72話 タスク完了!
他の開拓者組合とほぼ同じ造りの建物内を歩き、買い取り窓口へ向かう。
『なんだよあいつ、弱そうなくせして姉さんの横歩きやがって』
『やめろバカ!あいつは門から入ってきたんだぞ!』
『ええ!マジかよ…あんな筋肉で…』
『顔は良いわよねぇ、私アタックしちゃおうかしら』
『ええ〜、あんな体じゃ頼りないわよぉ』
「さすがに注目されてるな、筋肉信者ばっかりだ…」
「そりゃそうだ、門を開けて入ってきて、私と一緒に歩いているんだからな、筋肉の事は…すまん、私の教育が足りてないんだ」
「サリー、お前は筋トレ大好きだよな?その体を見れば分かる、そんなんだから周りが感化されるんだ、カリスマがあり過ぎだ、まぁ、俺ほど過酷な筋トレはしてないと思うがな、はっはっはっ…はぁ…」
ティアとの特訓を思い出して、少しだけトラウマが出てしまった。
「ほっほ〜う、言うじゃないか、さぞかし凄いメニューだったんだろうな?」
「知りたいか?悪魔に魂を売ったほうがマシ、と思えるほどのメニューだぞ?」
「レンの強さはそこにあると見た!やってやろうじゃないか!さぁ教えろ!」
「やっぱり筋トレ大好きだろお前、そんな難しいメニューじゃないよ、5日間筋トレをやり続けろ、それだけだ」
「なんだよ…期待して損したぞ」
「お前、甘く見てんな?食事も無し、睡眠も無し、文字通り5日間ぶっ通しだからな?精神10万の俺が精神死にかけたんだぞ?痛めつけた筋肉を、魔法で回復して、永遠とやり続けるんだからな?もちろん力が上がったら、ウエイトも重くしていくんだぞ?回復なら得意だ、買い取りが終わったら付き合ってやるよ」
「あ、い、いやぁ、私も王様だろ?忙しいんだよなぁ、はははは…」
「なぁんだぁ、そうだったのかぁ、分かったよ、暇があったら教えろよな、お前が期待するほどの筋トレメニューじゃなかったけど、一度は体験してほしいからさぁ、大丈夫、俺はいつでも暇なんだ」
「そ、そうだなぁ、考えておくよ〜、あっはははー」
こいつ、逃げる気だな?そうはさせんぞ、いつか絶対体験させてやる。
サリーは聞くんじゃなかったと酷く後悔していた。
「いらっしゃいませ、ようこそ開拓者組合ラングロドル中央支部へ、受付のセシルと申します、烈王様もごきげんよう」
「ああ、ごきげんよう、こいつはレン、私のちょっとした知り合いで、師匠みたいなもんだ」
『お、おいサリー…』
『しっ、話を合わせろ』
『分かったよ…』
小声でやり取りして、話を合わせることに合意した。
「いやぁ、さすがは師匠だよな、あんな簡単に門を開けて入ってくるとは、驚かされたよ、久しぶりだったから誰だか分からなかったぞ」
「サリーよ、驚きすぎだ、あれくらいは簡単にできるようにならなきゃ駄目だろう、烈王の名が泣くぞ?」
「ははは、相変わらず師匠はお厳しい」
「あ、あの、お名前を伺っても?」
「ああ、俺の名前はレン、最近こいつはたるんでるみたいだから、筋トレでも付き合ってやろうかと思ってな」
ニヤァと悪い顔のレン。
「いやぁ、好きでサボってるわけじゃないんだよ〜、執務で忙しくてなぁ、はははは…」
サリーがおしりをギュッとつねってきた、が…
ふん、そんなもん痛くも痒くもないわ。
「執務なんか、他の者に教えればいいじゃないか、そんなんだから若いのが育たないんだぞ?なあセシルさん?」
「そうですね…烈王様は少し働き過ぎかと、私共に仕事を教えていただければ、数日くらいは休んで頂けるかと、うっ…」
凄い形相で受付嬢を見つめているサリー。
パカーン!
