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165話 天罰

ルードを連れて箱庭へやってきたレン。



「いらっしゃい♪やっぱりこうなっちゃったかぁ」

「悪いなティア、やっぱり俺は甘いらしい」

「私に処遇を任せるのは甘いの?」

「え?あ、いや、どうだろう…」



甘い?いやいや、相手はティアだぞ?ルードにとっては一番残酷な選択肢だったかもしれん…すまんなルード、そういう運命だったんだよ。



「ここは、以前来た箱庭…じゃな」

「そうだ、それでこの人がここを管理しているティアだ」

「初めまして〜♪」

「は、初めまして、神の裁き…か、それもよい、贅沢なことじゃ」

「う~む!そうじゃろうそうじゃろう♪私に裁かれる生物なんてなかなかいないよ〜?」

「ありがたき幸せ…」

「はははっ、そんなにかしこまらないでよ〜ルードちゃん♪」



いや、ちゃんって…確かにティアに比べたら若造だろうけど。



「さて、裁きを下すにあたって質問だよ♪」

「う、うむ」



ここで急にティアの雰囲気がガラッと変わる。



「…我と一心同体とも言える候補者、レンを付け狙った理由を答えよ」

「レン…殿の所有している貯蓄、それが狙いですじゃ」

「神園一族は皆貯蓄を所有している、他にも多くの所有者はいたはずだ、その中でなぜレンを狙った?」

「歴代の神園一族中、一番貯蓄量が多かったから…」

「ふむ、理由は理解した、そもそも貴様、何故他人のステータスを見抜く事ができる?」

「儂は見抜けませぬ、ファーニック様の固有技能です」

「鑑定、看破、その辺か?」

「はい…」

「なるほどな、運のいいやつだ、罰により人間の体に身を落としてもなお、そのような便利技能を授かるとはな、いや、残したと言ったほうが正しいのか…」

「は、はぁ」

「しかし他人のステータスを覗くのは重罪だ」



え…そんなの初めて知ったんだが!?あぶねぇ〜、鑑定とか作らなくて良かった〜



「ステータスとは全ての世界、全ての知識ある生物に、分け隔てなく神が与えた唯一の恩恵、本人が望まぬ限り他人には見えぬもの、これは…この世の鉄則にして理だ」

「はい…」

「ファーニックも神だった頃は他人のステータスを見る事が可能だったのだろう、しかし今は人間、人の身でありながら他人の能力を盗み見るなど、万死に値する」



罪重ぉ…怖いよ、そういうのは最初に教えといてよ、いやホントに。



「ルードよ、貴様は過去にレイカへ命じ、他人のステータスを強制的に開かせるだけにとどまらず、能力を一時的に改変するような魔道具を作らせたな?」

「は、はい…」

「まぁ回数制限もあったしな、不特定多数のステータスを見られるわけでもない、そこは不問としよう、レイカにはもう作らないようツェファレンの神が注意しているはずだ」

「はい、申し訳ありませぬ」

「ずいぶん素直だな、だが心からの言葉ではない、反省はしていないが観念はしている、といったところか…」

「その通りです」

「最後の質問だ、レンを狙ったのは貴様の独断か?それともファーニックの指示か?」

「いえ…い、や、す、全て…ファーニック様の…くっ、指示…じゃ、口が勝手に…」

「ここに来てから、真実しか口にすることが出来ないようにしておいた、だから先ほどの申し訳ないという言葉はつまり…貴様は申し訳ないことをしたという自覚が少しはあると言うことだ」

