28話 実力支配
村長からこの村、ダストについて話を聞いていく。
「とりあえず聞かせてくれ、それから判断するから、あと、敬語はやめてくれ、俺は確かに強いかもしれんが、なんの肩書きもない一般人なんだよ」
「わかったのじゃ」
「それで?なんでダストなんだ?」
「ダストという名前がついたのは、つい最近なんじゃ」
「どのくらい最近なんだ?」
「2ヶ月前くらいじゃ」
「2ヶ月…あ、すまん、その前に暦を聞いてもいいか?元の世界と違うかもしれないからな」
「そうじゃな、まず1日は、説明が難しいのう、明るくなって暗くなるまでじゃ」
「それは、まぁいいや、何日で1週間とか1ヶ月なのか教えてくれ」
「10日で1週間、5週間で1ヶ月、10ヶ月で1年じゃ」
ってことは…ダストと付いたのは100日前くらいか…俺がこの世界へ来て、ここに来るまでにどれくらい経っただろうか…
箱庭に10日
うさぎちゃんエリアでの戦闘訓練、約30日
カオスゴブリン討伐ゾーン、8日
スライム川で魔法練習、10日
猪までの魔物虐殺超特急、約30日
そこからここまで3日
俺、よく生きてこられたな、ティアにはますます感謝だ。
90日ちょいか…村長は約2ヶ月前って言ったから、多少は前後するとして、ほぼ俺達がここに来た時くらいだろうな、絶対なにかあるだろ。
「ありがとう、分かったよ」
「その2ヶ月前、突然中央都市からの使者が来て、改名を強要してきたのじゃ」
「理由は?」
「理由は分からぬ…改名と言うよりかは、名を捨てよ、という内容じゃった、不便だったらダスト村と名付けよ、と言っておったのじゃ」
「酷いな、書類とかもなくいきなりかよ、理由は分からないのか…」
「儂は、見せしめなのじゃろうと思うとる」
見せしめ…この世界は魔物と亜人と人間が土地を奪い合ってると言っていたな、わざと貶めて、お前らもこうなるぞって?本当にそれだけか?
「周りの村や街の奴らのやる気を出させるための、生け贄ってところか?」
「たぶん、しかもそれだけじゃないのじゃ、定期的に使者がやってきて食料と人材を奪取していくのじゃ」
「はぁ?なんで?盗賊じゃないか」
「これも分からぬのじゃ、北王が急に使者を送って来るようになったのじゃ」
「ほくおう?」
「北の王様、北王じゃ、この世界は…」
中心に、強者ファーニックが治める人間族最大都市ヒューニック
南に、氷王レイスが治める都市レクステッド
東に、烈王サーレックが治める都市ラングロドル
西に、魔王デビライドが治める都市ヴォルスターレ
そして北に、酷王バーレル・ディ・オーソロンが治める王都オーソロン
この4つの都市が、中央都市主導のもと、素材を利用するために魔物を討伐したり、人間の住める土地を増やすべく、深い森を開拓していっているとのこと。
都市の配置は、中央大都市の東西南北それぞれの方向に、くっつくようにしてそれぞれ4都市があり、それぞれの都市の先に大きめな街、その先に小さめな街、その先に町、その先に村、と危険区域に向かうにつれ、だんだんと寂れていくらしい、そしてその方向ごとに、東西南北それぞれの王が好きに治めている。
そしてここダストは、目の前に危険区域がある、末端の末端、本当に小さな村、ここに住むものは、2ヶ月前から他の町や大きめの村に足を踏み入れる事すらいい顔をされなくなり、村からは出られなくなった、商人なんかも滅多に来なくなってしまい、魔物の襲撃に怯えながら、毎日の食べるものを自分たちの手で育て、魔物を狩って暮らしている。
実力至上主義なだけあって、強いものが上に立つこの世界、この王たちの実力はかなりのものなのだとか。
弱い者や、無礼を働いたものは罰として、外側へ外側へ追い出され、魔物が侵攻してこないようにするための、壁役としての存在に成り下がるのだとか。
想像以上に酷いぞこれは…その中でも、中央と北は毛色が違うな、中央はまだいい、北の酷王とか…まともじゃねぇだろ、この辺りの小さな村なんか、ゴミ程度にしか思わなくても当然だな、侵攻の壁になればいいと思ってるんだから。
爆発しそうな心を抑え込み、とにかく冷静に話を聞き続けるレン。
「なあ、亜人は?」
「亜人か、亜人は魔物扱いじゃな、人間と何も変わらんのに、奴隷にされたり、誰も住んでない所でひっそりと息を潜めて生活しておる、儂達と境遇が似ているので同情するぞぃ」
話に聞いていたのとずいぶん違うな…確かにこの感じからすれば、亜人達は中央都市付近にはあまりいられないか、外側に多くなるのも納得だ。
「魔物を倒せば強くなるんだから、外側のほうが強くなるのにはもってこいな環境なんじゃないのか?」
「レン様…転移門があるのじゃ…」
忘れてたよ…使者が来るのも転移門とやらを使ってるのか?街から街への転移も可能なのかな?人材も奪われて…!?謀反を起こさせないためか!やり口がきたねぇな…だが残念だったな、俺が来ちまったぞ?
