1話 優しさの化身
皆様初めまして、cozです(ノ◕ヮ◕)ノ*.✧
この作品は作者自身の私が、ただただ後で読み返したい、という感情の下、考えなしで書き始めたものになります。
小説界隈ではアホとされる会話多め、プロット無し、登場人物がこの先どうなるのか、作者自身も分からない暴走小説です。
本気で読む方は、胃薬の肴にどうぞお召し上がり下さい(苦笑)
俺の名前は神園蓮、名前だけは一丁前な自他共に認めるド陰キャ野郎だ。
高校卒業後、そこそこ大きな製造会社に就職して働いていたが、クソ上司の罠に嵌められて、ミスをなすりつけられ、課長に怒られ、大損害だったので部長にまで頭を下げさせられ、同僚、後輩には白い目で見られ、居場所がなくなり、ついにはカッとなって自己都合で退職した、約1ヶ月前の話だ。
蓮は、会社を辞めるちょっと前から、あまり仕事のやる気がなく、態度が良くなかった。
無駄な会話はあまりせず、仲のいい人もほとんどいなかったので、会社では空気のような存在になっていた。
そんなだからか、いくら自分はやってないと弁明しようとしても、誰も味方はしてくれなかった、蓮を嵌めた上司は、見た目だけは誠実な奴で、真面目に仕事をやっているフリだけはうまかったらしい。
実際俺もそんなことになるまで普通に真面目な先輩だと思っていたからな、他の奴らもそう思っていたに違いない…
最終的には面倒くさくなり、弁護士の退職代行を利用して、突然辞めてやったのだ。
あんな会社には迷惑をかければいい、引き継ぎなんぞ知らん!
自分では気にしていないつもりだった、だがやはり精神的に負担になっていたのだろう。
しばらく落ち着きたいと思った蓮は、半年くらいゆっくりしてから、また適当な仕事でも探そうと思っていた。
貯金もある程度はあるし、さすがに30歳にもなって親には迷惑かけられんからな…
約1ヶ月後―――――
「いつまでも引きこもってないでそろそろ仕事でも探しなっ!」
急に母親が怒り出した。
えぇ!?まだ一ヶ月だよ?いきなりどうしたん?
「仕事もしないでダラダラしてる人間に、食べさせるご飯なんてないんだよっ!探さないなら出ていきなさい!!」
え、えぇ…まだ失業手当ももらってない段階で?はやない?そんなに鬼だったっけ、うちの母ちゃん…?
いつもならそんな言い方はしないし、そもそもそこまで怒鳴るような人ではなかった、蓮も蓮で、母親の態度が気に食わなくて、無性に腹が立って怒鳴り返し、勢いで家を飛び出してしまった。
―――――
今はまだ仕事を探す気も無く、特に宛も無い、なので蓮は近くのコンビニまで歩いていき、頭を冷やすため立ち読みしながら色々考えていた。
母さんにはお金を渡した、退職の経緯、理由、今後どうするのかも話した、もちろん迷惑も掛けていない、と思う…どうしてこうなったんだ?
と、その時…
「あれっ?レンレンじゃん、おひさ〜♪」
明るい声が聞こえて来た、地元の同級生4人組がやってきたのだ。
蓮は高校卒業後、進学はせず、県内の都市部に就職して一人暮らしをしていた、退職を期に田舎の実家に戻って来ていたのだ。
「レン、久しぶりだな、今年の正月ぶりか?」
ツーブロックにした赤茶色の髪、ほんのり焼けた肌が似合う、180ほどの身長で細マッチョのイケメンが話しかけてくる、ジーパンに真っ白のスニーカー、トップスは黒シャツ1枚、胸の下までボタンを外している。
なんだよシンは、胸をはだけやがって、セクシー路線でも狙ってんのか?
