16話 技能考察
森の中に1人で立っている。
よし、記憶は残ってる、ティアが頑張ってくれたんだな。
そのままだとツェファレンに戻るとき、ティアとの記憶が消えることになる、それを阻止するのに力を注ぐので、違う場所への転移はさせられないとの事だった。
何だよ、ちょちょいっとなんて言ってたけど、そう簡単な事じゃなかったんじゃないか。
しかしティアめ、最後にあんな顔しやがって、強がらないで寂しいなら寂しいと言えばいいのに。
現在いる場所はもちろんツェファレンのあの森の中だ。
「あの場所か、相変わらず深い森だな」
さて、どっちに向かうか、あいつらは転移で移動したからどっち行けばいいか分からんのだよな、街が近くにあればいいけど。
ちなみにレンは、この森に魔物が生息していることを知らない。
「一回木の上に登ってみるか、登れるか?」
この辺で一番太い木を見つけて、この木に登るかと決め、体を屈めて思いっきりジャンプする、太めの枝を掴んでよじ登る、同じ要領でどんどん上へ行き。
「おお〜、すごい景色だ、この木は正解だったな!」
他の木より頭一つ高かった、周りを見渡せば同じような高さの木がポツポツと見えるが、おおよその景色は見渡せる。
「う〜ん、どっちも森、森、森しかないな」
どうするかなぁ…
ん?あれは?煙?
遠くに、一直線に空まで伸びる白い煙が見える。
「誰か焚き火でもしてるのか?とりあえず行ってみるか」
さすがに飛び降りるのは怖いのでゆっくり慎重に降りる。
結構簡単に登れたな、さすがは異世界の謎力だ、さて、大体あっちの方向だったな。
小走りで大体の場所を目指して移動していると。
ズシン…ズシン…
「グルルルル…」
ん?魔物か!?
この森は魔物がいる、ということは、中心部よりかなり離れてる可能性があるな、あいつらは中心の人間族の街に行ったはずだ。
さて、浅層だったらいいが、魔物の強さはどうだ?
息を殺して、木の陰から唸り声のほうをそっと覗く。
体長10mほどの鹿みたいなやつがズシンズシンと音をたてて歩いてる。
口に咥えてるのは…人間か?いや、口から垂れてる血が紫色だから違うな。よしっ…
レンは逃げ出した。
ヤバいヤバいヤバい!なんだよここは!
普通ゲームとかなら最初は弱い敵から始まるんじゃないのかよ!
あんな肉食のデカい鹿とか、勘弁してくれ、鹿がたてていい唸り声と足音じゃねぇだろ。
あんの鼻くそめぇ、こんな所に置き去りにするなんて、絶対俺を殺しにきてんだろ。
レンは足音をたてないようにして、鹿から遠ざかる方向へとにかく無我夢中で進む。
ん?あれは、岩か?
大きな黒い岩肌が、少し先の木々の隙間から見えてくる。
目の前までいって見上げるレン。
てっぺんが見えんな、左右にもずーっと続いてる、岩山だなこりゃ、行き止りか?
岩肌に沿って歩いていると、少し先に洞穴を見つける。
洞窟か?
中をそっと確認し、生き物の気配はないと判断したレンは。
鹿よりはましだな。
そう思いゆっくりと中に入っていった。
「あぶねぇ、いきなりティアと再会するとこだったぜ、絶対勝てないだろあれ」
くそっ、ご都合主義はどこいった、ゴブリンとか出てきてもいいんですよ?
異世界の容赦ない洗礼を受けて、すこし精神的に疲れたレンは、岩肌に寄りかかり腰を落とす。
まずは水と食料、だな。
どうするか…あんまり派手に動くと魔物に察知されそうだ。
役に立つかどうかはわからんが、リスクリワードの事を考えるか、貸与は今必要じゃなさそうだしな。
とりあえず使ってみるか、発動するのか?
「リスクリワード!」
……
だめか…
何か対象がないと駄目なのか?とりあえず目の前の岩に対して。
「リスクリワード!」
【0.01】
目の前に半透明の数字が出てきた。
レンは過去に調べたことを思い出す。
リスクは「損失」リワードは「報酬」、株や通貨の取引での勝率を維持するためには、とても大切な概念だ。
この場合の勝率なのだが、1回の取引で勝つか負けるかの話ではなく、複数回の取引で、利益をプラスにするという事。トータルで勝てるかどうか…
そう、問題は負けることもあるということ。
これをどう活かせと?
よーし、今回は負けたけど次は勝つぞー、それでプラマイ0だー♪
いや通用するかよ!鹿に食われて終わりだよ!
冷静になれ俺!
まず、リスクリワードということで考えれば、0.01とは比率100:1のことだ、損失100:報酬1
俺が仮に、この岩に喧嘩を売って、100回連続で勝って報酬をトータル100得ても、101回目で負ければ、全ての報酬が0になるということになる、普通のリスクリワードとしての考えならだが…
これが岩と俺の力関係を示していたら、どうだ?
普通だったら喧嘩は売らない。
この場合の報酬とか損失が何を指すのかだよなぁ。
体力か貯蓄か?まさか負けたら貯蓄が減る、なんてことになったら泣くぞ。
まぁ岩に喧嘩売っても割に合わないことはわかった。
ってことは、魔物に使えば多少はリスクの管理ができるか?鑑定みたいな能力なのか?
数字が仮に【1】とかだったら1:1だから報酬とリスクが同等…ほんとにそうか?
この際、損失と報酬は置いておいて。
敵との戦いでの勝てる確率を表しているものなら、50%の確率で勝てるということ。そんな事があるのか?これはゲームではなく現実なんだぞ?
では、力量が拮抗してますよという意味だったら?これなら、頭の悪い魔物相手なら、知能の差で勝つことができそうだ。
リスクリワードで相手の力量を測り、勝利を重ねる。
少し地球でのリスクリワードと捉え方は違うが、掛けているのはお金じゃなく自分の命なんだ、少しは意味も変わるだろう。
まぁ、ここは異世界、地球の常識が通用する場所じゃない、だからよく考えろ俺、じゃないとここでは生き残れないぞ…
そして。
「リスクリワード」「リスクリワード」「リスクリワード」―――――。
考えすぎたレンはとうとう頭がパンクして、狂ったようにリスクリワードを使いはじめた。
「ふむ、わからん」
そして何もわからなかった。
どっちを向いても全て【0.01】か…そうだ、とりあえず魔力の確認をしてみるか。
魔力 5612/6122
510減ってるな、何回くらい使ったかわからんが、コストは10くらいか?
すると、じわじわ魔力が回復し始める。
おお、数秒で1回復してるぞ、さすがは魔体特化のステータスだな、魔脈とやらが近いのか?コストは気にする必要なさそうだから気にせず使えるな。
次は、生き物を探すか?
重い腰を上げ、岩穴のさらに奥に向かっていく。
元の方向にはいきたくないからな、鹿に食べられちゃう。
しばらく歩いていると、先に明かりが見えてくる、そして微かにザーっと水の流れる音。
おぉ?川かっ!岩山の反対に出られるのか?完全にトンネルじゃないか、自然のものとは思えんな。不用意に通るのはやめよう。
ま、戻る気はないけど。
慎重に穴の外を確認すると――――。
川だぁーー!
綺麗な澄んだ川が流れていた。
そして絶句して固まるレン。
うさぎじゃ、うさぎがおる…
川辺で数十匹のうさぎ達が水を飲んだりじゃれ合ったりしていた。