71話 烈王サーレック
烈王サーレックは、話の分かる御仁だと推測したレン、味方にしようと鼻くその事も含め、素性をざっと語る。
「俺の本当の名前はレン、中央のルードに攫われて、この世界に連れてこられ、深層に捨てられ、神様に拾われ、北の国を…」
「いや、ちょ、ちょっと待ってくれ…」
このまま続けたら面白そうだな…
「北の国を実質支配している渡り人だ、自分の専用武器を作るため、カオスゴブリンを売りにここへむぐっ…」
「い、いや、1つ1つの情報量!ちょっと待ってくれ!情報過多がすぎる!」
サリーがレンの口を塞ぎ、話を遮ってきた。
「いいな?喋るなよ?私の頭がパンクするからな?」
コクコク…
「ぷはぁ、どうした?」
「フゥー、フゥー…」
少し落ち着くのを待つか―――
「よし、少し整理しよう、まずはルードに攫われたと?」
「そうだ、あの鼻くそ野郎、許可もなく俺をこの世界に攫いやがった」
「ふむ、私も前々からルードはきな臭いと思っていた、だから聖堂を部下に見張らせて、すぐに報告させて対応していたんだ」
「転移を使えるんだから、聖堂を見張っても意味はなくないか?」
「いや、まぁそうなんだが、実際うまくいってないんだ、何故かルードは直接の転移ばかりで、聖堂を使わないらしいんだよな」
なんでだ?魔力の節約とかは考えないのか?よく分からんやつだな、どうせ後ろめたい事が多すぎて、移動してきた直後の待ち伏せを恐れてるんだろ、本当に鼻くそみたいなやつだな!
意味の分からない誹謗中傷を受ける鼻くそであった。
「とりあえずあいつは、意識を誘導したり、精神を支配してくるから気をつけろよ」
「それも知っている、たまにおかしくなるやつが出てくるんだよ、ルードがこの街に来た直後だけな」
こいつは驚いた、ちゃんと王様じゃないか…レイ…頑張れよ。
「あまりに北王が酷かったもんでな、少しこの世界の王達を過小評価していたみたいだな」
「酷王だからな、そんなに酷かったのか?」
「いや、噂の酷さはルードの仕業だよ、精神支配されていたんだ、それは解除したし、今は優しい王、優王レイっていう名前に変えて頑張ってるよ、俺が言った酷さは単に頭の悪さだな」
「そ、そうか、辛辣だな…」
「ああ、同郷として恥ずかしいよ」
「え…北王も渡り人なのか!?」
「やはり知らないのか、この世界は街ごとに、どこか閉鎖的、というか協調性が無いようなイメージがあるよな、一つ一つが小さな国みたいだ、ツェファレン連合国ってところかな」
「連合国…確かに言いえて妙だな、皆自身の事で精一杯だし、もしかしたらそうなるように仕向けられているのかもな」
ルード…だんだん奴の悪辣さが明るみになっていくな、とにかく早急に世界を一周する必要がありそうだ。
「俺は今、ルードに復讐するために生きているようなものなんだ、でも、とある事情から直接トドメは刺せない、だから味方を増やして、強化して、じわじわと嫌がらせをしているんだよ」
「その事情とやら、神様に拾われたっていうのが絡んでいそうだな」
「はぁ…サリー、お前鋭すぎるだろ…そうだよ、俺は神の候補者なんだ、そして鼻くそルードも実はそう、だからこれは神の代理戦争みたいなもんなんだよ」
「くっ、話がでか過ぎる…レン様とお呼びすればいいのか?」
「やめろ、神候補でも中身は普通の凡人なんだよ」
「凡人が試練の門を開けられる訳無いだろ」
「とにかく普通に接してくれ、サリーだって王様だし、門も開けられるじゃないか、凡人じゃない者どうし仲良くしようぜ、友達でいいだろ」
「ふふふっ、王様になって初めて友人と呼べる人が出来た、存外嬉しいものだな」
「宜しくなサリー」
「こちらこそだ、レン」
「さてあとは…」
「カオスゴブリンか?」
「サリーは記憶力がいいな」
「逆になんで売りに来たレンが忘れるんだよ」
「はははっ、面目ない、それで何体なら買ってくれるんだ?」
「そんなにあるのか?別に何体でも構わんぞ?」
本当だな?数を聞かないと後悔することになるかも知れんぞ?
