45話 カリオールの…凱旋?
村人達を強化して5日が経った。
キザ男がいつ戻って来るのか分からないのは、なんとももどかしいな。
こんなだったら深層に狩りにでも行ってくればよかったと、少し後悔しながら、今日も魔法の考察でもするかと思い、ベッドから起き上がる。
5日間は常に魔法の考察や、村人達の鍛錬に付き合ったりしていた、科学的な視点、魔法的な視点、色々な視点で魔法を研究するのは楽しい、村人達も強くなった、逆に勉強になることも少なくない。
「レンおはよう、朝飯用意してあるからさっさと食えよ?」
「フローラおはよう、いつもありがとな」
「レンはありがとうって言葉をよく使うよな」
「俺の生まれ育った国では、感謝で始まり感謝で終わるっていう言葉がある程、他人への感謝の心を大事にしているんだよ」
「いい言葉だな」
「そうだな、この世界に来てすぐは、なんて意味のない言葉だと思いかけたけどな」
「はははは、感謝の心を取り戻せたみたいで良かったよ」
「ああ、だからこの村には感謝してるさ、フローラ神に挨拶できたし、飯でも頂きますかぁ」
「またお前は、もう慣れたよそれは、わたしからの恵みだ、有り難く食せ」
「ははぁ、こんな下賤の者にお恵みいただき有り難く存じます」
腰を深く折り、お辞儀をしなから冗談を言うレン。
「「ははははは」」
笑いながら別れ、フローラは自室へ、レンはリビングに足を運んだ。
今日も相変わらず美味しいご飯を食べ、そそくさと自室に戻ったレン、なんとなく理由の分かっているセイスは呆れ顔だった。
「ステータス」
貯蓄 0 −3604[+3340]
筋力 16400 貸与[]利息[+1650]徴収[+1200][+980][+570]
俊敏 13640 徴収[+1050][+1110][+480]
精神 100000 徴収[+1350][+1000][+990]
魔力 10755 徴収[+290][+115][+350]
魔体 16750 貸与[−15000]利息[+1050]徴収[+480][+220]
知能 5480 徴収[+270][+210]
技術 8940 徴収[+590][+350]
あいつらよくセイスに突っかかったよな、絶対セイスより弱いだろ、魔力なんて一般人レベルじゃないか。
…え〜っと?筋力の貸与が消えてるな、利息が1650だから、30で割ると…55時間で気付いたか、誰かが気付いて全員返還したんだろう、やはり筋力だけでは気付かれるな、技能まで奪えなかったか、ちっ、運の良いやつらめ。
そう心の中で悪態をつくが、実は少しホッとしてもいた。
その後、暇なので焼けた大地で鍛錬でもしようかと思っていると…
ドンドンドンッ
「レン様!使者様が帰ってきましたのじゃ」
「お?やっとか」
ベッドから腰を上げ部屋を出る、村長家の皆には、何が起こっても対応できるよう警戒しておくようにと、同じ事を村中に伝えるようにも頼んだ、レンは、使者が来たと伝えに来てくれたモルスと一緒に広場に向かう―――
「レン様!お待たせいたしました」
「ああ、お疲れさん」
キザ男の後ろには前回と同じ騎士たちと、拐われたと思わしき男女10人が立っている、全員無表情でレンの事は目に入っていない。
洗脳が雑だなぁ、交渉にこさせるのにこれじゃあ駄目だろ、そんな調整効くのか分からんけども。
「それで、うまくいったのか?」
「はい!北王は顔色ひとつ変えていませんでした」
「おお、やるなお前、やっぱり意外と優秀なんだな」
「そんな…身に余るお言葉、勿体ない、しかし北王は最初、別の部下達を連れて行けと言っていたのです、あれは危なかった」
何でも違う部下を北王自ら用意していたらしい、キザ男が北王に、疑われるやもしれないと苦言を呈して、あっさりと納得してくれたのだとか。
…怪しい、俺だったらもっと疑う、拐った村人達全員を連れて行く必要はないはず、人質としての優位性が無くなるから、もともと人質目的では無いのかもしれんが…
「とにかくお疲れさん、北門と南門の近くにお前らの家を6軒ずつ、計12軒建てておいたから、そこに住んでくれ、残していった3人は北門の方の家で寝泊まりして、村の警備なんかをしてるよ、魔法の強化もしてるからな、必要だったら教えてもらえ、それぞれ1人1軒だ、全部で11家族だからな、余った家には洗脳されたやつを押し込んでおけ、後でセイスと伺おう、家族は連れてきてないのか?」
