62話 8番目の村セルマータ
ガルディンと話しながら、ノースリレーの入り口に向かっていく。
「私が門番に理由を話すから、怒っちゃ駄目よぉ?」
「それは確約できないな、相手次第だ」
「んもう、男の子って血の気多いんだから」
だからお前も…まぁいい。
入り口に着いて門番の前へ行く。
「おおガルディン、今日も無事だったな」
「ええ、途中魔物に襲われたけどねぇ」
「大丈夫だったのか?」
「大丈夫よ、カッコいい護衛を見つけたからねぇ」
「こいつか?」
門番はレンを横目で見ながら、親指で指して言ってきた。
お?こいつとはいい度胸だな、こいつは。
「格好はいっちょ前だが、強いのか?」
「え、それは…そうねぇ、どうかしら?」
戦う姿は見せてないからな、スライムをワシ掴みにしただけだし。
「ふ〜ん、そんな訳わからんやつを、ここに入れる訳にはいかねぇなぁ」
まぁ俺もそこまでこの村には興味ないし、村の誕生秘話も聞けたしな、それで十分だ、少し観光しようとは思ったが、別に数日の話だし、そんなに見どころも無いだろ、フローラの飯もまだたくさんあるからスルーしても問題はない、ただ、ひとくさり言っておくか。
「そうか?こんな俺みたいな小物1人も入れられないような、懐の小さい村には俺も興味ないからな、別に構わんぞ、それに、こんなやつが門番ではろくな村じゃないだろ、ガルディンには悪いがこっちから願い下げだな、世話になったなガルディン、門無しや聖堂の距離、村の誕生とか、色々と勉強になったよ、ありがとう、じゃあな」
体の向きを変え、木の柵に沿ってスタスタと歩き出すレン。
「おいちょっと待て!お前バカにしやがって!懐の小さい村だと!?」
「ちょっと待ちなさいよぉ、お礼もしてないのに〜」
それでもレンは無視して歩いて行ってしまった。
―――――
「まったく!あんたはなんて事してくれるのよ!このバカ門番!バカなんだもの、バカにされて当たり前でしょ!」
「い、いや、俺は門番としての仕事を…」
「仕事なら!尚更言葉は選びなさい!身内相手じゃないのよ!客商売でしょ!村全体の印象が悪くなるでしょうが!あなたは北王様が来ても同じ対応するっていうの!?」
そこまで重大な事だと思わなかった門番は、もう涙目だ。
「ごめんよ〜、今度から気を付けるよ〜」
「そうなさい!もう!」
いい男と知り合いになれる、せっかくのチャンスを逃したガルディンはもうプンプンだ、興奮冷めやらず、ガニ股で村の中に消えて行った。
―――――
まったく、門番は村の顔だろう、あんな奴が対応してたら、村全体がそういう風に見られるぞ、サンドのほうがよっぽどマシだ。
「さて、この村はもういい、次の村だか町だかを目指しますかぁ」
印象は悪かったが、人と話して少し気が紛れたレンは、足取り軽く小走りで次の人里へと向う。
―――――3日後
あった、村…かな?3日掛かったな、先日のノースリレーまでが、カインドから歩いて5日だった、ちょうど中間地点にノースリレーがあるとすれば、そこから5日だが、途中小走りしてたしな、3日は妥当だな。
中央から数えて、8番目の転移門がある村だな、ここから簡単にカインドに行くことができるのか…だめだ、甘えるな俺、ティルにもカッコつけたのに。
最初の頃のカインドよりは立派な柵に囲われた村だ、やはり入り口には門番らしき人が立っている、レンはゆっくり近づいていき。
「こんにちは、俺はレイン、カインドから来たんだが」
「おお、カインドから、北王様より村の名前が変わったと伝えられております、転移門も使わず来るとは中々に変わったお方ですな、どうぞお入り下さい」
「ありがとう、もう伝わってたんだな、北王様も仕事が早い」
「最近北王様はお変わりになられた、なんでもこれからは税の徴収量を半分以下に減らすとか、生活が豊かになると村人達も喜んでおります、なんでも北王さまのお兄様が相談役になられたとか」
「は、はは…そうか、それは良いことだな、じゃあ入らせてもらうよ」
「はい、どうぞ」
あいつ〜、勝手に相談役とか、まぁいいか、実際に城で働いている訳じゃないからな、鼻くそルードも、レインとは何者なのかと警戒するだろう。
まずは宿にでも行くかと村の中を迷いもなく歩く、今度こそはリスクリワードは忘れない、学習する男、レンであった。
―――――
「一泊3000バレルになります」
「…あ、少し用事があったんだった、また来ます」
「あ、はい、左様ですか、またお待ちしております」
…
お金が無かった、学習しない男、レンであった。
開拓者組合に行くぞ、魔物素材に賭けるしかねぇ、唸れ俺のギャンブラー魂よ!ってか開拓者組合…この村にあるのか?リスクリワード!