この男がこの集団のリーダー、名前は百鬼心、非常に可愛い名前をもつ蓮の友人だ。
あだ名はシン、中学時代まで何かの格闘技をしていたらしく、売られた喧嘩は負けなしだった…らしい。
ついた通り名は鬼神。
厨二病かよ…
名前の可愛さと見た目とのギャップがすごく、仲間内では皆シンと読んでいる。
心と呼ぶとキレるからな、気を付けないと。
この4人組は学生の頃から仲良く、学年でもカースト1軍の集団だった、カーストと言っても悪い感じではなく、優秀で爽やかな陽キャ集団といったところで、なんか余裕がある感じだ、運動や勉強など何かしらに秀でていて、もちろん容姿も完璧だ。
たまに地元に帰ると、何故か蓮が帰省していることを知っていて、4人中の誰かが必ず連絡をしてくる、そして『飯でも食いに行こう!』って誘ってきて大体奢ってくれる。
俺のスペックはまぁ普通だな、顔も普通、体型も普通…正直、こいつらと一緒にいるような見た目じゃないんだよなぁ。
今も見た目の雰囲気は卒業した頃と変わらない蓮、だが、服を脱げば体は結構ガッチリしている。
製造の現場仕事は肉体労働だからな、少しは体脂肪率も変化するさ。
勉強もそこそこ止まり、そして対人が苦手、というか就職してから苦手になってしまった。
学生の頃は普通に喋っていたし、こいつらの他にも仲がいい、とは言えないが、軽く話す程度の友達もいた、目の前の4人とはよく話していたが…でも俺は見た目も性格もカースト3軍の下の下だし(と、思い込んでいる)、今となってはなんで俺なんかと仲良くしてくれるのかが分からん。
蓮は子供ながらに達観していた、見た目は3軍などと自分を蔑むが、実は自分の立ち位置とかあまり気にしていなかった、まわりは自分も含め子供、適当に話しを合わせておけばそれで良かった、だから楽だと感じていた。
感情も荒立てず、いつも対応は冷静、心は平静、意見、立場は中立、他人に興味がないと言ったらそれまでだが…
クラスの皆には、なんかオヤジくせぇ、とか言われてたがな、解せぬ。
思えばこいつらも、カーストって何?ってタイプだったな…周りが勝手に気を使って萎縮していたんだ、そんなこいつらに俺はなにも気にせず話しかけてたしな、そういう所が気に入られたのかもしれんな。
しかしそんな蓮も就職してからは、周りの人に少しは気を使うようになっていた。
少し会社を退職した経緯でも語ろうか、え?興味ない?まぁまぁ照れんなよ。
―――――
高校を卒業して就職してからは、同僚や上司に気を使う毎日。
何十年もの付き合いになるかもしれんからな、そりゃあ少しは気を使う。
20代も後半になると後輩に指示をする機会も増え、ただ作業するだけではなく、どうしたら効率が良くなるのか、現場の改善なんかも考えながら作業しなければならない。
改善が上手くいくと上司の手柄、よくやったの一言で終わりだ、まぁそれはいいんだ、俺は出世したくない派の人間だから、誰しもが出世したいとは思わんだろう、上の奴らはみんな、部下達ら出世する気がある前提で話をするけどな。
改善失敗した時の叱られようが気に食わなかった、改善は挑戦だ、人間なんだから失敗もする、しかしそこから得られるものもあるだろう。
同じ失敗を繰り返さないよう、過去の事例としてデータを残し、後世に引き継げば良いのだ。
仕事自体に不満はなかったんだ、だが人間関係がなぁ、あの時は酷かった。
―――――
課長に呼び出され、課長室で説教を受けている蓮。
「この数カ月間いったいお前は何やってたんだ!」
「すみません…」
改善だが?
