168話 家族の絆
レイとマリーの家族問題は無事解決して、ギエスティへと戻ってきたレン、通話でレイカの居場所を聞き、宿内にあるレイカ専用の部屋へ、足取り重く向かっていく。
「久々に来たが、なんかこの部屋…グレードアップしてんな」
前に刻音達を連れてきた時よりも、いかにもな部屋になってるんだが、なんだよこのステータスみたいなモニターは…
半透明な薄緑色のモニターが無数に浮いている部屋、ダンジョンや宿の調整なんかをする部屋だ、レイカはデスクに座り、目の前にある2つの水晶に手を乗せて目を瞑っていたが、レンの気配に気付いて目を開ける。
「お帰り〜♪2人はどうだった?」
「ああ、無事家族のもとへ送ってきたよ、話も分かってくれた、マリーの親に至っては全て思い出してしまった、そういう才能と技能をたまたま持っていたらしいな」
「え、そ、そう…」
レイカは何かを察したのか少し元気なく返事を返す。
「レイカ…無理はしなくてもいい、でも…良かったらでいいんだが、俺にお前のことを教えてくれないか」
「ははは…マリーから聞いちゃった?」
「そうだな…少しだけ聞いたよ」
「20年以上も前の事なのに良く覚えてるなぁ…」
「俺に出来ることはあるか?」
「心の支えになってくれればそれで十分だよ」
「任せろ、俺は仲間を絶対に裏切らない」
「心強いね…」
しばしの沈黙…レンは無理に聞こうとはせず、レイカが心の整理をして、自ら話し始めるのを真剣に待つ。
「別にね、大した話じゃないんだよね、よくある話だよ…造一族は物作りの家系だって言ったよね?」
「そうだな」
「もちろん私もそんな家で育ったから、小さな時から物作りには興味もあったし、色々な教育もさせられたんだよね」
「そうか…」
「お父さんはそこそこ大きな会社の社長さんでね、お母さんは副社長、もちろんお爺ちゃんやおばあちゃんもそうだった、そんな家に生まれたのは私と妹、あと兄の3人兄妹なんだけど…私はね、家では出来損ないだったんだよ…」
「そうなのか?そうは見えないけどな」
「はは、ありがとう、それでね、私達が子供の頃から両親は、誰を会社の跡継ぎにするかって、競争させていたんだよ…」
「はぁ〜、何となく察したよ、お前…跡継ぎには興味なかったろ」
レイカはそう言われ、少し驚いたような顔をする。
「さっすがレンだね、分かってるじゃん、そうなんだよ、私はね、物作りが出来ればそれで良かったの、それだけで幸せだったんだよ、やる気がないように見えたんだろうね、両親からはそんなんじゃ立派な大人になれないぞって、兄妹からは邪魔者扱い、お爺ちゃんとお婆ちゃんからは本当に両親の子供なのかと疑われたり、いや…あれは疑われたというよりわざと貶してたんだろうね、大人になった今なら分かるよ」
「味方がいなかった…か」
「そういう一族なんだよあの家は、高校2年までは自分の殻に閉じこもってて、引きこもりたかったけど家には居場所がないし、学校へ行けばヘンテコな物を作る陰キャ呼ばわり、子供だったし家出もする勇気もない…高校3年になってマリーとレイが仲良くしてくれて、クラスにも少し馴染めたんだ、2人には本当に感謝してるんだよ」
「そんな折に異世界転移か…」
「その頃は転生だと思ってたからね、運命だと思ったよ、マリーとレイには悪いけど、やっと家族から解放されると思ったら嬉しくてどうしようもなかった」
「なるほどなぁ、だからルードに目をつけられる程の才能を開花させてしまっ…」
いや待て…ルードは百年前くらいから地球人に目をつけていたはずだ…
「どうしたの?」
「クソッ、もっとルードと話をしておけば良かった」
「なになに?なんでそこでルードなの?」
「レイカは元から狙われてたかも知れないって事だよ、地球にいた時からな…」
「え…」
「カノン辺りにレイカの素質を見抜かれていて、ルードに指示、洗脳を掛けやすくすくするために、レイカを陥れたのかも知れない、家族を精神操作かなんかしてな」
「そんな、じゃあ家族のあの態度は…」
「まぁ、もうルードはいないし、あくまでも予測でしかないけど、レイカ…俺もツェファレンへ転移させられたあの日、家を出ていけって母ちゃんに怒鳴られてるんだよ」
「あのお義母さんが?そうなんだね…」
「「…」」
流石は元神なだけあってカノンはリスクリワードに引っ掛からないから探し出せないんだよなぁ、見つければ無理矢理聞き出すんだけど。
「私、行ってみるよ…」
「家族のところへか?」
「うん!ダメだったら…まぁしょうがないよ、大丈夫!だってレンがいてくれるしねっ♪」
「おう、当たり前だ、旦那だからな」
「にっひひひ♪」
元気になって良かった、よしっ、勝負だ造一族!
