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172話 北区最深層

よかった…ちゃんと転移陣だったな、それにしても…



初めて最深層に足を踏み入れたレン、余りにも何も無さすぎる大地に戸惑いを隠せないでいた。



「魔物は…遠っ、いるにはいるが…」



薄暗く息が詰まりそうな空気、緑など1ミリも見当たらず、ただただ平坦な荒れ果てた大地が続く世界、リスクリワードで魔物を検索したが、ヒットしたのはどれもこれも数十kmは先にいる。



「ただ大地を広げるだけじゃダメだろうが、はぁ…アレス、あんたは本当に脳筋だったんだな」



助言しておいて本当に良かったよ…



「ていうかこれ…普通の奴はどうやって帰るんだ?転移か瞬光がなかったら詰むだろ、そりゃ誰も帰ってこないはずだ、それだけ魔力を守りたかったんだろうな」



魔法陣は一方通行、そこには聖堂も何もなく、本当にただ危険な場所に放り込まれるだけという、限りなくシンプル、そして途方もなく凶悪なトラップであった。



「まったく、そんなに守りたいなら転移陣なんて作んなよ…転移」



レンはぶつぶつ文句をい言いながら、1番近い魔物がヒットした場所へ転移で移動―――



むっ、ふん!



ドゴッ!!



「ギュッ!」



なんだ!?



転移した瞬間、ピンポン玉程の黒い物体が高速で飛んできたのだ、レンは殴ってなんなく撃退したが…



「今ので死なないだと?結構強めに弾いたのに」

「キューキュッ、キュキュ…」



弾かれた黒い物体が低いような高いような、聞いたこともないような音を出し、鳴き始めた。



顔も強さも凶悪すぎる、普通のやつなら身体に風穴が空いて終わりだぞ、さすがの俺もこのスライムは好きになれんな…



その正体は小さな黒いスライムであった。



「キュッ、キューー!」



ドッ!



「オラァ!」



ガキンッ!



「硬っ!」



またも体当たりしてくるスライム、先程よりも強めに殴ったが、その体は先ほどよりも硬くなっており、またも弾かれるだけのスライム、並みの金属よりも硬くなっていた。



爆散させようとしたのに…瞬光。



ガシッ



「ギュ〜!ギュ〜!」



さすがの敵も光の速度には敵わない、レンは右手でスライムがっしり掴んで確保し、じっくり観察する。



「捕まえたぞ弾丸スライムめ…うわぁ、近くで見るとなおさらキモいな、同じスライムなのにスイムやライトとは全然違う、なるほど、お?なんか硬くなってきたな、まだ硬くなんのかよ」



どれ、力比べといこうか…むんっ!



スライムを潰そうと、徐々に握力を込めていく。



全然罪悪感が沸かねぇな、めっちゃ指噛んでくるし…



「ギュッ…ギ、ギ、ギ、ギギィー!」



潰れろ…



「ギ…」



パンッ!



たまらず弾け飛ぶ黒スライム、粉々になりサラサラと光の粒になって消えてしまった。



「結構力使ったな、貯蓄は…0か、もう魔物からの貯蓄は期待しないようにしよう、もう少し奥にいくか」



それにしても…最深層はどんだけ広いんだよ、この世界、もしかして大地の大半が最深層なんじゃないか?



[あの世界もそこそこ広くなった…]



昨日アレスが言っていた言葉を思い出し、広くした後の事をちゃんと考えろと、心の中で悪態をつき、次の魔物を探す。



―――



魔物を探しては転移で移動、軽くあしらい次の魔物へ…



「くそ、癖のある魔物ばっかり作りやがって…アレスめ、でも強くはないからそろそろ飽きてきたな…」



自分の強さは棚に上げ、散々ピンチは嫌だとか言いながらも、魔物が弱すぎて飽きてきていた、わがまま放題のレン。


最初は黒スライム、全身を甲殻で包んだ人型の魔物、抱きついてきて自爆してくる魔物もいた。



…あれは、壁?まさか、あれが魔力なのか!?



数時間掛けて移動し、ついにレンは世界の果て、魔力溜まりの場所まで辿り着く。



一回の転移で数十kmから数百km、それを何十回も繰り返して数時間…



「何万キロあるんだよ!広すぎるだろ!」



いや無理だ、絶対に普通の人間では辿り着けない、それにしても絶景だ…少し感動するぞ。



空から吹き降ろす、想像を絶する程の巨大な黒い魔力の滝、音もなく地面に消えていっている、そしてそれが左右にずーっと続いているのだ。



「なんで空から落ちて来てんの?魔脈は地面の中を通ってきてるんじゃなかったのか?」



ピカッ!



「うおっ!なんだ!?」



真っ白な光線のようなものがレンめがけて飛んてきたのだ、間一髪それを躱したレン、飛んできた方向をよく見ると…



「あそこからか、なにかいるな…全察知!」



数キロは離れてんのになんてエイムしてやがる…あんなに滝の近くにいるってことはラスボスってところかな?いいねぇやってやろう、その力試させてもらおうか、ふふふふ…



硬剣黒王を出して強めに魔力を注ぎ、敵めがけて瞬光での襲撃を試みる。



キィィン!



