47話 激闘!闇使い対決
レンがオーソロンへ出発してから少し経った頃、村長宅では家族会議が開かれていた。
「レン様は襲撃があるかもしれないと言っていたが、どう思うかの?」
「どうかしら、分からないわねぇ、あなたはどう思ってるの?」
「儂はあると思うとる、そしてレン様は、儂らなら撃退出来ると信じてくれたのじゃ」
「そうね…フローラは?」
「わたしは頭良くないけど、それでも何か違和感を感じる、必ず何かがあると思うんだが…」
「1日経つのに何もないのよねぇ」
「南門は昨日、誰も通ってないぞ、何かをしてくるなら、時間が経ち過ぎているような気がするよな…」
リルの意見だ、各属性の代表達も一緒になって会議に参加していた、しかし、会議は進まない、襲撃がある気配が無いのだ、さてどうしたものかと皆悩みだす。
全員忘れていた、この数日間で村がどれほど激変していたのかを。
そして全員知らなかった、その変貌ぶりは、すでに村の範囲を大きく越えてしまっているという事実を。
「予定通り、私が北と南の両門と、聖堂の出入り口に感知魔法を仕掛けておくよ」
これもリルだ、カリオールが戻ってくるまでの間、レンに色々と入れ知恵されて、人一倍鍛錬に励んでいたのだ、黒霧を目に見えないほど細く伸ばして張っておき、触れたりすると気付くようにした、蜘蛛の巣のような効果だ。
「うむ、頼むのじゃ、とりあえず皆は一人にはならないように、皆単独行動は控えて、出来るだけいつものように過ごすのじゃ、リルの感知に掛かるから、聖堂と門の通過はしばらくやめておくようにの」
「了解」
特に何も決まることもなく会議は終了、最後に村長が言っていた事は、レンが出発前に言っていた事だった、全村人達にも伝わっており、皆三々五々集まって行動していた。
―――――
村長宅での家族会議が終わって数時間後…場所はダスト村の北門の先、右は魔物の住む森、左は見渡す限りの焼けた大地、その風景を見て冷や汗をかいているものがいた。
これは…森が焼けて無くなっている、しかも、村の中もそうだったがこの壁はなんだ?本当に村なのか?オーソロンの城壁に匹敵する大きさだぞ…何が起こっている?
バーレル王側近の1人マリル、そのマリル率いる部隊の副隊長、第2星セカンドのフキノ、ショートの黒髪、身長は160弱の標準的な体格、気の強そうなつり目、一見どこにでもいる可愛い女の子だが、黒のタイツにに黒のホットパンツ、トップスもやはり黒、くノ一衣装のような和風の着物だ、腰を赤い帯で縛っていて、口を何故か黒い布で覆っている…全てバーレルが考え着させていた…厨二病全開である。
裏の仕事を請け負うマリル直属の暗部集団、漆桶、その中でも暗殺系の仕事は必ず成功させる凄腕、漆桶のフキノ、人が死ぬことを【不帰】という、カッコいいと思ったバーレルが与えた名、不帰の…厨二病末期である。
自分の趣味を押し付けるバーレルに、少し嫌気が差しているマリルであった。
フキノは北王より、村をカリオールもろとも潰すよう命を受け、バレないよう尾行、カリオールが転移門に入っていき、数十分後にフキノも入っていったが…
「何だここは…こんなにキレイな街は見たことないぞ、本当にここはダストなのか?」
半信半疑のフキノは、しばらく様子をみようと、得意の闇魔法で影に潜み、しばらく村人などの観察をしていた、時より使用する村人たちの魔法レベルの高さに、警戒心を1段階上げて、1日が経過した頃、とりあえず北門の外に出て、村の外も確認しようと移動してきた、突然音もなくバーレルの後ろに現れたりした正体がこれだ、そこで焼けた大地と巨大な城壁を目撃した。
こっちは森、こっちは焼けた土、本当にどうなっている?
