67話 人間族最大都市ヒューニック
レンは魔核を無事北王に献上し、前回と同じくブルームで一泊、何故か無料だった事に心の中でレイに感謝をして、現在は聖堂の前だ、そしてついに、強者ファーニックが治める、この世界の最大都市ヒューニックへ向かう事に決めた。
とりあえず一回は最大都市とやらを見ておこう、しかしファーニックにヒューニックねぇ、どっちがどっちなのか分からなくなりそうだな。
聖堂に入り、左の一番手前の扉に入る―――
おほぉ〜、煌びやかだなぁ、さすがは最大都市だ。
コンクリートの建物や、木造のもの、屋敷が地面ごと浮いていたりする、都市の中心と思われる方を見れば、そこには聖堂を物凄く大きくしたような建物が建っていた。
ぶっちゃけ浮いている屋敷の方が、仕組み的な理由から気になる、それでも中心の建物の存在感には勝てないな、ここからかなりの距離があるのに、少し見上げなきゃならないとは、あれは相当でかいぞ…1000mはあるのでは?もう山じゃん、なんとなく聖堂と一緒で、人が作ったものとは思えない雰囲気があるなぁ。
レンはとにかく立ち止まらずに、キョロキョロしながら、中心の聖堂のような城?に向かって歩き続ける。
お店は沢山あるけど、どうせ入ってもバレルは使えないだろうし、少し不便だなぁ…換金所みたいなのは無いのか?いや…もしかして利息が反映されてない意味は…ステータス
所持金
B40,000,000(4千万バレル)
貸与中[−B10,000,000]利息[+200,000]
やっぱりだ、4千万と貸与中の1千万にはバレルの表があるけど、利息には表示がない…これはひょっとするんじゃないか?
レンは周りを確認、ちょうど良さそうな屋台があるので、そこで試してみようと寄ってみる。
「いらっしゃい!何本だい?」
「これは何の肉なんだ?」
「こいつは中層のオーク肉だぜぇ、うめぇぞ?」
「おお、こんなところでファンタジーに出会えるとは!おっちゃん、2本だ!」
「あいよっ、1000ファニーだ」
ここはファニーか、ファーニックでファニー…レイと考えが一緒だな…よし、利息から1000ファニー……
チャリン…
キタコレ!ヒューニックは全部硬貨なのかな?
ポケットに手を入れ、1000ファニーと念じたら、手の中にスッと硬貨のような感触が現れた。
危なかったぁ、急にファンタジー食材が出てきたもんだから、我を忘れて試す前に注文しちゃってたよ。
「はいおっちゃん」
「おう、ちょうどだな、ほいっ、2本な、まいど〜!また来てくれな」
「それは美味しかったらだ」
「美味しいに決まってらぁ!」
「ははっ、楽しみにしておくよ」
そう言うとレンは、オーク串を…空中に現れた闇の中に落とす。
「あんちゃん、今のは…」
レンは聞こえないフリして、街の人混みに紛れて消えていった―――
「さていただくか…」
少し行った所に広場があり、ベンチが設置されていたので、そこに座って先程の肉串を食べる。
パクッ…もぐもぐ…
うまあっ!おっちゃんやるなぁ、肉自体も美味いけど、これは味付けのおかげだな、ふむ、買い込む必要がありそうだ…
少しヒューニックを見て回ってから、最後にもう一回寄ろう。
―――
ふぅ、美味かった、あとは…
せっかく来たのだから何かすることは無いかと考えるが。
俺って…なんにも興味湧かないんだよなぁ、地球でもそうだった…休みの日も出かけなかったし、こんな世界に来たというのに、性格は変わらないもんだな。
「う〜む、とりあえず王道の武器屋かな」
魔法を使って自分で作るよりも品質はいいだろうからな、見ておいて損はない。
レンは武器屋を探すとき『品質の良い武器が買える』を追加した、あくまでもリスクリワードは、探したいものを直線上で探す、そのため建物に邪魔され苦戦する。
