33話 オーソロン城
王都オーソロンにあるオーソロン城の一角、バーレル王の執務室、その部屋の扉を一人の男がノックしていた。
コン、コン…
「入っていいよ〜」
ギー…
「失礼致します」
「ああ、デイルか〜、どうしたの?」
返事したのはこの城の主、バーレル・ディ・オーソロン、ツェファレンの北側を支配するオーソロン王国の王、自分の支配する土地をオーソロン王国、都市を王都オーソロン、と名付けて好きに支配している。
見た目は高校生くらい、灰色の髪をアップバングショートにした、人懐っこそうな顔をしたイケメンだ。
ここツェファレンには国がない、一つの大きな地上を人間種が治めている、と、人間側が決めつけ、好き勝手支配している、つまり、ツェファレンという世界であり、ツェファレンという大きな国でもあるということだ。
各方角の支配を任された王たちは、自分たちが支配するその土地を、好きに命名して、好きに支配してよい、と中央から言われている。
特にルールもない、あえて一つ上げるなら、危険区域の開拓継続と、定期的に魔物素材を納めること、それだけが課せられたルール、使命だ。
「バーレル王、カリオールが帰還しました」
「ふ〜ん、それで?あいつには〜…あ、そうそう、最北の村を適当に痛めつけろ、そう命じてたんだよな〜」
「はっ、それが今回は返り討ちにあったらしく、部下も数名やられたとのことで」
「え?そうなの?」
「なにやら村長の息子の腕が立つらしく、3名ほど討たれた模様」
「そうかぁ、確か…ダストだっけか?中央が勝手に名前変えちゃうんだもんなぁ、ルール違反だよ〜、まぁ今はいいや、とりあえずカリオールを呼んできてくれない?僕が話を聞くよ」
「はっ、少々お待ち下さい」
「よろしく〜」
性格は緩いが、中央の強者ファーニックが実力を認めた人間だ、失礼の無いよう静かに下がるデイルだった。
そうは言ってもこのデイル、バーレル率いる戦闘部隊では、バーレルに次ぐ実力者、一番の側近である、あと一人側近がいるのだが、役割が違う。
バーレルは少しだけ厨二病を患っており、長い名前を付け足したり、側近に格付けみたいなこともしている。
第1星〜第6星
実力の無い者、貢献できない者は第6星シクスだ、実力アップや働きによって、フィフス、フォース、サード、セカンド、ファースト、と昇格していく、デイルはファーストである。
因みにカリオールは第4星フォース、実はこの国に16人しかいない、意外と優秀な男だった。
―――――
「カリオールぅ、どうしたんだよ〜、とりま詳しく教えて」
執務室の大きな机に頬杖をつき、気楽に話しかけるバーレル。
「はっ、先日部下を連れ、ダスト村に行って参りまして、いつものように食料を出せと命じたところ、もう備蓄がないので納められないと申したのです」
「おかしくない?生かさず殺さずの量しか奪ってないのに、前回は何も言ってこなかったの?」
「はい、何も言ってきておりませんでした、真偽のキューブも嘘と判定が出ておりましたゆえ、村中を手当たり次第に探したのですが…」
「そうか〜、キューブで探せなかった?」
「はい、村長以外の村人に尋ねても口を割らず、人質をとっても、口を割らず、何人か殺したのですが、それでも口を割らなかったのです、口を割らない限りキューブは反応しませんので…」
「ふ〜ん、それで?」
「何かを隠していると思い、一度村長を尋問しようと広場に戻ったところ、村長の息子なるセイスラードとやら率いる、数名の男たちに取り囲まれました」
「へぇ〜、計画通りというわけかぁ、村人を犠牲にしてまでとは、恐れ入るなぁ」
「取り巻きの男達は大した事なかったのですが、そのセイスラードがなかなかの腕の持ち主で、特に優秀な部下が3名ほどやられてしまい、なんとか返り討ちにして、一度体制を立て直すため、戻って参りました次第でございます」
「殺しちゃったの?」
「いえ、こちらに引き込めば良い人材と成りましょう、殺しはしてません」
「よくやったね、それで、このあとどうする?」
「ダストより拐った村人に、中央のルード様に頼み、洗脳魔法を掛けて頂くことは可能ではないでしょうか」
「その心は?」
「説得してもらうのです、ここは最高だ、順調に強くなっていると、すぐに村に戻してもらえると言えば、もしくは…」
「分かったいいよ〜、カリオール、見事そのセイスラードとやらを引き込めたら、お前をサードに昇格させてあげるよ、励んでね?」
「はっ!有り難き幸せ!北王様の顔に泥を塗るような真似は、決してしない事をお約束致します、この命に代えて!」
「よし、下がれ〜」
「はっ、失礼します」
「…」
―――――
「ルード殿〜、どうだったぁ?」
「うむ、洗脳とかはなさそうじゃが、嘘はついておるのぅ」
「そうか…残念だなぁ」
「バーレル王よ、いかがなされますかな?」
「カリオールの言った通り、拐った村人に洗脳を掛けちゃって」
「ほう、いいのかの?」
