63話 開拓者ギリーバーン
受付に
さっさと行けと
追いやられ
やってきました
買い取り窓口
【レン、心の短歌】
あそこだな…よっしゃ!いっちょぶちかましたりますかぁ!
「すまん、いいか?」
「おういいぞ〜、お?あんちゃん見ない顔だなぁ、新入りかい?それとも他の町から来たのか?」
上半身裸の、ムキムキのおっさんだった、彫りの深いダンディな顔つき、とても気さくでいい人そう、レンは安心すると同時に、これから出す魔物で驚かせてしまう事に、少し罪悪感を感じる。
なんで裸なんだよ…性格はよさそうだな、せめてぶっきらぼうなやつだったら楽しめたんだが。
「新人だ、さっき登録したばかりなんだが、今まで登録していなかっただけで、実力はそこそこある、と、自分では評価している」
「ほぉ〜、それで?買い取りかい?」
「ああ、これなんだが」
ドサッ…
買い取り窓口のカウンターはかなり大きく丈夫そう、ゴブリン程度なら問題ないと思ったので、特に躊躇うこともなく、カオスゴブリンを平然と出してみせた。
「…いまどこから?」
あ、そっちね、説明がめんどくさいな…
「それは企業秘密だ、どうだ?買い取り出来るか?」
「こいつは驚いた、カオスゴブリンじゃねぇかい?」
「ああそうだな、深層第1区に寄ったとき、沢山いたから討伐したんだよ」
「寄ったって、そんな近所に行くみたいに…」
「とにかくどうなんだ?買い取れるのか?買い取れないのか?」
「買う!買わせてくれ!コイツの皮なら相当丈夫だろう、魔核もかなりの値がつくぞ、爪や牙も長くて、色々なものに使えそうだ」
「よく爪が長いって分かったな」
「長年この仕事やってるとな、この手の伸縮式の爪はたまに見かけるんだよ」
「そうなのか、さすがだな」
「それはこっちのセリフだ、俺にゃあカオスゴブリンは倒せねぇ、とにかく買い取らせてくれるんだよな?」
「ああ、その為にここへ来たんだからな」
「じゃあちょっと待っててくれな、こいつをすぐに解体して…」
「ちぃっと待ってくんねぇかなダンさん」
「ん?ギリーじゃねぇか、いったいどうしたんだ?」
「いやちょっとなぁ、おい、レインさんよぉ」
茶髪のツンツン頭の目つきが悪い男が絡んできた。
確か名前はギリーだったな、なんでこいつは俺の名前を知ってんだ?
「なんだ?」
「俺達のゴブリンが一匹いなくなっちまってなぁ」
はぁ、まだいるのかこういう馬鹿者が、なんだよいなくなるって、ゴブリンの仲間かよ。
「はぁ、それがどうしたんだ?」
「それが世にも珍しい紫色の個体だったんだよなぁ」
「おい、あんちゃん…」
「大丈夫だ、おっさんは黙っててくれ、これは開拓者同士の問題だ」
おっさんなら分かるんだろう、こいつにカオスゴブリンを倒す実力なんか無いと。
「ちょっといいかしら?」
「セーラ…どうしたんだ?」
長い水色髪の綺麗な女性が、突然会話に割り込んできて、ダンを呼び付ける。
先ほど受け付けカウンターの奥にいた、3人のうちの1人だな、セーラと言ったか?まだ全然若そうなのにおっさんを呼び付けるとは…組合長か?
「ダン、ちょっと来てくれる?」
「あ、あぁ、あんちゃんすまねぇ、ちょっと行ってくる」
「分かった」
…
「持たせたなあんちゃん」
「ああ、別にそんなに待ってないさ」
しばらくしてダンは帰ってきた、セーラと他のギャラリーもぞろぞろと連れて…
待ってる間、絡んできた男はニヤニヤして何も喋らなかった、レンは気怠げにカウンターに体を預けて自然体だ。
「よし、これで証人は揃ったなぁ」
はぁ?何を言ってるんだコイツは、本当にバカなんだな、いつぞやの開拓者連中のように知能が低くて、精神が高めなのか?なんか見てて恥ずかしくなってくるぞ…
「開拓者ギリーバーン、私たちは証人ではありません、先程も言ったはずです、レイン様には手出し無用と、開拓者組合はなんの干渉も致しません」
「ふん、干渉なんざ必要ねぇよ、俺がこのヒョロいやつの不正をあばいてやる」
物語にもこういう奴はしょっちゅう出てくるよな、自分の強さを過信してないと出てこない言葉だ。
しかし、手出し無用とか…やはり登録の時にリーニャは何かを見たな、ステータスか?
