3話 ヒロイン登場!なのか?
聞き覚えのあるその声にレンは、ばっ!と後ろを振り向く、そこにいたのは…
あ、あおっち〜!
全力で蒼波の目の前まで走り、ガバっと抱き合う。
「あおっち!久しぶりだなぁ!」
「かみぞのさーん!く、くるしい…」
涙声だ、目がきゅるきゅるしとる、ふっ、見たかよエリー、これが本物のきゅるん蒼波だぜ。
「シーンー、なんかレンレンがぁ〜、超絶ドヤ顔でこっち見てくる〜、きーもーいー」
「おいレン、そんな事案ギリギリの状態でこっちを見るな、エリーを怖がらせないでくれ」
…はっ!蒼波は見た目が小柄で美少女、身長160もないだろう、そんな彼が目をうるうるさせて、それを俺が抱き寄せているというこの状況、たしかにヤバい…
…
…そっとあおっちを解放してぇ、一歩距離をおきぃ、襟元を正してぇ、少しだけ乱れた服装をパンっパンっと、一呼吸おいてぇっと、よしっ!
「んんっ!皆に紹介しよう!」
『はい、ストップー!』
全員が声を揃えて言ってきた。
ダメだったかぁ…
「おい、自首するなら今のうちだぞ」
「レンレ〜ン?やって良いことと悪いことがあるんだぞ〜?」
「な、なんというか、ま、まぁお互いが想いあっているのなら?あたしは、応援するぞレン!頑張れ!時間が解決してくれるさ!」
「シン、リーダーなんだからこいつらちゃんと教育しておけよな、だっけ?」
シン、エリカ、カリン、セイトに次々と責め立てられる。
くそっ、どうしてこうなった、いや、今のは俺が悪いな、軽率な行動だった…
「すまん、ちゃんと真面目に紹介して誤解をときたいので、まずは俺の話を聞いてくれ」
「分かった」
皆、聞く体勢に入ってくれた。
「では改めまして、こいつは俺が働いていた会社の、4つ下の後輩で蒼波、あ〜…名前はなんだった?」
ズルっと昭和のコントのようにずっこける4人。
「カノンですよかみぞのさん!海の音と書いてカノンです!もうヒドいですよぅ」
「ごめんごめん、会社じゃ名字でしか読み合わないから忘れちゃうんだよな〜」
よしよ〜し、頭ナデナデ。
「えへへへ〜」
かわヨ、名前も女っぽいし、両親は絶対女の子欲しくて無理矢理こう育てただろ。弟のように思っているが、どうしても妹目線になっちゃうんだよなぁ。これで男とか、神様よどうにかならんか?(切実)
「よし分かった!」
シンが納得してくれた!
「とりあえず、お前にも立派な彼女がいて、事案じゃなく、ただのロリコンだったということでオーケー?」
全然ダメだったよ!ん?ああそうか…
「すまん、追加情報がある、お前らの小せぇ脳内メモリーを、圧迫させる危険性があるから黙ってたんだが」
「お前より俺等のほうが成績が良かったはずだ、言い訳はいいからはよ」
シンさんや、お主はそんなキャラじゃないだろ、口調が乱れてますぞ、あと記憶容量と頭の良さは別の話ですぅ〜バーカバーカ!
冗談はさておき。
「この子は男の子です!」
「「「「な、なんだってぇ!!」」」」
ほらぁ、やっぱり圧迫したじゃん。
「お、おまえ、そんな趣味があったのかよ!!」
「てぇーい!」
ばしっ!
レンは思わずシンの頭にチョップをした。
「そんな訳無いだろ!カノンとはもう8年の付き合いなの!お前らよりも長いんだ!いもうt…弟のように思ってるんだよ」
「今、妹って」
「てぇーい!」
ばしっ!
それ以上は言わせん!ってか、こっちの手のほうが痛ぇんだけど?どうなってんのこいつの頭?