むっ!これに反応するのか!



敵は腕をクロスして斬撃をガード、なんと相手はアレスそっくりな人型の魔物であった。



「やるなぁ、結構本気で切るつもりだったんだがなぁ」

『ふん、人間如きに切れる体ではないわ』

「ほぉ、喋るか、アレスに声が似ているなぁ、本人ではないことは分かるが、なっ!」



キンッキンッ!



「おらぁ!」



ドカッ!



『ぐぅ!やりおる…人間風情が!』



斬りつけからの蹴り、斬撃よりも打撃の方が効きそうだと、レンは黒王を収納する。



「これなら、ガントレットでも作っておいてもらった方が、良かったなぁ!おらおらおらぁ!」

『う、ぐぬぬぬ、負けんぞ!どらららぁ!』



苛烈な殴り合い、レンは手加減していた力を徐々に解放していき本気モードへ、次第に敵が劣勢となっていく。



『化け物め!貴様本当に人間なのか!?』

「さてどうだろうな!ってか、お前に化け物呼ばわりされたくはないわっ!」



さて、頃合いか、このまま倒してもいいが…アレスが泣きそうだからやめておこう。



ここで、サッと距離をあけるレン、ここへきた本来の目的を遂行する。



『ふん、体力の限界か?残念だったな、所詮は人間か、我にはこの大量の魔力が…』

「神化…」



ゴゴゴゴゴ…



『は?な、なんだその力は…』



よし、跪いてはいないな、使うぞ…神威!



その瞬間、レンから放たれていた神の気配が更に強くなる。



ぐぅぅ…これは負担がでかい、ここで制限がかかるのか…しかしなるほど、神とは何故やりたい放題なのか、良く分かる。



神威を使用し何が出来るのか、自然と頭の中に刷り込まれてゆく。



《ふむ、いまだに立っていられるとは、さすがは最後の守り人だな》


『なんだ、神の気配!?そんな…人間ではなかった、のか?』


《俺は亜神、神とはついているが、あくまで神に迫る力を持った、人間だ…》


『う、嘘だ、人間じゃない!』


《お前こそ反応が人間みたいだな、魔物如きに恐怖の感情があるのか?》


『くっ、我は魔物ではなく守護者、この果ての大地を守る為に生み出された神の使者だ!』


《なるほどなぁ、ドワーフとかの超上位種みたいなものか、では使ってみよう…理を捻じ曲げ、我が命ずる、お前は守護者じゃない、ただの人間だ!》


『な、何を!?え?力が…我の、力が…』



ついに地面に跪く守護者、ここを守る使命を授かり数千万年、ここまで辿り着いた生物はほんの一握り、両手の指で数えられる程度、ここまで来られる者は一様に只者ではない、しかし、そんな化け物を全て屠ってきた守護者、初めて敗北の二文字が脳裏に過る。