「どうする?今からいくか?」
「そうだね、いつまでもモヤモヤしてても埒が明かないから、済ませちゃおっか♪」
「じゃあ行くか」
「うん!」
―――
再びレイカ達の地元へ向かったレン達。
カリンに連絡をして、今度はレンとカリンとレイカの3人だけで戻ってきた。
「レイカ、本当に父さんや義母さんは連れてこなくても良かったのか?」
「うん、カリンごめんね、心配かけちゃって」
「何を言ってるんだ、お前らしくもない、もうレイカもあたしの家族だろ、なんでも相談すればいい」
「相変わらずカリンは男前だなぁ」
「おい、褒め言葉になってないぞ」
「もしかして、あの建物か?」
レイやマリーの実家よりも少しだけ都会寄りにあるらしく、周りはかなり拓けていた、飲食店などが立ち並ぶ大通りを歩いていると、一際目立つ大きなお店があり、建物の正面にはデカデカとInterior shop【TsUkULI】というおしゃれな看板が…
いや、普通に知ってたよ、結構有名な家具屋じゃねぇか。
「有名な家具屋だよな」
「あはは…そう、あれがお父さんの会社だよ」
「そのままの名前なんだな、なんで俺は気付かなかったんだ…」
「いちおう創業100年くらいの老舗なんだよね」
100年、ね…偶然じゃないんだろうな。
「なるほど、一族で代々引き継いできたのか、そりゃあ子供の教育にも気合が入るってもんだな」
「あたしも知っているぞ、一人暮らしする時には世話になったものだ」
「凄いねカリン、それなりに高級家具屋だよ?」
「いちおう我が家も地主だからな、それなりに蓄えはあったんだよ」
「全て生産は国内でしてるからどうしてもお値段がねぇ、お店は全国に20店舗くらいで、生産工場は関西と関東に1工場ずつあるよ、関連会社を含めるとかなりの数になるよね」
「でかっ、大企業じゃねぇか」
「そうでもないよ、従業員も1000人に満たないしね、年間の売り上げもせいぜい100億くらいだったし」
「いや、確かにギエスティの稼ぎを考えれば大したことないかも知れないが、それでも十分だろ…知らんけど」
「実家は近くにあるのか?」
「あれだよ…」
お店から少し離れた所に、水色のビルのような建物が建っていた。
「あのビルが?派手だなぁ」
「そう、いちおう10階建てだから高層ビルにあたるのかな?住宅兼オフィスって感じだね、最上階が造家の住宅になってるよ」
「はぁー、レイカもお嬢様だったんだなぁ」
「ふふふ、まぁ一般的にはお嬢様だよね、その自覚はあったよ、でもみんなが思うほどそんなにいいものじゃないよ…」
「「…」」
まぁ、そうだろうな、はぁ〜、金が絡むとなんで人間はそうなっちゃうんだろうなぁ、お店を守るプライドよりも、子供の心を優先しなきゃダメだろ、人間は別に使命を持って生まれてきたんじゃない、せめて物作りを楽しいものと思わせなきゃ、この世に生まれてきた甲斐がないだろうよ…
「レイカ、今は楽しいか?」
「レン…うん♪とっても!」
「そうか、なら大丈夫だな、いくぞ、殴り込みだ!」
「「おー!」」
ビルの入り口から中へと入って行く3人。
「いらっしゃいませ♪」
建物に入って右側に立派なカウンターがあり、綺麗な受付嬢が笑顔で対応してくれる。
「少し聞きたいのだが」
「はい、どちらに御用ですか?」
「どちら?」
「フロア毎に担当部署がございますので、なにかお約束とかは?」
「ないな」
「そうですか…それで聞きたい事、と申されますと?」
「ここの経営者、造家の方々と面会したいのだが」
「はぁ、アポなどは…」
「とってない」
「そ、そうですか、少々お待ちいただけますか?」
「分かった」