悪い顔になるレン。
「いや、やはり先に何体あるのか聞かせてもらおうか」
「ちっ…」
レンの顔を見て嫌な予感を感じたサリー、前もって数を聞いてきた。
「488だ」
「はぁ、先に聞いておいて正解だったな、それだけ倒すのは骨が折れただろう」
「おっ?新鮮な反応だ、大半が絶句したり白目剥いたりするのに、サリーからは強者の余裕が感じられるよな」
「私だってカオスゴブリンくらい倒せるさ、そうじゃなきゃ王とは名乗れない」
「レイ…」
たぶんレイはカオスゴブリンを倒せないぞ、レイ…もっと頑張れよ。
「何体いける?」
「北では買い取ってもらわなかったのか?」
「20体売ったな、4千万で」
「4千万?中央と同じ紙幣なのか?」
「そうだ、ここは違うのか?」
「ここは紙幣はない、硬貨だ」
「レートは?」
「レート?」
う〜ん、サリーは渡り人じゃないからな…
「金貨とかあるか?」
「ある、価値は小金貨1枚、1万…ファニーだな」
「なんだよその間は、今持ってるか?少し見たいな」
チャラ…
「これだ」
「う〜ん、ん?これサリーの橫顏か?」
「う、うむ、そうだ」
「まさか…1万サリー?」
「…」
「沈黙は是だな…恥ずかしいなら変えればいいのに」
「いや、違うんだ!勝手にこの世界がそう認識してしまうんだよ」
「そうだったのか、レイに謝らなきゃな、心の中で呆れたことを」
小金貨の大きさは1/25オンス金貨ほど、地球の重力なら1.2gくらいだが、こっちも重力が同じなら、金の価値は同じくらいだな。
金貨 S100,000
小金貨 S10,000
銀貨 S5,000
小銀貨 S1000
銅貨 S500
小銅貨 S100
鉄貨 S10
石貨 S1
単位はサリー
レンは、石貨や鉄貨などは偽造できないのかと聞いてみたが、全ての硬貨が、値段と価値が同等のため、逆に偽造してもらったほうが好都合らしい、あと魔法で作り出した鉱石はバレるとのこと。
この世界での銅や鉄は、地球より価値が高めだな、石貨なんか偽造しても、全部それで支払っていたら疑われるしな、なるほどよく出来てる。
東国での貨幣職人は、基本国のお抱えである、作る貨幣の素材と貨幣価値が同等の為、それを個人的な仕事にしても儲けが出ない、例えば金貨1枚分の金を1万円で仕入れて、それを金貨にして1万円で売っていたのでは、ただのボランティアだ、労力を要する分逆にマイナスまである、自分で採掘するなら話は別だが、採掘者が貨幣作りまではやらない、どちらにも国が報酬を渡して、採掘、貨幣作り、をやってもらっているのだ。
「まぁ通貨の名称は今はいいよ、それで、買い取れるのか?」
「カオスゴブリンは値段が設定されてないからな、北ではいくらだったんだ?」
「え〜っと…レートが違うから…」
セルマータでは確か259万バレルだったはずだ…ファニーに変換して、ファニーとサリーは同価値だから…
「215万8333サリーだな」
「細かっ」
「いや、まずファニーとバレルで価値が違うんだよ、1ファニーで1.2バレルだ」
「よくそんな計算がすらすらとできるものだな」
「渡り人だからな」
「便利な言葉だな、じゃあ…少し事務の者と話してくるよ」
「ああ、急いでないからゆっくり話してくるといい」
「助かる」
ガチャ、バタン、タッタッタ…
『お〜い、キルミ〜、お客様にお茶出しといてくれ』
『はぁ?自分で出せよ』
バコッ!
『いったぁ!わぁ〜ったよ、出しときゃいいんだろ、出しときゃ』
大丈夫か?なんかチンピラみたいなのが来そうなんだが―――
ガチャ…バタン、タタタタ、ドンッ!
「茶だ、飲め」
「あ、ああ、いただこう」
ノックも無しに入っていて、レンの顔を見るやいなや早足で近づき、隣に座って体を密着させてきて、お盆も無しに片手に持っていたグラスを、ドンっと勢いよく置いて飲めと言ってきた。
近い!怖い!目つき悪い!なんだよこいつ!
目つきの悪い、肩上ボブの金髪娘がギロッと睨めつけてくる。
「オレの名前はキルミ、あんたは?」
「俺は…レンだ」
色々考えた結果、この東国では偽名を使わない事に決めた、軽く自己紹介をしたあと、この部屋にきた経緯なんかを話していった。
「で?結局レンは何者なんだ?あの王様が他人をお客様だなんて、尋常じゃないぞ?」
「詳しくはサリーから聞いてくれよ」
「もしかして烈王様の家族か?みんな死んだはずだが…」
「死んだ…?」
「そうだ…オレの口からは言えねぇがな」
「…!?……そ、そうか…それはサリーも大変だな、まだ若いだろに」
レンはチラチラとキルミの奥を気にしながら受け答えをする。
「ふっ、お前、この国の人間じゃないな?あれはああ見えても…」
ゴンッ
「ひあっ」
「キルミ、お前は1回くらい死んでおくか?」
気配も無く部屋に入ってきて、キルミの後ろに立っていたのだ、レンですら直前まで気づかなかった。
空気と同調はしていないにしても、ここまで気配に気付けないとは…マリーに匹敵するか?
