53話 北王からの贈り物
3人は村長宅に到着、レンが家の玄関をノックした。
コンッコンッ
「はーいっ、ちょっとまってくださーい」
ティルの明るい声が聞こえた。
ガチャ…
「あ!お兄さん!」
「おぉっとぉ」
勢いよく抱きついてきたので、優しく抱きとめる。
「おかえりなさい!お兄さん!」
「あぁただいまティル、待たせて悪かったな」
頭を撫でて謝るレン、ティルは目を瞑って気持ちよさそうだ。
「皆はいるか?」
「うんっ、みんないるよ〜♪」
「おう、レン殿遅かったな」
「セイスか、ただいま、悪いな伝言役なんて頼んじゃって」
「いいよ別に」
城を出たあと、村長に事の顛末を伝えて貰うため、セイスには先に村に戻ってもらっていたのだ。
「だぁれ?」
レイのほうを見て首を傾げるティル。
「僕はレイ、北王だよ〜」
「!?」
「ティル、大丈夫だ」
土下座の体勢に入ろうとしたティルをセイスが止める。
「だいじょうぶ?」
「もうこの北王様は、我々に意地悪はしないんだ」
「そうなの?」
「そうだよ〜、ごめんね今まで、これからはみんな幸せになるように頑張るから許してね」
レイがティルの頭を撫でながら決意を口にする。
「ほんとう?」
「本当さぁ、レン兄ちゃんに説教されちゃったからね」
ウインクをしながらレンを見て、そんな事を言うレイ。
「お兄さんすごい!やっぱりかみさまだぁ♪」
「そうだね〜、神様だね〜♪」
もう神様でいいよ…どうにでもなってしまえ。
レンは自棄になった。
「カリオール達は戻ってるか?」
「ああ、もうこの国は大丈夫だと言ってな、村人達もそれぞれの家に帰ってるよ」
「サンドラは?」
「門の近くに家を建てただろ?」
「ああ、カリオールとその部下たちを住まわせるための家か」
「そうだ、村人達を押し込んでおいたあの家に住んでもらってるよ」
「そうか、なら安心だな、じゃあ村長に挨拶を済ませようか」
そう言うとレン達は、家の中に入って行った。
―――――
「レン様…逆なのじゃ…儂が挨拶をしにいかなくちゃならんのじゃ、なんで北王様が儂に挨拶しに来てるのじゃ?」
「あはははは、本当に黙ってたのかよセイス」
「ああ、ビックリさせようと思ってな」
「老人の扱いには気を付けてほしいのぅ、心臓が止まるかと思ったのじゃ」
「本当よぉ、ビックリし過ぎて倒れるところだったわぁ」
「村長さん、奥さん、驚かせてごめんね〜、でも謝罪でもあるからこれでいいんだよ」
「そんな事は…」
「いいんだよ村長、こいつは悪いことをした、謝るのは当然のことだ、受け入れろ」
「そうそう〜、だから、村長さん、他の皆さん、本当にごめんなさい」
レイは深々と頭を下げて謝罪した。
…
皆、涙目だな、この20年間の問題が解決したんだ、そうもなるよな。
「よし!もういいだろう、皆中央広場にいくぞ!近所にも声を掛けろ!北王からの贈り物を渡すぞ!早い者勝ちだ!」
「わ〜い♪」
タッタッタッタッ!
言うやいなやティルが一番に、外に向かって走って行った。
「レン」
「ん?」
「ありがとう、この村を救ってくれて」
「フローラ…いいんだ、ここはもう俺の故郷なんだよ、故郷を救うのは当たり前の事だと思わないか?」
「レンらしいな、それでもありがとう」
「分かったよ、その感謝、確かに受け取った」
深くお辞儀をして感謝をしてくるフローラ、レンは感謝を快く受け取る。
「さて、俺たちも広場にいくぞ〜」
了解!
―――――
ぞろぞろと広場に人が集まってくる。
「な、なんだ?なんかいっぱい人が来るぞ…」
「マリル様、我々は処刑されるのでは?」
「そ、そうか…これまで散々痛めつけたんだ、そうでもしないと収まらないのだろう」
「マリル様…」
レン達を先頭にして、広場に村人達が入ってくる、そして噴水の前、そこでは土下座をしているボンテージ衣装のちっこい人間と、くノ一衣装の人間がいた。
「今まで悪かった!罰は受ける!でもこいつだけは…フキノだけは許してもらえないだろうか!都合のいい話だとは分かっている、でも頼む…どうか私の首1つで許して欲しい!どうか!どうかぁ〜!」
あいつは何やってんだ?面白いから少し乗ってみるか?
