145話 西国平定〜鼻くそ同盟設立〜
「今日ここに、鼻くそ同盟を結束する!」
「おい、いきなりなんだよ、意味の分かってない人がちらほらいるだろう」
突然声を張り、変な宣言をしたレンにサリーがすかさずツッコミを入れた。
そうか、ルードのコードネームを知らないやつもいたな。
「少し話は長くなるが聞いてくれ、鼻くそ、とはルードのコードネームだ、さっきも説明したけど、俺はルードに攫われてこの世界へやってきた、その目的は…」
知り得ている限りの情報を全て放出する。
「頭が痛い…」
魔王が音を上げた。
「ニャルもにゃ、話が大きすぎるにゃ…」
「はぁ、俺達…開拓者はどうしたらいい?あまり魔物も狩れないんじゃ生活もままならないぞ」
「大丈夫だよ、そんなに深層の魔物ばかり狩るような真似はしないだろ?」
「そんな命知らずじゃねえよ」
「なら大丈夫だ」
「そんな時はこれ!」
ドンッ!
レイカの席の後ろに大きな機械が出現した。
どんな時だよ、絶対に今の流れで出すものじゃ無いだろ…
「これは鼻くそ避けの結界、聖堂と同じ効果、つまりは魔物避けの効果でこの国全体を覆うことの出来る魔道具だよ♪」
「「「…」」」
効果を聞いて唖然とする者、絶対に今の流じゃないと思って考え込む者、両者で場の空気が静まり返る。
「や、やっぱり普通じゃなかったにゃ…」
「ニャル、だから言ったろ、こいつも大概チートだと」
「理解したにゃ」
「わ、私はちょっと魔道具作りが得意なだけだよ!心外だなぁ」
「諦めろレイカ、レンと共にいるというのはそう言う事なんだ」
「カリン…まぁ分かってた事だよね、そこは諦める事にするよ」
「姉ちゃんもその仲間って事だね♪」
「何を他人事のように言っている、セイトだって変わらないだろ」
「そうかなぁ、3人と比べたらまだ普通寄りじゃない?」
「あくまでも普通寄りだ、凡人から見れば異常者に変わりはない」
「ひどい!異常者なんて言葉、今まで出てきたことないのに!」
「じゃあほれ、レイカ」
レイカに金剛魔鉱石を投げ渡すレン。
「ありがと〜♪じゃあ起動するね〜」
「それは…」
魔王はその渡した物に見覚えがあった、しかしそんな貴重な物を投げ渡すような扱いをする訳が無いと、自分の記憶違いを確かめるため質問をする。
「魔核か?やけに綺麗だが…」
確かにレンの作る魔鉱石は魔核と同じ丸い形をしている、が…
「金剛魔鉱石だよ♪」
「参った…確かにこの国を覆うだけの結界を作り出す魔道具なだけはある」
「ふふふ、今のところレンしかこの魔鉱石は作れないからね〜、貴重なのには違いないよ♪」
「俺の魔力が満タンなら、同じのを一度に3個までなら作れるぞ、1秒で10以上回復するからな、2時間くらいで3個作れる、まぁ3倍体積の物を1個でもいいが需要がないみたいだからな」
「大きいのが1個あれば1つの魔道具でこの世界を覆う事は出来るけど、国と国の間に結界が張れないし、中央のヒューニックも一緒に覆う事になるからね、鼻くそが結界の中にいたんじゃ意味ないでしょ?」
「そういう事か…」
ん?なら…
レンがある事に気付く。
「中央だけに結界を張れば良かったんじゃないか?」
「バカだなぁ、だから結界の中にいたんじゃ意味ないって言ったでしょ、いつか装置を壊されちゃうよ」
「確かに、浅はかでスミマセン」
「よろしい、じゃあ起動するよ〜」
キュイーー
装置からピンク色の光が溢れ、部屋の天井を透過するように立ち昇る。
「はい終わり、これで鼻くそはここへは来れないよ」
「感謝する」
「いいよ〜、でも油断はしないでね、裏には元とは言え神だった人がいるんだから」
「うむ分かった、フィリアーナにも伝えておこう」
「あと、この城で余ってる部屋があったらちょうだい♪」
「何故だ?」
普通はそう簡単に貰えるものじゃない、ましてや国の城ともなれば尚更だ。
「転移部屋を作るんだよ、まぁ基本的にはお城とお城を行き来するためのものだね、今は1回中央を通らないとそれぞれの国に行けないじゃない?それを回避したいんだよね〜」
「技術力が桁違いだ、呪いも一部解決してしまうし、我の研究は何だったのか…」
「すまんな高い金を払って第3区の魔物まで買ってもらったのに」
「あの蜘蛛の魔物か?やはりお主であったのか、まぁそうよな、別に良い、あれはあれで優秀な武器や防具になるからな、払った分以上の価値はある」
「それで、転移部屋はどうするんだ?」
