6話 今後について
少しのあいだ皆と幸せを分かち合い、そろそろかと輪になって座り、今後のことについて話し合う。
とはいえまず決めることと言えば、どの方向に向かうか、ぐらいだ。
まずは仮リーダー認定された俺から口を開くべきだろう、あ、あくまでも仮なんだからね!
「うーん、ここへ来てから、体感では1時間くらい経過したけど特に何も起こらないな、とりあえず移動するしかないだろう」
次にシンが意見を述べる。
「そうだな、まずはどちらの方向に進むか、だな」
それくらいは俺が決めるか、どうせどの方向へ向かうのが正解なのかなんて誰にも分からないしな。
「あぁ、俺の意見としては、微かに肌寒い風が吹いてるから、それが北風と仮定して、できればそれとは逆方向に向かいたいな」
「あたしはレンの意見に従う、頭も良くないしな、未来の旦那様に付き従うのみだ!」
カリン…いくらなんでも脳筋がすぎるぞ、そして熱い、恥ずかしげもなく旦那様とか、よく言えるな、熱すぎて寒い方向に行きたくなってきたぞ。
「アツアツだね〜、羨ましいな〜、ねっ、シン〜♪」
「おい、くっつくな、真面目な話をしてるんだぞ」
口ではそう言ったが、振りほどく素振りはないではないか、なんなら口元がヒクヒクしてますぞ心ちゃん、素直じゃないねぇ。
「とりあえずアツアツの姉ちゃんはいいとして、僕もレン兄の意見に賛成かなぁ」
「僕もお兄ちゃんの言った方向でいいと思います」
お兄ちゃんっ!?なんて破壊力のある言葉なんだ!正直旦那様より痺れたぞ。
「おい、目を瞑ってどうしたレン、なんか思いついたのか?」
おいシン!カノンの声を心で反芻してたんだから、男臭い声を掛けるんじゃねぇ!同じ女の子っぽい名前だからって調子に乗るなよ!
シンの頭を軽くペシッとしておく。
思い切り叩くと、リフレクションで俺の手にダメージが返ってくるからな。
「ん?いや、特に何もないさ、とにかく南、と思われる方向に進む、でいいか?」
「「「「賛成!」」」」
「なんで俺は叩かれたんだ?」
「じゃあ、行くか!」
「おい待て!なんで叩いた!」
絡んでくるシンを軽くいなしつつ、全員で固まって、できるだけ周囲を警戒しながらゆっくり進む。
道中、ここが本当に異世界で、特別な能力が与えられるとしたら、どんな力がいいかとか、どんなことをしたいかとか、ガヤガヤと喋りながら歩いていく。
「レン、お前はどんな能力がいいんだ?」
シンが聞いて来た。
「うーん、まぁ何でもいいんじゃね?正直このメンバーだと、俺がどうしょうもないスキルや魔法を与えられて、無能判定、追放されて能力覚醒って流れだと思ってたからな」
自己評価が低すぎたからな、まぁでも正直争いは嫌いだから、みんなを補助できるような能力が最適だな。
「何言ってんだよ、俺達がお前を追放なんかするわけねぇだろ、なんならお前だけ能力が与えられなかった、なんてことになったら全力で守ってやるよ」
あらヤダ〜んッ、こころちゃん男前っ♡
「そうか、その時はよろしく頼むよ」
「ああ、任せておけ、その代わり逆だったら頼むぞ?」
「いや、それは確約できない」
「なんでだよっ!」
「それはカリンとカノン優先だからだ!お前もエリーを優先して守れよ」
「レン…そうだな、エリーは必ず俺が守りきるよ」
「お願いねシン〜♡でも、能力によってはわたしがシンを守っちゃうかも?」
「ねぇ僕は?姉ちゃん?僕はどうすればいいの?」
「お前はどうせ忍者ジョブなんだから自分でどうにかしろ!」
「理不尽っ!」
温度差の激しい姉である。
「お、お兄ちゃんは僕が守りますっ!」
カノン!?お前はやっぱり優しさの(以下略)
「カノンちゃ〜ん、僕も守ってよ〜」
「は、はい、セイトさんも僕のお兄さんみたいなものなので頑張って守ります!」
「ありがとう!カノンちゃ〜ん!」
「きゃーーー!」
セイトが抱きつこうとして、カノンに逃げられている。
あのすばしっこいセイトから逃げるなんてカノンもなかなかに素早いな、あと、きゃーって、どう見ても女の子にしか見えんぞ、今更だが…
男同士なんだから普通に抱きあってもよさそうだが、セイトの手つきが悪かった、まるで何かを揉むような手つきだ。
うんうん、仲良さそうで何より、二人とも俺の弟だからな。
―――
バカ話をしながら、歩くこと体感で数時間、さすがに足が疲れてきて、皆も少し口数が減ってくる。
さすがにヤバいな、こんなパターンは想定してなかった。
今だに視界に映るのは草原と空のみ。
こんなことある?事前説明もなく、何も無いところに飛ばされ、自給自足もできない、こんなんならまだ森の中のほうがましだぞ、草原ってもっと気持ちの良い場所じゃなかったっけ?ここは地獄かな?
