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143話 お披露目、ナナの実力

構ってちゃんのトールを魔王がなんとか抑え、とにかく自己紹介を済ませる事にした。



「では我から…我はこの西国の王、魔王デビライドだ、王とは名ばかりで、日頃は魔法の研究に明け暮れている、まぁただの研究バカだな、この国では各町の町長、つまりはここに集まった者たちに、各町の開拓者組合の組合長も兼任させ、実質力で国を支配しているようなものだ、運営をほぼこ奴らに任せている」



なるほど、だからこいつらは10年で鼻が高くなってしまったのか…幼少期にいい扱いをされなかったんだ、力で支配なんかさせたらこうもなるだろうよ、本当にセフィールでもまともなほうだったのかも知れない、教育方法を間違ったな、ビルも意外と脳筋なんだな、サリーと同じ雰囲気を感じるのも分からなくもない。



その後セフィールを筆頭に自己紹介が続く。



この街を中心に1番外周の町から一つ手前の町ゼンダルア、7番目の町の町長セフィール、重力を操り、普段は世界に魔力を奪われている、その代わり無尽蔵に魔力を使用できるチート持ちだ、レンは密かに、自分と同じ強さに至れるポテンシャルを秘めている、と思っている。


6番目の町、ファング【爪牙】

茶髪で肌が浅黒く、長い髪で片目を隠した男、何にも興味を示さなそうな無表情、爪が長く尖っている、牙も生えていて、なんとも獣人のような見た目をしている、感情が高ぶると爪や牙が伸びてしまい生活に支障をきたすため、感情をできるだけ抑えている。


5番目の町、ネル【龍化】

背が高く180cmほど、髪は薄い緑色のロングストレート、気の強そうな顔でヤンキーのような目つき、露出度の高い服を着ている、以前は体中に鱗が生えていて、殆ど肌を隠していたらしい、暴露したセフィールに怒鳴っていた。


4番目の町、デイドリー【未来検知】

白髪で猫背の背が低い男、目の焦点が合っておらず、顔を震わせている、勝手に数秒先の未来を検知して、映像として頭の中に映し出されてしまうらしく、景色が二重で見えているらしい、常に魔力を消費していて、現在は何とかして検知量を抑え、魔力消費を抑えている、毎晩寝る前に魔力を枯渇させ、無理やり眠りについている。


3番目の町、オルガ【怪力】

ヒョロッヒョロのガリガリ男、大食漢で良く食べるのに太らない、セフィールに負けないほどの大食いさん、気を抜くとムキムキになってしまい、服が破れてしまうらしい、死んだような目で床を見つめている。


2番目の町、ニーニャ【魅了】

常に体の表面がキラキラしている、髪色はピンクでショートカット、小さな可愛い系の女だ、興味津々といった顔でこの場のやり取りを静観していて、意外と頭は良さそう、正直こういう手合いが苦手なレン、この中では1番関わりたくないと思っている。


1番目の町、トール【雷】

金髪のツンツン頭、何にでも口を挟む生意気な男、顔はそこそこイケメンで、ヤンキー崩れのような人物、服を着崩して俺はワルですよ〜、とアピールしている、昔は体からバチバチと音を鳴らし放電していたらしく、俺に近寄るなとカッコつけていたらしい、これもまたセフィールが暴露、本人は別にカッコつけてねーよ!と怒っていた。


最後にこの魔王街、ヴォルスターレの高級ホテル、デビルズホテル支配人のフィリアーナ、もちろん開拓者組合の組合長も兼任している、唯一呪いを受けていない人物で、第一印象は悪かったが、普段は冷静沈着で判断力に優れた非常に優秀な人材だった。


