39話 戦闘訓練 by浅層の猪
皆で中央広場に向かって歩いていく。
「なあ村長」
「何じゃ?」
「南門にいるリルのことなんだが」
「おお、あやつがどうしたのじゃ?」
「稽古をつけて欲しいらしいんだよ、俺としては要望を通してやりたいんだ、あいつはかなり優秀だからな」
「さすがレン様、あやつの才能が分かるのじゃな、どうせ客なんか来んのじゃ、好きに稽古してくれて構わぬのじゃ」
「お兄さん!ティルのほうがさきっ!」
「そうだなティル、そういう約束だったよな、わかった、セイスが猪を狩ってる間に少し鍛錬してみようか、フローラもどうだ?」
「はーい!やったー♪」
「わたし?強くなれるのか?わたしはこう見えて弱いぞ?魔物なんて見たこともないからな」
「弱いから強化するんだろ?狩りをしない人間なら大体がそんなもんだろ、知らんけど、皆は魔法使えるのか?」
「レン様、この世界の人間はたいてい魔法の才能を持っておって、何かしらの魔法は使えるのじゃ」
「そうなの!?すごいじゃん!ならこの村全員の強化なんて簡単だよ!」
「そうなのか?」
「本当だよフローラ、俺はレンの話を聞いて、その事実を受け入れるだけで、倍以上強くなれると思ってる…だが…俺の優位性が…」
「セイス、お前はまたそんな事を言うのか?いい加減にしろよ、考えろって言っただろ、お前が優越感に浸りたいがために、村を危険に晒してもいいと思っているのか?それなら鍛えるのは終わりだ」
「す、すまない、男としての矜持がつい口に出てしまったんだ」
「そんな矜持は捨てろ、他人に嫉妬するな、魔法の才能に男も女も年齢も無い、努力すると言っただろ、それで他人と差をつけろ、俺はお前の魔法の才能に期待してるんだ」
「そうなのか?」
「ああ、お前と決闘したとき、離れた所に火球を出したり、掴んで投げたり、面白い使い方するなと感心したんだぞ?」
「そ、そうか…俺が…」
「だから頑張れ、お前が皆に魔法を教えてやるくらいの気持ちでいけ」
「わかった!やる気出てきた!皆もすまない」
「お父さん、いいよ〜、がんばって!ティルもがんばる!ティルがお父さんよりつよくなったら、わたしがおしえてあげる!」
「はははは、それは心強いな、皆で強くなろう!」
「と、言う事ですじゃ、よろしく頼みます、レン様」
「ああ、任せておけ、少し光明が差してきたな、この狩りが終わったら、村長、できる限りの村人を集めることはできるか?」
「うむ、やってみるのじゃ、皆も協力してくれるかの?」
「大丈夫よあなた、協力しないわけないじゃない、私も近所の奥さんたちに話を広めるよう言っておくわね」
「わたしもー!」
「いや、ティルは俺と一緒にリルの所に行くぞ、なんなら、その場で稽古だ」
「わかった!」
そうこうしてるうちにレン達一行は聖堂に到着する。
「やはり立派だな」
全体が真っ白な石造りで、明らかにダスト村の中にあるには不自然な建物である。
これも元からここにあったんだろうな、なんとなくそんな感じがする。
「転移先にも同じ建物があるのか?」
「そうだ、浅層第2区までしか行ったこと無いが、1区も2区も全く同じ建物だ」
セイスが答えてくれた。
「じゃあ元々ここも森の中だったのかもしれないな」
「それは間違いないのじゃ、人間が開拓して建物を囲むように村や町を造るのじゃ、この村も20年前、北王軍が無理やり森を切り拓いて作った村なのじゃ」
「なるほどねぇ…ん?てことは今から行く所、他の村や町のやつらも来るんじゃないのか?」
「ああ、たまにだが来るときがある、俺たちを見るとニヤニヤ笑って、見下してくるけどな」
「開拓者のやつらか…たち悪いな、大丈夫なのか?」
「大丈夫、人気のない区画だからな、本当にたまにだ、開拓者は大抵もう少し奥まで行くんだよ」
「それじゃあ浅層の開拓が進まないじゃないか、なんか矛盾してんなぁ」
会ったら会ったでその時だな、絡んできたら地獄に叩き落としてやる。
そう言えばキザ男、ここに入っていったか?南門のほうに歩いていったような気がするが、まさか時間を稼いでくれてるのか?そんなに優秀か?
