70話 脳筋の国、東国
ちょっとした観光と、鼻くその暗躍確認、武器の代金稼ぎ、それらのタスクをこなすため、まずは扱いやすそうな烈王治める東の国に行くことにした。
う〜ん、どうするか。
現在レンは東方向への聖堂内にいる、どの転移門に入るか悩んでいるのだ…
いきなり烈王に会ってぶちかますのも何だしなぁ、それぞれの街や村を巡ってゴブリンを売り捌くか?誰か一括で買ってくれないかなぁ、中央だったら買い取ってくれそうだけど、ここには貢献したくないし…
「やっぱりラングロドルに行こう、そして組合に行って、できるだけ買い取ってもらうか」
レンは左壁、2番目の扉に入っていった。―――
聖堂を出ると、ずっと奥まで一直線の道が続いており、その両サイドには綺麗なお店が建ち並んでいる、沢山の人たちが買い物をしていて、とても活気に溢れた街だ。
暑苦しい…
街中、体格の良い男ばかり歩いていた。
いや、よく見れば普通の体格のやつもいるが、ガタイのいい奴が幅とりすぎて、視覚情報から頭が誤認識するんだ、くそっ、なんでこの世界にプロテインショップなんかあるんだよ…
「いらっしゃい!うちのプロテインは良質だよ!なんと動物性タンパク質、含有率95%だ!」
「うちのはダイエットにいいよ〜!植物性のタンパク質100%だよ〜!」
「…」
絶対渡り人だろ…この世界の人間が、筋肉構成の主成分がタンパク質、なんていう知識を持ってる訳がない。
「よう兄ちゃん!ほっそい身体してんなぁ、ラングロドルの人間じゃねぇな?記念にうちのジムで筋トレして、汗流してかねぇか?」
「え…」
俺?
「いやすまん、俺は見た目よりも、実用性を重視しているんだ、筋肉が大きいのは確かにかっこいいんだが…」
「そんなもんは筋肉が解決してくれるさ!」
しねぇよ!解決してくれるのは魔力だよ!
「あ、いや、その…俺は戦闘のとき、高速移動したりするから、あまり体を大きくすると空気抵抗が大きくなるし、あと体の可動範囲とか狭くなるから」
「そうか?まぁ分かった!無理に誘ってごめんな!」
「いやいいんだ、あんたの体かっこいいよ、筋トレ頑張ってくれ」
「ありがとな!」
バン!
背中を叩かれた。
「じゃあ行くよ、ちょっと急いでるんでな」
「あ、ああ…」
「??」
急に元気無くなったな、そんなに儲かってないのかもしれない、競争率高そうだし、あとで寄って1回くらい筋トレしてやるか…
実はこのとき、男はレンの背中を思いっきり叩いていた、しかし微動だにしないレン、なんなら自分の手首に痛みが走るほどの硬さであった。
さてと、開拓者組合は…リスクリワード。
「あっちの方向か、また建物に邪魔されるのはめんどくさいな…」
レンは人気の無い細い路地に入っていく、そこで…
ピカッ
瞬光を使い、屋根の上へ移動、そのままの屋根伝いに、真っ直ぐ組合へ向かっていった。
「この建物だな…よしここなら人がいないな」
ヒュッ
人気がない通路に移動して組合の前へ、建物はコンクリート4階建ての現代建築風、ビルのような見た目だ、扉だけはファンタジーで、鉄製で上部がアーチ状になっている、やけに大きな両開きの扉であった。
なんかこの建物だけ違和感が凄いな、建物だけ地球から転移してきたみたいだ…さて、どんな感じかな?
オーソロンの組合のような、引くためのリングは付いてないので、ゆっくり扉を押し開く…
ギギギギギィ〜…
えぇ…なにこの音、少し重いけど…錆びてるんじゃないか?
中に入ると…
あれ?正面じゃない?
目の前にカウンターはあるが奥の方、扉を開き入ったその場所は食堂、その先にカウンターがあるが、レンはちょうど横から入って来たような形になっていた。
うわぁ、やっちまった、絶対普通の入り口じゃねぇよこれ。
受付嬢も5人立っていて、ガタイの良い開拓者達の対応をしていたが、開拓者も受付嬢も食堂の人達も、全員がレンを見ている、驚いたような顔して…
「おい何事だ!なんで試練の…門…が…!?」
少し体格のいい女が2階から階段で降りてきて、いきなり騒いだがすぐに尻すぼみになっていった。
レンは今の一言でなんとなく状況を把握した。
ああ〜、やっぱりやっちまったなこりゃ、久々にあれを発動するか…たぶん叫んでた奴が組合長だろう。
「お前が組合長か?他のやつらもそうだが、そんなに驚いてどうしたんだ?」
「いや、あ、そうだ、私が組合長なんだが…お前がアレを開いてきたのか?」
まだ混乱してるな、そんなにヤバい事だったのか?
