51話 恐怖支配の理由
あれから…この場じゃ落ち着かないって事で、バーレルの執務室に、レン、バーレル、マリルの3人で移動して話す事になった。
カリオールは、もう大丈夫だろうと村人の拘束を解きに、セイスは先程のメイドが腕を引っ張って連れて行った。
「最初に俺の名前はレンだ、さっきのは偽名な、それで?お前はなんで中央に従って、この北の地を恐怖で支配してるんだよ」
「だってぇ、そうすれば強いやつが出てくるって言うんだも〜ん」
「も〜んて、お前、そのキャラは作ったんじゃなかったのかよ…」
「うん、僕はこのままだよ」
「そうかよ」
何でも中央に仕えている、ルードとかいうじじいが吹き込んだらしい。
それで、王になりたてのバーレルが、強い部下を欲していたとき、じじいに吹き込まれ、ダスト村を作り、そこだけではなく、それ以外の村や町々も軽めに恐怖で支配していたということだ。
「お前なぁ、それは真に受けすぎだろう」
「だ、だって!物語でも勇者とかはそうじゃないか!…だから…」
「はいはい分かったから、そんなに落ち込むなよ、部下にはなれないけど、友達にはなってやるから、な?」
「本当!?」
「ああ、マリルもいいだろこれで?」
「ああ、私は別に何でも構わん」
「今更そんな寡黙キャラ気取っても遅いからな?」
「いいじゃないか!少しでも大人に見られたいんだ!」
目をバッテンにして必死に抗議するマリル。
話してみると普通なんだな、可愛い奴らじゃないか。
「でも…」
「ん?なんだ?」
「僕たちいっぱい悪いことしたよ?人も殺したし…」
「私もだ…仕事柄、私のほうが多くの人を殺している、それも、なんの罪もない人々を」
そうか、でもこんな世界なんだ、地球とは命の重さが違う、殺された人には申し訳ないが、それが運命だったんだよ、しょうがないだろう。
ヘスティアと出会い、運命や輪廻の話を聞いて、少し考えが神様寄りになっているレン。
「だから?」
「「え?」」
「だからどうしたんだ?」
「いや、人殺し…」
「この世界においてそれは法律上悪い事なのか?」
「いや、僕たちが法律みたいなものだから、悪くはないんだけど…」
「じゃあいいじゃないか、殺された人達には悪いが、それが運命だったんだよ、もちろん地球だったら絶対駄目だけどな」
また鼻くそのことを思いだし、体から怒りが溢れ出すレン。
「こ、怖いよぉ、威圧やめて、やっぱり怒ってるじゃないか〜」
「あ、すまんすまん、そうじゃない、ある人物を思い出して我慢できなくなっただけだ、とりあえず、お前らはもう悪いことはもちろん、無駄な殺生もしないだろ?やってしまったものはしょうがないんだ、その代わり一生償い続けろ、別に何かしろって訳じゃない、覚えてろ、絶対に忘れるなよ」
「「分かった」」
「よし、それでいい」
2人の頭を撫でて褒めてあげるレン
「ところでレン兄ちゃんも地球で死んでここ来たの?」
「いや兄ちゃんて、お前のほうが年上だろうが」
「いいの!頭撫でてくれたじゃん!僕のほうが見た目が年下だし、年も取らないし」
「マリル、どうにかしてくれないか?」
「いえ、私もレン兄様と呼ばせてもらおうと考えていた、頭撫でてくれたし」
2人揃ってどんだけ愛に飢えてるんだよ…まあ懐いてくれてるんだし、まぁいいか、それにしても死んで…か、なんか違和感あるなぁ。
「お前らは地球で死んだんだのか?」
「高校生の時の修学旅行中にね〜、23年前だよ〜」
「バスが事故を起こしてな」
「西暦は?」
「2022年…だったかな?」
「はぁ?俺がここに来る2年前じゃないか…」
「よくある設定じゃない?そう…」
「「テンプレ!」」
「バーレル、レン兄様…あんたら仲いいな…」
少し拗ね気味のマリル、レンは話を変えるため、自分が転移させられた時の話をし始める。
「俺は、とあるじじいにこの世界に連れてこられてな…」
2人に詳しく説明する。
「「ぐすん」」
2人とも泣いていた。
「絶対ルードだなそれは」
「マリルもそう思った?」
「ああ、間違いないだろ」
「ルード?」
「さっき説明したでしょ?強い者は追い込めば出てくるって、僕に吹き込んだやつ」
「あぁ…ああ!そいつか!とうとう尻尾を掴んだぞ、絶対ぶっ殺してやる!」
「あ、溢れてる溢れてるよ〜」
「兄様のほうが絶対王様に向いてるよな」
「やめてくれ、俺は王って柄じゃない」
「そんな事言ったら僕のほうが王様に向いてないよ〜、王様やらない?」
「ヤダ」
「駄目かぁ、レン兄ちゃん見てたら、僕も自由に生きたくなってきちゃったなぁ、なんか息が詰まるんだよね、王様って」
「恐怖政治なんかやってるからそんなふうになるんだよ、中央に洗脳でもされてたんじゃないか?」
「「…」」
「お、おい、まさか…」
「「ありえるかも…」」
マジかぁ〜、そういえば…意識誘導的な感じの事やってたよなぁ、俺もそうだったし、母さんとかも…もしかして、会社のうんこタレ共も?