まぁいい、とりあえず入るか…
中に入っていく一行。
すげぇ、マジで中も聖堂だな。
建物は3階建てほどの大きさだが、天井まで吹き抜けになっている、その天井は少し青みがかった優しい光を放っていて、そんな吹き抜けが真っ直ぐ奥まで続き、開放感に溢れていた、先の突き当りには祭壇のようなものがあり、祭壇の前の床には魔法陣のような物がある、これも青みがかった光を放っていた。
「あれが転移門なのか?」
「正しくは転移陣ですな、ただし、あれは最深層区への転移陣と言われておりますのじゃ」
「言われている?」
「誰も確かめようがないのじゃ」
「そうか、なら俺が後で確かめようかな」
「おお!さすがはレン様じゃな」
「それで?他の転移門は?」
「左右の扉なのじゃ」
祭壇までの間に、左右の壁に9つの扉、計18の扉がある。
「右の壁、その1番手前の扉から順に、浅層第1区〜深層第3区まで、計9つなのじゃ」
「なるほど、左の壁は各村や町に飛べるんだな」
「その通りなのじゃ、1番手間が中央大都市の北側付近、中央には各方角に3堂ずつ、計12堂の聖堂が建ってるのじゃ、そして中央行き扉の1つ奥が王都オーソロンなのじゃ、この村は1番奥じゃ、ここでは扉が開けなくなっておるのじゃ」
「なるほど把握した、聖堂が建っているからこその区画分けだったんだな、じゃあ浅層2区に行っちゃおうぜ」
浅層第2区の扉を開け、くぐった先は…
同じ光景だ…入った扉から出できたような感覚、凄い違和感だな。
「ここが浅層なのか?」
「ああ、外はもう森の中だ、帰るときは向かいの1番奥の扉に入ればいい、もちろん今通ってきた扉は開けなくなっている」
「凄いな、この建物…到底人の力で建てられるようなものじゃないぞ」
「私も初めてだけどスゴいわねぇ」
「ねぇ、またもどってきちゃったよ?」
「違うぞティル、同じだけど同じじゃないんだ」
「???」
そうもなるよな、俺も半信半疑だし、とりあえず外に行ってみるか。
セイスが慣れた感じで外に向かって歩いていく、その後を一行がついていった――――
森だ…
「すごーい!森だぁーー!」
「信じられんな…」
「ははは、レン殿でも驚くんだな」
「当たり前だ、ステータスは常識外れでも、中身は普通の人間なんだよ」
「そのようだな、それで、どうする?」
「猪を見つけるか」
リスクリワード、リスクリワード、リスクリワード…
「あっちだな」
「わかるのか?」
「当たり前だ、俺だぞ?」
フローラに聞かれたが、レンは説明がめんどくさくなった。
「そうだった、レンだったな…」
納得された。
「よし、向かうか」
ザッザッザッ
「いけー!」
レンはティルが疲れないように、肩車をしてあげていた、また、途中他の魔物がいないのをリスクリワードで確認するのも忘れない。
やっぱり距離が分からないのが痛いよなぁ、どうにかならんかなぁ、やっぱりゴブリン狩ってポイント貯めなきゃだよな、それでリスクリターンでの改造に賭けるしかないだろ。
「グゥ~、フグ、フガフガッ」
いたな、また地面を掘ってるよ。
レンは立ち止まり手で皆に止まるよう指示を出す。
「セイス、出番だ、一撃で仕留めてみろ」
「よし来た、やってやる」
小声で指示を出し、様子を見守る。
レンは心配していないが、他の皆は心配顔だ。
ザッ!