「そうだが?あの扉錆びてるんじゃないのか?少し重かったぞ」
「少し…」
「ああ、なんか変な音がしたから絶対に錆びてるだろあれ」
「あ、あの、私と一緒に2階へ来てもらえないでしょうか」
「なんで?俺、魔物を買い取って欲しくて来ただけなんだけど」
「それも私が対応します、なのでお願いします」
「分かったよ」
「ありがとうございます」
レンは組合長のあとに付いて、2階へ上がっていく
―――
ガチャ…
「どうぞ」
「ああ」
キレイに整った執務室と思われる部屋、大きなテーブルとソファーが2つ、奥の正面には組合長が仕事するための机があり、紙の束が置いてある、左壁には資料棚、右壁にも棚があり、トロフィーみたいな物がいくつも飾られていた。
「殺風景な部屋ですみません」
「いや、執務室だろ?殺風景は当たり前だろ、私室じゃないんだから」
「ははは…私は女らしくないってよく言われるので、先に言っておこうかと」
野性味溢れる赤いざんばら髪、顔は小さく目は大きい、瞳の色も髪と同じく赤色だ、つり目でキリッとしている、身長はレンと同じくらいで、西洋風の軽鎧をビシッと着こなしていてとてもかっこいい、軽鎧なだけあって露出が多く、太もも、お腹、肩、腕は肘まで露出しているが、かなり筋肉質な体つきをしているのが分かる。
体格がいいにはいいが、締まるところはキュッと締まっていて、女性らしい肉体美って感じだな。
「いや、凄く魅力的だと思うが?誰だよ女らしくないって言ったやつは、照れ隠しかなにかじゃないのか?」
「魅力的…私がですか?」
でたよ、どう見てもめちゃくちゃ綺麗なお姉さんだろうが、鏡無いのかよこの街には、あ、無いかも…ガラスとか全然見かけないもんな、出してやるか。
「ほれ、プレゼントだ」
ニュッ
床から姿鏡が生えてきた。
「うわっ…驚いた、これは…鏡か!?」
「それを見て、せいぜい自分の美しさに気付くんだな」
「ほぉ〜!こんなにしっかり見たのは初めてですね!」
「まぁとにかく、その辺はあとにして本題を話してくれ、あと敬語はやめろ」
「分かった、少し混乱していたんだ、すまないな」
「いいよ、さっきはしらばっくれたけど、なんかやっちまった事は分かってるから」
「なら話は早い、お前…え〜っと?」
「ああ、自己紹介してなかったな、俺はレインだ」
「ありがとう、私はサーレック、この東国を治めている、皆には烈王となどと呼ばれているな、サリーとでも呼んでくれ」
「そんなバカな!?」
邂逅が早すぎる!
「バカとは失礼じゃないか」
少し拗ねた…なんだよ、可愛すぎだろ…
「いや違う、サリーに対してバカとは言ってない、まさかこんな所に王様がいるとは思わないじゃないか」
「驚かされたからな、少し意趣返しだ」
おいおい、全然脳筋じゃないぞ、誰だよそんな事を言ったやつは…
はいスリー、ツー、ワン…俺だよ!
「はぁ、俺は男とばかり思ってたから、こんなに綺麗なお姉さんだとはなぁ…」
「やめろ、あんまり綺麗とか言わないでくれ、照れるだろうが」
「分かったよ、それでここに連れてきた理由は、俺が何者か、だよな?」
「そうだ、あの試練の門は、常人には絶対に開けることができない魔法が仕掛けられているんだ、開けるとこの執務室に警報がなる仕組みにもなっている」
「そうだったのか、少し重いくらいにしか感じなかったな」
「はぁ、それは本当だったのか、だったら実力が私より2つも3つも上の領域かもな…」
「サリーも開けられるのか?」
「ああ、だが私でもあの門を開くのは凄く疲れるんだ」
「そうなのか…まぁいいや、俺の正体だったな…」
この感じなら、鼻くそに精神魔法は仕掛けられてないな、レイやマリーよりも強そうだし、跳ね除けてるのかもな、よし、正直に話して味方につけよう。




