30話 ダスト村散策とレンの決意
レンは久々ぐっすり寝て、ティアと再会し、幸せな気持ちで、ボーッとこの世界の事を考えていた。
北王が治めてるのに、なんで中央から改名を指示してくる?なにか企みでもあるのか?まぁ中央が全てを治めているようなものなのだから、おかしな話ではないが…
それにしたって無数にある街や村、その一つ一つの名前を中央がいちいち管理するか?気まぐれなのか?なんなら北王が村の名前を管理するのだっておかしいだろ、近々なんかあるかも知れんな、気をつけないと…頭悪いだけの可能性もあるけど、だって…
中央が強者、名前は単一
東西南が王で、こちらも名前は単一
北も王だが、名前が貴族的
どう考えても、中央の自分を強者と名乗るファーニック、北のバーレルの貴族的な名前、この2人が目立つし、頭悪そうだもん。
北王は名前にこだわりありそうだし、中二病の匂いがプンプンするんだよなぁ、バーレルって名前に自分でディ・オーソロンって付け足したのだったら、本当に痛いぞ、渡り人だったらバーレルすらも偽名の可能性があるよな…
東西南はなんか、常識的って感じだ、1人だけ魔王なのにまともに感じるよ、いないんじゃなかったのかよ魔王、いや、そういう人類の敵、みたいな意味の魔王じゃないことは分かるんだが…とにかく善政を敷いていればいいが…
ウダウダ考えてもしょうがないか、だって実力至上主義なんだろ?俺より弱かったら、言うこと聞かなくても良いって事じゃぁないかぁ、なぁキミもそうは思わないかね?
いったい誰に語りかけているのか、そう結論付けたレンは、ベッドの横にある小さなテーブル、その上に畳んで置いてある自分の服を着て、部屋から出ていく。
「あ、おはよう」
「レン様、おはよう、ぐっすり眠れましたかな?」
「ああ、本当に村長には感謝してるよ」
「感謝する程の事では無いですぞ、他人に施すのは当たり前の事なのじゃ」
「そうか…」
まだ俺に緊張しているのか、敬語とタメ語が入り混じってるけど、この性格だ、敬語のほうが馴染んでいるのだろう、本当にいい村長だ、侵攻の壁とかこんな状況なのに、だから村の皆も明るさを保っていられるんだろうな。
「今日はどうなされますかな?」
「そうだな…村でも案内してもらおうかな」
「わかったのじゃ」
「おはよー!おじーちゃん!お兄さん!」
「おお、ティルや、おはよう」
「おはようティル、今日も元気いっぱいだな」
「うん!元気ー!」
一段と雰囲気が明るくなった、ティルの才能だな。
「おはようレン、父ちゃん、朝飯にするか?」
「うむ、頼むのじゃ」
「ああ、リビングで寛いでいてくれ」
「ありがとう、今日もご馳走になるよ」
「いいよ、レンも寛いでいろ」
「わかった」
「お兄さん行こ〜」
リビングに行くと、テラーがいて、裁縫らしき事をやっていた。
「テラー、おはよう」
「レンさん、おはようございます、良く眠れた?」
「うん、それはもうぐっすりだよ、葉っぱとは違うよな」
「ふふふ、当たり前じゃないの、でも良かったわ、レンさんが葉っぱで寝ていてくれたおかげで、うちのお布団が高級に感じられたんだから」
「ああ、リスクにはリターンがないとな」
しばらくぺちゃくちゃと喋って、準女神フローラの食事という名の施しをいただき、意気揚々と村へと繰り出した。
村長と並んで村の中を歩いていく。
「おはよ〜村長!なんだ?今日はいい男連れてんなぁ」
「おお、モルス、この方は客人じゃよ」
「へぇ〜、こんな所にねぇ、変わった御人だなぁ」
「そうか?俺はいい村だと思うぞ?」
「かぁー!言う事までいい男たぁ、こりゃ参った」
「俺はレンという、あまり良い教育を受けてないから口は悪いけど、よろしくな、モルス」
「ああ、いいって事よ、お互い様だ!ハッハッハッ!」
やはり明るくていい村だ、必ず守るぞ。
その後も村長と村を練り歩き、数時間で回りきってしまった、もちろん全部の家々を回った訳ではないが。
村の中央に直径100mほどの丸く拓けた広場があった、普通なら村人達の憩いの場なのだろう、中心にある噴水は水が枯れて出ていないし、周りも手入れされていないのか草茫々だった。
住んでいる家も、決して古くはないのに継ぎ接ぎでボロボロ、今にも倒壊しそうな家から楽しそうに笑う人達の声がした時は、心が締め付けられる思いだった。
本当に小さな村だったな、俺が入ってきた北門から、南門まで直線で1kmちょっとくらいか?
そして、お店が全然ない、野菜を売ってるお店と雑貨屋が一軒ずつのみだった、本当に寂れてるんだな。
「すまんの、寂しい村で…2ヶ月前までは、たまにじゃが商人が来て、中央の広場で物を売り買いしとったんじゃ、ティルも毎回楽しみにしとってのぅ…」
「めっきり来なくなったと…」
レンは、先程見た広場の光景を思い出し、そこで商人が地面に商品を並べ、村人達が楽しそうに買い物を楽しむ風景を想像して、またも胸が締め付けられる。
「ここは、この辺りでも特に最北に位置する村じゃからの、儂らが他の村に行くといい顔せんのじゃ、特に2ヶ月前からは余計にの、じゃから食事も全て自給自足にせざるをえんのじゃ」
「最弱が伝染るとでも思ってんのかよ、頭わりぃなぁ、これも北王の策略なのか?」
「策略…なのかのぅ…やはりそう聞くと悲しいのぅ、儂らの人生はなんの為に有るのかのぅ」
くうっ…こう、長年生きてきた年配者が、なんの為に生きてきたのか、なんて事を口にしてると泣きそうになるな、俺なんか力が与えられただけマシだったんだ…もっと辛い人はまだまだいる。
「大丈夫だ村長、俺が来ただろ、それに優しい家族に恵まれて、みんないい子に育ってるじゃないか、意味のない人生なんて無いんだよ、この村で生まれ育って、ただ奪われ死んでいったやつら、全ての人達に意味を作ってやろうぜ、この時の為に生きていたんだと、俺たちに未来を託したんだとな」
「レン様…ありがとう」
「感謝はまだ早いぞ村長、これからだ、これから巻き返すんだから、その時まで感謝の言葉と涙はとっておけ」
「わかったのじゃ、その時を楽しみにしてますかのぅ」
そうだ、それでいい、村長が笑ってないとダメなんだよ、見てろよ北王、そしてシン、エリカ、カリン、セイト、カノン、鼻くそ!目にもの見せてくれる、笑っていられるのも今のうちだからなぁ!