「おお!そこまでしていただけるとは!家族ならあちらに」
公園の遊具で子供が数人が遊んでおり、近くで奥さんが輪になって喋っている、噴水近くにも何人か奥さんと、年配夫婦と思わしき人達もいた。
「そう言えばお前、名前は?」
「カリオールと申します」
「いい名前してんな、俺はレンだ、改めてよろしく」
「レイン、は偽名だったのですね」
「ああ、この世界にはバレたくないやつが何人かいるからな」
「了解しました、この村以外の場所ではその偽名の方を出したいと思います」
ほんとに優秀だなこいつ、初めてあった時が嘘みたいだよ。
その後カリオールと部下、その家族達と少し挨拶を交わし、それぞれの住まいに案内した。
思ったよりもいい街でよかったわぁ♪とか言ってたが、すまん、ここは村だ…
さて、俺も一度村長宅に戻って、セイスと話をしてくるか。
―――――
「…と、言うわけだ」
村長宅に戻り、セイスに拐われた村人の事を説明するレン。
「なるほどな、それではまともに交渉なんかできっこない、何か狙いがあるとしか思えない」
「セイスにだけ反応するようになってるのかも知れないぞ?」
「だとしてもだ、明らかに違和感があるだろ、周りにバレたら意味がない」
「だよな、とりあえず交渉とやらを聞きに行ってみるか?」
「ああ、すぐに行こう」
最初にカリオールの所に行き、奥さんといちゃいちゃしていたが、無理やり引き剥がして連行してきた、現在は洗脳された村人たちを押し込んだ家の前だ。
コンコンコンッ…
とりあえずノックをしてみるが反応がない。
何があるか分からないので、レンが警戒しながら玄関の扉を開ける、すると…
「…」
全員が輪になって立っていた、輪の内側を向いて、中心辺りの場所一点を見つめてボーッとしている。
怖いよ!ちょっとしたホラーだよ!
「レン殿どうし…怖ぁっ!」
その声に反応する洗脳されし者達、レンを跳ね除け、全員がダダダッとセイスの元まで駆け寄って来る。
「うわぁぁ!!」
情けない声を上げるセイス。
「セイスさん、北王の元に参りましょう!」
「とっても良くしてくれますよ!」
「俺、強くなったんだ!もうすぐ戻れるんだってさ!」
「北王様も喜びますよ!」
「毎日美味しいご飯がお腹いっぱい食べられるんだ!」
「言いたい事は分かった!分かったから一人ずつ喋ってくれ!一旦離れろ!」
セイスは必死に押し返すが、洗脳されし者達は尚もグイグイくる。
俺が間に入るか…
「おいお前ら!いい加減にしろ!」
10人が一斉にレンの方を向く、目がバッキバキである。
「なんだお前は!いつの間に!」
「どこのゴブリンの骨ともわからん奴め!」
「出てけ!弱いやつには興味ないわ!」
イラッ…
落ち着け〜、こいつらは洗脳されてるんだ、うん、そう、その調子だ、こいつらは何も悪くない…よし、落ち着いてきたぞ。
「どっか行ってろって言ってんだよこの鼻くそ野郎が!!」
バキッ!ガシャーンッ!
鼻くそは許容できなかった。
「だぁれが鼻くそだぁ!?このクソ共がぁ!!洗脳されてりゃ何言ってもいいと思ってんじゃねぇ!ぶっ殺すぞこらぁ!!」
声に威圧の魔力を乗せ、捲し立てるレン、聞いた村人達、セイス、カリオール、全員が竦み上がる。
「お、おいレン…」
「全員一列に並べぇ!俺が一人ずつぶん殴ってやる!有り難く受け取れぇ!」
洗脳されているにも関わらず、黙って言うことを聞く村人達、素直に一人ずつ殴られてゆく、最後に何故かカリオールまで殴られて終了だ。
「こ、これがレン様の拳…至福…」ガクッ…
カリオールが気持ち悪い言葉を吐き、気絶すると同時にレンも我に返る。
「はっ!俺は?」
「帰ってきたか、良かったよ」
「すまんな我を忘れていたみたいだ、これは…俺がやったのは覚えてる、だがなんでカリオールは幸せそうな顔してるんだ?」
「それは…俺にも分からん」
セイスはしらばっくれた。
しばらくして…
殴られた村人たちがもぞもぞと動き出す。
全力では殴ってないからな、そんな事したら今頃こいつらの頭は無くなってるし。
「ここは?」
周りをキョロキョロしだす村人、どうやら恐怖で洗脳が解けたらしい、今だに警戒顔のレンを見て。
「ここは、どこですか?」
「また、違う仕事ですか?」
「村に帰して下さい!まだ小さい子供がいるんです!」
「どうかお願いします!」
北王に何をやらされていたのか、どうせろくでもない仕事をやらされていたのだろうと、考えるのをやめ、村人たちに真実を伝える。