「そんなバカな…」

「自分でも気付かないくらい心の奥底では、申し訳ないと思ってたんだ、とにかく質問は以上だ、そして最後に我からルードへ言い渡す!」

「はっ!」

「ルードちゃんは無罪〜!いえ~い!よかったね♪」

「「は?」」



見事にハモる、レンとルード。



「おいおいまさかの無罪かよ、まぁそういうところがティアっぽいけど、でもなんかこういうのもテンプレ展開みたいで嫌だな…」

「儂も納得いかん…どこが無罪なのかさっぱり分からんのじゃ」

「珍しく意見が合ったなルード、説明はしてくれるんだろ?」

「だって、私にとってはレンが一番じゃない?」

「そうだな」

「レン、生きてるし、しかも神の器が予想よりもだいぶ早く育ってるでしょ?」

「そこは自分では分からんが、そうなのか?」

「そうなんだよ、とにかくこれって、ぶっちゃけルードちゃんのおかげと言っても過言じゃないよね?」 

「確かに…それも俺がルードに非情になれない理由の一つだからな」

「ちょっと長くなるけどまとめると〜、レンはツェファレンに攫われず、もしあのまま地球で暮らしていたら寿命まで生きて、神の器をそこそこ育ててここの管理人になるはずだった、でもルードちゃんに攫われてツェファレンに行っちゃった、攫ったのはルードちゃんだけど、それはファーニックの指示を受けての話、だけど例えばここでレンが死んでたら、多分ツェファレンは今頃無いよ、例え管理してる神に怒られても私が滅ぼしてたからねっ、さらにツェファレンに行ったことで、自分のステータスを見ることになって〜、凄い速さで神の器を育てた、だから無罪〜♪」

「いやいや、他の世界で人殺したとか、そもそも俺以外にも攫われたり殺されたりしてるけど?」

「他の世界の人が死のうが私に関係なくない?」

「母ちゃんの記憶とかさ、カリンとか、レイカ…とか、マリーとか?いろいろあるじゃん?俺が地球で死んだことになったとかさ…」

「うん、それも関係ないかなっ♪生きてるからオッケー」

「っかぁー!そうだった…ティアはこういうやつだった〜!」

「神とは恐ろしいものじゃな…」

「だろ?気に入った人以外は虫ほどにも思ってねぇからなぁ」

「当たり前でしょ、神なんだから、自分の管理する世界以外の人間なんて、いてもいなくても関係ないんだよ、ルードちゃんの世界の管理人は、自分の世界の生き物を、他所の世界の神に攻撃されたから頭きたんじゃない?」

「はぁ、決めた!もう考えない事にした!」

「まぁよい、ティア様よ、儂はどうしたらええのんじゃ?」

「まぁ、ルードちゃんも被害者みたいなものだからねぇ、魔物に戻っとく?」

「それが罰だと言うのならば甘んじて受けるのじゃ」

「どんだけ死にたがりなの〜、罰じゃないよ、感情ある魔物になるって事、フェンとライトみたいなものだよ♪いや、どちらかと言えばタイムかな?」

「いや、ルードにその説明じゃ分かんねぇだろ、フェン、ライト、あと…どうせいるんだろ?タイム出てこい!」



指輪から3体の魔物が出現、さすがのルードも硬直する。



「なんと…」

『主様おはよう、相変わらずここは居心地がよいな』

『主様〜、ティア様〜、おはよ〜♪』

「ふわぁ〜、バレちゃったかぁ、指輪の中はガチ寝出来るから最高なんだよね…」

「タイム…お前、数カ月も寝てたのかよ…」

「え?普通じゃない?」



ティアの意見である。



「いや普通じゃねぇよ、ティアからしたら普通かも知れんが」

「こ、こやつらは、感情を持っている…魔物?」

『うむ、貴殿がルードじゃな、ずいぶん久しぶりじゃ、我はフェンじゃ』

「久しぶり?…そうか、第3区の魔物か、うっすらと記憶に残っとるの、儂が洗脳出来なかった魔物じゃな」

『僕はライト〜♪』

「タイムです、よろしくお願いします」

「まぁこの3人のような感じになってもらおうかな〜、そうすれば少しはファーニックへの忠誠心も薄れるでしょ〜♪」

「そうなのか?ってか、そんな事出来るんだな」

「当たり前でしょ、魔物は魔子、世界が生み出す魔力の子供、世界に意思なんてないから管理人がそうさせてるんだけど、とにかく世界が出来るのはそこまで、感情を与えたり、亜人に進化させたり、逆に人を魔物化させるのは管理人の仕事だよ、まぁ魔物化は邪法に等しい行為だから、滅多にやるものじゃないけどねっ♪」



滅多にやるものじゃないって…ティア様、今まさにそれをルードに実行しようとしてますよね?



