20話 ゴブリン攻略
レンはトンネルを出た所で、立ち止まって考え事をしていた。
ガサガサッ!
むっ!?
ビュッ!
「うおっ!」
なんだコイツ!
バックステップで距離を空ける。
ダダダッ、ビュッ、ビュッ、フォンッ!
サッサッ!サッ!
くっそっ、動きが速ぇ!
様子も見ずに接近してきて、左右の爪で突き、右足で中段回し蹴りをしてきたが、なんとか躱す。
蹴りの反動で背中をこちらに向けていたので、全力で一歩踏み込んで前蹴りを、少し地面に叩きつける角度で思いっきり叩き込んだ。
ドゴッ、ダァン!ゴロゴロ…
リスクリワード!
咄嗟に使用する。
【0.8】
なっ!?1以下だとっ!?俺より強いのか!
「グォ、グオォォウ!」
魔物が起き上がろうとしている。
不味い!
今度はこちらから接近。
片膝をついている魔物の…
おらぁ!
バキッ!
「グァァゥ…」
側頭部に全力でローキックをかました。
……
良かったぁ、倒せた。
地面に膝をつき、思いっきり息を吐く。
そして、ここじゃまずいと思い、すぐに敵の足を掴み、トンネルの中に引きずり込む。
ふぅ、あぶねぇ、正直こいつが頭悪くなかったら負けてたかもしれんぞ、考え込む癖は治したほうがいいな。
正面の背の高い叢から飛び出してきたのだ、大きな音を立てながらだったので初撃を躱せた。
また、体ごと回転させるほどの、大ぶりな蹴りをしてきた時点で、レンの勝確だった。
さて、こいつは…ゴブリン、か?
ファンタジーゲーム、小説、漫画、物語の色々な所でよく見かける雑魚キャラの代表、ゴブリンだ。
ただ、その肌は暗い紫色、そしてかなり筋肉質だ、両耳は尖っていて、戦闘時に伸びていた爪は縮んでいた。
身長はレンより少し低い170センチほど、歯を剥き出しにしたまま絶命している、長めの牙が割れていて、血が滲んでいる。
顔こわぁ…ゴブリンって、目の前にするとこんなに怖いのか…
血も紫…まさか、鹿が咥えてたのって、これじゃないのか?
あれだけ俺と拮抗した魔物が捕食されてたんだ、やはり鹿とは戦わなくてよかった。
とりあえず、ステータス。
貯蓄 383 +80
80ポイント…うさぎはどうだった?【4】も【5】も両方5ポイントだったよな。
やはり数字が低いほどリスクが高く、ポイントも多く貯蓄されるとみて間違いないな。
たぶん俺が、自分の能力にポイントを割り振ると、敵との差が縮んで、リスクリワードの数字も大きくなっていって、獲得ポイントも減るのだろうな。
能力を上げて魔物を簡単に狩りたいけど、獲得ポイントが減るのか、ジレンマだな。
とりあえずこいつはこのままにして…いや、トンネルの中に置いておいたら、この死体をあさりに他の魔物が来るかもしれない、うさぎ達のところに行ったらまずいからな、外に放りだしておくか。
なんだかんだ、うさぎ達を気に入ってるレン、気休めではあるが、できるだけ他の魔物が向かわないようにするのであった。
そーれ、っとよし…う〜ん、結構飛んだな。
ゴブリンをポイっとして。
ゴブリンが来た方向へ行ってみるか、またいたら少し冷静に戦ってみたいしな。
ザザッザザッ…
叢をかき分け、進む。
だんだん叢の背が高くなってきて、レンの身長を超える程になる。
歩きずれぇ…毒虫とかいたらやだなぁ…
「グォ、グォウ」
…ゴブリンか?
物音をたてないよう、ゆっくり叢をかき分け慎重に進む。
いたっ!ゴブリンだ!
叢の密度が薄くなり、隙間からゴブリンが見える。
少し先は草は生えておらず、直径5mくらいの円状にひらけていて、奥に道が一本続いている、道の幅は2mほど、その道の両端も高い叢が奥に続いている。
こっちには気付いてないな、もしかして集落とかあるのか?だとしたらこのゲームは難易度クソ高だな、やはり序盤のイベントじゃないぞ。
どうするか、まだゴブリンは1匹だ、でも他にもいないとは限らんし、少し迂回して様子を見てからだな。
ゆっくり後退して、円を避けるように進み、ずっと続く道横の叢の中を、身を低くして進んでいく。
しばらく行くと…
あれは…櫓か?やはり集落だな、道の長さは大体100mくらいあったか?