「いらっしゃい、おお!かっこいいお兄さんだねぇ、何かお探しかい?」
「あ、ん〜?ちょっと道を間違ったみたいだ、すまんな、またなんかあったら寄るよ」
「はいよっ、また寄ってちょうだいね」
くそぉ、経路案内じゃないからめんどくせぇ〜、紛らわしい所に武器屋を構えやがって、でも対応は良さそうだった、品質がそこそこならまた寄ってもいいかもな。
頑なに品質第一を目指して、尚も武器屋を探す。
―――
あった、ここだろ。
ボロボロの建物、お店の看板もついてないし、鉄を打つ音も聞こえない、本当にやってるかどうかも分からないような店だった。
これもテンプレだよな、頑固親父がぶすっくれて店番してたらパーフェクトだな、対応が面倒だけど…
そっと店内を覗く。
「…」
見た目が中学生くらいの女の子が、つまらなそうに店番をしていた。
髪は肩口で切りそろえられていて、前髪ぱっつん子だ、カウンターに肘をついて、ファンタジー特有の緑色の髪を、指でくるくると弄んでいる。
そっちかぁ〜、親父が客を選ぶから、お店が儲からないパターンかな。
「お嬢さん、こんにちは」
「あ、いらっしゃいませ!」
「ここは、武器屋…だよな?」
全方向がリスクリワードの数字、100だった。
間違いないと思うんだが、商品が一つも無いんだよなぁ。
「はい!全てオーダーメイドの武器屋です!」
「そうか、店主は…」
「店長は母ちゃんが!奥で…寝てます…」
「そ、そうか…どうしようかな」
不憫すぎるぞこの子…
「起こせるか?」
「頑張ってみます!」
タタタタ…
『母ちゃん!お客だよ!いい加減起きなよ!』
『ん〜?どうせろくな客じゃないだろ、起こすんじゃねぇよ』
『何いってんのさ!このままじゃ飢え死にだよ!』
『相変わらずうるせぇ我が子だなぁ』
『お客を選んでる場合じゃないでしょ!』
『オレは弱いやつに武器を作る気はないんだよ』
『会ってみなきゃ強いかどうかもわからないでしょ!』
だ、大丈夫かこれ?ここまで聞いて、もし店主が出てきたら、買わないとは言えんぞ、どうしよう…バレルしか持ってない…
ヒュン
うわっ、なんだ?
勝手に貸与のモニターが開いたのだ。
換金の意志を確認しました。
換金しますか?
所持金
B40,000,000(4千万バレル)
換金通貨
1.0バレル→1.2ファニー ⇐
おいおい、為替取引か?バレルの方がレート高いのかよ…いいね!好都合過ぎる、っていうか、なんでヒューニックに来てすぐは出なかったんだ?本気度が足らなかったのか?
よし、全額換金だ。
チャリーン
おお!なんかいい音が頭の中で響いたな。
所持金
B48,000,000(4千8百万ファニー)
すげぇ、20%儲かった気分だ…
『母ちゃん!早く!』
『わ〜かったよ、少し待ってろって』
『早くしないと帰っちゃうよ!今日のお客さん、イケメンだよ!』
『ん?…な、なに!?それを早く言え!』
『母ちゃん…』
ドタッ!ドタンッ!バタッ!
本当に品質は大丈夫なのか?少し不安になってきたぞ…
ダッダッダッダッ…ゴキッ、ドゴンッ!
豪快にすっ転ぶ店主。
娘と同じ緑色のざんばら髪を、さらにぐちゃぐちゃにさせて、カエルのようにビターンと床に倒れた、茶色い革製のエプロンと革手袋をつけているので、一応仕事をする気はあるようだ。
…
「お、おい、なんか凄い音がしたが、大丈夫なのか?」
「いつつ…おう、すまんな待たせちまって、大丈夫だ、店はボロボロだが、これくらいで床は抜けないさ」
手袋を外し、髪をワシャワシャしながら見当違いな事を言ってきた。
いや、床の心配なんかしてねぇよ、ツッコミ待ちか?
