64話 ギリー更生編 〜一話完結(笑)〜
組合でゴブリンを横取りしようと絡んできたギリーバーン、こいつは更生の余地ありと判断したレン。
さて、ちゃっちゃと更生させますかぁ。
「組合長、個室を貸してもらえないか?」
「ええいいですよ、お好きに使ってください」
「助かる、おっさんはそいつの査定でもしておいてくれ」
「おう、任せろ、腕が鳴るぜぇ」
「因みにあと500体はあるからな、組合として何体までなら買い取れるのか考えておいてくれ、組合長もよろしく」
「え、ええ…計算しておくわね」
「…500?」
ダンが顔をぽかーんとさせていたが、レンはそれを無視して、ギリーバーンとその仲間たちを個室に押し込み、最後に自分も入っていった――
「さて、まずはそいつを正気に戻すか」
「そうね、ヒール!」
「はっ、はっ…」
「駄目ね…」
「たったあれだけの事で、どれだけダメージ受けてるんだよこいつは、自分から絡んでおいて、はぁ…回復」
「はっ…はぁぁ…あ、あれ?みんな?」
ベチン!
仲間の女がギリーにビンタをかました。
「いてぇ!な、なにすんだよキャスリィ!」
「うるさい!どれだけ心配したと思ってるの!ああいう事はやめなさいと言ったでしょ!最近のあなたは少しおかしいわ!リーダーなんだからしっかりなさい!」
ギリー…お前リーダーなのかよ、駄目だろそんなんじゃ。
「確かに俺たちは弱いけど、もっと弱い者から奪うような事をしては駄目だ」
「リーダーは性格わりぃけど、あんな事するほどまでとは思わなかったぜ」
「ディール、ローラ…」
金髪で真面目そうな、ガタイのいい男がディール、赤髪ショートボブ、男口調で少し色黒肌のスラッとした体型の女がローラ、いかにも神官か僧侶といった格好の、金髪ストレート女がキャスリィだ。
「よし、意識は戻ったな、ギリー、お前はなんであんな事をした?こんないい仲間達がいるのに」
「あ、あんたは…分からない、すまなかった…俺、育ち悪くて、すぐ周りと喧嘩するような子供だったんだが、でも…友人を裏切るような真似はした事なかった、なんで…なんでなんだ?」
これは…鼻くその匂いが漂ってきましたねぇ。
「お前、ここ最近中央に行ったりしたか?」
「…行ったな、手紙を届ける依頼を受けて、4人で行った」
「確かに行ったわ、1週間ほど前よ」
「行ったなぁ、ジロジロ見られて気分悪かったよ、田舎者だと思ってバカにしやがって、うちはもう行きたくないね!」
「おいローラ、少しでも稼がないと駄目なんだから、我慢してくれよ」
「ディール、お前悔しくないのかよ!うちは悔しい!」
「お前らの事情は分かった、中央の開拓者組合に行ったんだろ?何か変わったことは無かったか?特にギリー」
「特には無かったかな、勇者様達は見かけたけど」
「シン達か?」
「そうだ、4人ともすごい高そうな装備をつけてたし、周りに人が集まっていて、勇者様って言われてたからすぐに分かったよ」
4人?たまたま1人いなかっただけか。
「それだけか?」
「あとは…ああ、賢者様と少し喋ったかな」
ヒット!ガルディンが言っていた賢者、転移を使うとか、これ絶対ルードだろ。
「賢者って、ヒゲもじゃのじじいだろ?」
「ああそうだが、じじいって…」
「良いんだよ、あんな鼻くそルードなんかヒゲもじゃで十分だ」
「そうその名前、ルード様だ、急に話し掛けてきてな、お前の目は才能がある目だって言われたんだ」
「はいアウト、それ罠だから」
「やっぱり…話の流れからそうだとは思ったが…」
「私たちはギリーに依頼を任せて、外で待機してたから分からなかったけど、出てきたあなたははしゃいでたわ」
「確かにあの日からギリーは少しおかしかったぞ」
「そ、そんなにか?」