手元にある電話の受話器をとり、何処かへ内線を繋ぐ受付嬢。
「あ、お忙しい所申し訳ございません、ただいま社長にお会いしたいという方々がお見えになりまして…はい、はい…あ、すみませんがお名前は…」
「レンだ」
「あたしはカリン」
「レイカです」
「え〜っと…え、レン様…カリン、様…レイカ様!?あ、確かによく見れば…ああ!すみません!は、はい!そうです!その3人がお見えに、はい、はい、今こちらに…は、はい!かしこまりました!」
ガチャ…
「お待たせしてしまい大変申し訳ありません!すぐに社長が参りますので、それまで待合室でお待ちいただけますか?ご案内致します」
「ありがとう」
受付嬢の目は、それはもうキラッキラである。
やっぱりこうなるよなぁ…
「こちらになります、ソファにお掛けになってお待ち下さいませ、すぐ参りますので」
「おお〜、高そうなソファだな、これもここの商品かな?」
「はい、おっしゃるとおりでございます」
ソファに座ってみる3人。
「ほぉ〜、凄いなぁ、やっぱり高級品は違うもんだな」
「私は慣れてたけど、久しぶりだから変な感覚だなぁ」
「あ、あの…カリン様!」
「ん?なんだ?」
「私、カリン様のファンなんです!握手をお願いしてもいいですか!」
「ああ、ありがとう、いいぞ」
「ありがとうございます!この手はしばらく洗いません!」
「いや、それは洗ったほうがいいだろう」
「えぇ〜、でもでも〜♡」
「流石はカリンだな、女性のファンだなんて男前じゃないか」
「おいレン、まだそれを言うか」
「あ、すみません、私ったら我を忘れて…」
ポーン♪
部屋の外から優しい音が響いてきた、エレベーターの音だ。
「あ、社長が参りましたね、それでは私はこれで」
深々とお辞儀をして部屋を出ていく受付嬢、そして十数秒後…
「お待たせしてすみません、初め、まして…造学と申します、この会社の代表取締役社長をさせて頂いております、こんな所までわざわざすみません、ここでは何ですので応接室までご案内します、そこでお話を…」
ん?ああ、そういう…
「ああ、よろしく…」
『お父さん…』
『レイカしっかりな』
カリンに肩を抱かれ励まされるレイカ、気丈に振る舞おうと考えていたが、どれだけ嫌っていたとしてもそこは肉親、覚えていないという事実に、やはり胸にくるものがあったらしい。
3人は学に案内され、エレベーターに乗り込んだ。
「いやぁ、1号様には感謝しているのです」
「なんでだ?」
「こんな時代にしてくれたからです、新しく魔道具部門という部署を立ち上げ、魔力や魔法に因んだ商品を開発中でして、成功の兆しが見え始めているのです」
「へぇ…それは興味深いな」
「ほお!そうですかそうですか!いやぁ作り手冥利に尽きますなぁ♪」
表の顔はこんな感じか、第一印象は悪くない、だが…
ポーン♪
「ささ、こちらへどうぞ、なにかお飲み物を準備させますので少々お待ち下さい♪お~い真帆〜!いるかぁ!」
誰かを呼びながら部屋を出ていく学。
「マホとは?秘書とかメイドとか?」
「お母さんだよ」
「そうか…大丈夫か?」
「う、うん…ここじゃ、いないもの扱いだったけど、私にとってはもう20年以上も昔の話だからね、少し心にくるものはあるけど…大丈夫、どうなっても旦那様が横にいてくれるからね♪」
「あたしもいるからな、皆で支え合えば問題ない」
「…」
「レン、どうしたの?」
「いや、ちょっとな…」
「お待たせ致しました」
しばらくして、学とお盆を持った真帆が部屋に入ってきた。
「あら、本当に神様達なのね、いらっしゃいませ、わたくしはツクリ家具の副社長をやらせて頂いております、造真帆と申します」
