからも、弟が迷惑をかけた、本当にすまない」
「だぁ〜!もういいよ!オレは大丈夫だから、そんなかしこまらないでくれ、そういうのは苦手なんだよ」
「はははっ、ラルファっぽいな、カリン、セイト、こいつには喧嘩腰くらいが丁度いいんだよ」
「お前…馬鹿野郎!普通でいいんだよ普通で!喧嘩腰なのは初めて会った時のお前だけで十分だ!」
「レンちゃん、この人に何したんだよ…」
「ん?武器を作らねぇとか抜かしやがったから、ちょっとな」
「ほどほどにしなよね」
「お前こそだろ、ラルファに何したかもう忘れたのか?」
「はははは〜…あ、そうそう、はいこれ」
「これは?まさかこの剣が…」
「そう!その名も硬剣黒王!」
「おい!勝手に変な名前をつけるんじゃねぇ!シンプルに硬剣でいいだろ!」
「いいじゃねぇかレン、かっこいいと思うぞ?」
「俺は厨二病じゃないんだ、勘弁してくれよ」
「ちゅうにびょう?」
「俺達の故郷にはな、そういう名前の精神病があったんだよ、主に14歳で発症するんだ、こいつのようにな」
「そうだねぇ、僕は重症患者だからね」
こいつ…厨二菌がそうとう回ってんな、治療不可だ。
「まったく、本当にそういう名前になったらどうすんだよ」
受け取った剣を収納に放り込み、レンはおもむろに…
収納
時間停止中
テント一式 1セット⇐
デビル・ディアーのコート 1セット
ボア革の服 1セット
寝巻き 2セット
その他服 10着
オーク串 140本
ダークネス・オークカオス
カオスゴブリン
カオスタイガー
カオスウルフ
オークカオス
バトルベア
バトルボア
オーク
硬剣【黒王】
8百万ファニー
3億サリー
「…」
手遅れでした(泣)
「レ、レンちゃん?」
「セイト…とりあえずお前はあとで説教な」
「そんなぁ〜、姉ちゃん助けて〜」
「無理だな、今のあたし達は、レンに逆らえるような、気力も実力も持ち合わせておらん!自分の巻いた種だ、潔く受け入れろ!」
「ぐすん」
相変わらずカリンは弟に厳しいな、まぁいいか…いや、よくない!黒王は…はぁ、世界に認識されたら終わりだよな、ちくしょう…
「とりあえずララのところに行こうぜ、何があるか分からなかったから、東国に避難させてるんだよ」
「分かった、迷惑掛けたな、じゃあ行くか!」
「東か、あたしは一回ラングロドルへ行った事があるが、すごく…男臭い街だったな」
「そう?姉ちゃんが男に耐性無いだけじゃないの?」
「確かに男臭い街だよあそこは、でも王様は女なんだ、かなり強いぞ?」
「そうか、あたしも頑張らなくては…」
―――――
「ようこそ開拓者組合ラングロドル中央支部へ!おかえりなさい母ちゃん!」
「お前…とうとうオレに愛想が尽きたのか…?」
「うん!」
ガクッ
ラルファは床に崩れ落ちた…
「ラルファ…こればっかりはどうしようもない、お前が真面目に働かないのが悪いんだ…」
「母ちゃんが真面目に働くなら考えるよ!」
「本当か!?た、頼む!また戻ってきてくれ!真面目に働くから!」
「わかった!じゃあお世話になりましたセシルさん!」
「うふふふ、あんまりお母さんをいじめちゃ駄目よ、ララちゃん」
「は〜い」
「よかった…」
ララはなかなか攻めるな、あんなに助けてくれって頼んできたのに、もうケロッとしてるよ。
「母ちゃん、この人達は?渡り人様もいるし…レンさんは来ないの?」
「ああそうか…ララ、俺がレンだ、セイントとは仲直りしたんだよ」
「え!?レンさん?仲直り?」
流石に情報量が多いよな。
「俺はこいつらに自分のことがバレたくなかった、だから名前も見た目も偽装してたんだよ」
「そうだったんですね」
「ああ、でも想定より2人が弱かったし、俺もそこそこ強くなったしな、もう偽るのをやめたんだよ」
「そこそこ…?」
そこは、なるほどと納得して欲しかったぞ…
「ようレン、もう問題は片付いたのか?」
「おうサリー、おかげさまでな、迷惑かけてすまなかったな、お前は俺が分かるのか?」
「いや、全然分からん、体もムキムキだし、顔も今のほうがいい男だぞ、魔力の質も全然違うし、いったいどうなっている?」
「じゃあなんで普通に話し掛けられるんだよ」
「会話が聞こえただけだよ、う〜む、しかしいい体だな…ちょっと触ってもいいか?」
「別に構わんが…変なところ触んなよ?」
「それは私の興奮度によるな」
「じゃあ駄目だ、俺は清い男だからな、汚されるわけにはいかん」
「相変わらず女みたいな事を言う、少しくらいいいではないか」
ヒュン!