「まさかの新事実…なるほどなぁ、だから亜人の個体数は圧倒的に少ないのか、自然と亜人が集まる場所へ向かうのも納得だ、魔物は自然に感情を持つようにはならないってことが分かって少しスッキリした、ならフェン、ライト、タイム、お前達は選ばれし魔物やって事だな」

『僕、特別〜?』

「そうだぞ〜ライト、お前達は特別だ〜♪」



スリスリスリスリ…



「ああ…プルプルツルツルで少しひんやりしてて気持ちいい」

「レン、顔がおバカさんになってるよ?」

「うるせぇほっとけ、もともとこんな顔なんだよ」

「うふふふ、本当にスライム好きなんだから、そろそろ本題に行くよ、それでルードちゃん、どうする?」

「ふむ、魔物に戻るのもいいかもしれんの、お願いできますかの?」

「いいよ〜♪」

「ルードはどんな魔物だったんだ?」

「儂は、う〜む…タイム殿と同じような感じじゃが、もっとこう、実体がないと言うか、どう説明したらよいか分からぬな」

「なるほどゴースト系だね、幽霊ってやつ、物理は無効で魔法が有効、だけど魔法防御力がやたらと高いみたいな?」

「タイム、お前もゲーム好きだなぁ」

「お年頃だからね♪」

「100歳超えのお年頃ってなんだよ」

「じゃあ戻すよ〜、あそうそう、戻ったらその後はどうする?元の世界に戻る?」

「ふむ、そこはいかようにしてもらっても良いのじゃ、いちおう罰じゃからな」

「なんかルードは急激に丸くなったなぁ、もう鼻くそって呼べないじゃないか」

「お主じゃったのか…つい最近、鼻くそという才能を授かった原因は」

「え?はっはははは♪鼻くその才能って、ぶふふふっ…」

「どんな才能かと思っとったのじゃ」

「大丈夫だ、ふふ…ルード、お前は鼻くその才能あるよ」

「これが一番の罰じゃな…」

「それではルードちゃん、あなたはこの箱庭にいてもらって、私の監視下で馬車馬の如くボロ雑巾のようになるまで働いてもらいます!」

「ルード…御愁傷様だな」

「ボロ雑巾…」

「だ~いじょうぶだよっ♪ボロ雑巾になっても、洗って紡いで新品にして、また使えるからねっ!」

「エンドレスボロ雑巾…これ、死んだほうがマシなんじゃ…」

「あったりまえじゃ〜ん♪死ぬだけなんてただの慈悲だよ〜」



ティア様、あなたやっぱり怒ってますね?無罪という言葉の意味、本当に知っていますか?



「ルード、俺がここの管理人になったら、少しは優遇出来るように交渉してやる、それまでは罪を洗うと思って、馬車馬の如く頑張ってくれな」

「致し方なし…また新たな才能が芽生えそうじゃな」



まぁこんなもんだろ、帰ってあいつらに説明してやるか…



ここで、再度ティアの雰囲気が激変。



「ルードよ、自身の罪を認めるな?」

「はい」

「よろしい、それでは…」



目を瞑るティア、すると突然、箱庭全体が薄暗くなり、ティアの足元から優しい光りが溢れ、身体が少し宙に浮く、風もないのに髪が揺れ、羽を広げたようにふわりと広がった、下からライトアップされたその姿はまさに神。


程なくして目を開くティア、その眼球には角膜がなく瞳孔だけの黒い点のみになっていて、うっすらピンクに光っていた。



いや…めちゃめちゃ怖いんですけど。



そしてゆっくりと口を開く…



《我は無銘の神…ティア、汝へ戒めを与えし者、我、大御神に願わん、この者に神罰を授ける事を、我、汝に願わん、その親愛なる罰により、己の罪を悔い改める事を…》



口を動かし何やら厨二チックな事を喋りだしたが、2人はそれどころではなかった。


何故か口からではなく全方位から聞こえてくるエコーがかった綺麗な声、直接頭の中に音を叩き込まれているような感覚に陥るレンとルード、2人とも平衡感覚を失い、地面に膝を付いてしまう、因みにタイム達魔物どもはさっさと指輪の中に避難していた。



くそっ、あいつら〜!



「くっ、動けねぇ…声一つでこれかよ…やっぱり神様ってのは半端じゃねぇな」

「む、むぅぅぅ…う、うぐぁあぁああ!!!!」



えぇぇぇ!?ルードの体が溶けてる!めっちゃグロい!



《己の罪を数えよ、己の罪を追想せよ、己の罪が消滅するその日まで…汝、往時へ遡及し魂を改変せり…神罰戒儀(しんばつかいぎ)輪廻魂葬(りんねこんそう)!》



ルードが地面に崩れ、喉を掻きむしってのたうち回る。



怖い怖い怖いぃ〜!ティアさん!無罪じゃなかったの!?



