48話 王都観光で思わぬ拾い者
おお〜凄いな、さすがは王都、人がいっぱいだ。
王都オーソロン内の道を目立つ集団が歩いている、明らかに貧しそうな服を着ている者たちと、その後ろを歩く騎士たち、先頭はフォースのカリオールだ。
それなりに顔が知れているのだろう、たまにカリオール様、という声が聞こえてくる。
ここでは意外と有名なんだな、まぁこいつ、顔だけはいいからな。
「お前、なかなかに有名人じゃないか」
「はい、これでもこの王都でフォースをやらせて頂いておりましたので」
「フォース?」
「あ、はい、バーレル直属の部下たちに与えられる、階級みたいなものですね」
「ふ〜ん、オーソロン独自なの?それともこの世界の基準みたいなものなのか?」
「ここ、オーソロン独自の階級制度です」
何でもバーレルが王になってすぐの頃に出来た階級制度なのだとか、全部で6階級で、シクスから始まり最上位はファースト。
ファーストからシクスまでかぁ、安直っちゃ安直だが、分かり易くていいのかも知れないな。
「階級も、元々は違う名だったのです」
「なんていうんだ?」
「ファーストは第1星、セカンドは第2星…といった具合です」
せい…星か?この世界には星がないのに?やはり渡り人なんじゃないのか?
「“せい”って星か?」
「ほし?」
やっぱりかぁ、確定だろこれ、途中で、あ、この世界星ないじゃんって気づいて、恥ずかしくなったか?
「王はどんなやつなんだ?」
「はっ、見た目の年は15〜18歳、ですがこの20年間歳を取っておりません、性格は見た目の通りのゆるい性格ですが、なにかこう…得体のしれない怖さを感じます」
「なるほど…」
ふむふむ、そういうキャラ設定なのか、やりづれぇなぁ、基本何事にも動じないようなふりして、いつもニヤニヤ笑って、でも目は笑ってない、気に食わないことがあると急に真顔になって『なんで?俺の言うこと聞けないの?』って感じなんだろ?
「まあ、バーレルの対応は会ってから考えるか、今日はこれから会いに行くのか?」
「いえ、少し休んでから、明日辺りにと考えておりましたが、どういたしますか?」
「宿か?俺は金持ってないぞ?」
「その辺りは大丈夫です」
「分かった、任せる」
カリオールに案内され、豪華な宿にチェックインしたレン達、部屋の様子をチラッと確認して、後は自由行動だ。
さて、観光でもするかなぁ、開拓者組合でも見てみるか?
周りをキョロキョロしながら歩くレン、その辺を歩いている人に声を掛けてみる。
「ちょっといいか?」
「なんだお前?汚らしい格好しやがって、気安く声かけんじゃねぇ」
「え…」
男はスタスタと足早に去っていった。
えぇぇ、これ、汚らしいの?確かに少し地味だが…普通だと思うのだが…相手に期待なんかしてないからな、腹は立たんが、まぁいいか、さっきのおっさんは心に余裕がないんだろ。
その後何人かに声を掛けたが、どれも対応は似たりよったりで、なかなか組合にたどり着けないレン、ふと視界に他の店とは雰囲気が違う、少し寂れた建物が目に入る、店先に色々な物がポツポツと置いてあるので雑貨屋のようだ、お店の人になら逃げられないだろうと、その寂れた建物に入っていった。
「いらっしゃいませ、汚い店でごめんなさいね、何かお探しですか?」
人の良さそうなおばさんだな、1人で切り盛りしてるのか?なんか雰囲気が暗いぞ…
猫背でボサボサの髪、白髪交じりの赤髪だ、頬は痩けていていかにも苦労していそうな顔、着ている服もダスト村の住民と変わらないような地味なもので、つけているエプロンは所々ほつれている、ニコニコしてはいるが、少し悲しそうにも見える表情だ。
「すまない…買い物ではないんだ、少し道を尋ねたい」
「あら、そうでしたか、どちらに行かれたいので?」
「開拓者組合がどこにあるか知りたいのだが」
「ああそれなら…」