こちらのメンバーも順に自己紹介をする、ナナとニャルという魔王側の陣営を除けば8人と2体、その内4人は渡り人だということに皆驚いていた。


最後にレンの自己紹介が始まると…



「最後は俺だな、俺も渡り人だ」

「ふんっ、リーダー様はさぞかしすげぇんだろうな」

「トール…お前いい加減にしねぇとレン様に殺されるぞ?さっきも死にそうになってたじゃねぇかよ」

「うるせぇ!卑怯な手を使って不意打ち仕掛けてきたからだろ!」



それを聞いて呆れるレン。



これも物語あるあるだよな、卑怯な手って、ルールでもあるのかよ…



「馬鹿かお前」

「なんだとコラァ!」

「なにが不意打ちだ?これは試合か何かなのか?」

「うるせぇ!この卑怯者が!」



ちっ…イライラすんなぁ、まるで俺の嫌いな小説の中から出てきたような奴だ。



「分かったよ、じゃあ例えば俺が、卑怯な手を使っていたとしてもいいさ、俺が…」

「認めたな?ほら魔王様!こいつはこういう奴なんだ!」

「うるせぇ、話を最後まで聞けよ、例えばっつってんだろ、俺が卑怯な手を使ったからなんだ?ダメなのか?言ってみろ」

「あぁ?ダメに決まってんだろ!」

「なんでダメなんだ?」

「卑怯だからだ!」

「なんで卑怯な手を使ってはいけない?人間的に許されないからか?はっきり言うぞ、俺は聖人でもなんでもない、自分や身内が死の危険に晒されるくらいなら、自ら望んでいくらでも卑怯な手を使う、まぁお前には卑怯な手なんか使ってないけどな」

「嘘つくな!使ったに決まってるんだ!」



…くそっ、頭痛くなってきた、質問に答えろよ。



「もういい、きちんとルールが設定されている試合でも模擬戦でもないんだ、卑怯な手を使おうが何しようが、相手に勝利するための手段の一つだろ、それを見破れなかった時点でお前の負けなんだよ」



なんでこんな奴を諭さなきゃならんのだ、取り敢えず納得しておけよ。



「う、うるさい!うるさいうるさい!」

「…」

「俺が…俺がお前みたいな奴に負けるわけねぇんだ!」

「正々堂々ぶちのめされなきゃ分からんのか?」

「あぁ?やってみろや!」

「まぁ取り敢えず自己紹介を先にさせてくれ、そのあとたっぷり後悔させてやる」

「ふんっ」



腕を組んで何も言わなくなるトール、レンの自己紹介を真面目に聞く気はないらしい。



「俺は…まぁ他の奴らもだが、地球という世界から賢者ルードによって無理やり攫われてきた、ティムは知らんけど」

「もしかしたら僕もそうなのかもね、普通じゃなかったし」



初めて聞く者は驚愕といった顔だ。



「それで友達…と思っていた5人と俺、計6人で一緒にこの世界、ツェファレンに来たわけだ」

「思っていた?」



フィリアーナが疑問を口にする。



「ああ、その5人はルードに洗脳されてたんだよ、転移させられるのは知っていたんだ、俺だけ知らなくてな、転移させられたあと、能力を全て奪われ、危険区域の深層にたった1人で放り投げられた」

「それはヤバいな、俺でも深層に1人はキツイぞ」

「そうねぇ、ルダンと私の2人ならなんとかなりそうだけど」



さすがA級だな、S級間近ってところか?まぁ基準とか知らんけど。



「そして、その裏切った1人が、カリンだ」

「あぁその通りだ、一生を掛けてレンに償おうと思っている」

「それはいいと言っただろ、あと1人、カリンの弟も洗脳を解いて、現在5人中2人とは仲良くしている」

「はっ、能力を奪われた奴がよくそんなに偉そうにしてられんなぁ、カリンちゃんに助けられたんでちゅかぁ?」



トールの野次を無視して紹介を続けるレン。



「この世には神の庭園、箱庭というものが存在する、1つの庭園は一柱の神が管理していて、そこでは各世界から放出された魔力の回収と浄化をしていて、また各世界へ再分配などをしている」

「な、なんと!そんなものが!?」



ビルが目をキラッキラさせながら興奮しだした。



「ああ、俺はその箱庭を管理する神様のパートナー、管理人候補者なんだよ、まぁ神候補だな、だから運よくそこの女神様に助けられ、この世界を生き抜くための力を手に入れた」

「ふん、努力もしねぇで手に入れた力なんか、たかが知れてるな!」

「そうだな、まぁ運が良かったとは思ってるさ、他にも同じ目に合って、亡くなってしまった者もいるのかもしれない、俺はたまたま生き残ったうちの一人に過ぎないんだよ、それに努力はしたさ、努力という才能が芽生える程にな、それはもう地獄だった…悪魔に魂を売れば良かったと思うほどに」

「ふ、ふんっ」



レンに冷静に返答され気まずくなってしまうトール。



「俺にはレベルがない、その代わり魔物を倒した時に得られる経験値を貯めておいて、それをポイント化して基礎能力に振り分けられる、【貯蓄】という能力を持っている、こればっかりはズルだな、神の恩恵ともとれる能力だ」

