69話 専用武器
深層で信じられないほど巨大な魔物、トレント(レン命名)を瞬殺し、ラルファに強さを証明したレン、その後3人は暗くなる前に武器屋に戻ってきた。
「さて…正直どんな武器を作ったらいいか、皆目見当がつかん!」
「母ちゃんご飯の為だよ!頑張って考えて!」
ララは説得した。
「だよな、俺も逆の立場ならそう思う」
「レインさんまで〜」
「あんな魔法一発で、信じられん大きさの魔物を倒すのを見せられて…本当に武器が必要なのか?」
「いや、必要はない」
「え…ご飯…」
ララは絶望した。
「でも、武器は絶対に欲しい!専用武器…男のロマンなんだ、どうせだったら尖った性能がいいなぁ」
「分かった、とりあえずどんな武器を作って欲しいかはレインが考えろ」
「分かった」
「予算は?」
「全財産の48,000,000ファニー、全部使ってもいい」
「母ちゃん!腕の見せどころだよ!」
ララは復活した。
この子、周りに振り回されるほど面白くなるな、なら…
「じゃあ1年以内には考えるよ」
「おう、待ってる」
「いち…ねん?一念!一回念じるだけって事ですよね!?」
ララは焦った。
「いや500日って意味だな」
「ララ、武器ってのはそいつの生命線だ、適当に考えてレインが命を落としたらどうする」
「…」
ガクッ
ララは崩れ落ちた。
「ぶっ、んふぅ、ふふふ…」
ヤバい、堪えきれん…
「ララ、ふふ…分かったよ、んふお前の為にも、明日ふふ、には考えよう」
「ホントですか!?」
「んふふ、本当だよ」
「大丈夫ですか?なんか喋り方変になってますけど」
レンは口から笑いをもらしてはいるが、顔は真剣そのものだった。
ララは魔法を使った反動でおかしくなったと思った。
「今日は休んでください!汚い家ですけど、よかったら泊まっていってもいいですよ!」
「ふぅ〜、じゃあお願いしようかな」
「よし!決まりだな、まずは飯だ!」
「ああ、飯なら俺持ってるから、お裾分けするよ」
そう言うとレンは、カウンターの上に出来たてほやほやのフローラご飯を全て、収納から取り出した。
「うほぉ!美味そうだなぁおい!この際どこから出したのとかはどうでもいい!」
「ええぇっ!!」
ララは今日一驚いた。
―――――
ガッガッガッガッ…
2人は獣のようにご飯にがっついている、特にララの目がマジだ。
「むぐっ、これは戦いなのです…もぐ、もぐもぐ、早く食べないと、もぐ、無くなっちゃうかも、もぐもぐ…なのです、ゴクン、パクッ、もぐもぐ…」
ララさん、もっとゆっくり食ってもろて、ご飯は逃げんから。
「「もぐもぐもぐもぐ…」」
ねぇ!もっと楽しく食事しません!?