「効率が上がらなかったら改善じゃないだろ!」
「は、はい…」
いやそうだけど、教育と言う観点からすればプロセスも大事だろ、それに勝手に目標を決めて、無理矢理改善やらせたのはお前だろうが。
「俺が若い頃はもっと上手くやったもんだ!」
「そうですか…」
当たり前だ、会社立ち上げ当初だったら改善ネタは腐るほどあっただろ、昔と今では求められる品質のレベルが違うのだ、改善され尽くした中で、機械は老朽化してきて毎月の目標値を達成するだけでも大変なのに、さらに効率を上げるための改善ネタを探さなければならない。
「お前に期待した俺が馬鹿だったよ」
「すみません、次は頑張ります…」
そうだな、それは否定せんよ、確かにお前は馬鹿だ。
「次の失敗は許されないからな?」
「……」
…
次の日の朝、朝礼で…
「え〜皆も知っているかもしれないが、神園の馬鹿が、今回の改善に失敗した、半年の時間が無駄になった…そもそも私が改善案の資料を見たとき、ダメだなとは思ってたんだ、だが神園に期待して私は黙っていた、必ず達成出来ると信じてな!」
なんのための上司なんだよ、ダメだと思ったならその時助言すればよくないか?ここは学校ではなく会社なんだぞ?本当に現場上がりなのか?このうんこタレ課長は。
「今回の失敗は、改善のメンバー全体の責任だと思え!次はない!結果を出せ!」
思えじゃない、そもそも全体の責任だろ、一人で改善作業をしていたわけじゃないんだから。
蓮は、次の改善を無断で放棄した。
どうせ怒られるなら、やらないで怒られたほうが、やって怒られるより労力使わなくて済むしな。
この辺りから蓮は人格が変わっていく、周りの人に気を使わなくなり、余計な会話はせず、仕事も適当になっていった。
それから3ヶ月、課長に呼び出され、真面目にやれと説教される毎日。
同じ現場で働いている同僚、後輩も課長に怒られ、蓮1人が悪いみたいな空気になり、白い目で見られ始めていた。
なんだこいつら、前回の改善はお前らが足引っ張ったんだろ、分かってねぇなぁ…まぁ、もうどうでもいいや。
当然失敗した時は優しく指摘していた、その時は足を引っ張られるなんて感情は無かったのだ、きちんとフォローもした、しかし限界はある、体は一つしか無いのだ。
失敗を糧にして乗り越えようぜ!って感じで、みんな一緒に頑張っていたと思ってたんだがなぁ。
そんな毎日を過ごしていたある日…
同じ現場内の、別工程で働いている一人の先輩が気を使って話しかけてきた。
そう、例のクソ上司だ、下の名前は知らないが、名字は君島。
「あの時は災難だったな」
「ええ、ほんとですよ、まぁ確かに失敗したのは悪いと思ってたんですけど、自分の評価が下がるからって、あんな言い方しなくても良くないですか?過程とかはどうでもよかったんですね…教育の概念、どうなってんすかね?」
「そうだな、確かにあれは言いすぎだ」
「結果が全てとか、頭おかしいんすかね?怖くて改善なんかやってらんないですよ」
「ははは、まぁ今は俺がリーダーになって、次の改善やってるから気楽にしてろよ、その代わり少しは手伝えよ?」
「君島先輩…ありがとうございます、手伝うことがあれば何でも言って下さい」
久々に会社でまともに喋った日だった、それから特に手伝いの要請もなく3カ月が経ち。
―――――
「おい神園!!」
は?なんだ?
いきなり課長に怒鳴られた、蓮が要領を得ない顔をしていたら。
「分かってるだろ!こっちに来い!」
えぇ…なんも分からんのだが?まぁいいか、いつもの説教だろう。
素直に従い、課長室に向かうと…
「なんだこれは!」
いきなり資料をぶつけられ、怒りで手を出しそうになったが、そこはぐっとこらえ、資料を見てみると…
改善報告書?…は?俺がリーダーになってるぞ!?君島さんの名前はどこにも無いじゃないか!
ページをめくり、資料に目を通す、その内容がヤバかった。
2ヶ月前から昨日まで生産した品物が全て不良品だと!?何をやったらこうなるんだ!?
この会社は腐っても大企業、そこそこ大きな鉄の部品を削り出し、組み立て、それを提携会社へ納品している。
しかもこの現場は、組み立てる品物の、心臓部とも言われる部品を削り出す製造をしていて、その単価は10万を超える、1つでも不良品を出せば、真因追求などの対策会議が開かれるほど、そんな部品を日当たり100個以上作っているのだ。
人件費や設備維持費用などを引いて、1つ辺りの純利益がどのくらいになるのかはわからんが、軽く見積もっても数億、不良品の代替えや生産遅れの挽回もしなければならない、下手すれば10億以上の損失になるぞ…
相手会社からの信用すらも失ってしまう…これが俺の責任だと?
「俺じゃない!」
「嘘を付くな!」
「君島さんがリーダーのはずです!」
「お前はそうやって他人に罪をなすりつけるのか!?」
なんだ?どうなっている?こいつは最初に改善案の資料に目を通すのではなかったのか?俺のときはダメだと思っていたと言っていたじゃないか!
