26話 村長の家へ
村長宅についた、周りの家より少しだけ大きな家だ。
住みよさそうないい家だ、全て無垢材で造られたのだろう、暖かみのある色合いだな、ログハウスみたいだ。
「あ、おじーちゃんおかえりなさい♪」
「おお、ティルや、ただいま、テラーはいるかの?」
「うんっ、待ってて、今呼んでくる!」
タタタタッ、と家の中に戻っていく可愛らしい女の子、見た目は小学生の高学年〜中学生になりたてくらい、いくらか赤みがかった白髪、少しだけピンク色にも見える、ツインテールで活発そうな可愛い系の女の子だ。
見た目よりも言動が子供っぽいな、名前をティルと言っていたか?おじーちゃんって呼んでたから孫かな、確かに少し騒がしそうだ…
少しだけ…胸の奥が痛くなるレン…いくら精神が高くても、嫌な思い出は忘れることはできないらしい。
しばらくしてタタタタッと、足音が聞こえてくる。
「こらこら危ないわよティル、転んだらどうするの?」
「転ばないもーん」
「はぁ、とにかく気を付けなさい」
「はーい」
そんな会話をしながら、少し年配で、軽くシワは入っているが、キレイな顔立ちの女性が、ティルに手を引かれて、玄関から出て来る。
髪は腰まで伸ばした真っ白のストレートで、地味な薄紫のワンピースを着ている。
う〜ん、俺からみて、年の離れたお姉ちゃんってところだ、村長の娘かな。
「こら、ティル、テラー、お客さんの前じゃぞ、失礼のないようにな」
「あら、こんな所にお客様なんて商人以外では、何年ぶりかしら?」
「だぁれ〜?」
俺のほうから挨拶するべきだろう。
「始めまして、俺の名前はレン、魔物の住む森…危険区域の深層で迷子になってしまいまして、たまたま、ここの村にたどり着いた者です」
「…」
「…」
ん?なんだ?
「あ、あなた?今この方はなんと?」
「この方はレン様、とある事情で深層で修行していたのじゃ」
「聞き間違いじゃない…?」
「うそぉ〜そんな強そうに見えないよ〜」
「こらティル!そんなこと言う「いや、いいよ」え…」
「ティルちゃん始めまして、おじちゃんな、浅層で修行してたら迷子になっちゃったんだよ、村長が助けてくれたんだ」
実力を知られるタイミングは今じゃない、ここじゃつまらない。
「そぉなんだぁ、おじーちゃんえらーい♪」
「年取ると耳が遠くなるからいやねぇ、ごめんなさいねぇ、レンさん」
「いえいえ、浅層と深層は言葉が似てますからね、誰でも聞き間違える可能性がありますよ、お姉さんもまだまだ、耳が遠くなるような年じゃないでしょう?」
「まぁ!お姉さんだなんて、お口が上手なのねぇ」
「え?お姉さんでは?村長の娘さんですよね?」
「あらあらあら!嬉しいこと言ってくれるわねぇ!」
え、まさか…
「レン様、儂は娘に自分のことを[あなた]なんて呼ばせる趣味はありませんのじゃ、[あんた]って言われることはありますがのぅ」
「レンさん、私はこの人の妻ですよ」
ですよね〜、途中まで本当に勘違いしてたよ。
「それは失礼しました、余りにも若く見えたもので」
「全然失礼じゃないわよ〜」
「とりあえず、中に入って下され」
「あぁ、わかった」
「レンさん、私達にも砕けた口調でいいわよ♪」
「そう、か、わかった、そのほうがこっちも楽なんで助かる」
いや、俺は敬語に慣れてるし、どっちでもいいんだがな。
「うふふ」
本当に綺麗な人だが、少し怖い。
「適当に座って下され、儂はフローラを呼んでくるでの、テラー、レン様の相手を頼んだぞぃ」
「ええ、分かってるわ」
玄関入ってすぐのリビングに、無垢材で作られた大きなテーブルが一卓置いてある、レンは言われるがまま、適当な場所に座った。
「うんしょ、ねぇ!お兄さんはどこからきたの?」
隣にティルが座って質問してきた。
俺はお兄さんって年じゃないぞ…あ、また偽装してたの忘れてた。
「ニホンっていう所から来たんだよ、凄く遠いんだ、もう帰れないかもしれないんだよ」
「そうなの?悲しくない?」
「うん?う〜ん、少しだけ悲しい、かな、母さんに別れを言ってないからね」
悲しそうな顔をするティル。
優しい子だな…
また、胸の奥がシクシク痛みだすレン、人の優しさが怖くなってしまっているのだ。
ティアの時はこんなことなかったのに、そこは流石に神様ってことか。
