171話 到達者
神からアドバイスを求められ、非常に気を使ってしまったレン、その日は1日ゆっくりして次の日…
「お兄ちゃんおはよ~」
「おはよう蓮花、眠そうだな」
「昨日は刻音の鍛錬に付き合ってて遅くなっちゃったんだよ〜」
「刻音はどうなんだ?」
「そろそろ深層難易度に行ってもいいかなぁって思うよ」
「そうか、まぁ慎重にな」
「うん♪」
「やっぱりツェファレンへ行ってレベルを上げられる、っていうアドバンテージがあるから成長が早いよな」
「それでもなんか遅く感じるのはなんでだろ…」
「そりゃあお前が特殊なだけだ、可憐も聖愛も、両親もだ、かなり特殊なステータスなんだぞ?刻音くらいが普通なんだよ」
「やっぱりそうかぁ、扱える魔法の属性も一つだけだって言ってたし、つくづく私達は普通じゃないんだねぇ」
「何を今更、神の卵なんて特殊も特殊だろうが」
「へへっ、でも…」
「なんだ?」
「忙しい!調子に乗った冒険者が多すぎる!」
「そこはまぁ、手分けして頑張れ」
「うぇぇ〜、まぁ頑張るけどさぁ…刻音に貸与はしないの?」
「おい、サボろうとしてんな?別に貸与しないんじゃない、刻音から返してきたんだ、今はその時じゃないとか言ってな、蓮花も少しは見習って…」
「さ、さぁて!今日も頑張っちゃうぞー!行ってきま〜す!」
「…」
刻音も自分が凡人だと分かってるんだろうな、このまま貸与に甘えてたら、蓮花達に追いつけないと相談してきたときは感動したよ。
レイカ達もギエスティに行っちゃったし、ステータスの検証でもするか…転移
―――カインド村、村長宅前
「お?おはよう、朝からどうした?」
ちょうど玄関先にいたフローラがレンに気付いて挨拶をしてきた。
「おはよう、ちょっとな、村長だけには伝えておきたい事があって…」
シュル!
「む…」
「お、おい!フラウやめろ!」
ガシッ…
「おい、馬鹿っ花…なんのつもりだ?」
「レン、すまない…勘弁してくれ、悪気はないんだ」
ダーク・パプリオ、ティルが育てている花の魔物が、ツルを伸ばして攻撃してきた、一般人や並みの冒険者くらいでは真っ二つになるほどの強度と速度であった。
攻撃を軽く掴み、花を睨みつけていたが…
『まだ伝えるな…』
『…この声、アレスか?』
『…』
「レン?その…殺さないでもらえないだろうか…ティルが泣いてしまう」
なるほど、まだ内緒って事か…
「は、腹!減ってないか?なっ?」
「フローラ、予定が変わった…」
「予定?」
「ああ、変わったというか、伝える事がなくなった…」
流石にこのままじゃ不自然過ぎる、少しだけ匂わせておくか…
「いや、そうだな…フローラに伝えておこう、町作りの計画はしばらく延期になる、その理由は近々分かるだろう、村長にそう伝えておいてくれ」
「お、おう…」
「じゃあな」
「レン、怒ってないのか?」
「ん?なんで?」
「いや、その…うちのフラウが攻撃を…」
「ああ、大丈夫だよ、一瞬攻撃かとも思ったが、さっきのはスキンシップしてきただけだ、フラウと言うのか、いい名前だな」
「ティルが付けたんだ、レンも水をやってくれないか?」
「水ね、分かった」
バシャー!
ファサッ、ファサッ♪
フラウがクネクネしだした。
「おお…めっちゃ気持ちよさそうにしてるな」
「こんなに動いたのは初めてだ、さっきの攻撃にも驚いたが」
「さっきのはスキンシップだって、よし、こんなもんか?じゃあ俺はやる事があるから行くよ、ティルによろしくな〜」
「おう!っていやいや、ティルは今地球の方にいるから自分で言え!」
「ははっ、分かった〜、あ…昼飯食いに来ていいか?」
「はぁ?まぁ、別にいいぞ、その分を作るんだからちゃんと来いよ?」
「大丈夫、今日は例の場所へ鍛錬しに来ただけだから、ちょっとそこまで行ってくるだけなんだよ」
「そうかよ、施設を壊すなよ?」
「善処する」
「壊す可能性を残していくな!」
「はいはい」
「ったく、鍛錬って…どれだけ強くなれば気が済むんだよ…」
最後の呟きはレンには聞こえなかった、どうせ気なんか済まないんだろうと分かっているフローラ、そんな事よりも昼飯はどうするかと、少し顔を綻ばせながら、フラウの立派に育った紫色の花びらを優しく撫でつつ、空いている方の手に装着している時計を口に近づけ…
「おいセイス!なんか美味しいもん狩って来い!」
『えぇ〜!?いきなりなんなの!?』
とばっちりを受けるセイスであった。
―――元焼けた大地
そこには立派な鍛錬施設が建築されていた、中へ入ると壁と天井が黒いツルツルした材質で作られた、大きな部屋になっている、地面は土のままで、あちこち焼けたあとや抉れている箇所、破壊された石や木で出来た的、壊れた武器なんかが散乱している。
これぞ、ザ・鍛錬場って感じだな、この雑な感じが男心をくすぐるぜ。
「ふむ、壁と天井は少しだけ補強しておくか」
土魔法で壁と天井を強化していると…
「あ、レン様ぁ〜!おはよ〜!」
「お?リルか、朝から鍛錬か?」
レンに気付いたリルが、嬉しそうに小走りで近づいてくる。
「相変わらず厨二チックな見た目だな、素晴らしい…」
片目を隠したショートボブ、前にも増して忍者衣装に磨きが掛かっているが。
ん?でもなんか違和感が…黒髪になってるからか、だから前にも増して忍者っぽいんだな、こいつ、日本で髪染めて来やがったな?