「レンだ、よろしくな」
「あたしはカリン、よろしく」
「私はレイカ…です、よろしくお願いします…」
「初めまして…」
真帆は、少しだけ驚きを含んだ顔でレイカの顔を見つめ、言葉を呑んだ。
やっぱりこいつもか…
「どうしました?」
「い、いえ…あ!紅茶を用意しましたのでお飲み下さい」
慣れた手つきで3人の前に紅茶を置いていく、お盆を近くのカウンターの上に置き、自分の後ろに立つのを待ってから学が口を開く。
「さて、色々お話をしたいところですが、まずは…本日お越し下さった理由をお聞きしても?」
「ああ、まずは俺から、単刀直入に聞く、真帆さん…あんたは先ほどレイカの顔を見て言葉を呑んだな?」
「は、はい…少し、いや大変似ていたものですから」
「誰にだ?」
「娘に、です…」
「ふ~ん…」
「レ、レン?」
「いったいどうしたのだ?少し変だぞ」
レンの態度が気になったレイカとカリンも流石に気にし始める。
「俺は、この手のまどろっこしい謎解きみたいなのは嫌いなんだよ、パッパと終わらせたいんだ、どうするよあんたら」
「え…と、申しますと?」
「…」
あくまでも知らないフリをするのか…
「お前達、嘘付いたな?」
「レン…」
「レン、流石に失礼じゃないのか?」
「カリン…俺はリスクリワードで、新しい能力を解放した、言葉の真偽を鑑定するものだ、レイカもそれ系の魔道具は作ったことあるよな?」
「うん…昔ルードにいくつか作らされたよ」
「こいつらの初めまして、あと娘に似ている…は、嘘だ」
「なんだと?」
何よりもレンの言葉を信用しているカリンは、レイカの両親をギロッと睨む。
「「うっ…」」
「うん、確かに私は妹とは似てないよ」
カリンの圧に怯む2人、更にレイカが追い討ちをかけた。
「何のつもりですか?わざわざ訪ねてきて失礼ではありませんか?」
「そうよ!神様が聞いてあきるわね!なんであなたが妹に似てないなんて分かるのよ!」
馬鹿が…
「なんでツッコミどころがそこなんだよ、似てる似てないの前に考えることがあるだろうよ、妹っていうワードに驚いてない時点で隠せてねぇ、ここの娘って吐いてるようなもんだ、雑かよ」
「なんであなたの妹が関係あるのよ、とかなら分かるんだけどねぇ」
たとえ両親とはいえ、頭悪すぎてさすがのレイカも呆れるしかなかった。
「こんなんでよく社長なんてできたよねぇ、なんかもうどうでもよくなってきちゃった」
「そうか、じゃあどうする?」
「そうだね、この人達にとっては半年そこそこなんだろうけど、私はもう20年も前だからね、両親がいなくてもおかしくないじゃない?」
「そうだな、まぁ少し早死に過ぎるが、ないわけじゃあない」
「うん、だからもういいよ、ちょっとだけ…そう、本当にちょっぴりだけ残念だったけど、今が楽しければいいや、このくらいで泣いてたら神様なんかにはなれないからね」
「おお、達観してるなぁ、確かに永遠に等しい寿命なんだし、いい訓練かもしれんな」
さて、本当の両親なのか、シンの兄貴と同じで異世界からの刺客なのか…
「ふん、いまさら戻ってきても遅いのよ、こっちには本当の神様がついているんだから」
まぁルードの事なんだろうな、姿は見たことないのか?黄泉がえりチャンネルで顔が映ったはずなんだが…まぁどうでもいいか…
「はっ、どうでもいいんだよそんな事、どうせ現人神様とか言うんだろ?」
「なんでそれを…」
「お前らはなんだ?異世界の人間なのか?」
「異世界?まさか本当に…」
「はぁ、バレてるならしょうがないですね、私達は現人神様と名乗る人物から、麗華を生贄に捧げるように指示されました、そういう運命の元生まれてきたのが麗華なんです」