『いったい我は何を相手にしているのだ…』


《神威は解除、ふぅ…これは疲れる、練習あるのみだな…こんなもんか、神化も解除》


『我の力が…守護者失格だ…』



あ、やべぇ、めっちゃ落ち込んでるやん、どうしよう…



「レン殿、やり過ぎだぞ」

「あ、アレス!?」

『我の…我の…存在意義が…』



突然レンの横にアレスが現れたのである。



「すまん、ちょっと神威を検証したくてな、ははは…」

「はぁ、おい!いつまで落ち込んでいる!」

『我の…はっ、はい?えぇ!!我が神よ!なんでこのような場所へ!?』

「すまんな、レン殿のお遊びが過ぎたようだ、許してやってくれ」

「ごめんな、少し自分の力を試してくてさ、別にそこの魔力をどうこうしようなんてこれっぽっちも考えてないんだよ」

『は、はぁ…しかしもう、我は力を失ってしまいました、守り人にはもう…』

「今すぐ戻すよ、神化…」

「いやレン殿大丈夫だ、此奴に再び守護者の力を…」

『お、おおお!力が!』



目の前でアレス同士が喋ってるって、違和感が半端ねぇな。



『ありがとうございます!』

「うむ、ああそうだ、後ほど守る場所が変わるからな、心しておくように」

『え、やはり先程の失態が…』

「違う、これはもう決まっていた事なんだ、このレン殿の助言でな、この世界を改変することにしたのだ」

『そ、そんな大変なお方でしたか、先程は無礼な態度をとってしまい、申し訳ありません』

「やめろやめろ、アレスと同じ顔で謝らないでくれ、アレスもなんで同じ見た目の守護者なんか、もう少し考えろよ」

「む、ならレン殿、考えてくれ」

「なんでそうなる!お前、頼り癖ついてんだろ!」

「だって…」

「だってもへちまもありません!」

『あ、あの…先程から、アレスとは?我が神の名ですか?』

「うむ!これもレン殿に付けてもらったのだ、お主もどうだ?」

『おお!それはいい!』

「だから!舌の根も乾かないうちに!」

「まぁまぁ良いではないか!ハッハッハッ!」

「じゃあお前、マルスな」

『マルス…我はただ今より、守護者マルス!感謝致します!』



残念ながら守護神の名前までは調べてない、すまんなマルス、これも戦神の名前なんだよ。



「ところで、アレスは大丈夫なのか?」

「何がだ?」

「いや、こんなに長く地上にいても大丈夫なのかなぁってな」

「ああ、別にここなら大丈夫だ、絶対人目がないし、近くにもいないしな、下手げに一般人が我に近付いたり、もし目にしてしまうと、魔力還りしてしまうからな」



えぇ…近付くだけで!?それって死ぬって事じゃん?リル達の前で神威使ってたらヤバかったんじゃないか?危ねぇ、流石に危険過ぎて試す気にもならんな。



「神様も色々大変なんだな」

「まぁな、最近は楽しませてもらっているよ、それにしてもレン殿は本当に強いな、たぶん神化しなくとも勝てていたであろう?」

「まぁな、あんたらほどじゃないが、でもそういうのは、あんまり本人の前では言わんほうが…」

『レン様…大丈夫です、貴方様が途方もない方だと認識しておりますので』

「途方もないねぇ、最近それ系の言葉、すんなり受け入れるようになってきちゃったんだよなぁ」

「実際地上の生物からすれば途方もないのは間違いないからな、まぁせいぜい頑張れ、じゃあ我は改変準備の続きがあるのでな、失礼する」

「迷惑かけたな」

「少しでも恩を返せたならよい、昨日の覚醒など、いずれ到達するものを少し早めたに過ぎんからな、この場所ならばいつでも来れる、助けが必要なら呼んでくれ」

「分かった」

『アレス様、ご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ありませんでした』

「うむ、マルスも精進するようにな、ではまた」



ヒュン…



「はは、お前には厳しいんだな」

『良いのです、至らない点があるのは事実』

「そうか、ストイックだな、それじゃあ俺も帰るわ、たまに来てもいいか?もう少し神威に慣れておきたいんだよ、どうせ暇だろ?」

『そうですね、お待ちしております』

「ありがとう、またな」



転移。



―――地球へと戻ってきたレン



もう夕方か…



ツェファレンは1日30時間、地球は1日24時間、ツェファレンで4日過ごすと、地球では5日経っている計算になる、進む時間は同じになったが、1日の長さは変わっていないのだ。


地球での1年はツェファレンでは292日、ツェファレンでの1年は地球での625日、約1年9ヶ月弱だ。



「合わせたほうがいいな、アレスに言っておくか、こっちの年明けと、あっちの改変を合わせて、暦も合わせてもらうか…地球は星だから、ツェファレンに合わせると最悪崩壊するから無理だろうし、準備が間に合えばいいけど」

「レン?何をぶつぶつ怖いことを言っているんだ?」

「季節に合わせて雪を降らせたりとか出来るのでは?たぶんツェファレンだったら可能だろ…」

「おい!レン!」

「え?」



あ、やべっ、カリンに聞かれちまった…



「いや、でも地球人に言うのはセーフだよな…」

「なんだよその規模の話は、無理に話さなくてもいいぞ?」

「別に大丈夫だよ、ツェファレンの神がな、世界を変えたいんだってさ、だから少しだけ助言してきたんだ」

「ほぉ、具体的には?」

「世界を発展させたいって、あのまま聖堂に頼りっきりの移動手段は発展を妨げるのと、危険区域を無くして、世界のあちこちにダンジョンを作って、危険区域は無くせって言ってきたよ」

「魔物どもはダンジョンへお引越しか?」

「それは分からん、神様次第だな」

「それでこっちの年明けと合わせるとか言ってたのか」

「ああ、両方で同時に祝えたほうがいいかなって思ってな、どうせツェファレンは星じゃないんだ、神が適当に決めたんだろうし」

「あたしも賛成だ、どちらかの世界へ行って新年を祝えばいいからな、その方がありがたみも倍だと思う」

「決まりだな、あとでアレスに伝えよう」

「はぁ、しかし気の長い話だな、内容がまさに神の視点だ」

「そうだな」



いくら危険区域を無くしてダンジョンを作っても、人間が爆発的に増えるわけではないからな、発展するのは数十年か数百年先…もしくは数千年規模の話だ。



地球にいる主要メンバーに同じ事を伝え、ついでに自分もとうとう亜神になったことも伝えた、驚く者、讃える者、白い目で見るもの様々だったが、レンは、まだ亜神であって神ではないと言い張り、日常へと戻っていく…



そしてそれから約2ヶ月…年が明けるまで一週間もなくなった時、ギエスティに思わぬ来客者が現れた。

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