22話 スライムの誘惑
今日から、真面目に街を目指そうと思います!
いや、今までも真面目ではあったんだけど、向かってる方向は適当だったんだよ、鹿よりはゴブリンのほうへってな。
内側へ向かうにつれて、生息している魔物が弱くなるのなら、あながち間違いではないだろう。
しかし、漠然と街っぽいほうへ向かっている、という事実は変わらないので、そんな現状に一石を投じてみたいと思う。
では早速、リスクリワード!
ズキッ
うっ、頭が…さすがに無理だったか?
【86】
キターー!さっすが俺の相棒リスクリワードちゃんっ、すてきっ!サスリスですわぁ♡
ちょっと頭痛がしてヤバかったが、上手くいってよかったぜ。
しかし、ここまでくると普通の鑑定より有能なのでは?鑑定がこの世界にあるのかどうかは知らんが、あくまでも情報の開示・閲覧のはずだ、表示された情報を元に、自分でどうするかを判断しなければならない。
決してあっちの方向に、自分の目指している街があるのか?なんて情報は分からないだろう。
レベルだかクラスだか分からんが、うさぎちゃんエリアで、いつの間にかリスクリワードが2になっていた、お腹が空いているときに、うさぎを見ながらリスクリワード、それが食べられるのかどうかが分かるようになるなんて、タイムリーにも程がある、だから…
…技能はクラスでいいか。
リスクリワードがクラスアップしたあと、初使用時に自分の知りたいことを考えながら使えば、その内容で固定されるのではないかと思ってたんだが、確定でいいだろ。
【街】でやってしまうと、街で固定されちゃうと思って【自分が今見つけたい物がその方向にあるのか?】
で、固定させてみた。
それで見つけたい物を人里って心で思いながら使ったら出来たと言うわけだ。これでリスクリワードは3つ。
1.【戦う相手との力量差】
恐らく筋力・俊敏・技術辺りの能力と、所持している技能基準で判断してくれる。
知能は判断基準には入っていないだろう、俺はゴブリンより弱いことになっていたからな、知能の差で勝てているようなものだった。
2.【その食材が食べられるのかどうか】
細かい毒の有り無しとかは分からない、俺が食べられるのかどうか、食べても大丈夫なのかを判断してくれる。
腹痛ラインは70前後だ…あの時はヤバかった。
3.【見つけ出したい物の方向】
読んで字の如くだ、物の定義に人里が入るのかどうかは賭けだったが、そこは相棒、うまくやってくれたな。
次の候補も決まってるしな、レベルアップが楽しみだ。
さて、結果は86か、結構いいとこいってたんだな、あとは微調整だな。
少し右を見てリスクリワード…少し左を見てリスクリワード…
何回か繰り返し…
【98】
ここだ!
ダンッ!ダダダダダ…
思い切り地面を踏み込んで、全力疾走で駆けだす。
―――――
シャッ!スタッ!タンッ!ダダダダ!ターン、ターン、スタッ!ダダダ…
全力で走りながら、木、木の根、石、岩などを避ける、時より立体機動も意識しながら、木から木へ三角飛びをしたりもしながら。
これも鍛錬だ、いざという時敵の攻撃を避けられるため、あと単純に気持ちいい、この走りもそれなりに器用さが必要だ、技術の潜在能力が上昇するに違いない。
疲れたらヒールで回復し、たまにリスクリワードで方向を修正しながら走っていく。
全然ゴブリン出てこなくなったな…魔法の実験台にしてやろうかと思ってたのに。
ザーーー
「この音…川だぁーーー!」
ズザザーー
踵を前に出し、ブレーキを掛ける。
森が途切れ目の前に川が出てきた、少し流れが早いが、青みがかっていて、透き通った綺麗な川だ。
「川の中心は深そうだ、でも流されそうなほど早い流れでは無いな、ん?」
あれはなんだ?川辺でなんかぷよぷよしたものが動いてる…まさか、スライムか!?
「うぉぉぉ!この世界のスライムはあんな感じかぁ♪」
木の陰に隠れながら小声で感動を口にするレン、相当興奮している。
あぶない、興奮しすぎて声出しちゃってたよ、スライムに気付かれちゃう。
可愛い系のスライムかぁ、最高じゃないか、いいなぁ、触りたいなぁ。
レンはスライム大好き人間だった。
別にこだわりがあるわけではないのだが、なんだかスライムに親近感が湧くのだ。
よく分からない男である。
でも…紫色なんだよなぁ…絶対まともじゃないだろ。
紫色だった。
カオスか?カオスなのか?カオスだよなぁ、間違いなくカオススライムだろ…あぁ、触りたい…傷つけることはできない。
どうしても触りたいレン、だんだん我慢できなくなってくる。
どうしよう…
スライムは川辺に3匹、見晴らしがいいので、それ以外はいないのが分かる、1匹は少しだけ離れたところで、水に浸かっている、あと2匹はるんぷるんしながらじゃれ合っている。
なんだよあれっ!なんでじゃれ合ってんだよ!俺を萌え殺す気か!ただの水袋になんでじゃれ合うような感情があるんだよぅ…
我慢できなくなったレンは…
やっちゃう?やっちゃうか!
クラウチングの体勢に入る。
ミチミチ…
今までにないほどの力を足に貯め、1匹の水に浸かっているスライムに狙いを定めて。
GO!
ズドンッ!!
瞬間、もうスライムは目の前。
ガシッ!
バシャ――――ドンッ!
ドドドドド…
狙ったスライムを捕まえ、30mはあろうかと思われる川を飛び越えて対岸に着地、目にも止まらぬ速さで去っていく。
捕まえたぜぇ、ヘッヘヘヘヘぇ〜!
対岸の林の中へ飛び込んだレン、少し行った所で我に返る。
俺はなんてことを…
立ち止まり、腕の中で大人しくしているスライムを見る、大きさはバスケットボールほどで…ぷるぷると少し震えていた。
最低だ、家族だったかもしれないのに…それにこいつを捕まえてどうするんだよ俺は…戻るか…
スライムを撫でなから先程の川まで戻ってきた。
震えは止まってるな、よかった…人の感情が分かるのか?
触りたいという目的を果たしたレンは満足していた。
「ごめんな、こんなつもりじゃなかったんだよ…」
川の対岸に、まだ2匹のスライムが残っていた。
「本当にごめん」
そう言って川辺にスライムをそっと置いた。
動かないスライム、わずかに左右に揺れている、困ったレンは撫でながら。
「さすがに戻れないか?」
苦笑いしながら聞いてみた、すると。
にゅるるる〜、サワサワ。
1本の触覚が伸びてきてレンの頭をなでてきた。真似をしているのかもしれない。
その後触覚が戻り、スライムの体が自分の影に沈み、数秒後には対岸にいた。
おお、やっぱり普通じゃなかったな、闇魔法かな?