―――
「ふぇ〜、美味しかった〜」
「久々にまともなご飯を食べたぞ、レイン、すまないな」
「いいってことよ、じゃあ風呂でも…あ、風呂、ある?」
「…ない」
「表面はボロボロだけど、中の造りはしっかりしてるし、結構大きな家だから、使ってない部屋くらいはないのか?」
「あるぞ、2階の部屋なんて全部使ってない」
「よっしゃ、じゃあ作るか、案内してくれ」
「「作る?」」
こういうのも久しぶりだな…
2階に案内され、風呂にするには手頃の部屋の前へ。
「ここなんかどうだ?」
「いいね、じゃあやっちゃうけどいいか?」
「ああ、頼む」
パキパキパキパキ…
木造りの部屋の壁が全て、黒くザラザラした石でコーティングされ、床はクリーム色の同じくザラザラの石床、ズモモモッと大理石の湯船が生えてきて、一部の床と壁の角に穴が空く、外の地面まで石の配管を伸ばせば完成だ。
「「…」」
シャワーに挑戦してみるか、できるかな?屋根穴空けさせて貰うか。
「ラルファ…おい、ラルファ!」
「んあぁ、すまんな、あまりに多芸なんで驚いていた」
「驚くのは後にしてくれ、この天井の上はどうなってるんだ?」
「ん?普通に何も無い天井裏だが?」
「よし、ありがとう」
天井に小さな穴を空け、空気と同調、屋根裏の空間の大きさを測り、そこに木のタンクを作り、熱めのお湯を入れておく、目で見なくてもそんな離れ業をこなすレン、技術2万は伊達じゃなかった。
石だと重すぎるからな、天井が落ちてきたら洒落にならん、天井を補強すると2階が重くなりすぎる、家全体を造り直さなきゃならないから、今はこれでいい。
穴からゴムホースがニュルルル〜っと伸びてきて、先端にシャワーヘッドができあがり、ヘッドの根元には、水圧を調整するため、鉄製のコックが付いている。
この手の部品はよく会社で扱っていたからな。
その後、風呂椅子、風呂桶、鏡を作りセッティング。
今ならいけるか?どんな物でも、元を辿れば自然のものから作られるはずだ、地球の人間は魔法を使えない、無いものを創り出すことはできない、石油製品も、石油という自然の物、製造方法は知らないが、結果だけ知っていれば、あとは魔力が補助してくれる…はず!
ドロロロ〜
出来たぜっ、やったね!
プラスチックなどの樹脂容器は難しいので、それは後で挑戦することにして、今は風呂桶に貯めておくことにして、風呂桶をあと3つ追加で作り、ボティソープ、シャンプー、コンディショナーを作り出すことに成功。
「レイン、なんかいやらしいものを手から出していたが…オレとララをどうするつもりだ?」
「やめろ、変な想像をするな、特にララを巻き込むんじゃねぇ、これは石鹸だよ」
「石鹸?こんなドロドロが?」
「この世界にも石鹸はあったか」
「あるぞ、服を洗う時に使う」
「そうか、これは体と髪を洗う専用の石鹸だ、肌に優しいんだよ、試してみるか?」
「うむ、試してみよう」
「私も試してみたいです!」
2人にボティソープを指先にちょっと付けてもらい、シャワーのコックを少し開く。
シャー
こっちもいい感じだな、温度も丁度いい。
「さぁ手を」
サッと手を濡らしてもらう。
「あったか〜い♪」
「手を揉んでみてくれ」
「分かった」
「そりゃー!」
モミモミモミモミ…
「おお!凄い泡だな!」
「凄いですねこれ!」
「じゃあ流そうか」
ショワ〜…
「どうだ?」
「「凄い…」」
「それで全身を洗うんだよ、ワクワクするだろう?」
「なぁ!入ってもいいかっ?」
「母ちゃんずるい!私だって入りたい!」
「2人で入って背中でも洗い合えばいいだろ」
「「そうする!」」
息ぴったりだなお前らは。
湯船にお湯を張り、風呂の使い方を教えて、綿100%のタオルを作って2人に渡す。
2人のために大きなバスタオルを準備して、レンは先ほどご飯を食べていた部屋に戻った。
ステータス。
魔力 19353/20000
さすがは想像魔法、思ったより消費が少ないな…
う〜ん…石油製品は鉱物寄りの感覚だからな、木より消費が少ないのかもな、むしろゴムホースとか、タオルの方が消費したかもしれない、ゴムは木の血液って感じだし、綿はまんま植物だからな。
やはり植物系はネックだな、もう一度ゴル(カインド村の村長)と話さなきゃ駄目かな?