途中までゆっくり近づいていたが、10mほどまで近づいたとき、突如セイスが足音を立て、ここにいるぞと猪にアピールした。
「グァ!?ブブブブゥ!」
いや鳴き方、猪よそれでいいのか?
セイスの手に小さな火球が出現した、猪は何の警戒もなく、前足を掻いて、突撃する気満々だ。
次の瞬間、目にも止まらぬ速さで火球が飛び出し、猪の顔面に直撃、刹那の出来事だった。
「プギィーーー!」
ドタンッ、バタバタッ、バタバタッ…バタ…
オレンジの炎が顔全体を包み込み、たまらず倒れる猪、地面をのたうち回り、最後には息絶えた。
「やったな、魔力は?」
「お父さんすごーい♪」
「「「「…」」」」
皆は絶句している。
平気なのはティルだけかよ…
「おい!」
「はっ、レン殿!?これはっ?どうなっている!?」
「おかしい!さすがに許容範囲外だ!セイスが…セイスがレン化している!」
「こら、レン化って、人を悪い概念みたいな扱いするんじゃねぇ」
「これは、さすがに驚いたわねぇ」
「そうじゃのぅ、ここまでとはの」
「セイス、早く消費魔力を確認しろ」
「あ、ああ、そうだったな、ステータス…」
「どうした?」
「30くらいしか減ってない、だと?」
「あの威力で30なら、猪は敵じゃないな、中層のいいところくらいまで行けるんじゃないか?」
「ちょっと待ってほしい、少し考えさせてくれ…今までの狩りは何だったのだ?こんなにも威力が変わるのか?ブツブツ……」
自信満々だった割には驚きすぎだぞ、まあ今はそうやって考えておけ、そして自分で答えを見つけだせ、そうすれば少しは知能の潜在も上がるだろ。
「さて、こいつをどうするか」
「まずは吊って血抜きだな」
「どうすればいい?」
「木かなんかに宙吊りにして、何かで心臓を突き刺すか、首の動脈を断ち切る」
「任せろ」
レンは言われた通り、以前の時のように猪を宙に浮かせ、動脈を切りつけた、その光景を眺めていたフローラは。
「…もう、何も言うまい」
そう言って思考するのを遮断した。
「このあとは?」
「しばらく待って、血が出なくなったら、水で洗って、解体だ」
「以前俺がこいつを食ったときも、あながち間違えた対応じゃなかったんだな」
セイスは動きそうもないし、一旦氷漬けにしておくか。
血抜きが終わった頃、突然空中に大きな水球が出現、猪を洗濯機のように洗い、最後にはパキパキと凍り始めた。
「こうしておけば鮮度も保てるだろ、フローラは解体できるか?」
「ああ、定期的にやってるからな、お手の物だ」
「それは頼もしいな、村に帰ったら任せるよ」
「いつものように皮は私に頂戴ねぇ」
やっぱり革職人持ってんだろこの人
「レン殿がいると猪を運ぶのも楽だな」
「お?セイス、戻ってきたか」
「ああ、自分なりに納得したよ、今までは火の玉を作る事しか考えてなかった、レン殿の言っていた通り、火とはこういうもの、と決めつけてたんだな、今は火は燃えるのは当たり前、燃料を与えれば火力は何処までも上げられるって分かった、火球を維持するっていう、余計な事を考えなくなったから、操作性も上がったよ」
「今までとは比べ物もないほど強くなったな、正直魔体の貸与はいらなかったくらいだ」
「いや、魔体があったから数時間ずっと鍛錬出来たんだ、正直何日分の魔法を使ったか想像もつかん、潜在能力も上がっただろう、次のレベルアップが楽しみだ」
「じゃあ次だ」
その後猪を何体も、探しては狩り続けた。