25話 最初の村
ついにツェファレンで初めての街にやってきた。
長かった…
物語の中では、馬車で移動一ヶ月、なんて事がたまにあるけど、実際体験するときついな。
いやまぁ、馬車じゃなく走ってきたからきついんだけど、全力に近い力で走って、草を食べて、体力減ったらヒールで回復、草を食べて、魔物を倒して、草を食べて、寝る前に魔法の鍛錬と筋トレして、草を食べて、たまに川で水飲んで水浴びして、草を食べて…
レンは自然と涙を流していた…
草めぇっ!
でもありがとう!お前らが生えてなかったら虫の魔物とかを食べることになっていたよ。
っていうかずっと森だったな、魔物の生息地が全部森だなんて思わなかったぞ。
さて、街のほうは…あれは、門番か?
高さ約4〜5mほどの柵が、街の周りを囲っている、隙間なく杭を打ち込むように設置されてるので街の中は見えない。
う〜ん、門からちらっと見える風景は…街というより村だな、何箇所か入れる場所が在るのだろうが、どこから入っても同じだろうし、とりあえずあそこから入れるか試してみるか。
木の陰から出て、村に向かって歩いていく、数歩進んだところで門番のほうもレンに気付き、こちらに体を向け、腰に差してある剣に手をかける。
警戒しているな、門番なんだから当たり前か、しかし、浅層近くは亜人種が多く住む、などと言っていたが…あれは人間か?まぁ鼻くそが言ったことだ、嘘なんだろう。
魔物を倒すことが強者への近道なら、浅層近くに住む亜人ばっかり強くなって、パワーバランスが崩れるからな、まぁ浅層よりも内側には魔物がいない、という保証もないから気をつけないとな。
仲の悪さを演出して、亜人と戦争でもさせるつもりか?鼻くそは人間至上主義かもしれんな。
ごちゃごちゃと考え事をしながら門番の目の前へ。
「危険区域のほうから珍しく人が来たから、どんな奴かと思ったが、えらくいい男が出てきたな」
偽装されてたの忘れてた。
「そうだな、自覚はあるよ」
「ほう、言動までいい男とはな、それで?お前は何者だ?なぜ危険区域を通って、こんな小さな村にやってきた?何が目的だ?」
まだ警戒しているな。
「目的は…ないな、旅をしている、ちょっと人間関係でトラブルがあってな、転移で深層付近まで飛ばされたんだ、一ヶ月以上彷徨って、やっと抜け出してきた所がここだった、ってわけだ」
「深層…信じられんな」
そうだよな…どうするか。
「どうしたら信じてもらえる?あ、そうだ、これなんかはどうだ?」
レンはある物をポケットから取り出した。
「なんだ?…これは!カオスゴブリンか!?」
「ああそうだ、なかなか厄介なやつだったよ」
折れた牙を持ってきていたのだ、うっすら紫色だからカオスのものだと分かるのだろう。
「ちょ、ちょっと待っててくれ、いや、下さい」
「わかった」
えぇ…カオスお前、さては凄いやつですね?
しばし待つ―――
「お、お待たせしましたのじゃぁ!旅の英雄様ぁーー!儂はこの村の村長をさせていただいております、ゴルと申しますぅー!