「すまんなサリー、結構重要なことを聞いてしまった、不本意なんだ、詮索はしないから許してほしい」
「別に隠してない、私の家族は昔、魔物討伐で全滅したんだよ」
「魔物討伐…まさか、デビル・ディアーじゃないだろうな?」
「おお、渡り人の割には博識だな、それだ、家族は皆開拓者でな、私は武者修行であちこちにいたから、組合から事後報告で聞いたんだよ」
「あの時の烈王様はヤバかった、この街が滅ぶかと思ったぞ」
「…」
「レン、どうした?」
レンは真実を語るかどうか悩んでいた、この様子だと、鼻くそが絡んでいることは知らなそうだと思ったからだ。
「サリー…落ち着いて聞いてくれ、まずはそのデビル・ディアーだが、同じ個体かは分からんが、先日俺が倒した」
「なんだと?あいつは20年前、その時に討伐されたと聞いたが?」
「死体は?見たのか?討伐者の名前は?魔物を倒したはずの勇者が死んで、英雄だけが生き残った、おかしくないか?」
「たまたまそういう事だってあるだろう」
「確かにそうだな、でも、死体の一部も持ち帰れないほどバラバラとか、考えられるか?勇者が倒したなどと言って、魔法だか技能だかは知らないが、そんな力を味方が英雄一人になるまで隠しておくのか?しかもそのあと死ぬってなんだよ」
「それって…」
「サリー、その討伐を指揮していたのは…ルードだ」
「!?」
「うぅっ…」
パリンッ!
サリーの威圧でグラスが割れ、キルミは胸を押さえてうずくまる。
「サリー、落ち着け…」
レンはサリーの肩にそっと手を置いて、できるだけ精神に作用するよう念じながら回復を掛けた、効果があるかは分からないが。
これだけの威圧を放てるんだ、洗脳が効かないのも頷ける。
「はぁぁ…ありがとうレン、落ち着いたよ」
「はぁ、はぁ、レン、お前は本当に何者なんだ、烈王様の威圧に動じないとか、信じられん」
「はっ、あのくらいの威圧で怖気づくはずないだろ、子供のお遊び程度にしか思わんよ、俺の精神は10万だぞ?」
「「10万!?」」
「何者なのかは後でサリーから聞け、今はカオスゴブリンだ、事務のやつと話はしてきたんだろ?」
「は、はははは♪レンはブレないな、正直だし、だからこそ信用もできる、10億だ、そこまでなら出しても組合の運営は問題ないみたいだな」
「10億…え〜と、463体だな」
「相変わらずの計算の速さだな」
「いや、この世界に来て知能とかが増えてるから、やたらと速くなったんだ、本来の俺では無理なんだよ」
「状態が悪いものもあるから、3割引きで413体ではどうだ?」
「…いくらになる?」
「ん〜…6億2397万4070サリーだな、端数はカット!6億ぴったりでどうだ?」
「ちょ、ちょっともう一回話してくる、別にレンの事を信用してないわけじゃないからなっ」
「大丈夫だよ、しっかり確認してこい、こういうのはきっちりしたほうがいいよ」
「すまん」
小走りで事務のもとへ急ぐサリー。
「なあレンさん」
「お?なんだ?呼び方が変わったじゃないか、そんな殊勝な態度じゃなくていいぞ?」
「バカ言わないでくれ、これでも崩しているほうだよ、烈王様と対等な者を呼ぶには失礼だと思うぞ?」
「そうかなぁ、俺、普通の人なんだけどなぁ」
「それこそバカ言うなって話だな、実は神でした、でも信じるぞ」
「はははっ、でも喋り方は頑張ってそのままを維持してくれ」
「分かったよ、それでさっきの討伐の話なんだが…本当なのか?」
「ああ間違いないぞ、北王も参加はしなかったがルードに誘われたと言っていたし、友人の勇者が参加して亡くなってるからな」
「そうか…分かったよ、邪魔したな」
「おい、何があったかは聞かないが、馬鹿な真似はするなよ?もう知らない仲じゃないんだ、なんかあったら話せ、遠慮はするな、なんでも聞いてやる」
「ありがとな」
キルミは手際よく割れたグラスを片付けて部屋を出ていった。
なんかヤバそうだな、サリーは感情を制御できそうだがキルミは…サリーに注意だけしておくか。
「持たせた、了承が出たぞ、買い取り窓口まで移動を頼む」
「はいよ」
窓口に行くまでの間に、キルミの事をなんとなく気に掛けるよう話しておいた。