「運命?」
ここまで馬鹿なのかこいつらは…
「なんだよ生贄として生まれてくる運命って」
「現人神様の力を借りてこそ、我々の会社は繁栄してこられたのです、その恩恵の裏には数々の生贄があった、造一族というのは代々生贄を捧げてこそ、繁栄が約束されていたのです、麗華も100年の歴史の中で7人目の生贄です」
「はぁ、ここが日本じゃなかったら、この建物なくなってたぞ…ふざけんなよてめぇら」
「この悪魔め…そっちこそふざけないでもらいたい、これは大人の事情というやつ、お前みたいな青二才がしゃしゃり出てくるような場面じゃない、それも他人の家の事にな」
「そうよ、半年も何やっていたの、ちゃんと勉強して大学にでも行きなさい、立派な大人になれないわよ!」
「え、なにこの流れ…レン、どういう意味なの?」
全然話を聞いてないだろ…信じてないだけか。
「なにをとぼけているの?反省して家出から帰ってきたんでしょ?いいから建希と麗愛にもきちんと謝っておきなさい、少し人気者になったからって自惚れちゃダメよ?あなたは悪魔に騙されてるだけなんだから」
こいつら…いつまでもレイカが言う事を聞くと勘違いしてるのか?引き込んでレイカを利用しようとしてんな?
「悪魔ねぇ、このご時世に生贄だなんだって、どっちが悪魔なんだか、なんで神様なのに生贄なんだよ、少し考えれば分かんだろ…この家は鏡とかないのか?」
「ふふっ、レンよ、鏡には人の心は映らない、だから自分の醜さに気付けないんだ」
「そうだねカリン、私もそう思うよ」
「なんですって!?そんな事言うような子に育てた覚えはないわ!あなたも何か言ってあげて!」
「麗華…母さんへの暴言、今なら許してやる、戻ってこい」
「あなた…お父さんが優しくて良かったわね、麗華」
「バーカ」
「「は?」」
「茶番はいい、鳥肌が立つからやめろ、話聞いてたのか?レイカは異世界で20年以上生活していると言っただろ、もう立派な大人だ、生きた年数もお前達と同じくらいなんだよ」
「そんな話信じられる訳が…」
「うるせぇって言ってんだろ、人の話は最後まで聞けよ、それでも会社の社長なのか?どっちが上の立場なのか良く考えて発言しろ、てめぇが信じようが信じまいが関係ねぇんだよ、得体の知れない現人神とやらの話を信じるくらいなら、実の娘の話くらい聞き入れろよクソ虫共が」
「「…」」
少し威圧が入ってしまい、2人は強制的に聞く姿勢に入らされてしまう。
「テレビもスマホとかのニュースや動画だって見てるだろ、分かってて言ってるんだろ?人気者とか言ってたもんな、あわよくば引き込んで利用しようとしてんのが見え見えなんだよ、自分達の親世代からどんな教育受けてきたのかは知らんが、お前らは対応を間違えた、優しく受け入れてれば俺達はお前らを身内として受け入れる未来もあっただろうよ、残念だったな」
「ふ、ふんっ…悪魔の口車には乗らないわよ!」
「いや、口車ってなんだよ、身内になれなんて一言も言ってないだろ、なんの要求も対価も求めてない、お前達の信仰している神様とやらと違ってな、とにかく俺達はお前達に1ミリも関心なんてねぇんだよ、話は終了だ、レイカどうする?」
「うん…帰ろっか」
「れ、麗華!そんな悪魔と一緒にいても…」
「もういい加減にして!」
珍しく感情的になるレイカ。
「悪魔悪魔って、平気で娘を生贄にする人達に言われたくないよ!あなた達が今まで私になにをしてくれたの!」
「親に向かってなんだその口の聞きかたは!」
「そうよ!誰がそこまで育ててあげたと…」
