57話 狩るか狩られるか、凶悪鹿との再開
レンは現在、再び転移門を潜り、深層第2区にやってきていた。
ティルも頭使ったこと言うよなぁ、聖堂で待ってるなんて言われたら、時間かけられないぞ。
さてと…リスクリワード、リスクリワード…
「いるな、やっぱり2区の魔物だったか、あっちだな…まずはステータスの整理だ」
貯蓄 19440 −19785
体力 10000
筋力 20000 +3600
俊敏 20000 +6360
精神 100000
魔力 13258/15000 +4245
魔体 17950 貸与[−15000]利息[+2250]
知能 10000 +4520
技術 10000 +1060
魔力が回復しきってないな、やはり魔体を貸してるのが地味に痛い、利息を得るためのデメリットか…でも!やっぱり数値が揃うとテンション上がるよな、貸与が邪魔に感じるくらいだ…
「よし行くか!」
岩板に乗って、全力で飛ばす。
うひょ〜、はえぇー!癖になりそうだな!
今だに自分の体一つで飛行する事が出来ないんだよなぁ、鼻くそが飛んでるのも見たし、ティアも浮いてるの見たんだけど…収納とか体を光に変えるよりも現実的だと思うんだけどなぁ。
体が宙に浮くという現象が、まだ自分の中で当たり前になっていないレン、どうやったら飛行できるようになるのか色々考えているが、その答えはまだ出ていない。
魔法で出したものは、最初から浮いていて当たり前だと思ってるし、無機物も大体が木か鉱物で出来てるから、なんとなく操れるって感じがして、すんなり浮かせることが最近できるようになったんだが…
オーソロンの開拓者組合では、B級のザンゲも浮かす事ができた、人を浮かせたのはあれが初めてだったけど、頭の中であいつを物扱いしてたからか?
自分を物扱いできるか?無理だよなぁ、くそぉ…鼻くそに劣ってると思うだけでも腹ただしいな…どうせあいつは技能で飛行かなんかを持ってるんだろ、そうに決まってる、ん?…あれ?
鹿の方へ向かいながら、リスクリワードをこまめに発動していたが、突如として数字が0.01になったのである。
通り過ぎたか?少し戻るか…
向きを180度回転させ、リスクリワードを使う。
【99】
やっぱり通り過ぎてたか、ゆっくり行こう―――
ガリッ…ガリッ…ガリッ…
しばらく戻ると、下から何やらガリガリと音が聞こえてきた。
下にいるな…少し緊張してきた。
岩板を消して、瞬光で音もなく森の中へ降り、素早く潜行を発動、ゆっくりと鹿のほうへ向かっていく。
いた…相変わらずでけぇ、なんか角で木をガリガリ削ってるぞ。
ガリガリッ、ガリッ…ドンッ、バキィ、ズゥン…
急に頭突きかまして木を折ったんだが?なになに?怖いんだけど?
やはりこの鹿こえぇ、と思ったレン、しかしそこは獣らしい意味不明な行動による怖さであり、前ほどの恐怖はないと感じていた。
リスクリワード 【0.1】
うわぁ…それでもつよぉ、勝てるのかこれ?いや、何かの能力が突出して高いんだろう、大丈夫だ、人間の知能と、魔法知識できっと勝てる!
…よしっ!ここは人間らしく…ほっ!
ザッ!
後ろへ飛び、鹿との距離を空ける、そして…
潰れろ!
ズズーンッ!
直径100mほどの岩を出して、鹿の上に落とした、一つも人間らしくない、さもすればクズの所業である。
ピシッ、ピシピシ…バァーン!
なっ!岩が割れたぞ!ヤバい!
「グァァァァ!」
大怒りの鹿が岩の隙間から飛び出してきた。
レンの仕業だと分かっているのか、頭を下げ、角でレンをかち上げるような姿勢だ、猛スピードで一直線にこちらに向かってくる。
速攻バレちまった!は、速っ!
鹿はもうレンの目の前だった。
ピカッ!
とっさに瞬光で回避。
あぶねぇ、覚えて良かった光魔法、こうなりゃガチンコ勝負だ!ぶった斬ってやらぁ!
ヒュンッ、ボスッ、ボスッボスッ!
なっ!刃が通らねぇ!
瞬光で動き回りながら鹿の足を自作の剣で斬りつける、しかし毛皮が硬くて刃が通らない。
なら、打撃だ!オラァ!
ドゴッ!
「グガァァ!」
鹿の左前足を思いっきり殴りつけた。
効いたなっ、よし!
ドゴッ、ドゴッ、ドゴンッ!
ちょこまかと動き回り、殴る、蹴るを繰り返す。
「ピ…ピィィーーー!」
「うあぁっ!耳がっ…」
ビュオッ!