体の大半が溶けて、ゾンビのようになったルード、声帯もやられたのか声も出せずもがき苦しんでいる、そのうち体は全て溶けて箱庭の染みとなり、その染みもすぐにスッと消えて、跡形もなく消滅してしまった。



「ルード…死んだのか?」

《そうだ、やつには一回死んでもらった》

「そう、ですか…」



レンはあまりの怖さに、つい敬語になってしまう。



《魂の洗浄だ、過去に遡り、全ての罪を洗いに旅立ってもらった…》



フッとティアの雰囲気がもとに戻る。



「帰ってくるのは当分先かなぁ、数年?数十年?まぁそのくらいだねっ♪魔物姿のルード改になって帰って来るのを楽しみにするんだぁ〜」



神様怖ぁ…



「何が無罪だよ、やっぱり罰じゃん…俺、神様は怒らせないようにする、絶対!」

「大丈夫、私がレンにそんな事するわけないでしょ♪」

「いや分かってるんだけどさ、それでも恐怖を抱かずにはいられんよ」

「ふっふっふ〜、信仰の対象でもあり恐怖の象徴でもある、神様っていうのはそういうものだからねぇ」

「まさに俺がティアに対して抱いている感情だな、いや、信仰というより信頼だけどな」

「できれば恐怖は抱かないで欲しいなぁ〜」

「もう少し俺が強くなるのを待ってくれ、まぁこの話はいい、それよりも良かったのか?」

「なにが?」

「いやほら、他人?他神?の候補者を死なせてしまってもいいのかなと思って」

「ふふふ、レンはところどころ抜けてるよねぇ、ファーニックってもう神じゃないじゃん」

「ああ、人間の体に…そういうことか、神じゃないからルードも候補者でもなんでもないと」

「ピンポーン!大正解〜♪」

「おい、じゃあ最初のは嘘って事だな?殺し合いが出来ないってのもか」

「うん、嘘♪」

「くっ…はぁ〜、落ち込むわぁ…」

「まぁまぁいいじゃない、少しは気楽に冒険できたでしょ?」

「まぁな、初期の頃はどうせあいつは俺の事を殺せないし、とは思っていたよ」

「せっかくだしね、レンには異世界を楽しんで欲しかったんだよ、復讐だけの人生じゃつまらないでしょ?それにね、復讐っていうのは達成したあと、大抵虚無に囚われるものなんだよ、そうなると育つはずの器も育たなくなっちゃうしねぇ」

「そうかよ、こんな若輩者に大変気を使って頂き、誠に光栄の至りでございます」

「うむっ、くるしゅうない!」



もし俺が単独で行動し続けて、仲間も作らずにずっと一人でいたら?確かに今頃…虚無に囚われて何もかもやる気をなくしてたかもな、今は俺の帰りを待ってくれてる人達がいる、これだけでずいぶん違うものなのか…


家族、仲間、ツェファレンに連れ去られたあとは必要ないと考えていたが、必要だったんだな、それに…



「ティアの存在も、俺が虚無に囚われない一因だよ、だからありがとう」

「うん♪みんな仲良く、楽しくお仕事しようね〜」

「おう、さてそろそろ戻って、あいつらに事のあらましを伝えてこようと思う」

「分かった、行ってらっしゃい、またね、おやすみ♪」

「おやすみ、転移」



いやおやすみって時間じゃないだろ、ホントよく寝る神様だ。



―――



「ただいま、ん?レイカ一人か?」



相変わらず作業台を出して、何やら機械いじりをしているレイカ、校舎跡の更地になった敷地内には誰もおらず、広い敷地の隅っこに、レイカがポツンと一人でいるだけだった。



「あ、レンお帰り♪結構早かったね」

「ただいま、他のやつらは?」

「もうここには何もないからね、レンが鼻くそを連れて行ってすぐに、みんなもご飯食べに行ったよ、城ちゃんは黄泉がえりチャンネルを中途半端で終わらせなきゃならなかったから焦ってたけどね、ふふふ、私はここでレンを待つのと、ちょっとね…」

「なんだよ、またなんかする気だな?」

「ふふふ、内緒♪」

「うっ、とうとうレイカも神様の仲間入りか、しょうがない、俺に詮索する資格はないからな、楽しみにしておくよ」

「期待しててね、よしっ、じゃあ宿屋ギエスティの食堂に行こうか♪そこにみんな集まってるはずだから」

「分かった食堂だな、転移」



ついに決着したルードへの復讐、レンは思う、自分は一人じゃないと、今一度皆への感謝を心に抱き、大切な仲間達のもとへと向かって行った。

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