「うちは何回も言っただろ、そんなのは無理だって、絶対倒せないような討伐依頼を受けようとしていたんだ、死にに行くようなもんだ」
「今なら分かる、さっきまではなんだか頭の中がモヤモヤしてたんだ」
そうやってルードは種を蒔いてるのか?でもなんで開拓者を死なせるような真似を?これも開拓者を強くする為なのか?いまいち目的が分からんな…
「討伐依頼か、一般人とかが、倒してほしい魔物個体の依頼を出したりするやつだよな?」
「そう、魔物の買い取りだけじゃなくて、討伐自体に報酬があるからおいしいんだが、大体はめんどくさい魔物なんだ」
「それで先日、ゴブリンの討伐依頼があったから受けてみたのよ、ノースリレーに行き来してる商人からの依頼でね、でもそのゴブリンが見つからなくて失敗しちゃってねぇ」
「今日は反省して大人しくしてるって話だったのに、突然組合の人が来て、呼び出されたと思ったら…」
ギリーは食堂で酒でも飲んでたのか?うまくいかない所へ来て、新人の登録、しかも手出し無用の通告を受けて、新人のくせに生意気だとイラついた、あとをつけてみれば変わったゴブリンを売ろうとしていたから、自分が受けた依頼のゴブリンと勘違いして、失敗したのは俺のせいって訳か…
「まぁ、色々と運が悪かったとしか言いようが無いな」
「そうねぇ、何かの形で謝罪したいけど、私達強くないし、正直お金も無いしねぇ」
「いいよそんなものはいらん、その代わり少しの間、俺の言う通りにしてもらう」
「「え…」」
キャスリィとローラが同時に顔を赤らめた。
「すまねぇキャスリィ、俺のせいで…」
「ローラ、稼ぎが悪くて、ごめん」
なんか勘違いしてないか?男連中も受け入れ早くない?そういうのが当たり前の世界なのか?
「あ、あの…わたしは、その、経験なくて…でも謝罪になるのなら…」
「う、うちも…初めてで…」
「おい、やめろやめろ、俺はそういうのは嫌いなんだ」
「え…じゃあ俺達が…相手を?」
ディールが真面目にそんな事を言ってきた、ギリーも顔が赤くなっている。
「ば、ばかやろう!そうじゃない!なんでそうなるんだよ!おいギリー!お前なんで顔が赤いんだよ!」
「え…俺も初めてで」
「ふざけんなよ!気持ち悪い想像させんな!まったくどうなってんだよこの世界は…」
もういい、さっさと強化の話をするか。
「お前らに強くなる方法を教えてやる、だから言う通りにしろと言ってるんだ」
「ほ、本当か!?」
「ああ、中層くらいならすぐだぞ、才能にもよるがな」
「才能…」
「ステータスの才能じゃない、お前ら本来の才能だ、なんていうか説明が難しいんだけど、理解力とかそういうのだ」
「強くなれるのか?俺達が?」
「間違いなくなれる、お前ら、最北の村カインドへ行け」
「カインド?」
「ああ、最近名前が変わったっていう?」
「そうだ、聖堂の左壁、一番奥の扉だ」
「なんでまたそんな所に…」
「行った瞬間に分かるよ、村長宅に行って、俺に鍛錬を頼まれたと言えば大丈夫だから」
「うちは信じるよ、どんな手を使っても強くなりたい!」
「ローラが行くなら俺も行く」
「私も行くわ、あとは…ギリー?」
「…俺も、行ってやる!それで馬鹿にした中央の奴らと賢者を見返すんだ!」
「よし、決まったみたいだな、カオスゴブリンを売ったらいくらか金を貸してやる、それで、食材や調味料を買い込んでお土産に持っていけ、あの村はお金よりそっちのほうが喜ばれる、他の町に行ってでも、持てるだけ買っていけ、絶対に出し惜しみするんじゃないぞ?」
「わ、分かったよ」
あとは鼻くそルードの注意点で、すぐにキレる人、話の通じない人、必要以上に賢者や勇者を信仰している人、などには近づくなと警告して、話し合いが終わった。
