50話 バーレル・ディ・オーソロン
この世界の開拓者組合、その現実を体感し、呆れて宿に帰ってきたレン、まだ暗くはなってないが早めに休むことにした。
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「ふわぁ〜、正直ダスト村のベッドのほうが数段寝心地が上だな…しかし腹減った…」
そう言えば昨日は、昼も夜も何も食べてなかった事を思い出し、腹が鳴る。
さて、とうとう今日は北王様とご対面だな、ちょっと楽しみだ。
コンッコンッ
「レン様、おはようございます」
「カリオールか、入っていいぞ〜」
ガチャ…
「失礼します」
「ああ、おはようカリオール」
「朝食の準備が整っておりますが、いかがなされますか?」
「お前、なんか執事みたいだな…うむ、いただこう」
「かしこまりました」
嬉しそうな顔しやがって…
着替えて食堂へ行き、宿が用意してくれた料理を食べる…
う〜ん、美味しいんだが、フローラの料理ほどじゃあないな。
不味くないだけマシかと腹に詰め込み、その後はカリオールから今日の予定を聞いていく。
「特に予定に変更はございません、私がレン様とセイス殿を北王に会わせて、その後は成り行きという事で」
「村人10人は?」
「途中で洗脳が解けて逃げ出しそうになったので、宿で拘束している、セイス殿と話をさせると計画がバレてしまうので、そのまま宿に置いてきた、と報告します」
「分かった、何かあったらすぐ逃げられるしな、そのほうがいいか」
「確認が入るかもしれないので、村人達には断りを入れて、本当に拘束具を付けていただいております」
「用意周到だな、出発前に俺も一言謝っておくよ」
「そうしていただけると助かります」
「じゃあ、行くか!」
「はっ!」
村人達にもう少しの辛抱だと声を掛け、セイスを叩き起こし、オーソロン城に向けて歩いて行く。
―――――
でけぇ〜、さすがにお城ともなると大きさの規模が違うなぁ。
城の前までやってきたレン達3人、初めて見る城にセイスもレンもおのぼりさん状態だ。
「門番に話をしてきました、さぁ、こちらへ」
「ああ」
「緊張するなぁ」
「セイスも始めてなのか?」
「ああ、オーソロンに来るのも初めてだよ」
「そうなのか、迷子にならないようにしような」
「レン殿には技能があるだろ」
あ、そうだった、リスクリワード…なんで開拓者組合に行くとき、わざわざ人に道を聞いてるんだよ俺は…まぁでもそのおかげでサンドラという逸材を見つけられたからいいけども、これがとってつけたようなご都合展開というものだろう。
「王の前では、少しの間失礼な態度を取りますので、ご了承ください」
「いいぞ、なんならいつも失礼な態度でもいいくらいだ」
「はは、お戯れを」
本当なんだがなぁ。
小声で話をしながら、カリオールの後ろについて行く、もうすでに何回も道を曲がっており、レンとセイスは、技能無しには絶対に1人では戻れないと確信していた。
しばらくすると、とある部屋の前で立ち止まる。
「しばらくこの部屋でお待ち下さい、王に伝えて参ります」
やけに小声でそう言うカリオール。
「分かった、気をつけろよ」
「はっ」
コツコツコツとしばらく足音が響いていたが、やがて聞こえなくなった。
どんだけでけぇんだよこの城は。
部屋に入ると、質の良いテーブルとソファがあり、扉横にはメイドが待機していた。
なるほど、だから最後小声だったのか。
「ようこそおいでくださいました、セイス様…と、え〜と?」
「ああそうか、俺は予定外だったよな、俺はレインだ、よろしく」
「レイン様ですね?承知いたしました、ではお茶を用意いたしますので、そちらを食べながらお待ち下さい」
テーブルの上にはクッキーと思わしき焼き菓子が置いてある。
リスクリワード 【100】
「毒とかはなさそうだな、いただくか」
「分かるのか?」
「ああ、例の方向を知る技能でな、食べられるかどうかも分かるんだよ、それで草ばっかり食ってた訳だな」
「そうか、その技能には助けられたんだな」
「ああ、相棒だ」
「ははは」
コンッコンッ、ガチャ…
「失礼いたします、お茶をお入れしました」
「早っ!まだお菓子1個も食べてないぞ」
「メイドの嗜みです」
「メイドの範疇超えてない?」
「ふふふふ」
この世界の女の人、怖い人多くない?