ヒュッ!ペチッ!
瞬光を使って触ろうとしてきたので、瞬光で躱して額をペチッとしておいた。
「ちっ…こんな美女に触られるのを嫌がるとは」
「別に嫌なわけじゃない、周りの目を気にして欲しいだけだ」
「あ…」
受付嬢達や、多数の開拓者がこちらに注目していた。
「と、とりあえず場所を移そう…」
―――
サリーの執務室へ皆で移動してきた。
「よし!ここなら触り放題だな」
「おい、今はそういう場合じゃないだろ、少し冷静になれサリー」
「冗談だよ、まぁあとで触らせてはもらうがな」
どんだけ筋肉好きなんだよ。
「しかしララは凄いな、ここでずっと働いてもらってもいいかも…」
「い、いや!それは待ってもらいたい、サリーとやら」
「冗談だよ、私もそこまで鬼じゃないさ」
「ラルファ、この人は鬼じゃないけど、烈王だからな?場合によっては鬼よりたち悪いかもしれんぞ?」
「れつ…おう?」
「うむ!私はこの東国の王!烈王サーレックだ!」
「サーレック王!?よ、呼びつけなんかにしてしまい、申し訳ございません!」
ラルファは、それはそれは見事な土下座をしてみせた。
「うむ!お前の謝罪、確かに受け取った!罰としてこの国に住め!」
「へ?」
「まぁ実はレンから相談されていてな、お前達をここの4階に住まわせてはどうかとな、かなり鍛冶の腕が立つと言うではないか、もちろんお前達の意見を尊重するがな」
「え、いえ、え?オレはどうすれば…」
「母ちゃん、私は賛成だよ」
「ララ…お前は地元を離れても大丈夫か?」
「うん、別に仲のいい人もいないし…」
「すまない、オレが真面目じゃないから、お前をまともに育てられなかった、普通だったら同年代の子らと遊んでいる年なのに…」
「おいラルファ、それは違うと思うぞ、今のはララに失礼だ、ララは十分立派に育ってる、俺に、お前を助けてくれと、必死に頼んできた時の顔と言ったら…」
「あ、あ〜!あ~!だめですレンさん!それ以上は規則違反です!」
どんな規則だよ、組合で覚えた言葉を使ってみたんだろうけど。
「ララ…こんな駄目な母親を捨てないでくれて、ありがとう…サーレック様」
「うむ!」
「ここに、住まわせて下さい、家賃ならきちんと働いて稼ぎます!」
「ああ、この建物に併設するように鍛冶場を建てるから、働いてもらうのは確定だが、お金なら心配するな、もうレンから貰っている」
「「えっ!?」」
同時にレンを見るラルファとララ。
驚いた顔がそっくりだな、親子だねぇ。
「1億サリー…小金貨1万枚渡しておいたから当分の家賃と食費には困らないだろ、あと、お前らの部屋に残り2万枚置いてある、あとで確認しろ、この剣の値段だ」
「2万!?」
「きゅう…」
「おっと」
ララがその場で倒れそうになったので、サリーがそっと支えた。
「ふふふ、作戦成功だなレン」
「ああ、まさか本当に気絶するとは思わなかったがな、もう少し手を挙げて大喜びすると思ったんだが」
「お前は少し金銭感覚が狂ってるぞ?3億だったら普通は皆こうなるんだよ」
「そうか、だよなぁ、俺もこの世界に来てこんなすぐに、ここまでの大金を稼げるとは思ってなかったし、正直お金の必要性をそんなに感じないんだよな、なんとなく、お金は物扱いなんだよ、だから3億もお裾分けって感じだ」
「それは強者の特権ってやつだな、別に稼がなくても生きていける、食うに困らなければお金なんかいらないからな」
「俺はこの世界での、最初の2か月が本当に酷かったからな」
「「…」」
黙ってやり取りを見ていたカリンとセイトが、気まずそうな顔をする。
「カリン、セイト、別にお前らに当てつけで言ってるわけじゃないから気にするなよ」
「レン…」
「おっと、謝るなよ?それに今はな、これはこれで良かったんじゃないか、って思ってる自分もいるんだよ」
「そうか、あたしは許してもらったとは思っていない、でも…感謝は受け取ってほしい、ありがとう」
「僕も、ありがとね、レンちゃん♪」
「セイトは少し弛み過ぎだな、お前に関しては保留だ」
「何を!?ねぇ何を保留にされたの?ねぇ!」
「ふふふふ…」
「お?笑ったなカリン、少しは元気出たか?」
「ああ、落ち込んでるだけでは、前に進めないことが分かったよ、またよろしくな!レン!」
「おう!」
パチーン!