ありそうだな、他の町の開拓者組合と方向が被ってるだけじゃなければいいが―――
良かったぁ、あったよ〜。
普通の木造3階建て、それでも周りの家よりはかなり立派な建物だった。
ガチャ、キィ〜
さすがにオーソロン北支部ほどではないが、建物内は整然としていてキレイだった、作りも小さいがほぼ同じ、右手が食堂、左手が個室コーナーだ、皆上品に食事をしている、カウンターの奥では3人の受付嬢が楽しそうにお喋りしていた。
荒くれ者が、ガハハハッって笑いながら、昼間っから酒飲んでたりしたら、楽しかったのになぁ。
しょうがなくレンは、受付の方へ近づいていき、声を掛けた。
「すまん、ちょっといいだろうか」
「あ、は〜い!…ようこそ!最北の開拓者組合、セルマータ支部へ、私はこの組合の受付、リーニャです!えへっ♪」
たしかに可愛いが、アピールが凄い…
緑と白を基調とした開拓者組合の制服、赤寄りの黒髪で長いツインテール、人懐っこそうな可愛らしい女の子だ。
「すまんが、魔物の買い取りをお願いしたいのだが、登録とかはしていなくても可能なのか?」
「すみません、不可能になります、それをしてしまうと開拓者と一般の方との差が狭くなってしまいますので!」
「なるほど…」
確かにそうか、基本的に開拓とは魔物を倒すこと、買い取りするまでが開拓の一環なんだな。
「それなら開拓者登録したいのだが、可能か?」
「はい!意志あるものは皆開拓者、それを手助けするのが我々のお仕事ですからね♪」
明るくてバカっぽいが、ちゃんと教育はされてるんだな。
「差が狭くなると言っていたな、魔物買い取りの他に、開拓者になるメリットというか、優位性みたいなものがあるのか?」
「はい!各支部の情報、主に魔物の目撃情報などが無料で閲覧可能になります!あとは、少額頂きますが、手紙のやり取りや、荷物の配達などもやっております!開拓者に限りますが、知りたい人物の捜索、捜査、調査なども、お金が多少掛かりますがご依頼頂けます!」
へぇ、登録制の郵便局、あとは開拓者相手の探偵ってところだな。
「よし、登録しよう」
「は〜い、ありがとうございま〜す!では、こちらを記入してください!」
なんか、だんだん大きなティルに見えてきたよ、同じツインテールだし。
う〜ん、名前はレインで、才能は魔法と回避にしておくか、技能は潜行と魔法属性は水のみにして、職業は正直にギャンブラーと記入してみよう、どうせ分からんだろ、カリオールが言っていたが、本当にレベルと基礎能力値の記入は無しでいいんだな。
記入し終わった紙をリーニャに差し出す。
「ふん、ふんふん、はい!オッケーで〜す!ではレイン様、登録致しますので、この石版に手を乗せて魔力を流して下さい!」
ヤバい、これは…ステータスがバレるやつなのでは?
「これは?」
「これはレイン様の魔力波形を記憶、記録するものになります!」
「なるほどね、分かった」
素直に手を乗せて魔力を流す、石版がわずかに光る、優しい光だ。
なぜかリーニャは、このときだけは無表情でレンの手を見つめている。
何を見ている?石版の光がリーニャの顔を下から照らしてるから、ホラーな感じになっちゃってるんだよ、なんでそんな目ガン開きなんだよ!瞬きしろよ!怖いよ!