「うん、どんな企みがあるかは知らないけど、あの村はここまでだね〜、拐った村人とカリオールもろとも滅ぼそう」
「怖いの〜」
「何を言ってんの、ルード殿ほどではないよ〜、僕は異世界から、他人を攫ってくるような真似はできないからね〜、拐うと攫うじゃ大違いだよ〜」
「大して変わらんじゃろう」
カリオールは優秀だった、だが王のほうが一枚上手、きな臭さを感じた王は、たまたまオーソロン城に訪れていたルードに頼み、カリオールの真偽を探らせていたのだ。
それから数日後―――
村人に洗脳を掛けたルードは、あとは好きにせいと言い、中央に帰っていった。
執務室に呼び出されたカリオール、床に片膝をつき王の言葉を待つ。
「先日言ってた事の準備が整ったよ、ルード殿に依頼して洗脳も済んでるから、念の為に前回とは違う優秀な部下達を用意したから、そいつらを連れて行ってね」
「え…違う者達ですか?」
「なに?都合悪いの?」
「あ、いえ、そのような事は…ただ、今回は交渉という形になりますので、余り威嚇するのもどうかと思いまして、違う者を連れて行っては、変に勘ぐられるかと愚考しておりました」
「う〜ん、確かにそうだよね〜、ならカリオールが好きな人を連れて行っていいよ」
「はっ、私のような者の意見を聞いてくださり、有り難く存じます」
「はいっ、これで話は終わり、準備できたらダストに行っていいよ、出発の報告はしなくていいからね」
「はっ!それでは行ってまいります」
「…」
カリオールはうまく王を騙せたと内心喜んで、足取り軽く自室へ準備をしに帰っていった。
「はぁ、ルードのじじいが嘘をついてる可能性があったから、少し鎌をかけてみたけど、本当だったみたいだねぇ…あの村での実験も終わりかな、20年続けてきたけど、なんかめんどくさくなっちゃったな、いくら追い込んでも英雄級のやつなんて出てこないじゃん、ルードのじじいめぇ、適当なことを言いやがって〜」
バーレルは見た目と違って40歳を越えている、その昔、王になりたての頃、優秀な部下を欲していた時、英雄や勇者という者は、追い込めば出てくるものよ、とルードに吹き込まれ、最北のさらに北、浅層入口の目の前に一つ村を作った。
その後20年間に渡り村人を、生かさず殺さず追い込んでみた、結果の確認の為、ここ最近は優秀と思われるものを拐ってはみたものの皆優秀止まり、英雄どころか、開拓者のベテランにも及ばない者ばかりだった。
「最近異世界から勇者たちを連れてきた〜、とか言ってだけど、その勇者たちが勝手に騒いで、面白半分に村の名前を無くしてみたり、ダストなんて名付けてみたり…中央が絡んでるからなぁ、黙ってたけど、考えることが子供なんだよ、やることが幼稚すぎて水を差された気分で興ざめだね、もともとは無い村なんだ、役にも立たない村なんかどうでもいいや」
人をいらない家畜扱い、こういうところが酷王と呼ばれる所以だった。
リンリーン、リーン…
バーレルは机の端に置いてある鈴を持ち、鳴らした。
「お呼びで」
音もなくバーレルの斜め後ろに人影が現れる。
「うん、フキノ行ってきて、カリオールを尾行して、ダスト村のやつらを、その名の通り不帰の客にしてきちゃってよ、カリオールもろともね〜」
「承知!」
人影は、短く返事をして、その場でシュッと消えた。
「セイスラードか…ちょっと惜しかったなぁ、せめて英雄クラスだったら実験成功だったのに」
「危険な因子をわざわざ近くに置くこともないだろう」
「うおぁ!マリルかぁ、驚かせないでよぉ」
あと一人のバーレルの側近、ファーストのマリル、寡黙な女…で自分は通している、全身真っ黒の革製の衣装、髪はストレート、ポニーテールにして、目つきはキツめ、腰に刀のようなものを差している、実力は同じファーストでもダリルの比ではない、バーレルと同等の強さを秘めている、と、言われている、雰囲気はカリンに似ているが…
「相変わらずちっちゃくてストーンとしてて可愛いねぇ〜」
「やめろバーレル、ぶった斬られたいのか、ストーンとはどういうことだ?よ〜く説明してもらおうか」
「おお怖い、同郷じゃないか〜、そんな怒らないでよ〜」
身長は150弱、一見大きめな小学生、8歳のティルとどっこいどっこいの大きさである。
「いやぁ、いつまで経っても変わらなくて、可愛いままだねぇって言いたかったんだよ〜」
「お前もこの世界に来てからさほど変わってないだろうが」
「はははは…懐かしいよ、納豆食いたいなぁ」
「なんでこの会話の流れで納豆を思い出すんだよお前は、はぁ、厨二病なんだからもっとアニメチックなものを思い出せ」
「ひどい!厨二病じゃないよ!」
「重症の厨二病患者だろうが、なんだよディ・オーソロンって、貴族でもあるまい、お前こそ幼稚だ」
「う、ぐぬぬぬぅ、反論できない!あの頃は若かったの!」
「今の勇者達が、あの頃のお前なんだろ」
「…なんか悔しいな」
二人は渡り人だった、それも日本からの、レンの予感は当たっていたのだ。