ごちゃごちゃとまた考え込むレン、この性格はなかなか直らないだろう。
―――
「ふぅ〜、気持ちよかった…」
「…眠い」
「ピッカピカだなお前達」
「おい、女性に対して失礼だぞ」
「ははは、すまんすまん、ラルファは綺麗だったけど、もっと綺麗になったな」
「そうだ、最初からそう言え」
「私もう寝る〜」
「オレも寝るぞ、レインも風呂入るんだろ?武器の事ちゃんと考えてから寝ろよ?」
「おお、そうだった、忘れてたよ」
「ったく…オレの残り湯だ、堪能しろ」
「そうだな、俺の故郷には、綺麗な女性の入った風呂の残り湯を飲んで、体の中を清める風習があるんだよ、これでやっと清められそうだ」
レンはそう言って、足早に風呂へ行ってしまった。
「お、おい!レイン!…本当に飲むのか…?」
「母ちゃん寝よ〜」
「あ、ああ、そうだな…」
風呂のお湯をちゃんと張り直して、しっかり堪能したレン、その後眠りにつくまで武器の事を考えていた。
―――――
「ラルファ、ララ、おはよう」
「おはようございます!」
「お、おはよ…」
「なんだよラルファ、元気ないじゃないか、まさかやっぱり武器作りたくないなんて言うんじゃないだろうな」
「ちゃんと作るよ!」
「じゃあなんだよ、体調悪いのか?」
「そうじゃない、その、あれ…本当に飲んだのか?」
「はぁ?あれ…か、飲むわけないだろ、からかっただけだよ」
「なんだよ〜、まったく、驚かせんなよ」
「ははは、平和だな、こうやって馬鹿やって笑わないと、心に余裕ができないからな」
「レインはちょっと度が過ぎるけどな」
「ねえ母ちゃん、レインさん、お仕事の話しよう?」
おっと、お金の悪魔が怒り出す前に話を進めるか。
「真面目に話そう」
「そうだな、それで、どんな武器にするか決まったのか?」
「いろいろ考えたんだが、とにかく頑丈な武器がいいな、切れ味よりも耐久力だ」
「ほぉ〜、簡単そうで奥が深い注文だな、全く切れないんじゃ話にならない、切れ味を上げれば刃こぼれして折れてしまう…」
「できそうか?」
「レインは筋力2万あったよな?」
「そうだな」
「本当に人間かよお前は、2万なんて聞いたことないぞ、それに耐えられる剣か」
「金が足りなければいくらでも調達するぞ?」
「そうだな、素材ならある、あと昨日の魔核をよこせ」
「いいぞ、どうせ使い道なんかないからな」
「母ちゃん、そんな特別な素材あるの?」
「あるぞ、旦那の形見だ」
「父ちゃんの…」
「おい、無理するなよ?別にそこそこでもいいんだぞ?」
「心の弱いやつには武器を打つな、旦那の遺言だ、お前ほど心の強いやつは初めて見た、心だけじゃなく体も強い…今が使い所だろ」
「母ちゃん」
「ラルファ…」
「武器は先に作るよ、レインが値段を決めてくれ」
「分かったよ、ラルファの腕、信じてるぞ」
「そんな調子に乗せていいのか?レイン、いくら稼いでも手持ち全部なくなるぞ?」
「はっはっはっ、言ってくれるねぇ、どのくらいだ?」
「そうだな、一ヶ月だ」
「分かったよ、ララ」
「はい!」
「ほら、手付金だ」
「こ、これは…」
「4千万ファニーだ、一ヶ月も稼ぎが無いんじゃ、飢え死にするからな、ラルファの体調も管理してくれ、絶対夢中になるタイプだからこいつ」
収納からお金を出し、ララに紙幣を渡した、渡されたララは土下座をしながら腕を上げて受け取り…
「お金…数えなきゃ…お金…1万…2万…3万…」
お金を1枚ずつ数え始める。
「おいララ、日が暮れる、レインを信用しろ、それに別にいくらでもいいだろ、どうせ値段は決まってないんだから」
「確かに、え〜っと、いっぱいいただきました!まいどありがとうございます!」
「じゃあ頼んだぞ、オレは一ヶ月の間に、東の国でも見てくるよ」
「待ってるぞ、行ってらっしゃい、そしていっぱい稼いでこいよ」
「いってらっしゃい!また無事に会えるのを楽しみにしてます!」
「ああ、行ってきます」
いいね、この世界にも、友人と呼べる仲間が増えていく、東は烈王サーレックか、都市の名前は確かラングロドルだったかな、烈王…脳筋の匂いがするよな、仲良くなれそうだ。