「そうだな、我の研究部屋の1つを、その結界用の魔道具置き兼、転移部屋にしよう」
「オッケー、レイカ、その装置は移動はできるんだよな?」
「大丈夫だよ、じゃあ一旦仕舞っちゃうね」
―――
「設置完了〜♪」
「今回はやけに準備がいいな、扉も作ってあったし」
「ふっふっふ〜♪西に行くって言った直後から作り始めてたんだよ、レンなら絶対上手くいくって信じてたからね」
「さいですか、信頼されているようで良かったよ、さて、これで目的の一つは達成だな」
「一つ?まだ何かあるの?」
「いや西国の強化があるだろ」
「な〜る、じゃあ私達はお役御免だね♪帰ろうカリン♪」
「うむ、レン頑張ってくれ」
「ああ、ラーメン作りの修行でもしていてくれ」
「当たり前だ!」
「お、おう、気合い十分だな」
「またな、魔王様も世話になった」
「じゃあね〜、お邪魔しました〜、また来るね〜♪」
たった今設置したばかりの扉を開き帰っていくカリンとレイカ。
「じゃあ僕も帰るね〜、行こうレイちゃん、マリーちゃん」
「うん、じゃあまたね、レン兄ちゃん」
「おう、またな、ちゃんと鍛錬しろよ」
「兄様」
ぎゅっ…すぅ〜、すぅ~…
「満足したか?」
レンに抱きついて、成分を補給するマリー。
「ああ、少し足りないがまた補充しに来るよ、またな兄様」
「ああ、寂しくなったら会いに来い、カリンもレイカもきっと歓迎してくれるから、もちろん俺もだ」
「うんっ♪」
チュッ、タタタタッ!
飛び跳ねてレンのほっぺにキスをして、扉に駆け込むマリー。
耳が真っ赤じゃないか、可愛いやつめ。
「熱いな、レンよ」
「そうだな、俺には勿体ないくらいだよ」
「そうでもないと思うがな、お主はとても立派な人物だ」
「やめろよ恥ずかしいから」
「じゃあまたなレン、またいつか鍛えてくれ」
「サリーはどんどん強くなるから鍛え甲斐があるよな、体を鈍らせるなよ?」
「当たり前だ、仕事はキルミに任せて私は鍛錬だな!」
「烈王様…両立しろ!オレだって自分の仕事があるんだよ!」
「じゃあまた!」
「おい待て!烈王!」
バタン!
相変わらずだなあの2人は、さて…
「待たせたな、煉獄の氷風の諸君」
「え…このまま解散の流れじゃないのか?」
「ふふふ…レイカとの会話を聞いてなかったのか?」
「レン、何よその顔、恐いわね」
「強化がどうとか言ってたよね」
「さすがランス、よく聞いてるじゃないか」
「ぎ、強化?あだすら、強くなれるだか?」
「大丈夫だよベンネ、君はきっと強くなれる、一緒に頑張ろう」
こっちも熱いな。
「まぁそんなに警戒しなくても大丈夫だ、ちょっと魔法の知識を植え付けて、常識をぶち壊すだけだからな」
「そんなんで強くなれるのか」
「数倍は強くなるよ」
「は?数倍?信じられん…」
「ビルもどうだ?」
「是非とも」
「ニャルはもう体験済みだからな、先生役だ」
「任せろにゃ!みんなっ、ニャル先生に付いて来るにゃ!」
―――数時間レンとニャルの抗議を受けた5人、そしていつもの北の広場にて…
「さぁルダン、撃ってみろ」
目の前にはレンが作り出した魔鉱石の壁がある。
「少し遠すぎないか?」
「大丈夫だ、絶対届くよ」
「本当かぁ?」
壁までの距離は約500m、ギリギリ目視できる程度の大きさだ、そんな遠くの敵を魔法で狙撃なんかしたことのないルダン達の顔は懐疑心でいっぱいだった。
「とにかく撃て、話はそれからだ」
「分かったよ、魔力で木、とか紙とかの可燃物を再現、空気も足りなければ魔力で補う、点火も魔力で…だったか?」
「そうだ、炎そのものを出すのは燃費が悪い、物を燃やすのには必要最低限の物質があればいいんだよ、点火は最初だけだしな、空気も足りるなら必要ない、可燃物だけを魔力で仮想的に再現して補充してやればいいだけだ、木や紙より油を想像したほうが火力は高いぞ」
「分かった…よし、やるぞ!」
ボッ!
「は?はやっ!でかっ!」
「そのままだと消えるぞ、油の補充をイメージして継続だ、炎の形は好きにしろ」
「お、おう!」
ボゥ!
炎が一回り大きくなり、鳥のような形になった。
「すげぇ、これだけの火力で驚くほど魔力の消費が少ないぞ…」
「あとはイメージした可燃物を飛ばすだけだ、炎じゃなく燃えた油を飛ばす、簡単だろ?」
「油だと形も自在だしな、さっきレンが実演してくれたしイメージはしやすい、行け!」
ルダンの突き出した手の前に浮いていた、羽を広げて1m程の体長の鳥が物凄い勢いで壁に向かって飛び出した。
ドォーン!!