「おわぁ!」
ピシッ
鳴き声で聴覚を攻撃され、怯んだ隙に後ろ足で蹴りつけてきて、すこし掠ったが間一髪で躱す。
ちくしょう!瞬光を使う暇がなかった!
「グググググ…グゴォォォ!」
今度はなんだよ!?
ボッボッボッボッボッ…
鹿の口元に火球がいくつも出現する。
嘘だろ!?
ボシュ!ボシュ!…
「う、ぐっ、はっ!」
サッ、サッ、サッ!
連続で火球を放ってくるが、レンは必死に躱す。
ボカァン!ドォーンッ!
通過した火球が地面や木にぶつかって爆発している。
ヤベぇぞこいつ!こんな森の中で火属性の鹿って!なんなだよ!くそっ、お返しだ!
「オラァァァァ!!」
「ギ、ギゥゥ」
大声に魔力を乗せ、音量を増幅させる、鹿が少し怯んでいる。
今だ!死ねこらぁ!
シュー!
「ピギャーー!」
レン十八番、圧線だ。
効いてる!畳み込むぞ!
突如レンの前に長さ1m、直径5cmほどのドリルが5本出現。
「現代工具の硬さを知れ」
普通のドリルよりも鉄をより簡単に削る超硬ドリル、相手が鋼鉄でも、ものの数秒で数十センチの穴を空ける高硬度のドリルだ、穴を空ける速度でいえば圧線の比ではない、レンが工場の現場でよく使用していたものだった。
ドスッドスッドスッ…ギュルルルル!
「グギャーーー!」
刺さってから超高速回転するドリル、回転するたびに体の中に入っていく、さすがの鹿も鳴き叫ばずにはいられなかった。
「まだまだ硬い工具はあるぞ」
次に大きな砥石が出現、超硬ドリルの刃先を研磨するもの、それは砥石である、砥石は切るではなく削る、その特性上、人が砥石で大きな怪我をした場合、肉が大きく削り取られるため、傷は塞がっても、無くなった肉は回復しないと言われている、凶悪な工具なのだ。
「削れ!そして水を追加だ!」
砥石が目詰まりしないように、鹿との接触部分に水をかけながら削る。
ガガガガガガガガ…ザシュ…
ズゥゥン…
鹿の前足2本が削り切られた、たまらず倒れ込む巨大鹿。
「ふぅ、まぁ、大火力の炎とか水の物量で押しつぶしてもよかったんだが、岩が駄目だったからな、少し不安だったが、物量作戦に移る前に倒せて良かった…」
「グァァ…」
さすがに満身創痍か、0.1でも意外といけるもんだ、さて、介錯してやろう。
レンは刃渡り2mほどの両手剣を生成し、鹿の首に乗せる。
鹿は目を瞑って大人しくしている、運命を受け入れているようだ。
「すまんな、いい勝負だった」
「グァ」
別に構わないとでも言うかのように小さく鳴く鹿。
さすがは自然界の生き物だな、受け入れが早い、この森はそういう場所なんだろうな。
レンは剣を垂直に持ち上げ、思いっきり振り下ろす。
「ふんっ!!」
ズバッ!
ありがとう、鹿よ…
……
しばらくその場で手を合わせ、黙祷する。
こいつの核だったら、サンドラも喜ぶだろう、カオスゴブリンでも十分だと思うけど、持ち帰ってフローラに解体を頼むか、怒られそうだな…
「ステータス」
貯蓄 31440 +12000
ヤバ…1体で?本当に第2区の魔物なのか?第3区から来たんじゃないだろうな…ありえるな、前はうさぎトンネルの近くで見た訳だしな、最深層区だったりして…いや、これもありえるぞ、正直最深層の魔物がこれ以上強かったらしんど過ぎる、この世界に倒せるやつなんかいないだろ、まぁとにかく、まだまだ強くならなきゃ駄目だって事は分かったな。
「帰るか…」
―――――
「ただいまティル」
「あ、お兄さん!おかえりなさい!」
「すっかり体力は回復したみたいだな、スイムはどうしたんだ?」
「ここにいるよ?」
ティルの影から触手が伸びてくる。
レンはそれをニギニギしながら感心する。
「おお、凄いな、やっぱりダークネスなだけあって、影に潜むのはお手の物か」
「スイムすごいよね!」
「ああ、こいつがいれば村も守れるだろう、ティルとスイム、2人で頑張って守るんだぞ?」
「うん…がんばる…」
レンがいなくなる寂しさを思い出して、少し落ち込むティル。
「はは…こればっかりは魔法でもどうにもならないな、とりあえず帰ろう、ティル」
「うん、ごめんなさい、でもティルなかない!」
「えらいなティルは」
ティルを慰めながらゆっくり村長宅に戻っていった…