これじゃあここは、ただの牢獄みたいなものじゃないか、その辺りからどうにかしないとな。
「そうだったな、忘れてたよ…それで、政治体制はどうなってるんだ?」
「他の方角の王は知らぬが、北は…王とその取り巻きが全てを取り仕切って、決定権は全て王らしいのう、支配される側の政治的介入は皆無だと、隣村の村長が言っとったの、中央都市も変わらんらしい」
「オーソロン王家って所か、なんか気取ってんなぁ、もしかして渡り人か?1人だけ貴族っぽい名前だし…」
「とにかくこの村は、満足に開拓も出来んのだから、育ててやるから、人材をよこせと言っての」
「いやいや、余計に開拓出来なくなるだろうよ、頭悪すぎないか?他に狙いでもあるのかな?」
「わからぬ、儂達は搾取される側ゆえ、何も言えんのじゃ、今は儂の息子、セイスラードを奪われないようにするだけで精一杯じゃ」
「結構腕が立つんだったな、その、セイスラードとやらは」
「ええ、この村では一番ですな、使者の目に入らないように、使者の来る週は狩りに行ってもらっておるんじゃよ」
「そうだったのか、だから今も狩りに…ん?じゃぁ、そろそろ使者が来てもおかしくないってことか?」
「…うむ、今回もそろそろ来てもおかしくない頃なんじゃ、セイスラードさえ守れれば、村の食料の備蓄など安いもの」
「貯蓄…だと?」
イラッ
「い、いえ、備蓄ですじゃ、レン様?」
「村長…貯蓄は奪われちゃ絶対ダメなんだ」
「いや、備蓄…はぁ、しかしどうにもなりゃせんし」
「奪われちゃダメなんだよ!」
バンッ!
テーブルを叩くレン、抑えていた感情が爆発する、聞き間違えでトラウマ発動である。
ぐぬぬぬぅ!この雑さ加減、弱いものからは、一方的に何もかも奪ってもいいと言う考え、鼻くそ、てめぇ一枚噛んでんな?
「フゥー、フゥー…」
「ど、どうしたのじゃ急に、大丈夫かの?」
「お兄さんどうしたの?」
「やり方が、俺をここに誘拐したじじいっぽかったから、少しだけイラっときてな」
ふぅ〜、落ち着け〜、落ち着け〜、地球にいた頃のように感情を制御しろ。
「よし、落ち着いた、すまん、いきなり怒鳴ったりして」
「レン様、大丈夫かい?」
「様はやめてくれフローラ、普通でいい」
「いや、しかし…」
「やめて、そのモード入ると連チャンするから、単発でお願い」
「う、うむ、良く分からんが分かったよ、レン」
「うん、それでいいよ」
「それで、レン様はどうするのじゃ?」
「とりあえず風呂でも入って考えるかなぁ」
「ふろ?」
え?お風呂知らないの?無いのは分かるけど知らない?
