144話 ラーメンが結ぶ、友好の輪
レンの後ろにはレイとマリー、サリーとキルミ、あとセイトの計5人が立っていた、肩書で誰なのかは分かるはずなので、簡潔に自己紹介をしてもらう。
「初めまして、僕は北国の王をやっているレイだよ〜♪」
「私は側近のマリーだ、よろしく」
「私は列王、サーレックだ、サリーと呼んでくれ」
「オレは列王様の部下、キルミだ、よろしく」
「セイトだよ〜♪カリン姉ちゃんの弟です」
これには魔王も、先ほどまで目をキラキラさせていたニーニャも顔が引き攣る。
「中央を除く、各方角の王たちがここに集まったと言うわけだ、まぁ気楽にな」
「何が…と言うわけなんだよっ!気楽に出来るかっ!」
「お?初ツッコミはセフィールか、やるなぁ」
「意味分からん!」
「そうにゃ!本当にレンは何者にゃ!?大体想像はついてたけど、展開が早すぎるにゃ!」
「ニャル、まぁ良いではないか、皆様方、ようこそ我が城へ、我は魔王デビライド、ビルと呼んで欲しい」
「お前が魔王か、初めましてだな!改めてサリーだ、よろしくなっ、ビル!」
「僕も僕も〜、北王レイだよ〜、よろしく〜」
「うむ、よろしく頼む」
「みんな集まったね、じゃあ私も改めて、氷王レイス、正式にはレイカって言います♪これはさっき言ってなかったけど、レイとマリーと一緒にこの世界に来た、元勇者だよ♪」
「レイ、マリー、レイカ、カリン、セイトが元勇者だな、俺はそれに巻き込まれた可哀想な子羊だ」
「僕も100年前の哀れな子羊だよ♪」
何を言ってるんだこいつはという目で皆に見られるレン、サリーだけはキタッ、という感じで目をキラリと光らせる。
「レン、お前は何を言ってるんだ、気持ち悪い妄言も程々にしろ」
「辛辣!」
サリーめ、相変わらず当たりがキツイ王様だぜ、さすが烈王。
「我もそろそろこの手の冗談にも慣れてきた、実に愉快、こんなに楽しいのは久々だ」
「そりゃあ良かった」
「なぁ魔王様、ここに私達は必要なのか?」
煉獄の氷風だけでなく、他の町長達も少し気まずくなってきていた、たまらずセフィールが、皆を代表して魔王に切り込んだ。
「む?レンよ、どうなのだ?」
「ああ、町長達を呼ばせたのは、ナナのお披露目が目的だったからだ、これからの話はあとからでも耳に入るだろうし、気まずかったら戻ってもらっても大丈夫だ、町長と組合長を兼任してるわけだし、暇ではないだろうからな」
「それなら助かるよ、私は戻らせてもらう、歓迎するからまた遊びに来てくれよ、レン様」
「おう、必ず行くよ、またなセフィール」
「うちの町にも来てくださぁい、レン様ぁ♪」
「ニーニャだったな、分かったよ、機会があったらな」
「やっぱりレン様には効かないのかぁ、ざんね~ん」
「何が?」
「うちの魅了♡」
精神干渉系か…少し話を聞きたいな、鼻くそ対策にもなりそうだし。
「お前…恐い能力持ってんなぁ」
「うふふふ、そんな恐くないですよぉ」
「いや、そんな事はないぞ、精神干渉系は俺も習得していない分野だからな、興味あるから後で話を聞かせてくれ」
「はいっ、待ってまぁす♪」
ニーニャはタタタタッと走って行って、先に歩き出していたセフィールの腕に絡みついた。
「やめろニーニャ!ひっつくんじゃねぇ!」
「いや〜ん、冷たくしないで〜セフィールぅ〜」
仲の良い事だな、他にも気になる能力があるから個別に尋ねてみるか、未来感知とかな…どう考えてもヤバい能力だろ。
他の者たちもお辞儀をしながらぞろぞろと部屋を出ていき、ナナが寂しそうに皆の背中を見つめていた。
「…」
「ナナ、行ってこい、皆が帰る前に食事をする時間くらいはあるだろ、いっぱい喋ってくればいい、あとこれをトールに渡してくれ、あいつも反省したみたいだからな」
時計をナナに預けるレン、鬼にはなりきれなかったらしい。
「は、はい!みんな〜!待って〜!」
うんうん、本当に元気になった、良かったねぇ。
「レン、孫を見守るおじいちゃんみたいな顔になってるぞ」
「カリン…くっ、否定出来ない」
「そろそろ会議をするぞレン爺!」
「そうだよレンおじいちゃん!」
「サリー!レイカ!俺はまだおじいちゃんじゃねぇ!」
「こういう風にしてるとレンは普通なんだよなぁ」
「そうねぇ」
「おいルダン、メリー、俺はいつでも普通なんだよ」
「分かった分かった、じゃあ話をしようぜ、普通のレンさんよ」
「ははっ、レンちゃんも形無しだねぇ」
「こういうのはセイトの役だろう」
「たまにはいいでしょ?」
「…まぁ、悪くはない」
まんざらでもないレンであった。
その後、これだけ王が集まっているのに、自分だけ一段高い所にいる訳にはいかないと魔王が言い、謁見の間を出て食堂に向かう一同。
「よし、まずは昼食にしよう!準備を頼む」
「かしこまりにゃ!」
お前かよ!
