46話 逆侵攻
拐われた村人達の洗脳を優しく解いて、これまでの事を説明する。
「…という事で今こうなってるわけだな」
レンとセイスの説明を聞いて、感謝の言葉を口にする者、咽び泣く者、素直に喜ぶ者、反応は様々だ。
「さて、どうするか、まずはこいつらを家に帰らせたほうがいいんだろうけど、村…ビフォーアフターしちゃったからなぁ」
「俺が義父さんと、あとできるだけの村人を集めてくるよ」
「そうか?じゃあ頼む」
「私はいかように?」
「カリオールは一旦自宅で待機だ、いちゃいちゃの続きでもしてろ」
「ハ、ハイ…」
セイスとカリオールが部屋を出ていく。
「さて、お前らもゆっくり休みたいだろうから、一旦家に帰って家族を安心させてやれ、もう少しで村人が集まるからそれまで楽にしていろ」
「はい、レン様には助けられました、本当にありがとうございます」
「ああ、感謝は受け取るから、土下座とかはやめてくれ、あと、今日は一旦帰って、悪いんだが明日の朝村長宅に全員集まって欲しい、俺は村長宅にお世話になってるんだ」
「分かりました」
拐われた時の状況なんかを聞きながら、しばらく待つレン達。
「お待たせしたのじゃ!」
外から声が聞こえた、村長の声だ。
玄関の扉を開くと、そこには大勢の村人が押しかけていた。
「あなた!よかったわ〜!」
「父さん、心配かけてごめん」
「お兄ちゃん、無事だったんだね!」
「お母さ〜ん!え〜ん」
それぞれの家族と再会できたみたいだな、良かった。
しかし家族…か…
地球に一人残した母さんは元気にしているだろうか、俺が死んだ事になって泣いているのだろうか、一人息子だったのに、父さんは俺が中学の時に病気で死んだ、母さんを支えられる家族は俺だけだった…ごめん、母さん…
レンは、最後に母親と口喧嘩して出てきた事を思い出し、大きな後悔と、そんな状況に追い込んだ鼻くそへの怒りを再燃させる。
鼻くそ…絶対に許さんぞ、シンの奴らもだ、今回の事で、あいつらは洗脳されてない可能性が高くなった、眷属にはなったが洗脳はされていなかった。
ということは自発的に俺を貶めたって事だ、到底許せるものじゃない!
「決めた、逆侵攻だ!」
「レン殿、どうした?」
「セイス、お前1回北王に捕まれ」
「…は?」
「だから、今回戻ってきた村人達とともに、拐われろ」
「お、おい、何か考えがあるのだろうから俺は別に構わないが…」
「レン様!私達も構いません、貴方様の話を聞きました!」
「俺も構わない、あんたなら北王もぶっ飛ばせる、協力させてくれ!」
「決まりだな」
俺の考えが読めたのだろう、村人たちも協力的だ、ニヤリと悪い顔をするレン。
「カリオールを呼んで来てくれ」
またも妻とのいちゃいちゃを邪魔されたカリオール、少し不機嫌顔だ。
「なんだ?カリオール、お前がこの村でしてきた事が、もう許されたとでも思っているんじゃ無いだろうな?この村に住むのは罰だと言っただろう、事が済むまで自由は無いと思え!」
「は、はいぃっ!」
この村に住むまでが罰だと言っていた事をすっかり忘れているレン、カリオールは、北王よりはマシだと従う事にした。
レンは、その場にいる全員に自分の考えを説明、共有して、それぞれの家族、近所にも話をしておくように頼んだ。
「カリオール、俺と北王ではどちらが強そうだ?」
「間違いなくレン様でございます!北王も強いですが、纏っている雰囲気が全然違います、そして先日この目で拝見した魔法、人としての格が違うように感じます」
「よし分かった、その言葉信じるぞ、一回家に帰ろう、では解散!」
村長宅に戻り、4人にも説明する、相変わらず心配性のフローラが大丈夫なのか聞いて来たが、カリオールはああ言ってはいたが、実際北王の力がどれほどなのか分からないので、今回ばかりは大丈夫とは言い切れない、ただし、いざとなったら全力を出すことを誓った。
燃え上がる森と、巨大水球がいくつも並んでいる光景を思い出したフローラは、顔を引きつらせながら『ほどほどにな…』と言ってきた。
さて、どうなるかな、取り敢えず明日まではこのままだな。
―――――次の日
「皆、おはよう」
特に襲撃とか無かったな、考え過ぎだったか?
「「「おはようございます!」」」…
現在、村長宅の庭にはカリオールとその部下11名、拐われた村人達10名、村長とその家族6名、あとラルフ、モルス、リル、ミリー、ランドルの計32名が集まっている。
「とりあえず、拐われたはずのお前達は、まだ洗脳されているフリをしていてくれ、何も喋らずボーッとしてれば大丈夫だと思う。」
了!!!
びっくりしたぁ、その返事…いつ練習したんだ?
「それぞれの属性を代表してラルフ、モルス、ミリーとランドルにも来てもらった、いきなり呼び出してすまんな」
ラルフはセイスの狩り仲間だ、火属性代表で来てもらった。
火属性代表 ラルフ
水属性代表 フローラ
土属性代表 モルス
風属性代表 ティル
闇属性代表 リル
光属性代表 ミリーとランドル
総指揮官 ゴルとテラー
それなりに形になったな、
「村長、テラー、俺も一緒に拐われた体で王都オーソロンに殴り込みに行ってくる、ここは任せたぞ」
「うむ、皆仕上がっとるからの、任せておくのじゃ」
「ラルフ!フローラ!モルス!ティル!リル!ミリー!ランドル!…お前たちは各属性の代表だ!何も難しい事は言わない、この村を守れ!」
「はーい!ティルまもるー!」
了!!!
「りょ、りょう…」
リル、ランドル…恥ずかしいなら無理する必要はないぞ。
「では、出発!」
カリオールを先頭に、その後ろにセイスとレン、村人10人、部下7人の順で聖堂に向けて歩いていく。
「カリオール、お前の魔法属性はなんだ?」
「はっ、私は火です」
「その髪色で火かよ!水じゃなきゃ駄目だろ!」
「す、すみません」
「あ、いやすまん、声に出してたな、初日に俺の火魔法は見ただろ?」
「はい!素晴らしい威力でした!」
「あのくらいお前も出来るようになれ」
「へ?私、が?」
「想像を膨らませろ、あそこまでは魔力容量の問題で無理かもしれないけど、あれに近い事は出来るはずだ、火の事ならセイスに教わってくれ」
「は、はい!セイス殿、その時はよろしくお願い致す」
「ああ、カリオール殿も村の住人だ、一緒に頑張ろう」
緊張感も無くぺちゃくちゃと喋りながら、聖堂にたどり着いた一行は、全員が特に躊躇う事もせず、左壁の手前から2番目の扉に入っていった。