シンたちは…いや無いな、奴らは扱いが違う、眷属だし、しかもエリーが『集合のさせかたはちょっと強引だったけどね〜』とか言っていた…意識誘導の何かを知っているな。
「兄様、定期的にルードがこの城に来るんだ、怪しくないか?」
「確かにそうだね〜、気付いたら来てるよね」
「なんだと?」
おいおい、それじゃ他の王たちも怪しくなってくるじゃないか…この世界は、中央のファーニックが各王達を指名して、好き勝手支配させている、なんて言ってたけど、実は鼻くそが裏から操って全体を支配してるんじゃないだろうな。
「他の王達も意識を誘導か、もしくは精神を支配されてないか?」
「可能性はあるかもね〜、他の土地は行ったことないから、どんな治め方をしてるか分かんないんだ〜」
「そうか、その辺りは俺が旅をして確認してくるしかないなぁ」
「いいな〜羨ましい」
「私も行きたい…」
「同じくらいの実力者なんだから、お前ら2人とも王様になって、一人ずつ交互にやれば?その辺りは自由なんだろ?」
「それいいね〜♪ねっ、マリル」
「ヤダ」
「ぐすん」
「ははは、それじゃあしょうがないな、頑張れよ北王様」
「むぅぅ」
なんかこいつカノンっぽいんだよなぁ、身長は俺よりちょっと低いだけなんだけど、性格か?顔は普通にイケメンだが、少しだけ可愛い系なんだよ、少しやんちゃなカノンって感じだ。
「とりあえず息抜きにダスト村に視察でも来るか?あそこは俺監修だからな、変わったぞ?村人も全員強くなった、強い部下が欲しいなら参考にしろよ」
「あ…」
「どうした?」
「マリルどうしたの〜?」
「ごめん兄様!」
急に土下座をするマリル。
「その村には私が、部下を襲撃に向かわせたんだ」
次にバーレルも土下座する。
「違う!レン兄ちゃん!向かわせたのは僕だよ!」
「どんなやつだ?どんな能力を持っている?全て嘘偽りなく話せ」
「「!!」」
急に無表情になって聞いてくるレンに、恐怖で固まる2人。
「わ、私から説明する…送り込んだのは私の部隊、漆桶の副隊長、フキノだ…」
影に潜って移動する能力を使い、影の弾丸を飛ばし、それなりに体術も嗜んでいる、それらを駆使して、数々の暗殺を成功させてきたのだとか、魔力量も結構優秀、さらに、影の中に1週間くらいなら平気で潜っていられる精神の高さを持っているとか。
待ち伏せ、尾行、監視、暗殺、かなり応用範囲の拾いやつだな…しかし。
レンは詳しく説明を聞いた結果。
「それなら大丈夫だな、俺の部下のほうが全然強いよ、部下ではなく仲間だがな」
「さすがは兄様、おみそれした、ではバーレルとともに村に向かい、フキノの遺体を回収したいと思う、あれも家族がいないからな、弔ってやらねば…」
「わかった、死体があればになるが、回収は許可するよ」
「ありがとう…」
「僕からもありがとう」
リルなら撃退出来るはずだが、少しだけ心配になるな、俺もずいぶんあの村に情が移ったものだ…これなら故郷と呼んでも差し支えないだろ。
「さて、これからどうする?バーレルは…なぁ、この名前はどうにかならないか?本名あるだろ、お前バーレルっぽく無くて呼びづらいんだよ」
「うっ」
胸を押さえて苦しむバーレル。
「だから私が20年前に恥ずかしいと言ったではないか、言うことを聞かないからこうなるんだ」
「まぁまぁマリル、その頃は本当に高校生だったんだ、はしゃぐのも分かるんだよ、男とはそういう生き物なんだ、そんな責めないでやってくれ」
「うぅぅ…」
余計に傷が疼くバーレルであった。
バーレルの本名は【怜】だった、マリルは普通に【真理】、なかなか口を割らないレイを、レンが暗闇で包んだり、水攻めしたり、火で囲んだりして口を割らせた、どうやら女の子っぽくて嫌だったらしい。
男の子だねぇ。
「いいじゃないか、お前レイっぽいぞ、マリルも少しだけ言いづらいからマリーでよくないか?」
「私は何でもいいんだ、たまたま仲間にデイルっていうやつがいたからマリルにしただけだしな」
「よし、じゃあお前は今日からマリーな」
「承知したよ兄様」
「お前は…」
泣きそうな目でレンを見つめるレイ、体を少し斜めにして、胸あたりの服をギュッと握っている。
そんなだからお前はレイなんだよ…
「やっぱりレイだな」
「いーやーだー!そんなの女の子の名前だよぅ」
「いいじゃないか、俺の名前と似てて、まるで本当の兄弟だぞ」
「え…ほんとだ…いい、かも…」
クククッ…馬鹿なやつだぜ。
「よし!とりあえず呼び名はこれでいいとして、視察、来るのか?来ないのか?」
「「行く!」」
「分かった、王様だし準備もあるだろ、ブルームっていう宿で寝泊まりしてるから、準備終わったら連絡を寄越すか、直接来てくれ」
「うん!」
「了解だ」
話し合いが終わり解散する、その後リスクリワードを使い、メイドに揉みくちゃにされていたセイスを回収して、城を出ていった。