「おーい」
これがもし魔物の仕業だとしたら、深層の魔物レベルだぞ…
「おーい!」
もしかしたら最深層の魔物?いや、仮に人間の仕業だとしたら…
「おいぃ!嬢ちゃん!!」
「うわぁぁ!」
「やっと気付いたか、いつの間に門を通った?」
「何者だ!」
「いやそれ、俺のセリフだから」
門番のサンドだった。
「なに?ああ…そうか、お前は門番か」
「ああ、お前が森の方を見て何分も硬直してたから、さすがにどうしたのかと思ってな、お前は…リルの部隊のやつか?なんだ、狩りにでも行くのか?」
「う、うむ、狩りに行こうと思ったのだが、森が無くなってたからちょっと驚いてな」
「何で村に住んでて知らないんだよ」
ふむ、勘違いしているようだな、少し情報を収集するか。
「ここ最近まで体調が悪くて寝込んでたんだ、起きたらこんなふうになってて…」
「ああなるほどな、レン様の魔法を見れなかったのか、それは残念だったな」
「どんな魔法だったんだ?」
「俺も魔法は見たけど現場にいたわけじゃない、話を聞いた所によると、レン様が手の平に黄色い火球を作って、それを飛ばしたら…」
「飛ばしたら?」
「こうなった」
「それだけ!?もしかして一撃で!?」
「ああ、俺も見ていたが一撃だった、一瞬だったよ」
「…そんなことが」
「しかもその後、村を水が包みこんだんだよ、皆が火傷しないようにレン様が張ったんだ」
「火の後は水…」
「そう、その後も凄かった、火の勢いがが弱くなった頃、張った水が一塊になって、中央の広場よりも大きな水球になったと思ったら、それと同じのが何個も現れたんだ、そいつが森目掛けて飛んでいって火を消したって訳だ、な?すげぇだろ?」
「そ、それは人間なの…か?」
「疑わしいよなぁ、何でも神の使いだとか?」
「!?ちょっと用事を思い出した!」
ダッ!
フキノは突然全力で走り出す。
「お、おい!どうしたんだ!?」
この村には何か得たいの知れない何かが…いる!レン様…何者だ?急いで北王様とマリル様に報告しなくては!
門番の前で影移動を使うのはまずいので、聖堂に向かうために、走って北門から再度ダストに入った…だが。
「止まれ!」
「むっ!な!?なんだお前!それはなんだ!」
フキノは影移動で地面を這ってきたので、感知には引っ掛かっていない、フキノに気付いたサンドが門をくぐり、リルの感知に引っ掛かっていたのだ、異変を感じたリルが急いで駆けつけていた。
駆け付けたとは言うが、実際は黒い蛇みたいなものに跨って浮いていた、飛んできたのだ、腕に貼り付けていた黒霧を実体化させ、移動に使用したのである。
「私はこの村の守護を任命されている闇使い部隊、【影法師】の長、一影のリル!お前も名を名乗れ!」
「わ、私は北王軍、マキノ様率いる暗部部隊、【漆桶】の副隊長、漆桶のフキノだ!」
くそっ!カッコいい名乗りしやがって!
お互いがそう思い合っていた、どうやらこの世界は厨二病患者が多いらしい。
「やはり北王の犬であったか!この曲者め!神妙にお縄につけ!さもなくば私の黒蛇で成敗してくれる!」
「くっ!かっこいいじゃないかお前、残念だ…出会い方がこうじゃなければ良い好敵手になっただろうな」
「え?えへへぇ、そうかな?かっこいい?だよね〜、私も頑張って考えたからなっ♪」
「余裕ぶってられるのは今のうちだけだ、私はこの北の国で、3番目に強…」
バッシャーン!
突然頭の上から大量の水が降ってきて、フキノを押しつぶした。
「おーい、大丈夫かリル!」
空気の読めない男、サンドの登場、雰囲気から敵だと判断し、堀の水を使い攻撃を仕掛けたのだ。
「はぁ、サンド…お前は本当にボンクラだな…」
「な!?なんだよ!助けてやったのに!」
「別に助けてもらうほどピンチにはなってないわ!」
「え?そうだった?」
「はぁ、まぁいいそいつを拘束して…なっ!いない!?」
「うぐっ…」
「サンドッ!」
影移動でサンドの後ろに回り込み、ナイフをサンドの首筋に当てるフキノ。
「びっくりしたぞ、ここは最弱の村じゃないのか?こんな水操作ができるなんて、お前といい、こいつといい、村人達もそうだ、優秀なやつが多いのだな」
「くそっ、油断したか!」
「はははは♪形勢逆転だなぁ、まぁ、最初っから私は窮地になんか陥ってないけどなぁ!」
「そんなびしょ濡れでよく言うよ…」
「う、うるさい!ちょっと暑かったから水くらい浴びてもいいかと思ったんだよ!」
「お前…なんとなくポンコツ臭がするな」
「お互い様だろ!」
「なんだと!このバカ!」
「お前こそバカだ、このバーカ!」
「なんだと〜!」
「「ぐぬぬぬぬっ!」」
バッシャーン!
