44話 自動強化〜ビフォーアフター〜
異世界ツェファレンの最北に位置する村、住人は納得していないが、周りからはダスト村と言われ、無いもの扱いされている、商人も旅人すらも訪ねてこない、誰にも見向きもされない忘却の村、まさにゴミ扱いである。
実力者支配…強いものこそが偉い、そんな考えが蔓延するこの世界、そんな中でも最下層、さもすれば奴隷階級とも見紛うような扱いを受けている最弱の村ダスト…その隣には焼けた大地が広がっていて、そこでは…
シューー!
バァーン!
ドカァンッ!!
ボガァーン!!
最弱とは到底思えないほどの、魔法が飛び交っていた。
…完全にやりすぎたな。
数時間前――――
ミリーとランドルに説明を終えたレン、強化はどうかと様子を見てみれば…
「なんか、上半身裸の俺がいるんだが…」
高さ10mほどの、立派なレンの石像が建っていた。
年甲斐もなくはしゃいだ年配者達が、魔法の練習とかなんとか理由を付けて、ムキになって作っている。
目がいっちゃってるよ、特にじじいどもがヤベぇ、完全にキマってんなぁ。
作っているじじい達の奥さん方は、やめたほうがいいと言いながら必死に止めようとしていた、しかしイっちゃってるじじい達は止まらない、とうとう2体目にまで差し掛かり、その足首辺りまで作られたとき…
バァンッ
足首が弾けた。
「お前ら…なにやってんだよ!恥ずかしいからやめろ!最初のやつも壊せ!」
レンの剣幕にタジタジのじじい達、手を合わせ拝んで来たがレンは許さない『恥ずかしいなぁ、これっきりにしてくれよな、トホホ…』などと泣き寝入りするような主人公ではなかった。
「お前ら、北門の外に行け!そこで鍛錬しろ!」
奥さん達に、ほら見たことかと、頭をひっぱたかれながら手を引かれ、肩を落としトボトボと北門に向かい出すじじい達。
的くらいは作ってやるか。
先に焼けた大地へ移動し、的だけではなく、ついでに訓練場も建てるレン。
うぉぉぉぉ!!
じじい共は張り切った。
あとは自由にさせておけば、勝手に強くなるだろうと、村人たちの鍛錬をぼーっと眺めるレンであった。
―――――
思う存分鍛錬して魔力が無くなったのか、村人達が鍛錬を終え始める。
「すみませんレン様、村長、少しはしゃぎすぎました」
そう謝罪を言って、皆帰り支度を始める。
「俺達も帰るかぁ」
「そうじゃな、帰るとするかの、フローラは先に行ってご飯の用意を頼むのじゃ」
「わかった、じゃあ先に帰るよ」
「ああ、頼むな〜」
さて、セイスとティルは〜っと、いたいた。
「お〜い、セイスー!ティルー!そろそろ鍛錬やめろー、帰るぞー」
「はーい」
「わかった!」
「テラーも、帰るぞ」
「あら、もうそんな時間?じゃあまたね」
奥さん達とお喋りしていたテラー。
あんたはその奥さん達の親世代だろうが、なんでそんなに違和感ないんだよ…
皆で肩を並べ、今日の反省をしながら帰路につく。
―――――次の日。
昨日と同じくらいの時間に目覚め、着替えてセイスの部屋へいき、時間を聞く。
あと1時間だな。
レンのお楽しみタイム、徴収確認だ、昨日確認してからあと1時間で32時間が経過する、処罰開始からちょうど50時間だ。
どうなってるかなぁ。
―――1時間後。
「ステータス」
貯蓄 3604 [+3340]
筋力 13250 貸与[−3000]利息[+1500]徴収[+1200][+980][+570]
俊敏 12640 徴収[+1050][+1110][+480]
精神 100000 徴収[+1350][+1000][+990]
魔力 10290 徴収[+290]
魔体 15780 貸与[−15000]利息[+300]徴収[+480]
知能 5480 徴収[+270][+210]
技術 8940 徴収[+590][+350]
精神にはこれ以上ポイントを振れないため、貯蓄に振られています。
数字だらけでぐっちゃぐちゃだな…
あいつら大丈夫か?…このままだと本当に死ぬぞ?元がこの知能じゃなぁ、まぁ自業自得か…
レンは自分で仕掛けておきながら、少しだけなんとも言えない気持ちになってしまう。
精神はカンストか?溢れると貯蓄に振られるのか、なんか一旦貯蓄になってからなら振れそうな雰囲気あるんだけど、数値が中途半端になるからやりたくないな、他のステータスが追いついたらやってみよう、それにしてもあいつら、やたらと精神が高いな。
この徴収も潜在能力を超えて割り振られるのだろうか、でも精神は貯蓄にいっちゃったし、もし割り振られないとしたら…俺の潜在能力高すぎでは?1回暴走したからか?神力か?神力なのか?
埒があかないと考えるのを諦めたレン、さて今日は何をしようと、リビングに向かう。
―――――
フローラの美味しい朝食をいただき、とりあえず散歩でも行くかと家を出たレンだったが…
ここは…どこだ?
昨日までは、継ぎ接ぎの家ばかりが建ち並び、中には今にも倒壊しそうな家もあったダスト村。
昨日の今日でここまでやるか?
なんてことでしょう、穴凹だらけで歩きづらかった土舗装の道は、今ではキレイな石畳が並び、とても歩きやすくなりました、道端には等間隔で花や木が植えられています、育つのが楽しみですね。
次に家、キレイに舗装された道に沿って規則正しく建てられた立派な家々、継ぎ接ぎの家、倒壊しかけていた家なんて見る影も無くなっています、もう貧しいなんて言わせません。
次に中央を見てみましょう、広場の中心にあった、枯れて水も出ていなかった噴水、キレイに補修され、溢れんばかりの水が湧き出しているではありませんか、依然はほとんど人も寄付かず、寂しかった中央広場、今では笑顔いっぱいの村人たちで賑わっています。
広場の端には?…そう公園♪遊具なんて作る予算もなく、ただただ広かっただけのスペースをうまく使い、匠の技がキラリと光る、アイデアいっぱいの様々な遊具が設置されました。
今にも子供たちの笑い声が聞こえてきそうです、この村唯一の遊び場になることは間違いありません。
さらに公園と噴水を挟んだ逆の端を見てみましょう、そこは年配の方々が団らんする秘密の場所、お茶を飲み、楽しそうに語らう姿はまさにこの村が平和な証拠、腰掛けている場所は?なんと、ここでも匠の腕が鳴りました。
腰掛けている石をよく見てください、なにやら大きな石の台座に座っているようです、台座の上に視線を上げてみると〜?人です、渡り人レン様の石像が…
ちょっと待てぇぇい!!途中まで村のビフォーアフターを楽しんでたのにっ!壊してなかったのかよ、クソが!ぐっ…はぁ…
自分で壊しておけばよかったと後悔するレン、楽しくお茶を飲んでいるお年寄りの姿を見て、さすがに壊せないと思い、そっとその場を離れる。
まぁいいか、偽装されてるから俺本来の姿じゃないし。
結局泣き寝入りしてしまう結果となってしまった、お人好しなレンであった。
しかし村が自動で強化されていくなぁ、数の力って恐ろしい、でもいつ襲撃があるかも分からないから、魔力は残しておくように言わなきゃ、村長に伝えておけば村中に伝わるだろ。