「うるさい!そりゃ育ててくれた恩はあるよ!でもそれだけでしょ!最低限じゃん!親が子を育てるなんて当たり前の事なんだよ!私がなにをしたの?反抗した?言う事を聞かなかった?何もしてないじゃん!それなのにあの扱いはなんなの!?酷すぎて恩がマイナスなんだよ!」
「扱い?裕福に育ててあげたのに何が不満なの!?」
「明らかにお兄ちゃんと妹とは扱いが違かったでしょ!気付かないとでも思ってたの!?たとえ表面上は裕福でも心が貧しかったら意味ないの!」
「そ、それはお前は生まれてきた理由が…」
「どうせ生贄でしょ!?聞き飽きたんだよ!何でよ!勝手に人の運命を決めつけないで!何が悲しくて他人の為に自分を生贄にしなきゃならないの!」
「他人とはなんだ!家族の為だろうが!」
「あんた達なんて家族でもなんでもない!」
「その通りだ」
家族としての話はこれまでだな…
「家族の問題に口を挟むな!この悪魔め!」
「黙れ!」
「「うっ…」」
先程よりも強めに、しっかり意識をして威圧を使用する。
「ふ、ふざ、けるなよ…麗華…目を覚ませ」
「そう、よ…あなたはこの悪魔に…」
「悪魔悪魔うるせぇって言ってんだよ!一族繁栄の為に生贄を要求する方がよっぽど悪魔なんじゃないのか!言ってみろ!」
「う、うるさい…一族の為なら致し方…」
「もういい…」
やっぱり洗脳じゃなく、洗脳教育なんだな、残念だ…
「レイカすまない、無理みたいだな、シン達と一緒のようだ」
「いいよ、もう顔も見たくない、行こう?」
「そうだな、ああ最後に一つだけ、お前らの信仰している神様の名前はルード、生まれた故郷だけでなく、あちこちの世界で大虐殺を行い、神に追いやられ、異世界ツェファレンという世界を拠点に、世界の崩壊を企てていた、元魔物の犯罪者だ、配信動画を見たのかは知らんが、最近では俺の地元で魔物を使った犯罪まで犯している、人間を生贄にして造一族を繁栄させるなどと嘯いたのは、優秀な人間をツェファレンに拉致する為の口実にしか過ぎない、まんまと騙されたな、欲に目が眩んで実の娘を蔑ろにした罰だ、因果応報…自業自得だな」
「またそんな作り話を…嘘ばかりついて!そんな訳がない!実際に奇跡の数々を私達は見てきているんだ!」
「じゃあ俺達がやった事は奇跡じゃないのか?この地球に魔力を充満させたのも、ダンジョンを創ったのも、お前達が出来損ないと扱っていたレイカなんだぞ?ルードが行ったのはさぞかし凄い奇跡だったんだろうなぁ、まあ、もうルードは神の裁きによってこの時代にはいないけどな、自らの罪を償うため、過去へと旅立ったよ、せいぜいその数々の奇跡とやらでこれからの時代を生き抜くんだな」
「そんな、やっぱりあの方が…」
「現人神様が…くっ、地獄へ堕ちろ!悪魔め!」
本当にしつけぇなぁ、いくら洗脳教育されたにしても酷すぎるだろ、なんなんだよこいつらは…
「別にもう悪魔でもなんでもいいよ、それなら地獄に堕ちろじゃなくて帰れだろ、天国へなんか行けないことは自分でも分かってる、俺は異世界へ連れ去られて、友達だった奴らを呪い、復讐を誓った時点でどうせ地獄行きなんだよ、まさに因果応報だな、別にそれでも構わないさ、全て受け入れてこその復讐だ」
「「レン…」」
「大丈夫だ」
心配するカリンとレイカの頭を優しく撫でる。
「まぁこの世に本当に因果応報とか、地獄とかがあればの話だがな、まずは神様になる事は確定してるし、何億年先になるかは分からんがな」
「そんな話は信じられん!」
「そ、そうよ!」
「だからぁ、信じてもらえなくても関係ないんだよ、信じてもらえたところで何のメリットもねぇだろ、別にてめぇらに神様にしてもらうわけじゃないんだから、事実は変わらんし勝手に疑ってろよ、行くぞレイカ、カリン」