「うわぁ…マジかぁ」
「強くなったわねルダン!」
「あぁ、これはヤバい…メリーもやったら分かる」
「楽しみねっ♪」
「ふっふっふ、俺が作った魔鉱石の壁は壊せなかったな」
「魔鉱石なんかそう簡単に壊せるかよ」
「次は私ね」
メリーが一歩前へ出る。
「水の性状についてはさっき説明した通りだ」
「ええ、自分なりにやってみるわ」
目を瞑り集中する。
パキパキ…
メリーを中心にして、全方位の地面が白く凍り始めた。
「おお〜、そうきたか」
メリーも天才肌だな。
「はっ!」
半径10mほどまで凍らせたあと、気合いを入れるメリー、すると今度はメリー自身を包み込み、見えなくなるほどの霧が空気中に発生した。
「冷気か…これは迂闊に近づけないだろうな、一瞬で血液まで凍りつきそうだ」
「絶対零度、セルシウス」
メリーがそう呟くと、冷気がひと塊になり…
「行きなさい」
ブワッ
ビームのように冷気が伸び、壁に当たって音もなく消え去った。
冷気が通過したあと、遅れて地面が白くなっていき壁の方まで白い道が出来上がり、壁も白く霜がついていた。
いや、絶対零度とかセルシウスとかは軽く教えたけど、使い方が全然違うだろ…響きがカッコいいからって適当に名前つけたな?本当にこの世界は厨二病患者が多い。
「ふぅ、凄いわね、かがく…だったかしら?知ってるのと知ってないのでは魔力の消費量が桁違いだわ」
「いやいや、話をちょっと聞いただけでそこまで使いこなせるか?この世界の人間はどうなってんだよ」
「ふふん、私は天才なのよ」
「僕もいいかな?」
「ええ、次はランスの番よ」
「あだすも一緒にやるだ」
「うん、ベンネ、一緒に試そうか、レン君、あの壁はもういいよ」
「そうか?了解した」
「じゃあ準備するだぁ、ランス、手加減はなしだど」
「分かっているよ」
そういうとランスとベンネは10mほどの距離を開け、お互い向かい合った。
「じゃあいくよ」
「いつでもいいどぉ!」
ランスは自前の槍を片手に取り気合いを入れる。
槍の穂先がピカッと光り、ベンネに向かってビームが発射された。
ドカッ!
おい、光が当たった音じゃないぞ…ベンネは大丈夫なのか?っていうかランス…お前は回復要員じゃなかったのか?どう考えてもベンネがタンクだろ…ルダンとメリーがあと2人、タンクと回復がいると言ってたような…
「っふぅ〜、本当に出せただ」
「さすがベンネ、僕は信じていたよ」
「ベンネは無事鉄を出せたな、ランスも凄いぞ、さすがは上級開拓者だ」
「ありがとうレン君、何より僕の妻の生存率が飛躍的に上がったのが嬉しいよ」
「お前達ならすぐにS級になれるんじゃないか?」
「はははっ、そうかな?」
「なれるさ」
こいつらだったら確実になれるだろ、既にその実力に達したかもしれないな、あまり無理もしないだろうしな、安心だ。
「さて、こんなもんだろ、あとはまぁ頑張れ」
「レンの言うことは本当だったな、感謝する」
「おうルダン…調子に乗って死んだりするなよ、ビルは試さなくていいのか?」
「ああ、我は早く城で研究に明け暮れたいのだ、よもや想像力でここまで魔法が進化するとは、本当に今日は驚きっぱなしの1日だった」
「鼻くそもいつまでも黙ってはいないだろうからな、警戒だけはしておけよ」
「分かっておる」
「あとあまり引きこもってばかりいないで、他の開拓者たちにも知識を落とせ、自分ばかり強くなっても限界があるからな、俺が言うのもなんだけど」
「任せておけ、各町長達にもしっかり伝えよう」
「よし、西でもやることやったし、俺はこのままレクステッドに帰るよ」
「世話になったな、またいつでも来てくれ、西国総出で歓迎する」
「そんな大げさじゃなくていいって、友達が遊びに来たくらいの感覚でいてくれ、ビルにとってはその方が嬉しいだろ?」
「違いない、本当にありがとう」
「ああ、住みやすい国にしようぜ、少しは周りの国も見て回れよ」
「ああ、それについては深く反省している、今回のことでよく分かったよ」
「にゃる〜、またにゃ〜、いつでもラーメン食べに来るにゃ!レンならいつでも無料にゃ!」
「お?それは嬉しいな、食いっぱぐれなくて済みそうだ、ははははっ♪」
「ナナには会っていかないにゃ?」
「あいつならもう大丈夫だろ、どうせラーメン屋で働き続けるんだろ?」
「当たり前にゃ!ナナは看板娘にゃ!」
「なら尚更大丈夫だろ、いつでも会いに来られるし、連絡だっていつでも出来る、それじゃあ帰るよ、世話になった、またな」
自然とレクステッドへの扉を開けるレン。
すっかりレクステッドが拠点になっちまったな、すべての国も回ったし、一度あれを試してみるか…