しばらくして石版の光が消える、リーニャはそそくさと石版を仕舞い。
「ふぅ、ありがとうございま〜す!」
いや、ふぅって…何をした?見てただけだろ?
「はい、これで登録完了です!開拓者のルールで何か知りたいことはございますか?」
「AとかBとかのランクの事は知っているんだが、他に何か決まり事はあるのか?例えば魔物討伐に関して、横取りは駄目とか、G級は中層で狩りをしちゃ駄目とか、あとは一般人に手を出しては駄目とか」
「特にありません!」
「無いの!?じゃあなんで聞いてきたの!?」
「ランクの話をする為です!説明めんどくさいので!」
「この正直者!」
「えへへへ〜」
「褒めてないから!」
やだ、天然だわこの娘ったら。
「とにかく、開拓者は開拓するのみです!あとは自己判断、自己責任です!他人に手を出さないのは一般常識なのです!開拓者は一般人に手を出してはならない、なんていうルールを作ったら、じゃあ一般人は開拓者に手を出してもいい、と考える者が出てきます!」
うっ…確かにそうだ、正論だよ、負けた…オーソロンでの俺の態度は傲慢だったな、自分は一般人だという事を笠に着て、ザンゲと受付嬢のみならず、開拓者全体を敵認定して周りを威嚇していた、組合長なんてとばっちりもいいとこだったろうな、反省だ。
「ありがとうリーニャ、勉強になったよ」
「はい!それなら良かったです!」
「「ははははっ」」
「「…」」
…
「「…」」
で?
「え?これだけ?なんかこう、あなたは開拓者ですよ〜みたいな、カードみたいなものとかはないの?」
「カード?あぁ、そういう…ありません!」
ないのかよ!少しだけ楽しみだったのに!
「そ、そうか…分かった、じゃあ買い取りをお願いしようかな」
「承りました!ではあちらの通路に行ってもらえば、買い取りの窓口がありますので、行けば分かると思います!」
「分かった、ありがとう、世話になったな」
「いえいえ!さっさと行ってください!」
「いや言い方!厄介払い!?」
ったく、最後の最後になんなんだよ、まぁ天然娘だ、言葉のチョイスをミスったんだろう、そう思うと笑えるな、ふふふ…
―――――
何者なのあの人?…普通のゴブリンはいい、多少優秀ならビッグボアも倒せる、でも…デスバニー9体、カオスゴブリン500体以上、最後のデビルなんちゃらとか…ヤバいの来たでコレ。
石版への登録時に各受付嬢は、その者の魔物討伐記録を見れるように紐付けされている、自身のステータス画面で見れる仕組みになっているのだ、リーニャは恐れ慄いていた、目がガン開きになるのも仕方のない事だった。
「最後にさっさと行ってくれなんて言っちゃったよ〜、大丈夫かなぁ、私殺されない?」
「リーニャどうしたのぉ?」
「メルちゃん、ヤバいの来ちゃったよ〜」
「さっきのひとぉ?」
「そう〜、深層の魔物をバッチバチに殺してるよぉ、私も殺されちゃうかも〜、え〜ん、助けて〜」
「大丈夫よ、優しそうな人だったじゃない、強いからって悪と決めつけちゃダメよ?あの人じゃなくたって、あなたを殺せる開拓者がどれだけいると思ってるの、そういう心が悪人を生むことを忘れちゃダメよ?」
「セーラ組合長〜、本当?殺されない?」
「大丈夫よ、討伐記録に人の名前はあった?」
「無かった…と、思う」
「なら大丈夫よ、そんな事を言うから反感を買ってしまうのよ、人間の討伐1号にならないように気をつけなさい」
「は〜い」
「それで?どんな討伐記録だったの?」
「デスバニー9、カオスゴブリン500以上、デビルなんちゃら1…」
「「…ヤバいの来たでコレ!」」
セーラは支部内全体に注意喚起をした、現在建物内にいる全職員と開拓者達だけでもと走り回った、レインには手出し無用、守らなかった場合、それが例え職員だったとしても、組合はなんの責任も負わない、なんの干渉もしない、ということを通達した。
「レインだぁ?どんな不正をしたか知らねぇが、深層の魔物たぁちとやり過ぎじゃねえか?」
それでも馬鹿な者は現れるものだ…