「お兄さん、ふろってなぁに?」
「風呂、知らないか?お湯で体を洗ったり、温まったりするやつなんだけど」
「知らんなぁ、体を洗うのは全て井戸水なのじゃ」
「…そうか、じゃあ飯のお礼に、風呂をごちそうしてやるよ、皆表に出ろ」
「え…わたし達、ボコられるのか?わたし達自体をこの世から洗う、的な事なのか?」
「体、持つかしらねぇ」
「勘弁してほしいのじゃ」
「そんなことしないよね?」
「ああ、そんなことはしない、俺の言い方が悪かった、魔法でお風呂作ってやるから、それで体を温めろ」
「「「「おおっ♪」」」」
4人を連れて表に出る、外はもう暗くなっていた。
さて、やりますか、まぁたまに風呂は入ってたし、いつも通りなんだけどね。
村長宅の横へ行き、両手を前に突き出し、魔法を使い始めるレン。
まずはソイルで壁を作る、ガチガチに固めた石壁が地面からせり出してきた。
家を増築するような形で部屋を造り、部屋内の地面も、平らで踏み心地のいい石床にした、少しだけ傾斜をつけて水が流れるようにして、穴を開けて水が地面に吸収されるようにした、天井は斜めにして、大きなガラス張りだ。
最後に大理石を削り出したような浴槽が出来上る、研磨をかけたようにツルツルピカピカだ。
念じればガラスもできるんだよな、少し魔力使うけど、材料が全て鉱物なんだろうが、ソイルの範囲広くない?もはや石魔法なんだが?多分鉄も出せるぞこれ、土は岩と生物と植物の混合物のはずだしな、色々できそうだ、ん?て事はもしかして…
「よし、まずはこんなもんだろ」
「ほ、本当にレンは魔法が得意なのだな、驚いたぞ」
「あぁ、このくらいは慣れてるから、そんなに称賛しないでくれ、ちょっと残りやっちゃうから」
「ああ、わかった」
部屋の中に入っていき、次は浴槽にお湯を張る。
浴槽の中に水を出し、右手を炎で包み、そのままその手を水に沈める。
しばらくしたら左手で温度を確かめ、丁度いい温度になったら完了だ。
「できたぞ」
「おお〜、これがお風呂なんじゃな?」
「すごーい!箱の中に水がにょわわぁ〜、って出てきたよー!」
「発動、操作、共に技術が、セイスとは比べ物にならんぞ…」
セイスとやら、魔法を使えるのか、中々の強さっぽいし、俺の立ち位置を確認するいい機会かもな…
「レンさん、それでこれはどう使えばいいのかしら?」
「水浴びと一緒だよ、それがお湯に変わったと思えばいい」
「そうなのね〜、嬉しいわ♪水は冷たいから大変なのよ、子どもの頃から水浴びで、普通になってるけど慣れないのよね〜」
「冷気耐性とかの技術は付かないのか?」
「付かないわねぇ、それに付くなら技術じゃなくて、才能のほうね、耐性っていう技術、じゃおかしいじゃない?」
「そうか?俺には分からんな…」
では、才能は元々自分が持ってないとダメってことかな?俺に投資の才能が?いやないない、努力?ないない、回避?…ある、かも?
鼻くそは回避出来なかったけど…まぁ今考えることじゃないな。
「さて、もう一仕事だ」
試してみるか…
レンは、ぽっかり空いた、浴室の入口に向かって、手をかざし、イメージする。
魔法はイメージだ、出来る、俺なら出来る…
入口に向けた手のひらから、魔力がじわりじわりと飛んでいき、入口を塞いだ、レン達には見えてないが、魔力が減っている感じがするので、何かしらは発動していると確信していた。
…ズキッ
痛ぁっ!頭いてぇ、なんだ?やっぱりヤバかったのか?
数秒後、スゥーッと入口に木の扉が生成された…
「ふう、こんなもんか?」
少し焦ったが、よっしゃあ!やってやったぜ!
心の中では大喜びのレン、顔には一切出さず、さも当たり前かのように装った。
「なんじゃこれは…」
「凄すぎるぞ、木魔法なんてあるのか?いや、これはどうなっている!?」
フローラは扉に走り寄り、一部を指差し叫んだ。
レンが作ったのは扉だけじゃなかった、ちゃんと入口として機能している、つまりは蝶番、鉄製の部品が扉と石壁を固定していたのだ。
ここだ!俺、何かやっちゃいましたか?発動!!
「ああそれか、それは蝶番と言ってな、扉だけじゃダメだろう?その部品は壁と扉を固定するもので…」
「そんな事は知っている!そうじゃない!木もおかしいが、鉄だぞ鉄!なんなんだあんたは!?」
あんた呼びキター!村長、お仲間ですぞ?