「だからレン様はそんなに強くなれたのか」

「そうだ、セフィールだって魔力をほぼ無尽蔵に使えるんだ、恐らく俺並みに強くなれるかもな」



人間…という枠組みの中ではな。



「ほ、本当か!?」

「ああ、まぁそれはあとでな」 

「おう!」

「ステータス」



レンは突如、この世界ではタブーとされるステータス公開を実行。



「見ての通り俺の今のステータスは基礎能力が精神57000、知能41200、あとは全て上限の10万だ、もう深層第2区でも鍛錬にならなくなってきている、だからお前は強くなって訓練相手になってくれ、セフィール」

「いや無理だろ、勘弁してくれ」

「これは敵わん…」

「レンのステータス、初めて見たにゃ…」

「時間を止めても敵わないはずだよ、強すぎるでしょ」



カリンとレイカ以外、全員が顔を青ざめさせている。



「…」



トールも何も言えなくなっていた、まさかステータスを公開してくるとは思いもよらなかったのだ。



「やっぱりすげぇなレン様は、ゼンダルアの組合が潰されなくて良かった…トールどうしたよ、全然喋らなくなったなぁおい」

「まぁなんやかんやあってな、ルードに復讐する為に、今は力を付けながら世直しをしているって所だ、まぁ柄じゃないんだが、世直しがルードにとって嫌がらせみたいなものだからな」

「偽装だろ…」

「あ?」

「偽装に決まってる!そういう卑怯な技能を持ってるんだろ!」

「また卑怯って、なにを基準に卑怯なんだよ、なにが気に食わない?俺がお前の生活に支障を及ぼすような何かをしたのか?別にお前に迷惑なんか掛けてないだろ、俺の事をどう思ってもらっても構わねぇからあんまりアホな事を口にするな」

「うるせぇ!女どもに守られて粋がってるクソがよぉ!」

「だから、俺がもし女に守られていたらなにが問題なん…」

「いい加減になさいトール」



ナナさん!?



「さっきから黙って聞いてれば気持ちの悪い事ばかり言って、恥ずかしくないの?私達はレン様を守るほど強くないわよ、少しは身の程を弁えなさい!」

「な、ナナさん?キレて…」

「レン様は黙ってて」

「はい…」



自己紹介はこんなもんか、そろそろぶちのめしてもいい頃だろう、まぁもともとナナにやらせようと思っていたしな、こんなに怒るとは思わなかったけども…ともかく、お披露目開始だ。



「んだよナナ、やろうってのか?」

「私は生まれ変わったのよ、強くなったわ、今の立場にあぐらをかいて何も努力しないあなたと違ってね」

「偉そうに、何様のつもりだコラァ!昔みてぇに泣かされてぇのか!」

「泣かせてみなさいよ!今のあなたにできるのかしらね!」

「はっ、大口叩きやがって、まともに能力の制御も出来ねぇんだろ?そんな目隠ししなきゃならないんだからなぁ」

「試してみる?」

「あぁ?おおやってみろやぁ!」

「後悔することね…五天・麻痺眼!」



ええ、何そのかっこいい呼び名…さてはニャルだな?



「ニャル、お前だな?なかなかやるなぁ、カッコいいじゃないか」

「むっふふふ、分かるかにゃ?やっぱり私はセンスの塊にゃん♪」



そこには同意するよ、五天とか…意味分かりそうで全く分からんがな、さてトールに防ぐ術はあるのかな?



「う、うぐぐぅぅ…て、手足が、動かない…」



弱ぁ…



「あら、トールどうしたの?お得意の雷は使ってこないのかしら?」

「う、うるせぇ!今焼き殺してやる!」



なんかだんだんナナの本性が…これは怒らせるべきではないな、あまりからかうのはやめておこう。



バリバリッ!