「…っ!くそっ!」
蓮は走って部屋を出ていった。
「おい!待て!どこ行くんだ!」
うんこタレなどに構ってられるか!君島の野郎を探さないと!
―――
君島はいなかった、当日は体調不良で休みだったのだ、その後蓮は一生懸命弁明したが、職場に誰も味方は居なかった。
君島が根回ししたのか?…課長もグルか?
唯一仲の良かった後輩の蒼波(あだ名はあおっち)だけはこちらを見てオロオロしていたが。
大丈夫だあおっち、お前まで巻き添え食らうから大人しくしていろ。
その後蓮は、部長の前まで連れて行かれ、謝罪させられた。
結果、俺はそこまで怒られなかった、いちおう君島の名前を出し、自分は携わってないことも言ったが「そうか」の一言、その代わり課長は、管理者の責任だとめちゃくちゃ怒られていた。
部長も君島に確認する気もなさそうだな。
こいつもそこそこクソだな、まぁでもこのあと部長は部長で、社長に怒られるのだろう、管理者の責任なら自分も含めて悪いって事なんだからな。
なんだかいろいろと馬鹿らしくなってきた蓮は。
こんなに焦って何やってんだ俺は、らしくないな…よしっ、辞めよう!
そう決心して課長室に戻っていった。
―――
「明日までに反省文を書いて、必ず提出しろ!」
「うるせぇなぁ」
「は?」
「声がでけぇって言ってんだよ!そんな大きな声出さなくても聞こえてるんだよ!耳が悪いのか?悪いのは頭と顔だけで勘弁してくれよ、あんまり押し売りすんなよ、払い戻ししてもらうぞ?」
「なんだ貴様その態度は!」
「だからうるせぇって言ってんだろうが!確かにあんたは可哀想だ、部下の失敗の責任を負わなきゃならないんだからな」
「だから反省文を…」
「俺はやってねぇって言ってんだから提出する訳ねぇだろ!一切携わってないんだよ!その報告書を鑑識鑑定にでも出して、指紋でもDNAでも取ってみろよ!必ずその資料から、名前も乗っていない君島の指紋とDNAが無数に出てくるはずだ!間違いだったら鑑定代でも、損失した数億円でもなんでも払ってやるよ!」
「…」
課長は顔を真っ赤にしてだんまり、さすがに蓮の言葉を信じたのだろう、ここまで言って君島の指紋もDNAも出てこなかったら笑いものだから。
しかし君島が、俺から改善の手伝いをお願いされて、書類にも頻繁に目を通して助言していた、と言えば有耶無耶になってしまうが、それはそれで改善に携わってたって事になるからお叱りは受けるだろう。
まぁどんな結果になろうがビタ一文払う気は無いがな、だってやってないんだから。
蓮の心がだんだん荒んでゆく。
もうこんなクソ会社辞めるからどうでもいい、上司を見れば自分の将来が分かるというが、お先真っ暗だろ、もし出世してしまって、あんな上司のような人性を歩むくらいなら、若い今のうちに辞めるのが吉だろう。
「かみぞのさん!大丈夫でしたか?」
ビクっとした。
後輩の蒼波、男にしては小柄で、見た目だけは美少女だ、職場でも人気が高く、課長に怒られてるのも見たことがない。
本当に蒼波は、名前だけがイケメンの俺とは出来がちがうぜ。
「ああ、あおっちか、おう大丈夫だったぜ」
「よかったぁ、なんか怒鳴り声が聞こえてきたものですから、ごめんなさい、なにも力になれなくて」
くっ…なんて優しいやつなんだ、そんな潤んだ目で見つめられたら変な扉が開きそうだ、こいつの半分は優しさで構成されているに違いない、いや、この世に存在する優しさの半分は蒼波成分で構成されているのかもしれないな。
蓮は突然、蒼波の肩をガシッと掴み。
「ありがとう…お前が俺の心のバファ◯ンだったぜ、後は任せた!」
蓮はそう言うとくるっと振り返り、肩で風を切って颯爽と会社を後にした。
「えっ?えぇぇぇ!?待って下さいよぉ!まだ午前9時!仕事始まったばっかりですよ〜!」
後ろで蒼波が何か叫んでいたが、これ以上は危険だ、優しさの汁が目から溢れてしまう。
そしてアパートに帰って数時間悩み、ついには退職代行を依頼するに至ったのである。