「黒髪似合ってるぞ」
「へへっ、だろ?レン様いらっしゃい、こっちで鍛錬するなんて珍しいな、あ、鍛錬だよな?私は鍛錬だ!」
「そうだ、みんなにはちょっと内緒でな」
「え、ならば私も出たほうが…」
「大丈夫だよ、別に内緒であって隠しているわけじゃない」
「どっちも一緒じゃないか?」
「確かに…」
「まぁいいよ、レン様の中で何か線引があるんだろ?」
「そうだな、そこまで隠す気はないって意味で内緒だ」
「それにしても珍しいな、レン様にもそんな内緒にしたい鍛錬があるなんて」
「まぁな、昨日神様に体をちょっと改造されちまったんだよ、検証しておかないと何が起こるか分からんからな」
「怖ぁ、なんだよそれ…」
「まぁ、この施設を壊さないようには頑張るよ」
「見ててもいいか?」
「いいぞ」
「今日はニールも来る予定なんだけど」
「おお、我が弟か、一緒に見学していろ」
「やった♪」
「では始めるぞ」
まずは称号だな…ステータス
称号
到達者
[亜神]
…
レンは亜神の文字をじーっと見つめ続ける。
「レン様どうした?」
「いやちょっとな…きたっ」
「リル師匠!遅れて申し訳ありません!」
称号の詳細説明が開かれたと同時、ちょうどタイミングよくニールが鍛錬場へ入ってきた。
「さすがレン様だ、よくニールが来たのに気付いたな」
「違う、そっちじゃねぇ、まぁ気付いてはいたけど」
「あ、レン兄さん!お久しぶりです!」
「よう、元気そうだな弟よ」
「なにをしているのですか?」
「ちょっと、能力の検証をな」
「運が良かったなニール、お前も一緒に見学だ」
「検証ですか、分かりました師匠、兄さんよろしくお願いします」
ニールはタタタッと駆け寄り、リルの隣に座った。
さて…
到達者
[亜神]
神に並ぶ、または迫る力を持つ者へ与えられる称号。
(いずれ神になれる素質を秘めた、現在存在している神、三柱以上に認められた生物のみに与えられる)
(神の消滅、または敵対、無関心により、認めし神が二柱以下になった場合は一時的に無効)
(秩序に従い、生物の運命を司るべし、規律を遵守できない者は無効)
称号特典
①種族を亜神へ変更(魔力を使用したあらゆる事象からの干渉無効)
②至上技能獲得
神化:一時的に神と同格の存在へと昇華する(全ての異常状態からの回復、あらゆる事象からの干渉無効、神威使用可能状態)
神威:魔力の上位互換、使用すると、理の枠から外れたあらゆる事象を再現、行使する事が可能(使用時は規律の遵守に注意)
③可能な限りの好きな技能をリスク無しで一つ創れる(場合によっては要相談)
技能を創りますか?
