58話 解体!デビル・ディアー
深層でカオスゴブリンと、宿敵である鹿を討伐したレン、ティルと共にダスト村に帰ってきた。
「おかえり、ティル、レン」
フローラだ、玄関先で花に水をやっていた。
「ただいまお母さん!」
「フローラ、ただいま…」
「何だレン、元気無いじゃないか、ティルの次はレンか?」
おかえりと言ってもらえるのも、あとわずかだと思うと、さらに寂しさが募るな…
「そうだな、女神様に会えなくなるのが残念で仕方なくてな、あと1つ、フローラに後で謝ることになるから、それもな…」
「な、なんだよ謝るってのは、怒られるような事したのか?」
「あ、ああ、やっぱり2つあったわ、いや3つか…」
ティルのレベルと、鹿の解体、あとスイムだ。
「なんだよ、言えよ、気になるだろ」
「まず、ティルなんだが…セイスより強くなってしまいました…」
「お前は…ティルに何をさせた!」
「うっ、え〜っと…」
「お母さん!おこっちゃだめ!ティルがわるいの!」
「ティル…何をしてきたんだ?」
「サンドラから魔道具を作るには魔核が必要と言われてな、上等な魔核を手に入れに行ったんだよ」
「それにティルがわがままいってついていったの!もうじかんがないから…いっしょにいたかったの!おしゃべりしたかったの!うぅぅ〜…」
泣きそうになるティル、しかし、もう泣かないと約束したので我慢している。
「ティ、ティル、わたしは怒ってないから、な?泣かないでくれ」
「すまん、俺が無理やり止めればよかったんだけど、俺もティルのわがまま聞いてやりたくて」
「まぁ、分かった、なんとなくな、それで?なんの魔核を狙ってたんだ?」
「カオスゴブリン…」
「!?」
「ティル、5ひきたおしたの…」
「俺が瀕死にさせて、止めをな」
「レベルは?」
「23…」
「完全にセイスを越えたな」
「ああ、ステータスも爆上がりだ、特に魔力と魔体がな」
「まぁ…レンが一緒なんだ、危険なんてないだろ、さっきの私の怒りは、レンを信用してないようなものだな、反省する、強くなる事はいい事だ、ありがとうレン」
「フローラ…」
「感謝に始まり、感謝に終わるんだろ?」
「はは…覚えてたんだな、それで、あと一つなんだが…」
スイムの事はまだ黙っておこう。
「聞くのが怖くなってきたな」
「解体してほしい魔物があるんだよ」
「…はぁ、なんだよそんなことか、驚かせやがって、なんだ?そんな申し訳なくなるほど凄い魔物なのか?」
「ああ、でかいんだよ」
「猪より?」
「ああ少し…いや、だいぶ…いや、かなりでかいな」
「待て、今ここで出すなよ?いいな?今、近所の奥さん達を連れて来るから、長い包丁を5本くらい用意して待ってろ」
フローラはそう言うと小走りで行ってしまった。
包丁かぁ、どうするかな…昔テレビで見たマグロを解体する時の、あのくらいでいいかな?流石に鹿には使いづらいか…刃渡りは30cmくらいあれば十分長い包丁と言えるだろ。
「あらぁ、どんな魔物なの〜?」
「いやわたしも見てないんだ」
「楽しみねぇ」
奥さんたちを連れてゆっくり歩いて戻ってきた。
「あら!レン様じゃないの!」
「本当よぉ、セイスさんじゃなかったの?」
「あ、あぁすまん、言うの忘れてたな」
「レン様こんにちは、どんな魔物なの?」
一気に騒がしくなったな、落ち込んでた気分が晴れてきた。
「少しは気が晴れただろ?」
くそ、お見通しかよ、女神様め、ああその通りだよ。
「別にそこまで落ち込んでないさ」
「強がるなよ、顔見りゃ分かるんだ」
「ははっ、フローラには勝てないな」
「ふふん、女神様だからな」
本当に助けてもらってばっかりだ…
「なになに〜?レン様落ち込んでるのぉ?慰めてあげましょうか?」
「駄目よ、旦那に怒られちゃうわよ」
「分かりゃしないわよ」
ははははは♪
そろそろ解体の話、してもいいですか?
「かなり大きな魔物でな、鹿なんだが」
「鹿…?」
「2区の鹿?確かに猪よりは大きいけれど、そんなに大きかったかしら?」
「知ってるのか?」
「ええ、たまに解体してるわね」
いや、そんな分けないだろ。
「わたしもたまにセイスが狩ってくるのは解体してるぞ?」
「ティルも、しかさんみたことある〜!」
「横でお肉、お肉っていつもうるさいんだよなティルは」
「ぶぅ〜、うるさくないもん!」
「でも確かに、鹿は猪より癖がなくて美味しいのよねぇ、今日はご馳走ね」
「うちもご馳走だ」
「ごちそう!やった〜♪」
2区って、ああなるほどな、ふふふ…
「そうなのか、慣れてるならこんなに騒ぐ必要なかったな、猪しか解体してないと思ってて、しかし凄いなセイスは、2区の鹿を狩れるなんて」
「いや、確かに鹿はレアだが、強さは猪と変わらんぞ?」
「そうなのか?2区だぞ?」
「ああ、そうだが?とりあえずこの場で解体するか、出してくれるか?」
「ああ分かった、少し大きめな個体だからな、ちょっと下がっててくれ、先に石で台を作るよ」
「猪祭りの時みたいにか?それはいい、解体しやすくなる」
そう言うとレンは村長宅の庭に、巨大鹿が乗せられるほどの大きさの石の台を作る。
「よし、出すぞ」
「いや、ちょ、ちょっと待っ」
ズゥゥン…
台の大きさに嫌な予感がしたフローラ、静止をかけたが一歩遅かった。
「「「「キャーー!」」」」
「すごーい!おおきいー!」
「…」
奥さんたちは驚き、目を塞いでしゃがみ込み、ティルは大喜び、フローラはじとっとした目でレンを見る。
「深層第2区の鹿だ!」
「いや、2区違い!」
ナイス突っ込み!それを待ってた!