「うぐっ!」
少し強めに頭を引っぱたいた。
「職員を睨みつけるな、怖がってるだろうが」
「私の防御をこんなにも容易く貫通するとは…」
本当に筋トレに付き合ってもらってもいいかもなと思い始めるサリー。
「とりあえず本題だ」
「そうだな、このレンはな、深層を狩り場にする変態だ」
「おい…」
「今日はカオスゴブリンを売りに来てくれたんだ、変態だが優しくしてやってくれ、事務には話を通してるから、手続きだけ頼む」
「かしこまりました」
こいつ…またも意趣返しか?なかなかやりおる。
「ではレン様、こちらに手を」
「石板?」
「はい、こちらでは、買い取りを行う際、虚偽の確認をすることになっております」
なるほどねぇ、セルマータでのギリーとのいざこざの時も、こうしていれば解決が早かったな。
「レンは自分で狩ったのだろう?」
「あぁ〜、まぁそうだな」
「なんだ、歯切れが悪いな」
「5体だけ違う奴が狩ってるからな」
「ほぉ、北にもなかなか見どころのある奴がいたもんだな」
「8歳の女の子だ…」
「はぁ?お前、それは流石に…本当っぽいな」
レンは真剣な顔を崩さなかった、嘘じゃないことが分かったのだろう。
「俺が瀕死にさせてトドメだけ刺させたんだよ」
「それ、大丈夫だったのか?きちんと鍛錬しておかないと、下手すれば死ぬぞ?」
「やっぱりそうなのか、体力半分持っていかれたけど無事だったよ」
「体力半分で済んだ?…8歳の女の子が?レベルは?」
「1から一気に23まで上がった」
「それで死ななかったというのか!どんな潜在能力を秘めている!?」
「俺がさんざん鍛えたからな」
「ぐっ…やっぱり私も鍛え直しか…お願いできないか?」
「まぁ真面目な話、それはやろうと思ってた、筋トレの話は別だぞ?あれは冗談だから心配するな」
「あ、あのぉ〜、石板に手を〜」
「あ、はいはい、すまんな」
素直に手を乗せる、そして…
「…」
またホラーになってしまった。
「バニー、ゴブリン、デビル・ディアー…Sプラス?なにこれ…」
「な、なんか不穏なこと呟いてるけど大丈夫なのか?おいセシル、セシル〜…セシル!」
「は、はいぃ!」
セシルはバッと立ち上がり返事をした。
「セシル、何を見た?」
「それは…」
チラチラとレンのほうを伺う。
「別に隠してないよ、ご自由にどうぞ」
「かしこまりました、レン様のランクは前代未聞の、ランクSプラスです!」
「…もう呆れて何も言えんわ、お前もう神様でいいだろ、カミサマのSだ」
「やめろ、気が早すぎるぞ、まだ人間でいさせてくれ、あとどこにS要素があった?カミサマはKだからSは関係ないだろ」
「分かったよ、少しギリギリだが、人間扱いしてやる、それじゃあ窓口に行くぞ!」
「おい、サリー!S問題は!?」
「うるさい!カミサマの…サマだ!」
「サマ!?」
サリーはそれ以降、無視を決め込んだ。
「らっしゃい!あんたがレン様かい?話は聞いてるぜ!ヒョロいのにやるもんだな!」
「ありがとう、あんたは良い体してるな、かっこいいぞ」
「いやぁ、それほどでもぉ…」
「なんでサリーが照れてるんだよ」
「この組合の職員は私監修だからな!」
「自分の部下を作品みたいに扱うな、はぁ、まぁいい、どこに出せばいいんだ?」
「今出すって言ったか?」
そうだった、この問題も残っていたな。
「俺はな…」
想像魔法、リスクリターン、収納の話をざっと説明した。
「もう今日は驚きすぎて、仕事に身が入らなそうだ…」
「それでもやらなきゃならないのが仕事なんだよな」
「そうなんだよなぁ、誰か王様代わってくれないかなぁ」
こいつもか、王様は強制なのか?どういう基準で選んでいる?話を聞いた限りだと、こいつも王になったのは鹿討伐以降なんだろう、それまでは武者修行であちこちを転々としていたみたいだからな。
ギィ〜…バタン!
買い取りのおっさんが、床にある大きな扉を引き上げて開けた。
「よしっ、レン様!この中にドバっと出しちゃってくれや!」
「その穴はなんだ?俺の収納みたいなやつなのか?」
「ちげぇよ、地下の保管部屋に繋がってるだけだぜ」
「なるほどな、じゃあ…」
ドドドドド…
収納
時間停止中
カオスゴブリン50
よし、スッキリしたな、あとはカインドに行った時のサンドラ用だな。
「あとはこいつだ、うへぇ…こんな大金、見たことないぜ、よっと!」
ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ…
「一袋金貨1000枚で、それが60袋だ!」
カウンターから金貨袋がこぼれ落ちそうになっている。
「収納」
スッ
手をかざして収納した。
「ありがとう、世話になったな、せいぜいうまく利用して、東国を強くしろよ」
「分かった…もうどこかに行ってしまうのか?」
「なんだよ寂しそうな顔して、まだ一ヶ月はこの東国にはいる予定だぞ、鍛えてくれって自分で言っていただろうがよ」
「そ、そうだよな!うんうん♪鍛えてくれ!暇が出来たら連絡するよ、どこに泊まっているんだ?」
「今日来たばかりだからな、これからだ」
「なら丁度いい、ここの4階は宿泊施設になってるんだ、そこに泊まってくれ、ゴブリンも安くしてくれたからな、無料でいいぞ、私は王だが城はない、客間みたいなもんだ」
「おお、それは都合がいい、じゃあ頼むよ」
「よっしゃ、最近はずっとつまらなかったんだ、話す人みんな王様王様ってな、対等な相手が欲しかったところなんだよ、話し相手になってくれ」
「分かったよサリー、短い間だがよろしくな」
「ああ!よろしく!」
これで、ほぼタスク達成だな。
時間が掛かると思っていた武器の代金稼ぎも、初日に済んでしまい、あとは鍛錬と観光に時間を割けると、レンは喜んだ。