「レイン様、お疲れ様です、買い取りの査定が済んでおりますので、窓口までお願いします」
「分かった」
「あ、あの、組合長!」
「はい?ギリーさん…」
「今まで横柄な態度をとってしまって、すみませんでした!」
「はい、謝罪は受け取りました、これからは組合にいっぱい貢献して下さいね」
「はい!」
ウィンクをしながらそんな事を言うセーラ、ギリーも嬉しそうだ。
セーラ…なかなかのやり手だな。
「おうあんちゃん、査定終わってるぜ」
カウンターの上には、魔核、牙、爪が置いてある、さすがに皮とか内臓なんかは置いていない。
「査定の結果なんだが…」
皮・10万
爪・5万
牙・3万
骨・40万
魔核・200万
内臓と血液・1万
計259万バレルだ、単価は地球と大体同じ1バレル1円だ、内臓や血液はこれから使い道を研究するらしい、それによっては未来に値が跳ね上がる可能性もあるとか。
単位はバレルか…レイ、やっちまったな…
とりあえず…
「1体250万で売るよ」
「おい、なんで安くなるんだよ」
「まぁ組合への投資みたいなもんだな、組合長、職員にボーナスでも出してやれよ?」
「分かったわ、特にリーニャには多く出すわね」
「え?…やったぁ!レイン様!ありがとうございま〜す!」
「いいよ、リーニャには受け付けで怖い思いをさせたからな」
リーニャはすっかり元気になったな、他の職員も皆ガッツポーズだ、ふふっ。
…ってか、なんでこんなに人いるの?通路ぎゅうぎゅうなんですけど。
「それでレイン様、買い取り数なのですが…この組合は貧乏でして…5000万が限界なのです…」
「分かった、20体だな、どこに出す?」
「え…今お持ちで?」
「組合長、それは聞いちゃならねぇ事なんだよ…」
ダンが意味深にそんな事を言った。
「は、はぁ、ではカウンターの内側に」
「あんちゃん、こっちだ」
ダンに促され、中に入り、出来るだけキレイな個体を19体出して戻ってきた。
比較的外傷の少ないゴブリン多めだからいいけど、たまにぐちゃぐちゃなやつを出しちゃうんだよなぁ、出し入れがめんどくさい、どうにかならないかな…リスクリターン…やってみるか?
「それじゃあ、はい、よっと!」
ズン!
布に包まれた何かが出される。
カネか?硬貨の音がしなかった…まさか、レイ、あいつ…良くやった、単位バレルのマイナスを打ち消したぞ。
「もしかしてだが、紙幣なのか?」
「ああ、そうだが?金貨のほうが良かったか?」
「いや、いいんだ、これでいい」
そう言うとレンは袋を開き、中身を確認、そのまま中身だけを収納に仕舞った。
…
ダンがあんな事を言ったものだから、誰も何も言わない、その代わり静寂が場を支配していた。
「ほら、お前らにこれを」
収納から1000万を取り出し、ギリーの手の上に乗せる、ギリーだけじゃなく、皆、放心状態だった。
パンッパンッ!
魔力で音を増幅し、少し威圧も乗せて手を叩く…
「ほらほら!もう十分見ただろ!他の開拓者が来たら邪魔だ!仕事に戻れお前ら!」
皆、わぁ〜っとテンション高く、蜘蛛の子を散らすように持ち場に戻っていった。
嬉しそうにしやがって、ボーナス楽しみなんだろうな。
「レインさん、これ…」
「ああ、めいいっぱいお土産を買っていけ、金は余るだろうから、お前らの装備も新調しろ」
「ありがとうございます!」
「「「ありがとうございます!」」」
「一応貸すって名目だが、すぐに返そうなんて思うなよ?これも投資だ、何年後でも何十年後でも、なんならずっと貸しておいてもいいぞ」
これで最低でも1日10万は手に入る…くっくっくっ…貸与さん、あなた様の出番ですぜぇ。
実はただの優しさではなかった、話の途中から、レンは貸与の事ばかり考えていた、優しいクズである。