叢の隙間から見える景色は…
「グォウ」
「グォォ」
「グァ、グゥ」
「グゥゥゥ」
「ウゥゥ」
「ギッギガァ」
鳴き方は、ギャギャじゃないのね、最後のやつちょっと惜しかったけど。
しかしゴブリンだらけだなぁ、何匹いるんだこれ、100匹くらいいるのでは?8000ポイントか…なんとか倒したいが。
無理だよなぁ、だって俺よりでかいやつもいるし。
ゴブリンだからこの大きさ、という決まりはなく人間同様、体格は様々であった。
身長がバラバラなら肉付きも違えばいいのに、みんなムッキムキじゃねぇか、寄って集って食べられる運命しか想像できないぞ。
駄目だな、ここは回避1択だ、俺はピンチを嫌う男だからな。
またも迂回して回避、集落を背に進むレン、徐々に叢の背が低くなり歩きやすくなってくる。
えーっと、岩山のほうを便宜上南として、ゴブリン集落方向は北、それでいくと鹿がいたのは右、つまり東方向だから、西の方角に向かってみるか。真っ直ぐ進める自信ないけども。
岩山まで戻って、それに沿って西に進んでもよかったのだが、またループするのでは?という懸念があったのでそれはやめたのであった。
サッサッサッ…
できるだけ足音を立てず、気配を消すよう意識をしながら、歩く、歩く、歩く…これはうさぎ達との鍛錬時から続けていた。
もう一ヶ月以上である、そしてついにその時が来た。
サッサッ――――――。
急に足音が聞こえなくなったのである。
来たか!ステータス
才能
投資 努力 回避New
技能
貸与1 リスクリワード2 潜行1New
才能に[回避]技能に[潜行]か、パッシブだろうな、意識して解除できるか?
――――サッサッサッ
できる…よしよしっ、いい感じだ。
せっかくの異世界だし魔法も覚えたいなぁ、派手にぶっ放したいぜ、ティアに魔法のこと聞いておけばよかったな…ティア…会いたいな、元気にしてるかなぁ、いや、あいつは普通に寝てるなw、んっ?
遠くに、紫色がチラッと見えた、ゴブリンだ。
1匹だな、後をつけるか…
潜行で足音は消えているが、服の擦れる音は消えていないので、慎重に後をつけていく。
魔力ってやっぱり万能なんだな、音を包みこんでるのかな?でも、魔力減ってないんだよな、ステータス。
魔力 6122
やっぱり減ってない、コスト0か?回復が消費を上回ってる可能性もあるな…
…あぶないあぶない、また思考の海に沈むところだった、なかなか癖が治らんぞ。
まずはゴブリンだな、他に仲間もいないようだし、仕掛けてみるか。
数字は【0.8】前回と同じ。
そ〜っと真後ろまで接近して、敢えて潜行を解除する。
ザッ!
「グァッ!?」
こちらに振り向きビックリするゴブリン。
にゅっ、と爪を伸ばして戦闘態勢だ。
付き合ってもらうぞ!
ヒュッ!サッ!
ヒュン!サッ!
ヒュッ、バシ!
フォン!ドッ!
…
躱し、逸らし、受けとめ、またもうさぎの時のように鍛錬が始まる。
爪は服が破れるから躱す、または叩いて逸らせる、蹴りは受けてみる。
「ぐっ!」
重っ!だが耐えられる!
―――
しばらく攻撃を受けていたが、だんだんと慣れ、余裕をもって躱せるようになってくる。
今度はこっちからも手を出させてもらうぞ。
頭でシミュレーションした通りに攻撃を繰り出し始める。
左手の突きを、体を右に捻って躱し、相手が右手を出してこようとする前に、こめかみに右フックを叩き込んだ。
ドゴッ!
ふらつくゴブリン、回復を待つレン。
やはり知能が低いのだろう、性懲りもなく逃げずに攻撃をしてきた。
回し蹴りの動作に入ったので、スピード重視の前蹴りで、下腹部を蹴りつける。
腰をかががめ後退するゴブリン。
突きを放ってくる。
バチン!
強めの力ではたき落とす。
ざっと周囲を確認。
仲間はいないな。
ゴブリンを見つめる。
「グ、グゥゥ…」
ジリジリ後退し始める。
突如後ろを振り向き、逃げ出すゴブリン。
ふんっ!
最初に会敵したゴブリン同様、またしても背中に前蹴りをかます。
そのまま吹っ飛んでいくゴブリンを追いかけ。
そーりゃ!
バキッ!
うつ伏せに倒れたゴブリンの頭にサッカーボールキックをぶちかまし、絶命させた。
ふぅ、いい勉強になった、やはり2足歩行同士の戦いは学ぶことが多いな。
おっと、また考え出す前に移動するか。