「なんだ?鉄がどうした?珍しいのか?」
「いや、珍しくはないんだよ、珍しくないけど!けどけど!!」
「やめろ、ケドケド怪人、それ以上表に出て来ようとするな、フローラの中で眠ってろ」
「ふ、んふ、ケドケド…ふふふふ」
ティルが笑いを堪えている。
「ティル!お前っ!」
「やめろ!ティルは悪くない!もちろんフローラも悪くない」
「そうだな…いや、ならレンが悪いんじゃないか?」
「いや、ケドケド怪人が悪い」
「んふぅ、ふふ、ふふふ…」
子供はこういう下らない冗談に弱いよな。
あまりからかうと始末に負えなくなるから、楽しむのもこの辺りまでにしておくか。
「とりあえず、それで?何がダメなんだ?俺は何か禁忌に触れでもしたのか?」
「ふぅ〜、いや、そうじゃない、木も凄いが、鉄魔法なんて聞いたことないからな、びっくりしてしまったんだよ」
俺の中では木魔法のほうがレア度高いけどな。
「鉄魔法じゃないが?もちろん木魔法でもない」
「は?」
「ただのソイルだよ、ただの土魔法だ」
「うそじゃん!?土じゃないじゃん!」
じゃんって、日本人以外にも言う人いたよ。
「俺はこの世界の人間じゃないと言っただろう、常識が違ってもおかしくないだろうが」
「それでも初めて見たし、過去に来た渡り人でも、そんな事をやってのけた者は、聞いたこともないぞ?」
「少し考えれば、出来そうなもんだがな、この村に資料が少ないだけなんじゃないか?」
「レンとは違う世界から来たって可能性は?」
「…その可能性もあったか…なあ、少しこの世界の魔法の一般常識を教えてくれないか?」
地球以外は、魔力も魔法もある世界だと、ティアが言っていたな。
「まずは風呂入ってからだな」
「ああ…少し疲れたからな、最初に使わせてもらってもいいか?」
「ああ、いいぞ」
「ティルもお母さんとはいるー!」
「はいはい、じゃあ一緒に入ろうか」
その後、風呂桶と風呂椅子も追加で作った。
石鹸はさすがに無理だったか。
浴槽のお湯を温め直し、何か布はないかと聞いて、風呂用に準備してもらい、使い方を教えて順番に入ってもらった、さすがに汚れが酷く、人が入れ替わる度にお湯も張り直した、説明最後の湯船に浸かるという所で、煮込まれないのか?とか騒いでいたが。
ホカホカ…
リビングで5人全員、水を飲みながらまったりしている、ガラス製のコップ、中身は氷の入ったキンキンに冷えたお水だ、もちろん犯人はレンである、木魔法を使ってから、氷もできるんじゃね?って思ったら普通にできた、ただ、その時も木魔法ほどじゃないが少し頭痛があった。
やっぱり魔法名との齟齬が激しすぎたかな?まだ少し頭がボーッとするな、風呂で温まったからかもしれんが。
「もう、一生分驚いたよ…」
「そうねぇ、私もびっくりしたわ」
「うむ、ここまで規格外だとは思わなかったのじゃ」
「お水つめたくておいしー!」
「そうかそうかぁ、ティルは正直で偉いぞ〜」
「うん!えへへへッ」
「ティルは何歳なんだ?」
「ティルは8さい!」
「8!?嘘だろ?」
「うそじゃないよー!」
「レン、その子は本当に8歳なんだよ」
「そうなのか、こんなに大きいのに…フローラの遺伝子を受け継いでいるな」
「ああ、わたしが8歳の頃より少しデカいってさ、なぁ父ちゃん」
「ああ、確実じゃ」
「おお、将来が楽しみだな、大きくなるんだぞ?ティル」
「うん!ティル、お母さんよりおおきくなる!そしてお父さんみたく強くなって、この村のみんなを守るの!」
「ティル…」
フローラが泣きそうだ。
「まぁまぁ、今は俺がこの村を守ってやるから、魔法の話を聞かせてくれ」
「「「ええ!?」」」
「ほんと!?やったー!お兄さん大好きッ♪」
「うんうん、でもそういうのはお父さんに言ってあげなさい」
「わかった!お父さんにもいう!」
喜べ、まだ見ぬセイスラードよ。
「さて、俺からの質問、と言う形でどんどん聞いていくから、知っている範囲で答えてくれ」