2人でハイタッチをして、わだかまりを吹き飛ばす。
「なんだよ2人して〜、ねぇ王様〜、僕を慰めて下さい〜」
「はははははっ♪愉快な奴らだ、少し羨ましいな、私にもそんな友人が欲しいものだ」
「おいおい、俺が友人になってやっただろ、それにそこにも候補者はいるぞ?」
ラルファを指差しそんな事を言ってみるレン。
「お、オレ!?い〜やいやいや!お前っ、馬鹿!変な事言うんじゃねぇよ!」
「な?サリーどうだ?仲良くなれそうじゃないか?」
「そうだな、気が合いそうだ、ふふふふ…」
「レ〜ン〜…覚えてろよてめぇ…」
「なんだ?私と友達になるのがそんなに嫌なのか?」
「い、いやぁ…そんな事は無いでありますれば〜」
言葉がめちゃくちゃになってんな、よし背中を押してやるか。
『サリー、俺がラルファを焚き付けるから、お前も乗ってこい、出来るだけ煽れ』
『了解』
小声でやり取りをして…
「そう言えばサリー、お前新しい武器欲しいって言ってたよな?こいつに作ってもらえよ」
「いやいや、いくら腕が立つにしても、その辺の奴が作った武器なんてたかが知れてるだろ、こいつには2流開拓者向けの汎用武器でも打っていてもらえばいいんじゃないか?いや、荷が重いか?3流開拓者にするか…」
凄いな、もう意図を理解したか。
「あ?てめぇ今なんて言ったこら…」
きたっ、いきなりてめぇ呼びだよ、ふふふ…
「ん?いくらレンが肩入れしてても所詮は一般人、こいつは基本武器無しでも強いんだ、武器なんて必要ないだろ?予備の武器でも打ったんじゃないのか?そんなんで1流である私の武器なんか作らせられまい?」
「ああ?なんだとこらぁ!少し王様だからってべらべらとあること無いこと好き勝手言いやがって!」
「母ちゃん…少しじゃないよ!完璧な王様なんだよ!」
ララ復活!
これは面白くなってきたな。
「ふん、お前の名など聞いたこともないわ、自信があるなら、その名をこの世界に認知させてからほざくんだな」
「言ったなてめぇ!サリーだかなんだか知らねぇが!その言葉後悔させてやっからなぁ!」
「そこは王様だかなんだかでしょ!恥ずかしいよ!もうやめてよ母ちゃん!」
「はっ、後悔なんかするわけ無いだろうが、人に施しを受けなければ生きていられないような人間が、まともな武器なんか作れるわけ無いだろうが」
「ふん、オレは自分が認めたやつにしか武器を作らねぇんだよ」
「だから施し受けることになっちゃうんでしょ!」
「なるほどなぁ、自信がないから、弱い相手を選んでるって事か?」
「てんめぇ…そこまで言うなら打ってやるよ!その代わり素材は全部そっちで用意しやがれ!」
「相分かった!よろしくな、ラルファ!はっはっはっは!」
「ちっ、何なんだよまったく、あ…」
今更王様に喧嘩売ったのを思い出して、足が震えだすラルファ。
「母ちゃん、もう今更だよ…」
「ララ、つっこみ担当ご苦労さん」
「担当!?」
「とりあえずラルファ、サリーがかなり寛容なやつだって分かったろ?だからそんなに気を張るな、仲良くしてやれ、こいつは寂しがりやさんなんだよ」
「お?レン、お前も私とバトルするか?」
「何いつまでも熱くなってんだよ、興奮を抑えろ」
「む…すまんな、楽しくてつい」
「はぁ、気を張って損した気分だ、分かった、仲よくしよう、サリー」
「ああ!よろしくラルファ!」
めでたしめでたし、だなっ♪
「ねぇねぇ、僕にも作ってくれないかなぁ?」
「またお前は…そうだな、ラルファ」
「ん?」
「セイトにも短剣かなんか作ってくれないか?こいつにも強くなってもらわなきゃならない理由があるんだよ、俺が必ず強くしてみせるから、頼むよ」
「分かったよ、レンの頼みだ、打ってやる」
「本当!?やったー!」
「とりあえず黒ければなんでもいいからな」
「了解」
「え、なにその扱い!ひどくない!?」
「そこの娘、カリンって言ったか?お前はどうする?」
「あたしにも打ってくれるのか?」
「流れ的にそうなんだろ?」
そりゃあそう思うよな。
「頼めるか?カリンのやつはしっかりしたのを作ってやってくれ、あと俺も短剣をもう一本欲しい、お金と素材なら協力するよ」
「またこれだよ〜、これじゃ地球にいた頃と扱いが変わらないよ〜」
「セイト大丈夫だ、ラルファは絶対に手を抜かない、そういうやつだ」
「分かってんじゃねぇかレン」
「よし!とりあえず、すぐに鍛冶場の建設を依頼してしまおう、武器作りはそれからだ!」
武器が出来るまでは、俺達もここに厄介になるか、カリンとセイトの修行開始だな、ついでに素材集めもやるか。




