52話 ダスト村視察
レンは高級宿、ブルームの一室で魔法の考察をしている、暇さえあれば考察をする男、まだ鼻くそのルードと事を構えるのは時期尚早だと、なおさら強さに貪欲になっていた。
コンッ、コンッ、
「はいよ〜」
「レン様、北王様とマリー様が到着なされました」
カリオールがそう伝えて来た、一連の説明をして、わだかまりも解消したので、呼び方も様付けに戻っている。
「直接来たのか?分かった〜、準備したらそっち行くって言っておいてくれ〜」
「かしこまりました」
もうカリオールは執事決定だな。
―――――
「よう、わざわざすまんな、呼び出してもらってもよかったのに」
「兄ちゃん!」
「兄様!」
スゥ~、ハ〜、スゥ~、ハ〜…
抱きついてくる2人を優しく抱きとめる、少しマリーの鼻息が荒い気がするが、と思うレン。
「お〜よしよし、なんだ?この前より甘えん坊になってるじゃないか」
「つまんなかったんだよ」
「レイのおもりはこりごりなんだ」
「あ、マリーひどいよぉ」
話し合いより3日経っていた。
「デイルが堅物だから時間かかっちゃって、ごめんね?」
「い、いや北王様、私は堅物などでは…」
なるほど、こいつがマリルの名付け元になった仲間、デイルか。
「俺はレンだ、よろしくなデイル」
「はっ!宜しくお願い致します、レン様!」
「おいおい、本当に堅物じゃないか、もう少し肩の力を抜いたらどうだ?」
「いえ、北王様、マリル様より実力の話を聞きました故、そのような失礼な態度は取れませぬ」
かったぁ〜、カチコチだよデイル、こいつの中で強者は偉い、の考えが普通になっちゃってるんだな。
レンは苦笑いをして、デイルの肩をポンポンと優しく叩きながら。
「まぁほどほどにな、疲れちゃうから」
「はっ!承知しました!」
疲れちゃうから!
レンは諦めてレイとマリーの方に向き直る。
「ね?硬いでしょ?」
「まぁそう言ってやるな、持ち味なんだろうよ、こういう部下がいると安心できるじゃないか」
「そうなんだけどね〜、マリーの次に信頼してるし」
「!?」
「よかったな、デイル」
「…」
デイルは少し上を向き、眉間をつまんで震えている。
嬉しくて泣きそうなんだな…今はそっとしておこう。
「レン様、私は先に」
「ああ分かった、村人達を頼む」
「かしこまりました」
カリオールとその部下達は、村人達を連れて先に村に帰っていった。
「さて、視察に行く前に、お前たちに頼みがあるんだよ」
「なに〜?」
「何でも言ってくれ、この身でもなんでも捧げよう」
胸の前で手を握り、無表情でグイッと近づいてくるマリー。
「ちょっ、マリー、やめて、そういうのじゃないから、なんでこのタイミングで俺がマリーを堪能しようとするんだよ」
「堪能だなんて、兄様…」
「やめろやめろ、そうじゃない、村人の着る服とか、調味料が足りてないんだよ、あとできればある程度の食材と生活雑貨とかも」
なんかマリーが変な方向に行きそうになってるな、ヤバいぞこれは、どこかで修正しなくては、俺はハーレム物が嫌いなんだ。
「それなら僕達にお任せだねっ」
「頼めるか?」
「うん!マリー、いける?」
「あ、ああ大丈夫だ」
トリップしていたマリーが帰ってきた。
リンリーン♪
綺麗な鈴の音が鳴り響く。
ザッ!
「マリル様、お呼びで」
「うむ、レン兄様に貢ぎ物をする、様々な服、調味料、食材、生活雑貨を狩ってこい!」
「はっ!」
シュッ…
「お、おい…今買ってこいのニュアンスがおかしくなかったか?」
「そうか?いつも通りだが?」
そのいつもを俺は知らないんだよ!ヤバい…こいつダークホースだった!真面目キャラだと思ってたのに、レイのキャラが濃いから隠れてたけど、前に出しちゃ駄目なやつだったよ!