なんでもいいか、別に隠してる訳でもないからな、さっきからリーニャは青い顔してるけど、少しフォローしておくか、俺は優しい男なんだ。
「おい、リーニャ」
「は、はい!」
「別に俺は怒ってないから、そんな顔をしないでくれ」
「え…でも」
「大丈夫だ、誰彼構わず攻撃するようなつもりはないよ、お前は仕事しただけだろう?なら怒られるような事は何もしていない」
「はい!ありがとうございます!」
顔色が戻ったな、俺の何かを黙って見てしまった事への恐怖心とか、いろいろ無くなっただろう。
「おいお〜い、俺を無視するなんざァいい度胸だなぁ、レインさんよぉ」
「違う違う、無視したわけじゃない、泣きそうな女の子がいたんだ、そっちを優先するのは男として普通じゃないか」
「うるせぇ!さっさと俺達のゴブリンを返しやがれ!」
俺達俺達って、そのお仲間達はどうしたんだよ…あ、仲間はゴブリンか。
そういえばこいつ、さっき紫色の個体って言ってたよな、ただのゴブリンの変異種ぐらいにしか思ってないんだろうな…
「お前のほうがうるさいだろ、声が大きいんだよ、聞こえてるからもう少し静かに喋ってくれ、逆に聞き取りづらいんだよ」
「なんだとこらぁ!」
「いや、だからうるさいって…はぁもういい、なんだっけ?仲間のゴブリンを返せだったか?すまんな、もう死んでるんだよ、生き返らせることは出来ないんだ、ゴブリンだから俺の言葉は分からないだろうけど、雰囲気で分かってくれ」
「てめぇ馬鹿にしてんのか!?俺達が今日倒してきたゴブリンを返せって言ってんだよ!」
「おいお前…セーラって言ったか?」
「は、はい、何でしょう…か?」
そんな怖がらなくてもいいのに…
「組合長か?」
「はい、私はここの組合長、セーラと申します」
「そうか…ここの警備体制はどうなっている?」
「え、警備…?」
「ゴブリンが紛れ込んでるじゃないか」
ギリーを指差して言ってみた。
「ご、ゴブリン?」
「あんだとてめぇこら!」
「なんだよ、ゴブリンだろうが、さっき俺達のゴブリンとか、いなくなったって言ってただろう、仲間を探しに来たんじゃないのか?」
「てめぇ…俺達が狩って来たんだよ!」
「どこで狩ってきたんだ?」
「この村とノースリレの間だ!」
森の中ですらないって、どういう事なんだよ、スライムは見かけたけど、ゴブリンなんているのか?
「これ、深層のカオスゴブリンなんだけど?」
「それは聞いた!どうせ不正したんだろうが!てめぇみてぇな弱そうなやつが、深層なんかで狩りなんか出来っこねぇ!嘘ついてんじゃねえよ!」
「ギリーさん、レイン様の言っていることは本当です」
「騙されてんだよ!あれは俺達が狩ったゴブリンだって言ってんだろ!なんで誰も信じねぇんだよ!」
本当に恥ずかしいやつだな、何が気に食わなくて新人に絡むのか…あとやっぱり討伐記録を見られたんだな、あのホラーになっていた時だろう、どういう仕組みなのかはよく分からないが、よく騒がなかったよ、リーニャは心が強いな。
「お前の言い分は分かった、お前はそれでいいんだな?もし俺の言ってる事が正しくて、あれが本当に深層のゴブリンだったらどうする?そんな大口叩いたんだ、もちろんお前だって深層の魔物を倒せるほどの自信があるんだろう?もしその可能性を考えてないとしたら、お前今日死ぬぞ?」
「…」
「まさか浅層どころか、森でもない所で狩りなんかをやってるやつが、深層で狩りをする可能性のある俺に、なんの証拠も実力も無く、絡んでなんかこないよなぁ?」
レンはほんの少しだけ威圧を込めて捲し立てた。
「はっ、はっ、はっ…」
えぇ…何そのリアクション…過呼吸かよ、もっと何か言い返してくると思って楽しみにしてたのに、諦めんの早くね?
「キャッ」
「うおっ、なんだ?」
ん?
突然人混みを掻き分け、3人の人物が走り寄ってきた。
「おいギリー!大丈夫か!?」
「お前、ギリーに何をした!」
「可哀想に、まともに息して無いじゃない」
お仲間ゴブリン3匹の登場か?はたして演技なのか、本当に今来たばかりで、この状況に対応しているだけなのか…
「お前ら3人はこのゴブリンに見覚えあるか?」
「!?」
「それ…カオスゴブリンじゃないの、覚えは無いわね、深層の魔物なんて見るのは初めてよ、それはあなたが?」
「演技じゃなかったみたいだな、お前ら3人は無罪」
「どういう意味だよ」
「そこで過呼吸になってるギリーバーンとか言う男が、このカオスゴブリンは自分が狩ったものだ、だから返せって言ってきたんだよ」
「あなた…本当にお馬鹿さんなんだから…」
「これ以上面倒見きれんぞ」
「すみませんでした!」
「「すみませんでした!」」
う〜ん、どうするかなぁ、このまま許すのも癪に障る、でもあんまり敵を作るのもなぁ、レイの治める土地だし…よし決めた、ギリーバーン更生編、いってみよう。