レイの方を見ると…ニヤニヤしていた、どうやら静観するらしい。
「おいマリー!判決は下った!俺の力が足りなくてすまない、お前を犠牲にすることを許してくれ!」
「レン様そんな!マリル様だけなんて!私も…私も一緒に罰を受けます!」
「おいフキノ!お前は黙ってろ!」
「いえ黙りません!私の使命はマリル様の命を守ること!」
「お前ぇ!私がどんな気持ちで頭を下げたか分かっているのか!」
「分かってますよ!私だって同じ気持ちなんですから!」
「お前らに罰を言い渡す…」
「「はっ」」
2人揃って地面に額をつけ、裁きの言葉を待つ。
「では頼む」
レイのほうを見てそんな事を言った。
指名されたレイは自分を指差し、僕?みたいな感じだったが、苦笑いしながら2人の前に進み出る。
…
「お前達2人を…お尻ペンペンの刑に処す!」
「はっはははは!なんだよそれ!お尻ペンペンって、もっとマシな罰は思い付かなかったのかよお前」
「だっていきなりだったんだもん、思い付かないよぉ」
「そうか、悪かったな、いきなり振っちゃって、はははは」
「本当だよぅ」
「さて、2人とも」
土下座の姿勢で、顔だけ上げ、ポカ~ンとアホ面の2人。
「お前たちは許された、さあ立て」
2人はゆっくりと立ち上がり、膝についた埃を払う、自分たちが勘違いをしていたことに気付いて、顔が真っ赤だ。
「20年間も村を痛めつけた罰にしては軽いほうだろ?」
「う、うむ、確かに…」
「は、はいぃ」
「そうだよ〜それだけで済んだんだから兄ちゃんに感謝しな〜」
ギロッとレイを見つめるマリー。
「なんでお前がそっち側なんだよ!」
「そうですよぉ〜、ひどいですよ北王さまぁ」
「僕だって皆に頭を下げて来たんだよ?マリーがここでフキノと仲よく喋ってる間にねぇ」
「うっ、くっ…くそ!」
「うぅ…」
反論できないマリーとフキノであった。
「さて!皆集まってくれてありがとう!ここにいるのは北王のバーレルとその側近、マリルとデイル、あとは知ってるかも知れないがマリルの部下のフキノだ!」
何となくそんな雰囲気を感じていた村人達、しかし実際そうだと分かると少し困惑気味だ。
「俺が北王を説得した!もうこの村は苦しめられることはない!北王は中央に精神操作されていたんだ!それも解除した、だからもう大丈夫だ!」
わぁぁあぁぁ!やったぁぁぁ!!
「今日は謝罪の品を北王から預かっている!皆受け取れ!」
レンと村人達との間は10mほど空いていた、その地面が突然黒くなり、洋服や調味料、さらには様々な生活雑貨、食材などが次々に溢れ出てくる。
「自由に選べ!全部無料だ!喧嘩はするなよ!」
わぁぁぁぁ!!
―――――
「こういう時の女は強いな…」
右目に痣を作ったセイスが呟く。
「それを知ってしまったかセイス、こういうのは女に任せておけばいいんだよ」
「ふん♪ふふ〜ん♪あむあむ…おいち〜♪」
ティルはレンの隣に座って果物を食べていた。
「ティルはそれだけで良かったのか?」
「なんで〜?これでおなかいっぱいだよ?」
くぅ〜、ホンマにえぇ子やなぁ。
「レイ、この子を見ろ」
「なになに〜、ティルちゃんがどうしたの?」
「この子は8歳だ」
「えっ…」
「地球で言えば小2だぞ?そんな子が、わがままを言わずに、果物1個で十分だと言っている…この現実が分かるか?」
「ティル、これだけでだいじょうぶだよ?あとはお母さんたちにあげるんだ♪ティルえらい〜?」
「偉いぞ〜ティル〜」
「えへへへぇ」
「うぅぅ…くぅ…」
さすがのレイもくるものがあったらしい、自分がしてきた事の、罪の重さを再認識しているのだ。
「頑張る!僕、頑張っていい王様になるよ!」
「ああ、お前は酷王から優王に名乗りを変えろ」
「分かったよ兄ちゃん!」
「これで北の地は安泰だな」
「レン兄ちゃん、少し前だったら僕は、ティルちゃんのこんな状況を知っても、何も感じなかったと思うんだ」
「私もだレン兄様、恐らくなんの感情も湧かなかったはずだ、それが今はどうだ?自分の、自分達のしてきた罪の重さに、押しつぶされそうだ」
「確定だな、やっぱりなにか仕掛けられてたんだ、鼻くそルードめ…」
北王の謝罪贈品大会は怪我人もなく(?)終了し、村人達が落ち着いた頃、そんな村人達をじっと見つめ、真剣な顔をしているレイがいた。