「お前かよ!あ、口に出ちまった」
「にゃる〜、レン…仮とはいえラーメン店の店主、私を甘く見ない事にゃ!」
「そうだった、忘れてたよ」
「「レン?」」
あ、ヤベぇ…
レイカとカリンが尋常じゃない目つきで見つめてくる。
「どういう事かな?」
「ラーメン?あたし達に黙っていたのか?」
「さっきも言ったろ、忘れてたんだよ」
レンは開き直った。
そうだ俺!どうせ力で負けはしない…ここはゴリ押しだ!
「なんだ?レイカはラーメンも作れなかったのか?」
「な!?つ、作れるよそのくらい!」
物作りに関してだけはプライドが青天井のレイカ、煽られ作れもしないのに見栄を張ってしまう。
「え?作れるのか!?」
そしてカリンも驚いた。
カリン…お前は少し素直すぎるぞ。
「あたしはラーメンが大好物なんだ!作ってくれ!あたしも手伝うから!頼む!」
「え、えぇ、分かったよ、任せて…」
早速後悔するレイカ。
ヤバそうだな…あ、そういえば収納してたんだった…
「取り敢えず収納してるから、今はそれで我慢しろカリン」
「え…そ、そうだよカリン!私のは後でね?」
「なんと、今すぐ食べられるのか、やった…」
小さくガッツポーズのカリン。
「姉ちゃんは昔から、外食と言えばラーメンだったよねぇ」
「当たり前だ、大好物なんだからな!」
「巻き込まれる人の事も考えてよ〜」
「関係ない!あたしが好きなんだ、弟は黙って従えばいい!」
「はぁ」
なんか、ますます昔のカリンに戻ってきてるな。
「いっぱいあるからな、みんなも食うだろ?」
「私もいいのか?兄様」
「いいぞ、マリーもラーメンは好きか?」
「当たり前だ、ラーメン嫌いという日本人は少ないだろ」
「僕も好きだよ〜、楽しみ♪」
「タイムは?っていうか、お前は食事をするのか?」
「ひどいなぁ、会って1週間だけど、一緒に食事してたでしょ」
「ああ、そうだったな、どうしてもな…魔物だし魔力だけでいいのかと」
『我だって食事はするぞ?』
『そうそう♪しなくても問題ないけど、味を覚えちゃうとね〜』
そういえばフェンもライトもレイカに餌付けされていたな、代わりに実験台にされてるみたいだけど…何をされているんだか。
「なぁ、ラーメンとは?」
「サリーは知らないのか?」
ラーメンの話で盛り上がりながら食堂へやってくる。
「黄色くて柔らかいゴムを長細くしたような物を茶色のスープに浸した食べ物って…美味しくなさそうなんだが…」
「まぁそう言うなよ、わざと不味そうに説明しただけなんだから」
「言い訳はいい、語彙力がないのは分かったから、さっさと出せ」
「はいはい、分かったよサリー母さん」
「せめて姉ちゃんって言え」
どうせ母親レベルの年齢だろうが、わがままなやつだ。
「味は保証するぞサリーよ、さぁ皆様方、適当に席についてくれ」
「楽しみだ、これだけでも来た甲斐があるってものだな」
「なぁレン、本当に俺達もいていいのか?」
「なんだよルダン、A級っていったらそれなりの開拓者だろう、どしっと構えてろよ」
「あ、あだす、緊張しすぎてきもぢわるいだ〜」
「ベンネ、大丈夫だよ、僕がいるからね」
「ランズ〜、離れないでぐれ〜」
「取り敢えず食べようぜ、適当に出すぞ」
そう言うと収納から手当たり次第にラーメンを出し始める。
「これがラーメン…」
「箸、は使えるか?」
「はし?」
「知らないようだな、サリーにはフォークだ、他は…流石に使えるよな」
「当たり前にゃ、このデビライドでラーメンを知らない人間なんかいないにゃ」
「ニャル、いつのまに…」
「ひどいにゃ!ニャルが料理の仕込みに行こうとしてたのに!」
「獣人って言うのは本当に耳がいいんだな」
「ニャルの耳は100m先の雑踏も聞き分けられるにゃ」
「レンよ、獣人がではない、ニャルだからこそなんだ」
「なるほどな、そういう技能ってわけか」
「魔王様、バラすのが早いにゃ」
「レン…食べてもいいか?」
「おおカリン、すまんな待たせて、涎は拭いてくれ、キャラじゃないぞ」
「う、うむ!ではいただきます!」
「みんなも食ってくれ」
『いただきます!』
ズルズル〜
「う、うまい!何だこれは!」
初めてのサリーは大喜び。
「これこれ♪レンのその技能は便利だなぁ、熱々じゃないか」
「だろ?」
「はぁ〜、緊張が少しだけ解けたわ」
「そうだねぇ、ベンネ美味しいかい?」
「うん、うまい」
「良かった、レン君、ありがとね」
「いいよ」
『よし、この味…覚えた』
レイカが小さい声でボソッと呟き、ニャルの耳がピクッと反応する、聴覚のいいレンも聞こえていた。
これで好きな時にラーメンを食える、良かったなカリン…
ズルズル〜、ズルズル〜
カリンはラーメンに集中しすぎて目がマジだった。
「ぷはぁ、美味しいねぇ、この世界にもあったなんて、24年ぶりのラーメンだよ〜」
「そうだな、本当に美味しい」
「レイとマリーは作ろうとは思わなかったのか?」
「地球の料理を再現しようって気も沸かなかったよ」
「それだけ洗脳っていうのは凶悪って事だな」
「兄様…本当に私達を救ってくれて感謝する」
「ああ、そう言ってくれるとこの世界に来た意味を見出だせる、俺の方こそみんなには感謝だ」
和やかに食事は進み、話は本題へ移る。