「おにく、ちがうの?」
「はははは、そのにくじゃないぞティル」
「おいおいおい…化け物じゃないか…いつもいつも驚かせやがって!この馬鹿レン!」
「お?いいねぇ、そう言う呼び方してくれると、友達って感じがするよなっ」
「はぁ、疲れる、で?こいつは食えるんだな?」
「ああ、間違いない、例の技能で調べてある」
「なら安心だな」
「それで、解体いけそうか?」
「お〜い!皆集まってなにやってんだ?」
ちっ、セイスめ、またメンドくさくなるタイミングで帰って来やがって、最初から説明しなくちゃならないだろうが、猪ごときでこんなに時間かけやがって。
実際は妙齢の美女たちと楽しく会話していたのに、おっさん成分が途中で混ざったので、少しイラついただけであった。
「おかえり、猪ごときで遅かったじゃあないか」
「なんか言い方に棘がないか?ちょっと皆が魔法で熱くなってな、帰ってくるのが遅、くな…った…?」
セイスは鹿に気付いた。
「なにこれ!?」
「サンドラに頼まれてな、魔道具を作るための魔核を、深層第2区で狩ってきたんだよ」
「レン殿が?」
「他に誰がいるんだよ」
「これ、食べるのか?」
「そうだな、食べれるし、味が気になるだろ?」
「ははっ、さすがだな、深層第2区とは恐れ入る、それにしても穴だらけだな、前足が両方無いし、首も無い、戦いの壮絶さがうかがえるな」
「ああ、強敵だったよ、首ならあるぞ?出すか?」
「…その首、私にくれる?」
「うわぁ!びっくりしたぁ!」
いきなりテラーが耳元で囁いてきた。
おいおい、全然気配がなかったぞ、俺の首取られるかと思ったよ。
「テラー…驚かせないでくれよ、思わず俺の首を捧げる所だったぞ」
「ふふ…それも捨てがたいわねぇ」
「やめてくれ、俺はまだ死にたくない」
ホントにこの人は…何者なんだよ。
「こらテラー、レン様を驚かすんじゃないぞい」
「そんなに驚いてないわよあなた、ねぇレンさん?」
「いや、ぶっちゃけ驚いた」
「あらあら、レンさんもまだまだねぇ、うふふふ…」
日に日に怖さが増していくな、それよりも鹿だ。
「首はテラーにあげるとして、村長はこの鹿、知ってるか?」
「見たのは初めてじゃが、噂には聞いたことあるのじゃ」
「へぇ〜、開拓者の中で有名とか?」
「ええ、身の丈は10m以上、体格からは想像もできないほど速く動くとか、大きな角を持ち、音と炎と氷を操る鹿の魔物、名をデビル・ディアー、一部の開拓者と、S級の英雄様や勇者様しか目撃はしておらず、名前もいつしか勇者様がおつけになったとか、第3区の門番とも言われておりますのじゃ」
門番?こいつが?あの強さで?おいおいこの世界、人に攻略できんのかよ…ま、俺はそのうち行くけどね、最深層までな。
「これがデビル・ディアー…まさかその姿を見ることになるとはのぅ、人生何が起こるか分からぬもんじゃな」
「さすがに珍しいか?」
「珍しいどころか、討伐の例は過去に1回だけなのじゃ、その時は勇者様1人と英雄様3人、A級の大ベテランを数十人連れていって、生き残りは英雄様たった1人だけだったはずなのじゃ」
「勇者ではなく、英雄?」
「そうですじゃ、しかも倒したという報告だけで、死体は爆散して持ち帰れなかったらしいのじゃ」
「その英雄様の名前は分からないのか?」
「うむ、分からないのじゃ、確か中央の英雄級開拓者だと噂されていたのじゃ」
「そうか、爆散ねぇ…なんか違和感あるけど…まぁいいか、とにかく解体お願いしてもいいか?」
ようやく話が終わったかとフローラが早速取り掛かり、他の奥さん連中も最初は驚いていたが、落ち着きを取り戻しており、フローラに続いて取り掛かる。
鹿の頭はテラーが不気味に笑いながら、土魔法で岩板を作り、自分も一緒に乗り込み、浮いて家の裏の方へ行ってしまった、フローラに『皮も後でちょうだいねぇ』と、最後に一声掛けてから…
もう俺は、テラーがこの世界のラスボスだった、って言われても驚かないぞ。
その後、奥さん5人で1時間ほどかけて解体は終了、大量の肉はそれぞれが好きなだけ持ち帰り、レンは魔核を受け取った。
これが魔核か、うさぎちゃんの魔核とは大きさが全然違うな、うさぎの魔核はうっすら青く透き通っていて、ピンポン玉ほどの大きさだったが、これは、サッカーボールくらいか?赤黒くて透き通ってないな、ずっしりしてて、なんかボウリングの玉みたいだ。
「レンはサンドラの所に行くんだろ?夕飯はご馳走だからな?帰ってこなかったら全部食べちまうからな」
「それは忘れられないな、必ず帰らなくては」
レンは、あまり魔核をじろじろ調べて、間違って落とす前にと収納に放り込んで、早速サンドラの所に向かった。