特に不満も抱かずに教えてくれる、普通の対応なのだろうが、レンは他の人達に、全くと言っていいほど取り合ってもらえなかった為か、ここオーソロンに限っては、逆に不自然に感じていた。
「ありがとう、助かったよ」
「いえいえ、困ったら助け合いですからね…」
気になったレンは、暗い雰囲気の理由を聞こうと思った。
「なぁ、あんたは助けられているのか?」
「え…いえ、特に助けてもらえてはいない、ですね」
「そうか、何か助けてほしいことがあるんじゃないか?」
「…」
あるに決まってるんだがな、他人に迷惑を掛けたくないんだろうな…優しい婆さんだ。
「力になれるかは分からない、でも気になるんだ、相談だけでもしてみないか?俺はこう見えて強いんだ、大抵の事は…言い方は悪いが暴力で解決できる」
「いえいえっ、そんな申し訳ないですよ、見ず知らずの方にご迷惑をかけるなんて…」
「その困り事は、話を聞くだけで迷惑をかけるレベルなのか?」
「いえ、そのような事は…」
「じゃあいいじゃないか、俺は暇なんだ、組合にも暇つぶしで行きたいと思ってるだけなんだよ、話し相手になってくれないか?」
「そ、そうですか、分かりました、お話だけでも…」
ポツポツと話し出すおばさん、名前はサンドラ、1年前に旦那を亡くし、1人でこの店を切り盛りしている、お店はサンドラの趣味で本人の手芸品や工作品だ、そんなに儲かってはいなかったが、旦那がそれなりに強い開拓者で、そちらの稼ぎメインで生活していた。
「毎日笑い合って楽しかったのですが、夫が死んでからは…夫の狩ってくる魔物素材を元に魔道具なんかを作っていましたので、ここ最近は素材も劣化してしまって…正直、私の趣味だけで稼ぐのはなかなか大変になってしまいまして…」
「子供は、いないのか?」
「息子が1人、いるにはいるのですが、あまり頭のできの良い子ではないのです…北王様からの仕官命令で、喜んで出ていってから10年間、一度も帰って来てません」
「それは…北王が帰してくれないのか?」
「いえ、バカ息子が帰ってこないだけです、他の家庭の士官者は少なくとも年に数回は帰ってきてますので…」
「それはなんとも…もう家族とは思えないな…」
「ええ、夫も亡くして、息子も帰ってこない、お店の稼ぎもなく、毎日食べるだけで精一杯、魔物なんか狩れませんし、そろそろこのお店も畳んで、私も人生を終わらせようかと思っていたところなのです」
ヤバい…泣きそう…自分の母さんと被ってしまう…頑張れ俺の精神!
「魔道具、と言ったな、俺は魔道具に詳しくないんだ、軽く教えてくれないか?」
「はい、魔物の核を材料にして、私が魔力を込めて作った動力源で動く、おもちゃみたいなものですね、はは…」
サンドラはそう言うと、おもむろにカウンターの隅に置いてある箱を手に取り、開く。
〜♪〜〜♪
「お、おいこれ、まさかオルゴールか!?」
「ご存知でしたか」
「これはあんたが?」
「はい、息子が出ていくときに渡そうと、一から全て私が作った物です、そんな物は魔物狩りになんの役にも立たないと、突き返されましたが」
「おいおい、って事は10年も前に作ったって事じゃないか、普通に動いてるぞ!」
「そう、ですね?」
「サンドラ、店を畳め、そして最北の村に来い、どうせ人生を終わらせようとしていたんだろ?その人生、俺に売ってくれ」
「えぇ、まさか、プロポーズ…」
少し顔を赤らめ冗談を言うサンドラ。
「おい、勘弁してくれ、あんたみたいな人が言う冗談じゃないだろ、反応に困ること言わないでくれ、迷惑を掛けないと言ったじゃないか、でも少し明るくなったな、少し未来に光が差したか?」
「ええ、少しだけですが、こんないい男性のお誘いですもの、断れないわねぇ」