「えぇぇ…なに?どうしたの?」
「こんな何も無い村に、カオスゴブリンを小指1本で屠れるほどの英雄様に来ていただけたのじゃ、こうもなりますのじゃ!」
「話がデカくなるのはやくない?」
レンは一緒に戻ってきた門番のほうを見て。
「お前がそう言ったのか?」
「い、いえ、わたしはそのような事…」
「勘違いか…」
「え?では嘘だったと?」
村長が疑い始める。
別に疑われたままでもいいんだが、ここは最初の村だ、他に当てもないので正直に話して、村に入れてもらおう。
「いや、倒したのは事実だよ」
100匹以上な…
「おお!では!」
「だが!小指1本は言いすぎだ、たとえそれで倒せても、本当に小指なんかで倒すような、気持ち悪い戦いかたはしない、1対1でなんとか倒せるレベルだよ」
魔法を使わない状態で、だがな。
「なるほどそうでしたか、いやぁ申し訳ない、この村に強者が来たと、このバカ門番が言うもんでのぅ」
「す、すみません?」
「なんで門番の彼が悪いみたいになってんだよ、村長のあんたが勝手に盛り上がっただけだろう?」
「これはこれは、さすが英雄様、一本取られましたのじゃ」
「取ってないが?」
「勘弁してくださいよ〜、まだ俺死にたくないですよ〜」
これはなんともクセの強い爺さんだ、あと門番、そんな簡単に人は殺さんから安心しろ。
でも、村長がこのくらいのほうが明るくていいんだろうな、楽しそうな村だ。
「とりあえず、村に入っても大丈夫なのか?」
「あ、そうですな、こんな所で立ち話では英雄様に失礼でしたな、ささ、こちらへ」
「ああ、よろしく頼む」
村長が村の中に案内してくれるらしい。
レンは村長のあとをついていくが、ふと立ち止まり、後ろを振り向き、門番に向かって。
「俺はレン、お前は?」
「あ、はい!わたしはサンドと申します!」
「はは、そんなに肩肘張らないでくれ、最初の時のような喋り方でいいぞ、しばらくの間よろしくな、サンド」
「はい!よろしくお願いします!」
固いなぁ。
「そうだ、あと一つ、あまり俺の噂は広めないでくれると助かる、噂っていうのは回ってる内に大きくなるからな、その噂通りの実力がなかったら、幻滅されちまう」
「は、はい、いや…ああ、わかったよ」
よしよし、それでいいんだよ。
とりあえずサンドは、強者に憧れがありそうな感じだったから、俺との約束は守るだろう、問題は村長のほうだな。
村長の後ろについていきながら、周りをキョロキョロ観察するレン。
何も無いとは言っていたが、本当に何も無いな、でも村の人たちは皆、明るくて楽しそうだ。
村のどこかへ案内しながら、村長が話しかけてくる。
「レン様はどのようにして、深層から来られたのですかな?」
「ん?普通に走って来たが?」
「なんと!転移門を使わずに移動なされるとは、さすが英雄様じゃ、さぞ名のある方なのでしょう?」
「え、ええ、いや、そんなことはないぞ、俺なんて無名だよ」
転移門!?なんだよそれ、ちくしょう!とはいえ、ある程度は強くなっておきたい気持ちもあったので、知ってても使ったかどうかは分からないけど…存在は把握しておきたかった、リスクリワードで探せただろうし、いざという時の逃げ道になったしな。
「鍛錬が趣味だからな、名誉も栄誉もいらないんだよ、鍛錬の時間をとられたくないんだ」
「謙遜も過ぎると嫌味になりますぞ?」
「いいんだ、実力なんてものは、自分が言いふらさなくても、勝手に知れ渡るものなんだよ」
「さすがですな、英雄様は言うことが違う」
「その、英雄ってのやめてくんない?そんなの聞かれたら、実力者だって周りに気づかれて面倒くさいことになるから」
「おお、それはすみませぬ、サンドにもそのようなこと言っておりましたな、何か理由がお有りなのですな、これ以上は聞きますまい」
「すまないな、せっかく歓迎してくれてるのに」
「いえいえ、ところでレン様は今後のご予定は?」
「いや、始まりは転移なんだが、あてのない旅もなかなかに悪くない、と思ってな、この世界を見て回ろうかと思ってるんだよ、だから予定なんかないぞ?」
「そうですか、では儂の家に招待致しますので、この村にいる間の宿にでもしてくだされ」
「いいのか?」
「はい、少しやかましいかもしれませぬが」
「分かった、ではお世話になろう」
「お任せ下さい」
そう言って村長は自宅までレンを案内し始めた。