「誰が床の心配なんかするのさ!体の心配してくれたんでしょ!」
「そうなのか?」
「ああ、豪快に転んでたからな、怪我は無いかと…」
「大丈夫だぜ!オレは丈夫なんだ!心配してくれてありがとな、オレはラルファだ!よろしく♪」
「私は、本当に不本意だけど…この人の娘、ララです」
普段からこういうやり取りをしてるんだろうな、これはこれで、また一つの愛の形だよな。
「いやしっかし、本当にいい男だな、黒髪とは珍しい…」
顎をさすり、ふむふむ言いながらレンをジロジロ観察する。
パチーン!
「いてぇ!」
「母ちゃん!仕事!」
娘が母のケツをひっぱたいた。
「はははは、なんだか楽しい親子だな♪気に入った!ここで武器を頼もう!」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ本当だ」
「これで…これでお肉が食べられる」
「いや、そうはいかん!」
えぇ…この流れで?
「オレは弱いやつに武器は作らない!」
「あぁ〜駄目だ〜、また始まったよぉ、お肉はまだまだ先かなぁ…」
大丈夫ですぞララちゃんよ、よ〜し、煽りまくってやるよ。
「フ、フ…フハハハハハ!」
「えぇ…急にどうしたんですかお客さん」
「うむ!さすがのオレもちょっと引くぞ!」
お前に引かれたくはないわ!
「大きく出たなぁラルファとやら、弱いやつには武器を作らないだって?はっ、お前の方こそ俺の強さに見合った武器を作れるのか?」
「なんだと!?顔が良いからって好き勝手言いやがって!」
「母ちゃん!今のは顔がいいとか関係ないよ!」
「ふんっ、どうせいい武器を作る自信がないから、あれこれ理由をつけて断ってるんだろ、バレバレなんだよ」
「お前〜!黙って聞いてりゃ偉そうに!てめぇみたいな若造がどんだけ強いって言うんだよ!」
「いや母ちゃん別に黙ってないじゃん!言い返しまくりだよっ!」
小気味いい!ララ…お前はツッコミの天才か!?
「ほれ、強い武器が作れるなら証拠見せてみろよ、どうせろくな証拠なんて無いんだろ?武器なんか最初っから作れないんだからなぁ」
「るっせぇこの野郎!お前が先に強い証拠出せや!」
「ふ、その言葉…後悔するなよ?では証拠を見せてろう、早速だがあれを見てみろ」
「なんだと!?」
「なんですか!?」
2人の背後の壁を指差し、そんな事を言ってみる、ラルファとララは驚いて後ろを振り返るが、そこには何も無い、普通に壁があるだけだった、レンは…実は何も考えていない、言ったら振り向くのかなぁ、くらいの事しか考えてなかった。
「「「…」」」
「な、なんだよ…オレの店に何をした!」
「何もしてないが?」
「な、なん…だって?」
「どういう事!?私分かんない!なんかよく分かんないよ〜!」
「何もしていない…とは、どういう事なんだ?」
「だから、本当に何もしていないってことだな、俺が指を差し、お前らが振り向いた、ただそれだけだ」
「は?な…なんだてめぇはぁ!馬鹿にしてんのかこらぁ!」
とうとう我慢できなくなったラルファが、カウンターを乗り越え殴りかかって来た、しかし…
「おい、お前は誰に殴りかかってるんだ?俺はここにいるぞ?」
困った時の瞬光様を使い、カウンターの奥へ移動、いつの間にか横にいるレンに、ララもびっくりだ。
「ええ!?母ちゃんがお客さんに!え?どういう事?母ちゃん!なんで?いや、ええ!?」
ララは究極に混乱した。
「なんで、お前が店番しているんだ!?」
「いや、最初から俺は店番をしていただろう、やっと目を覚ましたと思ったら何を言っている」
「私は…あれ?気を失っていた?」
「そうだ、よく思い出せ、さっきまでうなされてたんだ、少し休んだらどうだ?どんな武器を作るのかは、そのあと相談させてくれ」
「あ、あぁ…分かった、武器を作るんだったな…少し休んでくるよ」
馬鹿は扱いやすくていいな、ララにはジト目で見られてるけど、金を儲けるためだ、我慢しろ。