この人、頬が痩けていて、見た目はおばさんなんだけど、多分良いもの食って元に戻れば、かなり綺麗だと思うんだよな…そうなると普通に許容範囲になるから冗談は本当にやめてほしい、少し喋り方もあの人に近いし。
テラーの顔が頭によぎるレンであった。
「では、交渉は成立でいいか?あと、喋り方は崩したままでいいぞ、これからは仲間だ」
「はい…ええ…そうね、分かったわ、よろしくね」
「うむ、それで?お店ってどう畳むんだ?」
「さあ?わからないわねぇ」
「じゃあこのままにして出ていくか?こちらはすぐにでも案内出来るから」
「そうねぇ、でもこの子達はどうしようかしら…」
やはり自分が作った作品だ、売れなかったとしても捨てたくはないんだろうな。
「ここに入れろ」
突然空中に穴が開く、真っ黒で縁がモヤモヤしている、影が浮いているようだ、なんとレンは聖堂で1回収納を見てから、カリオールが戻って来るまでの5日の間にオリジナルの収納を習得していた。
リスクリターンで貯蓄は0になっちまったけどな…頭痛もひどかった…たぶん貯蓄をもっと捧げれば、痛みは抑えられると思う、北王事変が片付いたら魔物狩りだな。
「これ、は?」
「収納だ」
「…」
「おい」
「…」
「おーい、サンドラ!」
「え!えぇ、何かしら?」
「目がイっちゃってたぞ、大丈夫か?」
「少しだけ…いやかなり驚いてしまって、ごめんなさいね」
「なんとなく気持ちは察するけど、とりあえず店の物、あと必要な物全部入れてしまってくれ」
「えぇ分かったわ」
レンも手伝い、ポイポイと収納して数分後、綺麗に片付いて何もなくなった店内を見て、少し寂しそうな表情のサンドラ。
そうだよな、思い出が詰まってるんだ、旦那の事でも思い出しているんだろう。
「もう大丈夫よ」
「よし、なら行くか」
「よろしくお願いします」
「任せておけ、不幸な思いはさせないさ」
「フフフ…」
いや、テラー…
お店の入り口で振り返り、お店に向かって深々とお辞儀をするサンドラ、レンも隣で黙礼をして、絶対に不幸にはしないと、亡くなった旦那と自分の心に誓う。
その後サンドラを宿まで案内し、カリオールを紹介する。
コンッコンッ
「誰だ」
「俺だよ」
ダダダダッ、ガチャ!
「お帰りなさいませ、レン様」
片膝を床について挨拶をするカリオール、相変わらずお硬い性格だ。
「おい、こんな所でやめろ、普通に話せ」
「はっ、かしこまりました」
「お前達に紹介する、サンドラ、こいつはカリオールだ、カリオール、この人はサンドラだ、新しくダスト村に来てもらうことになった魔道具職人だ」
「「え?」」
お互い初耳で返事が被った。
「ちょ、ちょっとレンさん?魔道具職人って…」
「さすがはレン様、こんなにも早く敬虔なる信者を1人見つけ出すとは」
カリオールよ、俺がそんな恥ずかしい事するわけないだろう、どうせ言っても聞かないから放っておくけど。
「サンドラ、ダスト村は今、お金のやり取りがほぼ無い、皆助け合いで生活しているんだよ」
「そうなのね…」
「ああ、だから衣食住は心配するな、サンドラは趣味の魔道具をいっぱい作って、村の皆に与えて欲しい、村人達を笑顔にしてやってくれ」
「わ、分かったわ、頑張るわね」
「よしカリオール、頼みがある」
「はっ!」
「部下数名でサンドラを護衛して、ダストの村長に会わせに行ってやってくれ」
「了解!」
「丁重に扱えよ?村でたった一人の魔道具職人だ、怪我なんかさせたら…」
「分かっております、その時はこの命をもって清算したいと思います!」
「よし、ならば頼んだ、あと村長にはとりあえず理由は後で話すから面倒見てやれと伝えろ」
「はっ!」
「レンさんはいったい何者なの?…少し怖くなってきちゃったわ」
「はははっ、それは村に行けば嫌でも分かると思うよ」
「そう?じゃあ楽しみにしておくわね」
部下が2名やってきて、賓客をもてなすような扱いでサンドラを連れて行った。