またも頭上から水。
「ふう、危なかったぁ、レン様に怒られちゃうところだったぜ」
自分もろともフキノに水を掛けたのだ、しかしそこは水魔法使い、自分は少しも濡れていない。
「とりあえずサンド!お前は邪魔だ!人質なんかにされやがって、次捕まったら逆に囮にしてフキノもろともぶっ殺す!この事を村長にでも伝えてこい!」
「いや逆ぅ!そこは俺もろともこいつを殺す、だろ!?しかし、足手まといは事実だから反論できない…分かった、リル!死ぬなよ!」
「ふん、誰が死ぬかよ」
「くっそぉ!何なんだお前らは!邪魔をするな!」
「はぁ?お前は北王からの刺客なんだろ?邪魔するに決まってんだろうが、やっぱりお前のほうが馬鹿じゃないか」
「…」
煽り方がレンっぽくっなっているリル、鍛錬してる時もたまに煽り合いが始まるので、癖になっていたのだ。
無言で睨んでいたフキノだったが、突然地面に沈んで消えた。
「む!?逃がすか!」
ブワッ
「なんだと!?」
「お〜い、なに逃げようとしてんだよ〜」
得意の影移動で聖堂に逃げようと思ったフキノ、しかし、自分の影にリルの黒霧が干渉してきて引っ張り上げられたのだ。
「やっぱり闇使いだったかぁ、これは修行の成果を試すには好都合だ、なっ!」
シューー!
そう言いながらリルは黒蛇から飛び降り、落下しながら左手を突き出す、そこには蜘蛛を象った黒霧が張り付いており、黒い蜘蛛の糸のような物が指先から無数に飛び出しフキノを襲う。
「なっ!?」
シュッシュッシュッ!
フキノはぎょっとしたが、ギリギリ躱した、魔法だけではなく、ちゃんと体術系の訓練もしているのだ。
「さっきから珍妙な、なんなんだそれは!」
「闇魔法、ダークネスだけど?」
「そんな使い方聞いたことないぞ!?」
「そうなの?じゃあ私だけのオリジナルだな…いや、私の部隊も皆使えるな、あとレン様のほうが遥かに扱いが上手い、闇魔法のみの対決で、まだ勝った事ないし、私なんかまだまだだ」
「またレン様か、なんなんだそいつは」
「う~ん、神様?」
「神様!?」
「実際は知らん!いずれ神になるとは言ってたけどな」
ヤバい、この村はヤバいぞ…さっきの門番だってかなりの魔法の使い手だった、正直、影移動がなかったら最初の一撃で終わっていた、こいつからも逃げられない、戦うしかないか。
「影弾」
バンッ
「うお!何だそれ!」
「お前ばかりが闇を実体化できると思うなよ!影弾、影弾、影弾、影弾」
バンバンバンバンッ
ドッドッドッドッ
黒蛇が盾になり、リルを守る。
そして、蛇は小さくなり、リルの腕に戻った。
「はははっ!その蛇、見た目の割に対した固さじゃなかったようだな」
「…」
無言で黒蛇が張り付いた腕をフキノに向ける、そして。
ズバンッ!ドォン!
「!!?!?」
腕から勢いよく伸びた蛇が、フキノの頬をかすめて、後ろの城壁を一部破壊しながら突き抜けていった。
「今のはレン様に一番最初に教わった技で、一番鍛錬した技だ」
後ろを振り向き、その破壊力に目を白黒させているフキノ。
駄目だ、闇であの速度、あの威力、反則だ…私では勝てない、逃げられない…
「はっきり言おう、今のはわざと外した、すでに実体化している黒蛇を伸ばすだけだからな、魔力もほとんど消費しない、いくらでも打てるぞ?」
「ま、参りました」
もともとフキノは影移動という特殊な移動方法と、体術、先程の影弾で数多の暗殺を成功させてきた、影自体に干渉してくる者など一人もいなかったのだ、まさか同じ闇魔法使いが天敵になるなどとは夢にも思っていなかった…
「よし!決着だな」
歯を出して、にひひと笑うリル、フキノは少しだけ羨ましく感じていた、こんなふうに笑ったことが私にはあっただろうかと、全ては自分を拾ってくれた北王様とマリル様の為、人生をかけて、命をかけて尽くしてきたが、本当に自分は幸せだったのだろうかと…