「カノカノ〜♪私は白峰エリカ!エリーって呼んでねっ♡よろしく〜♪」
おお、さすがはコミュ力の妖精だ、早速絡みに行ったぞ。
「あ、は、はい!カノンです!エリーさん、よろしくお願いしましゅ!」
「「「「「かわヨ」」」」」
ん?今シンも混ざってかわヨって言ってなかったか?キャラ崩壊の前兆、入りましたねぇ。
「俺はシン、百鬼シンだ、よろしくなカノン」
いや、こころだろ、なにしれっとシン言うとんねん、キレるから指摘はせんけども。
「あたしはカリン、紫水花梨だ、名前が似ているから少し親近感が湧くな、よろしく頼む、カノンくん」
「僕はセイト、カリン姉とは双子の弟、紫水聖斗だよ〜、姉ちゃんには気をつけたほうがいいよ〜よろしく〜」
「あ、えっと、シンさん、カリン様、セイトさん、よろしくお願いします!」
よし、自己紹介も終わったし、追いかけっこしている紫水姉弟はさておき、続きは飯食いながらでもいいかぁ、あと…
「カノン、って呼んじゃってるけどいいよな?え〜っとなんでカリンだけ様付けなんだ?」
「はい大丈夫です、え〜っとそれは、カリンと言えば様付けかなと思いまして」
「そうか、ふむ、その心は?」
「ドラゴン…」
「はいストップ!そこまで!」
「?」
「気持ちはわかった、とりあえず様付けは止めておこう」
「??はい、わかりました!」
ふう、あぶねぇあぶねぇ。
「とりあえずお店行こうぜー!」
「「「「「おー!」」」」」
ーーー
レンは再び4人の後ろについて歩いていく。
なんか…山のほうへ向かって、一直線に進んでいるような気がしてきたぞ…
「なぁ、こんなところに飯食えるところなんてあるのか?」
エリーがくるっと振り返り。
「ふっふっふ〜♪それがあるのだよ〜、この先の山の中腹にお寺があったじゃない?そこが改装されてぇ、自然をゆっくり楽しめる、テラス付きのおしゃれカフェができたのだ〜!」
なんと!12年の月日ってのは、短いようで長かったんだなぁ、たまに帰ってきてたのに全然知らなかったよ、お店のスピーカーからお教とか流れてたらやだなぁ。
道中カノンに、なんでこんなところまで来たのか聞いてみた。
「だって!かみぞのさん僕に何も言わないで辞めていっちゃうんですもん!電話も全然出ないし!」
もうプンプンって感じだ、いくらカノンが怒っても可愛さが増すだけだな。
「心配したんですよもう!別れの挨拶くらいさせてくれてもいいじゃないですかぁ!わ〜んっ!」
な、泣かせてしまった、うん、これは俺が悪いな…
「ごめんカノン、どうしてもあの会社からすぐに離れたかったんだよ、ホントごめん」
「はい!許します!ナデナデ」
ふ、ふおぉ、カノンの頭ナデナデだ、もはや回復魔法なのでは?ほんとにカノンは男なのか?まぁ社員旅行で一緒に風呂入ったから男は確定なんだが。
なぜか他のやつらは近寄って来ず、少し離れたところでこちらをチラチラ見ていた、その後、同僚達にどうだった?って聞かれたので、知らん!と言って、洋式便所に座ったとき、便座が割れててケツの肉を挟む呪いをかけておいたぜ。
「すまん、そして俺の為にこんなところまでわざわざありがとう」
「いえいえ〜どういたしまして」
「そう言えば君島と課長はどうなったんだ?」
「課長は失敗した部下を間違えて疑った挙げ句、部長に頭まで下げさせ、退職まで追い込んだのが大問題になって、係長に降格、そして地方の工場に出張と言う名の左遷になりました」
ほぉ、上のやつらいい仕事してますねぇ。
「君島さんは、よくわかりません・・・噂によると漁船に乗っているとか?」
うへぇ、死ぬまで借金返せないだろ。いや、会社の損失だし借金ではないのか、クソ君島もわざと失敗したわけじゃないだろうし、許すかどうかは別だがな、うんこタレの課長はどうでもいい、とにかくあいつ等にもバチが当たったのなら良かった良かった、スッキリ~♪
そんな話をしていると、いつの間にか山の麓に着き、お寺までの階段を全員で登り始める。
中腹辺りまで登った所で…
ゴゴゴゴ…カッ!
おおぉう!なんぞ?これなんぞ!?石が光っておる!お怒りじゃ〜!神がご乱心じゃ〜!!ここお寺だけど!
突然、地震発生かと思いきや、階段全体が激しく光りだしたのだ。
やばい、カノンは!?いた!
カノンはレンのすぐ横で、階段に手を付いてうずくまっていた。
「カノン、俺に掴まれ!大丈夫、とにかくじっとしてるんだ!」
エリカとシンも叫ぶ。
「シンー!怖いよぉ〜!こんなの聞いてないよ〜!」
「エリーは黙って俺にしっかり掴まってろ!」
誰も聞いてるわけないだろうが!紫水姉弟は!?
「姉ちゃん大丈夫!?」
「ああ!大丈夫だ!」
よし、みんな大丈夫そうだな
レンも皆がこれ以上パニックにならないよう叫ぶ。
「みんな大丈夫か!?揺れが強くなってきた!さすがにこれでは歩けない!この階段は急だから絶対踏み外すなよ!」
そして徐々に光は強くなり、眼の前が見えないほどになっていく。
レンは強くカノンを抱きしめ、ギュッと目を閉じた。
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揺れが収まり、光が少しずつ和らぐ、そして次に爽やかな風が頬を撫でていくような感覚、先程までの轟音が静まり、嘘のような静寂が訪れた。
レンはゆっくり目を開き、まずはカノンが大丈夫か確認した。
よし、大丈夫だな、まだ体を丸めてブルブル震えて、ギュッと目をつぶってるけど、不謹慎だがもう少し見ていたい。
見ていたい気持ちをぐっと堪え被害確認をするため周囲を見渡す…
足元に広がる草原、頭上に広がる青空、それ以外は何も無く、ただただ無闇矢鱈に広い空間、そんな場所にレン達6人は立っていた。