「このお茶美味しい、ホッとする」
「俺もいただこう」
レンが飲めば大丈夫だと分かったセイスは、あとに続いて飲み始める。
このクッキーもなかなかいけるなぁ、やっぱり調味料か…ふんだくれるかなぁ。
「今回はなぜお二人になったのでしょうか?」
メイドが聞いてきた。
「ああ、ここに強化育成しに来てた村人達を、カリオール様が連れてきてな、そいつらが必死になって強くなれると言うものだから、俺も行きたいって志願したんだよ、まぁ美味しいご飯を食べられるって方にも興味を惹かれたけどな、9割くらい」
「おい、ほとんど食い気じゃないか」
「そうか?」
「「ははははは」」
できるだけボロは出さないようにレンがメインで話すことになっていた。
「ふふふ、仲がよろしいのですね」
「そうだな、狩りの最中に迷子になっちゃってな、このセイス殿に助けられたんだよ」
「いやいや、その時は俺も迷子になってたんだと言っただろ?レイン殿」
「なるほど、そのようなことが…」
こいつ、探ってんな?気をつけないと…
「そして、セイス殿に案内されて、初めてダスト村に行ったんだ」
「俺も迷子になってたからな、レイン殿の技能がなかったら飢え死にしてたよ」
「どんな能力かお聞きしても?」
「ああ、その食材を食べても大丈夫かどうかを知る能力だ」
「それは…凄く便利な能力ですね」
メイドはこのとき、毒を盛る指示をされていなくて良かったと安堵した。
そんなメイドの、感情の機微に目敏く気付いたレン。
「大丈夫、お茶とお菓子には能力は使ってないよ」
「そう、なのですか?」
「北王様を疑うようなことはしないさ」
「そうだな、俺も何も気にしないで食ってたよ」
「セイス殿は頭が…いややめておこう」
「おいレイン殿、今のはどういう意味だ?」
「ま、まぁとにかく大丈夫ですよお二人とも、毒なんて入れてませんから」
「うん、分かってる、それでね、今知った通り俺の能力は戦闘には役に立たない、俺は強くないんだ、だからせめてセイス殿の役に立つくらいには強くなりたいんだよ」
「それは素晴らしい考えだと思います」
しばらくそうしてメイドと話していると。
コンッ、コンッ
「私だ」
カリオールの声だ。
声を聞いたメイドが扉を開ける。
「セイス、レイン、北王様の準備が整った、行くぞ」
「「はい」」
「いってらっしゃいませ」
すっと立ち上がり部屋を出て行く二人、それをメイドが深く頭を下げ見送る。
―――――
「メイ、どうだった?」
「はっ、マリル様、特に違和感はございませんでした」
「そうか、でもおかしいんだよな、副隊長が帰ってこないし、何かあるとは思うのだが…どうしよう、2人の見た目は?」
「セイスは赤髪、レインは黒髪でした、どちらもイケメンです!」
「メイ…気合い入っているな、面食いもほどほどにしておけよ?まぁいい、黒髪ねぇ、この世界では珍しいんだよな、昨日開拓者組合で暴れた者がいると、ヨミから報告も上がってたけど、どうやらその者も黒髪だったらしいんだよな、しまったな、もっと詳しく話を聞いておけばよかったか…」
そう言いながらマリルは、顎に人差し指を当てながら、首を傾げて、その場からスッと消えた。
「…やっぱりマリル様のほうが恐いわね、さっきの2人はそこまで強そうな気配は無かった…はず」
―――――
この城の中でもひときわ大きく、立派な扉の前に3人は立っていた、謁見の間だ。
「セイス、お前はとにかく自分の身を守ることに集中してろ、間違っても俺を庇うような真似はするなよ?」
「ああ分かってる、そこまで俺は自惚れてない…今はな」
「よし、それでいい」
「お二人とも、行きますよ?」
ひそひそ声で最終確認をして、とうとう北王とのご対面である。
ゴンッゴンッゴンッ…
カリオールがノックをする、大きな扉だけあって重厚な音が鳴り響いた。
「北王様!ダスト村より、村長の息子セイス、あともう1名、強くなりたいと志願している者、レインを連れて参りました!」
「入っていいよ〜」