「ああ」
「うん、じゃあ頑張ってねお二人さん♪絶対に私の家族面しないでね?建希と麗愛にも言っておいて、もし関わってきたら、私が直々に地獄へ送ってあげるよ♪」
「麗華…待ってくれ!」
「あなたどうするのよ!」
「うるさい!お前の育て方が悪いんだろ!」
「なんですって!?」
「「「…」」」
見てられん、もう勝手に滅びろよ、はぁ…帰ろ。
「転移」
―――
どうしよう…やっぱり2号様はお姉ちゃんだったんだ、なんで私は気付かなかったの?似てるなぁとは思ってたけど、それだけ私はお姉ちゃんの顔もまともに見てなかったって事なのね…
なにやらただならぬ気配を感じて、応接室の入り口前まで来ていたレイカの妹、麗愛…両親とは違い、生贄の話とかは聞いておらず、ルードの洗脳教育も未完成のため、違和感に気付いていた。
私のつまらない嫉妬心でお姉ちゃんに嫌われちゃった…どうしようかなぁ、お兄ちゃんに相談しよう…
レイカは決して無能なんかではなかった、開花させる境遇に恵まれなかっただけであり、才能は抜群だったのだ、それに気付いていた麗愛は嫉妬心で姉を貶して才能を伸ばさせないようにしていた、都合よく周りの人間が姉を貶していたから一緒になって貶していたのだ。
―――
「ただいま〜、う〜ん…いい匂いだ、カレーだな♪」
「あらお帰りなさい、レイカちゃんはどうだったの?」
「ん?う〜ん…」
「ははは、私から言うよ、結果はダメだった…私の事は覚えていたんだけど、ルードの手先だったね、ごめんなさい、これ以上心配は掛けないから、今日だけ、少し休ませてもらいま…お、お義母さん?」
心情を察してか、レイカの事を優しく抱きしめる美紀。
「大丈夫、お母さんなら私がいるわ、どれだけ強がっても誤魔化しきれないことだってあるのよ、素直になるのも解消法よ、泣いてもいいのよ…レイカ」
「お義母さん…う、う…うぅうわぁぁぁ!お義母さぁん!悲しいよぉ!なんでこうなっちゃうのぉ…」
「うん、うん…悲しいよね、ごめんね力になれなくて、一緒にいてあげるからね、よしよし…」
今までピンと張り詰めていた緊張の糸が切れ、レイカは大泣き、母親と抱き合いなから部屋へ歩いていってしまった…
そんなに強がってたのか…俺はそこまでとは思わなかった、どうせ俺達が一緒にいるんだから全然平気だと決めつけていたんだな、少し自惚れてたよ、反省だ…
それにしても…さすが母親だなぁ、今回は助けられちまった。
ルード…やっぱり一発ぶん殴っておけばよかった…
きちんと罪を償ってこいよ、あとはカノン、てめぇだけは絶対にぶっ飛ばしてやる、地球を引っ掻き回し、面白半分に家族の仲を引き裂いた罪、償ってもらうからな…一緒に地獄へ行こうぜ。
「レイカちゃんはお部屋で寝かせてきたわ、レン、なんて顔してるの」
「え?ああ、ちょっと考え事をな、とにかくありがとう母ちゃん、助かったよ、ははは…」
「なにを言ってるの、母親なんだから当たり前でしょ、あなたも少しは素直になりなさいな」
「母ちゃん…うん、分かったよ」
参った、敵わないな…
家族騒動は、これにて終了。
家族との再開や別れ、これからもこのような状況をいくつも体験、又は見ることになるであろう事を考え、神様になるのも楽じゃないなと思う一方…レンは、ステータスだけでは測れない強さというものを、実の母親から学ぶこととなった。
「さぁご飯にするわよ!お腹空いてるでしょ?ほらほら!2人ともいつまでもしょぼくれてないの、カリンちゃんはお手伝いねっ♪」
「う、うむ!」
カリンと目を合わせ苦笑い、素直に従い茶の間へ向かう2人であった。