すると、突然セイトが走り出し、ちょっと行った先で叫ぶ。
「ねえこれって!」
なんだ!?何を見つけた?流石は忍者モドキだ、これは進展の予感だぜぇ?
小走りでセイトの元へ。
「どうした?」
少し先の下方を指さしながらセイトが言う。
「あれ見て」
どれどれ?ん?なんか草が乱れてる?あと、かすかに足跡が……!
「これは、俺達が転移させられた場所じゃないか?」
「「「「えぇぇぇ!!」」」」
セイト以外が叫ぶ。
「レン兄もそう思うよね?」
「あぁ、間違いないだろ」
みんな気が抜けてその場にへたり込む。
「聞いてないよ〜」
不思議ちゃんのエリーがまた変なことを言っている。
誰も聞いてるわけないだろ!どうしたらいいんだよ!こんな地味なハードモードはなかなかお目にかかれねぇぞ!?
腹も減ってきて、さすがのレンもイライラが募る。
そのとき、後ろからギュッとカリンが抱きしめてくる。
「カリン!?」
「大丈夫だよ、あたしたちなら乗り越えられる」
「そう、だな」
どうやらイライラが顔に出ていたらしい。
落ち込んでる場合じゃねぇ!
レンは空に向かって。
「おい!俺達をここに連れてきたやつ!出てこいやぁ!見てるんだろう!」
そう、絶対に何者かが干渉しているはずなんだ!じゃなきゃこんな平日の中途半端な日に5人が揃うわけない!
続いてシン達も叫ぶ。
「神様でも悪魔でもなんでもいい!どうすればいいか教えてくれ!!」
「お腹すいたよぉ〜なんでもいいから食べ物ちょうだ〜い!」
「レン!あたしはお前が大好きだー!」
「僕も!お兄ちゃん大好きでーす!」
「ステーータスゥー、オーープン!」
うおおぃ!ちょっと待てぇい!何しれっとテンプレかましてんだセイトのやろう!確かに最初に誰がやるのか顔色うかがっていたけども!
あとカリンとカノン!…は、まぁいいだろう、誠にありがとうございます。
皆が一斉に、なんか格好いい感じでジ◯ジョ立ちしているセイトを無言で見つめて、反応をうかがう。
―――
さすがのセイトも恥ずかしかったのだろう、首元にじわりと汗が滲み出てきている、顔も真っ赤だ。
こうなるから1番は嫌なんだよな、まぁこいつの場合、さらに自分を追い込んでるけど、さすがに可哀想だからフォローするか。
「なぁセイ…」
「あれは!?」
セイトが顔の前にかざした手の、指の隙間から見える目をカッと見開き、空に向かって叫んだ。
ん?確かに遠くの空から何か飛んでくるぞ?ヤバい、魔物か?
そして数秒後。
「はいはいは―い!ステータスいっちょー!」
バチーン!!
「ぶべらっ!」
白いひらひらを着たじじいが一直線に飛んできて、思いっきりセイトにビンタをかました。
うげぇ、超痛そう…
ビンタをくらったセイトは数メートルダイブ、背中から着地して、ズザザザーゴロゴロ〜っとまた数メートル移動して止まった。
大丈夫?生命活動も止まってない?あ、指先がぴくぴくしてるから大丈夫そうだな。