尚、技能創造を実行後、この説明は2度と開けなくなります。
う~む、相変わらずこのステータス画面は謎だよなぁ、神が人間に与えた唯一の恩恵だとかティアが言っていたが、確かにそうだよな…地球人だってこれを開けるようになっただけで激的に変わったし、1番のチートはステータスなのかもな。
レンは以前、魔力を飽和させた日、アイチューブで全世界にメッセージを送った時の事を思い出していた。
誰かが特別じゃない、皆が全員特別な世界を、か…
おっと、考え込んでた。
う~む、今回はけっこうシンプルだな、内容はガチめにヤバいけど…さて、何を創ろうか。
正直、自分自信をこれ以上強くするすべが思いつかない、出来ない事がなさ過ぎる…逆に手加減とかか?いやいやそんなのはリスクリターンで創れるだろ…
はぁ…あれにするか、リスクリターンで創ろうとすればかなりの激痛が予想されるしな、下手すりゃ死ぬかもしれんし、なんかルードを思い出すから嫌だったんだが…
レンはとある技能を創り、ステータスを閉じた。
すんなり創れてよかった、要相談って誰にだよ…
「ふぅ…さて、リル、ニール」
「なんだ?」
「はい、なんでしょう」
「ちょっと手伝ってくれ、ついでにお前達の鍛錬にも付き合おう」
「おお!?久々だなっ、やったぜ♪レン様よろしくお願いします!」
「俺は初めてですね、よろしくお願いします」
「おう、そうだな、まずは…お前らはそこで立ってるだけだ」
「「??」」
2人ともよく分からなかったが、取り敢えず言われた通りにレンを見つめたまま立っている事にした。
よし使うぞ、神化…
「な、なんだ?」
「地面が…え!兄さん!?」
地面が小刻みに振動、レンの髪が白くなっていき、そよ風に煽られるようにサラサラと揺れだした、以前ティアがルードに罰を与えた時のように眼球が瞳孔だけになり、僅かに青白く光る。
《なるほど…これが神化、あの時のティアも何かしらの技能を使ってたんだな…ん?どうしたお前ら》
2人が地面に膝をつき、頭を垂れていた。
「か、体が勝手に、レン様、それはなんだ、声が直接頭に…」
「ああダメだ…兄さん、動けないです」
《えぇ…まだこれからなのに》
しょうがない、後で魔物相手に試すとしよう、解除。
フッと元のレンへ戻る。
「はぁ、はぁ…恐ろしかったです…」
「いや、恐ろしいというより、なにか神聖な圧を感じたぞ」
神化だからな、全く体への負担もないし、これは使えそうだな、だいたいこういった切り札的な技は、時間制限とかがありそうだが、つくづく俺はテンプレから程遠い存在らしい、俺はピンチを嫌うからな、ちょうどいい、あとで神威の使い勝手も試さんと。
どれだけ規格外の力を手に入れようとも、決して油断はしないレン、物語内における登場人物達の油断が招く、ギリギリの戦いなどまっぴら御免というスタンスで突き進むのみであった。
ティアが、カノンとの戦いを勧めないのも気になる、腐っても元神だ、まだまだ安心はできん…
―――
自分の検証はさっさっと終わりにして、リルとニールを鍛えて、昼食。
「レン殿が来てるとはなぁ、どうだ?俺が狩ってきた牛は」
「ご馳走さま、めちゃくちゃ美味しかったよ、金色の牛なんて何処にいるんだ?」
「今年になってから、稀に北の深層に現れるようになったんだよ」
「へぇ、深層で狩りなんて、セイスも成長したんだなぁ、フローラも完全に地球の料理をマスターしてるし」
「ふっ、わたしは豊穣の女神だからな」
「なんだよ、からかい甲斐がないな〜」
「ふん、草神の考えなんぞ手に取るように分かるんだよ」
「草神て…グレードアップさせんなよ」
「草の神如きが豊穣の神に敵うわけないだろうが」
「へぇへぇそうですかい、さてっ、魔物がいなくなる前に、深層で狩りでもしてくるかぁ」
そう言うと、席を立ち村長宅を出ようとした。
「気を付けてな、レン殿」
「おう、じゃあまたな」
「おいちょっと待て」
セイスは気付いてないが、フローラは気付いたか…
「魔物がいなくなるとはどういう…」
「フローラそこまでだ、それはこの世界の神との約束で言うことが出来ない、諦めて時が来るのを待て、別に悪い話じゃないから」
「くそっ、変な置き土産を、気になってしょうがないだろうが」
「くくくくっ…やられっぱなしは性に合わないからな、じゃあな、飯ありがとう、美味しかった」
「ふんっ、次は美味しい草を用意しておいてやる!」
「美味しければなんでもいいさ」
「減らず口を、何もない所で足引っ掛けてコケろ!」
なんだよその微妙な憎まれ口は、本当にありそうだからやめてくれよ…
余りにも微妙過ぎて言い返そうとするも断念し、苦笑いで去っていくレン、フローラから視線を切る瞬間、得意満面な顔になっていることに気付き、少しイラッとしながら…
次は絶対言い負かす…
くだらないことを考えながら聖堂へ向かって歩いていく、特に急いではいないので街並みを眺めながら、デンへ通話、今しばらく町作りは待ってほしいと伝えながら、聖堂へ到着。
「さて、そろそろ行ってみてもいい頃合いだろう…」
中へ入り真っすぐ進む。
「最深層…どんな場所なのか楽しみだな」
聖堂内の正面、一番奥に設置されている最深層への魔法陣、レンは特に躊躇うこともなく、その上に乗ってみた。
どうせまもなくツェファレンは変わるので、いくら魔物を狩っても問題はないだろうと判断したレンは、神化の力を試すのにはちょうどいいと、北区の最深層へ向かってみることにしたのだ。