「お母さんもきっと悲しいよ?」
「そう、かもな…帰れないと決まったわけじゃないから、いつかは帰れるように頑張るよ」
「うん!頑張って♪」
「ティル、レンさんを困らせてはだめよ」
「困らせてないよ〜」
「いや大丈夫だ、俺も故郷のことを久しぶりに思い出せたし、帰りたいって気持ちが、まだ自分の中にあることを再認識できたしな」
「そう、でも私も、そうできるならちゃんと帰って、母親にちゃんと生きてるって、報告したほうがいいと思うわ」
「ああ、いつか報告するよ」
無理なんだがな、神様になるから。
「おーっす」
「こらフローラ、お客様の前で失礼でしょう」
「お母さん、めっ」
「すまんすまん、でもわたしは元からこんなだし、勘弁してくれ母ちゃん」
でかぁ、シンよりでかくないか?でもスラッとしていて、なんか美しい人だな…ギャップの激しさに引き込まれそうになるぞ。
髪はテラーとおなじく真っ白のストレート、背中の中心までくらいの長さ、茶色の地味なワンピースの上に白のエプロンを付けている。
皆同じような地味な格好だ、村全体が…失礼だが貧しそうだな。
「始めまして、俺はレンだ、よろしく」
「おうっ、よろしく頼む、フローラだ!」
強引にレンの手を取り、握手をしてくる。
この世界にも握手があるんだな。
「これで全員そろったのぅ」
「わたしの旦那は魔物狩りに行ってるんだ、1週間は帰ってこない、すまんなタイミングが悪くて」
「いやいいよ、その時は改めて挨拶させてもらおう、魔物狩りはどの辺に行ってるんだ?」
「浅層第2区だな、この村では凄腕なほうだ」
「そうか、それは会ってみたいな」
浅層で凄腕なのか…
「お父さんいのしし狩りに行ってるの〜♪早く帰ってこないかな〜、お肉楽しみ♪」
「ティル?お父さんも楽しみにしてあげなさい」
「あ、うん!お父さんに早く会いたいな〜」
「この子ったら…」
「「「ははははは♪」」」
「はぁ〜」
皆が楽しそうに笑い合う、テラーだけため息だ。
本当に仲の良い家族だな。
「その猪は強いのか?」
この世界での、強さの立ち位置を確認するため、質問する。
「第2区では強いほうだ、大人5人がかりで、徐々に体力を減らして、数日かかるんだ」
フローラが答えてくれた、俺の実力がなんとなくわかる村長は苦笑いだ。
約束を守ってくれてるな、ありがたい。
「すご〜くおっきいんだよ♪」
「どのくらい大きいんだ?」
「う〜ん、このまえ狩ってきたのは、あたまからおしりまで、おとな2人ぶんくらい!」
「そうかぁ、じゃあこの前サクッと狩ったのがそうだったのかもしれないな、あ」
基本、嘘と隠し事に慣れてないレンだった。
「「「…」」」
「レン様…自分でバラしては元も子もないぞぃ」
「お、俺って正直者だからな、それに!これは自分でバラしたからノーカンだ!」
「ノーカンが何かはわかりませぬが、なんとなく言いたいことは分かりましたのじゃ…」
「おじーちゃん、今サクッて…」
「うむ、わたしにもそう聞こえたぞ」
「あらあら〜、やっぱり聞き間違えじゃなかったのねぇ」
「良く聞けお主ら、そしてこれを見よ」
村長は、俺から預かっていた牙を、テーブルの上に置く。
「この方は、何かのトラブルに巻き込まれ、危険区域、その深層へ飛ばされたのじゃ」
「ねえねえお母さん、やっぱりお兄さん強いの〜?」
「わからん、そんなふうには見えないが、魔法師なのか?」
「強い人がこの村に来てくれるなんて、いいことじゃない」
レンは開き直ることにした。
「魔法も近接も両方いけるよ、カオスゴブリン程度なら、魔法を使った場合に限っては、何匹いようと瞬殺だな、だから、どちらかといえば魔法師なのかもしれない」
思えば、今なら鹿もいけるんじゃないか?…うん、いけるな。
「「「「瞬殺…」」」」
「そんな怖がらないでくれ、絡んでこなければ何もしない」
「絡んだらするんだな」
「そりゃするだろう、絡まれてるんだから、黙ってるほうがおかしくないか?」
「わたしは絶対に絡まないからな!」
「ティルもー!」
「私も、絡むほどの実力はないわ」
「レン様は鍛錬が趣味で、その時間を削られるのを極端に嫌がられる、お主たちも覚えておくように、もちろん実力を吹聴するのもご法度じゃ」
実力がバレたところで、レンはこの世界のことについて質問していく。