約1時間後…
これ、どうするんだよ…
レンの目の前には大量の服と調味料、食材、雑貨などが大量にある、黒装束の者達が現れては消え、現れては消え、様々な物をポンポン置いて行った。
別に運ぶのは問題ない、問題はどうやって集めているかだ、なんか、見たことある顔も2人くらいいたけど、受付嬢のヨミと、あのときのメイドだったな、ヨミの方は俺の顔見てすごい顔してたけど…
「おいマリー、これはまさか店から盗んでるんじゃないだろうな?そういう事はしないと約束したはずだが?」
「大丈夫だレン兄様、お店だけじゃない、一般人からも集めている」
「余計に駄目だろ!」
「そうじゃない、こういう物資を集めるイベントはたまに起こる、私の部下たちは持ち回りが決まっていて、どこからどれだけ物を調達したかを覚えている、それであとから色を付けて金品を支払うんだ、むしろ祭り事が始まったと大喜びだ」
「そうだったのか、効率が半端じゃなくいいな、早とちりした、すまない」
「ほ、褒めてくれてもいいのだぞ?」
「ああ、ありがとうマリー、助かったよ、レイもありがとな」
2人の頭を撫でてあげる。
仲良くなった人には強く当たれないレン、こんなだからハーレムになるのである、果たしてハーレム回避できるのだろうか…
「よし!物資も持ったし、向かうか」
「「…」」
レンの収納を見て絶句している2人であった。
―――――
「へぇ〜、ここがあの最北の村なんだぁ、オーソロンより立派かもね、さすが兄ちゃん♪」
「美しい…」
「俺もビックリしてるんだよ、魔法の知識をちょちょっと教えてあげただけなのに、村人達がヒートアップして、勝手にこうなったんだ」
「あれも?」
石像を指差してレイが言う。
「ああ…あれはやめて欲しかった…」
「美しい…」
「マリー?」
「おい、まさかお前、村じゃなくて石像を見て…」
「美しい!私も欲しい!」
「レイ、どうにかしてくれ…」
「えぇ、僕じゃどうにもなんないよぉ、いつもと逆だもん」
「レン様!私もあれ欲しい!」
「わ〜かった分かった、村人に頼んでみるから、落ち着いてくれ」
「本当はですか!?絶対ですよ!きゃ〜♪やった〜♪」
「こいつキャラ変わってねぇ?」
「僕もそう思うよ、やっぱり抑えてたのかな…」
「落ち込むなよ、楽しそうでいいじゃないか」
「そうだねぇ」
なんかレイの方が真面目に見えてきたな、レイは今まで好き勝手やってきた、マリーはそれを支えるために、感情を抑えていたのかもしれないな…少しは優しくしてやるか。
「マ、マリル…様?」
「!?」
「あ、フキノじゃ〜ん、死んでなくてよかった、ね〜マリー…マリー?」
「…」
ピョンピョン飛び跳ね、喜んでいる姿を見られたマリー、顔を真っ赤にして、レンの影に隠れると…その場で消えた。
「お前が、この村を襲撃するために送り込まれた、フキノか?」
「は、はい…」
右手には食材の入った袋、左手には水の入った水桶を抱え、お手伝いをしている途中といった姿だ。
「その感じだと手痛くやられたようだな、反省してるなら別にいいよ、村人は無事か?」
「はい!怪我1つしておりません、今はリル殿の家で厄介になっております!」
「そうか、どうだ?村人達は強かっただろう?」
「それはもう、手も足も出ませんでした…もしかしてレン様ですか?」
「そうだ、俺はレンだ、よろしくな、こいつら2人を絆してきたぞ」
レイの肩に手を置き、マリーの襟を掴んでフキノの前に突き出すレン、猫のようにぐでっとなっている。
「マリル様…あなたもレン様の手にかかると、そのようになってしまわれるのですね」
「まぁ喧嘩を売った相手が悪かったな、いや、むしろ良かったか?俺じゃなかったら皆殺しだったしな、これからは仲良くしようぜ?」
「はい!宜しくお願いします!」
「おう、マリーも戻ってこい、本来のお前を見せてやれよ、もう自分を偽るな」
「う、うん、分かったよ兄様、フキノ…」
「マリル様…」
「今まで辛く当たってしまってごめん、いっぱい任務をこなしてくれたのに、ありがとうの一つも言ってあげてない、こんな私だが、またついてきてくれるだろうか…」
「マリルさまぁ〜!」
抱き合って泣く2人。
「積もる話もあるだろうし、しばらく2人だけにしてあげよう、俺たちは村長宅に行こうぜ、この村は案内するような所が、この広場くらいしかないんだよ」
「そうだね、じゃあ行こうかレン兄ちゃん」
レン、レイ、デイルの3人は、泣き崩れている2人を置いて、村の景色を楽しみながら、ゆっくり歩いて村長宅まで向かうのだった。