なんだか緩い返事だな…今のが北王の声か?普通は俺たちが入ったあと、遅れて謁見の間に入ってくるんじゃないのか?この世界にはそんな様式はないのか。
ギィーー
やけに静かだし、扉もでかいから、開くだけでもやたら長く感じるな、なんかこう儀式めいてる感じがする。
やがて扉が開き切り、3人はゆっくり部屋の中に入っていく…
あれが北王か、なるほど確かに若い、見た目は高校生くらいか?話を聞いただけでも20年はこの地を治めているはずだ、灰色の髪だが…顔つきが日本人特有のそれだ、渡り人ほぼ確定だな。
あ、自分は黒髪のままだったよ、忘れてた…迂闊だった〜
カリオールがレンに跪いた時のような格好で片膝をついたので、レンとセイスもそれに倣う。
「いいよ〜、おもてをあげよ〜」
こいつは、王様を楽しんでんなぁ。
「取り敢えず黒髪の方、レイン、だっけ?」
「はい」
「君、渡り人?」
「おい!バーレル!」
おいおい…いきなりぶっこんできたよ、俺から見て右後ろに立ってるちっこいのが騒いでいたが、髪は少し緑のメッシュが入っているが、ほぼ黒髪だし、あいつも同郷だろ。
ふふふふ…それにしても、よほど自身があるらしい、お前がそう来るなら予定変更だ、強気でいくぞ。
「ああ、そうだ、お前もだろ?」
「レ、イン、様?」
カリオールが小声で焦りを示す。
カリオール、お前はあっちの、ちっこいやつポジだな。
「おお?口調が変わったねぇ、計画失敗?」
「いや、失敗ではないな、計画変更だ」
「なるほどなるほど♪面白いね君、僕の部下になってくれない?」
「この世界に毒されすぎだ、なんだよ部下って、なに気取りなんだお前は、それに強者優勢の世界なんだろ?なんで自分より弱いやつに仕えなければならない?友達だったら考えてやる」
「おお…強気だねぇ、たまにいるんだよそういう渡り人が…ま、全員殺したけど」
「ふ〜ん、で?俺も殺す?お前みたいな、この世界に染まった厨二病患者が俺に勝てるのか?」
「ち、厨二病じゃないよっ!」
顔を真っ赤にして怒鳴ってきた。
フリだな、まだ全然怒ってないだろあれ。
「いや、厨二病だろ」
「!?」
瞬光を使い、バーレルの真横に瞬間移動し、声を掛け、元の位置に戻った。
「どうした?なにか幻聴でも聞こえたか?北王様?」
ニヤけ顔でさらに煽る。
「…マリル、見えた?」
「い、いや、見えなかった…」
はぁ、こんなもんか…ミリーでも楽勝だったかもな、仮にこいつが英雄級だったなら、俺はどのくらいなんだ?
「それで?どうするんだ?友達になるの?ならないの?」
「う、うるさい!少し黙ってろ!」
「おお、化けの皮が剥がれるの早くないか?いつもニコニコ強キャラ設定が崩れてるぞ?」
「う、うるさいうるさい!マリルやれ!」
「うむ!」
フッ
景色に溶け込むようにマリルが消える。
あれは移動じゃないな、気配を極限まで小さくしたってところか?明らかに消え方が不自然だろ、輪郭がぼや〜っと溶けるように消えたぞ、詰めが甘いなぁ、もし移動の技だったらあんな消え方しないだろ。
レンは感覚を研ぎ澄ます、風魔法を使い、周囲の空気と感覚を同期させた。
気配を消しただけで、本体はそこにいるから丸わかりだな、俺やミリーのような光だったら風では捉えられなかったが、な!
シュッ、ベチ!
「いたぁ!」
マリルの横に移動、頭を引っぱたいた。
「お前は、マリルって言ったか?命は大事にしろよ、相手との実力差くらい掴めるようになれ、あの厨二病に従いすぎだろ、それなりに強いんだから、自由に生きたいとは思わんのか?人を支配する人生なんてつまんねぇだろ」
「だ、たってぇ」
「だっても、へったくれもありません!」
ペチーンッ!
「ひゃあ!」
今度はケツを引っぱたいた、いい音が響く。
「さて?お前はどうする?別に俺はお前に、何も恨みも無いんだ、ダスト村に手を出さなきゃ大人しく帰ってやるぞ?」
バーレルは恐れ慄いていた、自分と実力が五分五分のマリルをまるで子供扱い、絶対に勝てるわけがないと。
「う」
「う?」
「うわぁ〜ん!」
「「お前が泣くのかよ!」」
マリルとツッコミが被った。