「ふっ」



ザッ…



「なん、で!?」



トールが苦し紛れに電撃を放ってくるが、ナナは最低限の動きで軽く躱してしまう。



「大したことないわね、そんなのでレン様に楯突いたなんて失笑ものだわ」

「なんだと!動きを止めるしか能が無いてめぇに言われたかねぇよ!」

「はぁ、せっかく口は動かせるようにしてあげたのに感謝の言葉も無いなんて、そろそろ心臓でも止めようかしら」

「はっ、それこそ失笑ものだなぁ!そんな事が出来るわけ…」

「出来るわよ」



徐ろに目隠しを外すナナ。



「技能は完璧に制御できるし、レン様より頂いた力【五眼】はあなたの体の中を見透かすことも容易いのよ」



そう言いながら目をゆっくり見開く、瞳から紫色の光が強烈に漏れ出した。



なにそれ…強者はなぜか目が光る、テンプレやん、ラスボス感が半端ないんですけど、昨日模擬戦したときはそんなんじゃなかったでしょ。



「見ることが出来るなら麻痺させられるわ」

「や、やめろ…」

「さて、それじゃあ、死んでちょうだい…」

「ご、ごめんなさいぃ!生意気言ってすみませんでしたぁ!」



見事な土下座をかますトール。



どうやら命とプライドを秤にかけて、命が勝ったようだな。



パンッ!パンッ!



手を叩いて場の空気を制御するレン。



「ナナ、お見事」

「あ、ありがとうございます…レン様」

「トールも分かったな?」

「う、うす」

「調子に乗のは構わない、自分が相手よりも強いと確信が持てるのならな、しかしそれが分からないならイキるべきじゃないぞ、ネルにも言ったが、そんなんじゃあいざというとき誰も助けてくれない」

「は、はい…分かりました」

「トールが素直に…レンは凄いな、ナナも強くなった、本当に感謝してもしきれんよ」

「いいんだよビル、大丈夫だと言ったろ?」

「はははっ、気持ちのいいやつだな!」

「まぁ自己紹介はこんな感じだ、さてそこで本題なんだが、レイカ」

「やっと出番だね〜♪」



右手の中指で、掛けてもいないメガネをクイッと上げるような仕草をしながら一歩前へ出るレイカ。



いや、せめて伊達でもいいからメガネ掛けろし。



「まずは…レン、呼んできて♪」

「はいよ、姫さま」

「ふふふ、よろしい」

「ビル、ちょっと待っててくれ」

「うむ、誰かを呼んでくるのだな?」

「そういう事だ…準備はいいか?」



時計に向かって話し掛ける。



『お、レンか?ようやくか、いつでもいいぞ』

『こっちもいいよ〜、レン兄ちゃん♪』

『兄様!私も大丈夫だ』

『僕も大丈夫だよ〜♪』

「ちょっと行ってくる、転移」



ヒュン



―――




「やはり転移…使えるのだな」



ビルはフィリアーナから報告を聞いていたので納得顔。



「転移!?」



トールは今更ながら、どんな人物に喧嘩を売っていたのかを理解し始め、血の気が引いていた。



「トール、本当にやめてくれよ、いつ殺されてもおかしくなかったんだからな?」

「セフィール…すまん」

「本当よ、私なんてレベル上げの時に深層の第3区に連れて行かれそうになったのよ?それもピクニックに行くようなノリで、本当にあの人を怒らせないでよね」

「3区…ナナは行ったのか?」

「行くわけないじゃないの、全力で断ったわよ、なら抵抗してみろとか言って急に模擬戦始まったけれど、全然敵わなかったわよ、魔法で傷つけられるのは、ティムさんの風魔法くらいじゃないかしら?」

「ははは♪僕の風魔法は最強だからね〜」

「あたしも風魔法はそれなりに得意なんだが、ティムほどじゃないからな」

「何言ってるのよ、カリン様には私の麻痺眼も効かないし、物理だったらレン様に傷くらいつけられるでしょ」

「まぁな、すぐに回復されておしまいだが」

「化け物かよ…」

「違うわ、神様よ」

「ちげぇよそういう意味じゃねぇ、みんな揃って化け物だって言ってんだ、もう絶対に逆らわねぇ」



少しは世間の広さというものを知ったトール。



「トールはこの短時間で成長したな」

「魔王様…俺なんてまだまだです」

「なんか俺達…場違いじゃね?」

「そうね、私も同じ事を考えていたわ」


 

騒動に巻き込まれたルダンとメリーは少し気まずくなっていた。



「そんな事はないぞルダン、メリー」

「レン…帰ってきたのか、早いな」

「おかえりなさい、その人たちが特別ゲスト?」

「そうだ、俺がこの世界で過ごした1年間、その中で 仲良くなった人たちだ」



レンの背後には数人の人影があり、誰もが独特のオーラを放っていた、魔王側の陣営はまたとんでもない人物を連れてきたのだろうと、緊張感が跳ね上がる。

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