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142話 呪い子トール

「なるほどな、あやつらめ、ニャルが来たら全員通せと言っておいたのに、後で説教だ」

「早くしないと殺されるにゃ〜」

「あははは♪あんな鬼人共に殺されてるようじゃあ魔王様に会う資格もないでしょ〜」

「トール!そうじゃないにゃ!鬼人達がやられるにゃ!下手すると城も持たないにゃ!」

「大げさだなぁ」



トール、呪い子の1人、西国2番目の町の町長をしている、口数が多くお調子者、鬼人達と同じく、人間嫌い、というか他人を見下す癖がある。



「ふん、馬鹿トールが、レン様を知らないからそんな事が言えるんだよ、お前なんか手も触れられずに一瞬でぐっちゃぐちゃだ」

「そうよ、あなたは何も知らない、レン様は…ヤバいのよ」



セフィールとフィリアーナが口を挟んでくる。



「はぁ?なんなの2人とも、調子に乗ってない?やっと呪いを制御できて、最近少し大きくなったからって態度も大きくなったんじゃない?」

「はっ、調子に乗ってんのはてめぇだろうがよ、私は昔から態度はでけぇんだよ、まぁ器もでかいがな、お前と違って」

「言ってくれるねぇ、潰すよ?」

「うるせぇ、口臭えんだよ、失せろ」

「喧嘩してる場合じゃないにゃ!魔王様!」

「う、うむ、そうだな、我が行こう」

「魔王様、私も行くよ」

「セフィール、頼む」

「おう」

「かぁ〜、あぁやだやだ!魔王様にごますってらぁ!」

「あいつ…レンに殺されるかもな」

「うむ、どうしてああなってしまったのか…」

「魔王様のせいじゃねぇよ、性格は人それぞれだ、しょうがねぇだろ」

「そうだな、今はレンの事だ」



扉を開こうと、セフィールとニャルが魔王様の前に出た瞬間。



ドガァーン!



「ああ、遅かったにゃあ…」



―――数分前



「聞こえないのか!?帰れと言っている!」

「それでな?顔だけで60mくらいある、全身真っ赤でドロドロした赤ちゃんみたいな魔物だったんだよ」

「うげぇ、気持ち悪っ」

「イライラしたぜあんときは」

『我はその戦闘を見て恐怖したものだ、同時に憧れのようなものも感じてのぉ』

「無視をするな!虫けら共がぁ!」

「やっちまうか?右の」

「そうだな左の」

「まぁ、強さは大したことなかったけどな」

「いやいや、それはレン基準の話だろ」

「まぁそうかも知れ…」



パシッ



「おい、これはどういう事だ?」



右の鬼人がレンに向かって拳を打ち下ろしてきたので、手を上に上げ、勢いを殺すようにフワッと簡単に受け止めるレン、そしてどういう事か質問する。



「なんで、待ってろと言われたのに手を出した?クソオーガ」

「俺達が言われたんじゃねぇからなぁ」



こいつ、簡単に拳を受け止められた事実が分かってないの?バカなの?



「手を出したな?」

「だからなんだコラァ!」

「よしルダン、これは正当防衛だよな?」

「うん、そうだね…」



ルダンは少し引き気味。



「レン、殺しちゃ駄目よ?」



メリーは相手の心配をした。



「分かってるよメリー」

「私、あの角欲しい」



レイカは鬼の角を欲した。



「オーケー、戦利品は必要だからな」

「あたしはあと一匹を相手したい」



カリンは戦闘を欲した。



「いいぞカリン、手加減の訓練だな」

「よしきたっ、手加減なら任せろ!」

「程々にしてくださいね、カリン様、レン様」

「おうナナ、殺しはしないさ」

「うむ、軽く相手してやろう」



取り敢えず…ふんっ!



「うあぁ!」



ドガァーン!



受け止めていた手を軽く押し返すレン。


押し返された右の鬼人は大きく吹き飛び扉に激突、扉はバラバラに崩れ落ち、そこにはニャルとセフィールと魔王が苦笑いで立っていた。



戦うまでもなく終わっちまった…俺も手加減の訓練が必要だな…



「ああ、遅かったにゃあ…」



ニャルか…惜しかったな、時間切れだ。



ドドドドドドッ!



「うぐぁぁ!!」



ズシン…



カリン…打擲の舞使ってるよ、手加減は?



さてと…



スタ、スタ、スタ…バキッ



「レイカほれ、戦利品だ」



ぽーい



「こっちもだレイカ」



ぽーい



「わ~い、ありがとう♪」



魔王、セフィール、ニャル、その他呪い子と思われる十数人の人間が見ている中、微塵も躊躇せず鬼人の額に生えている角をぶち折り、レイカに渡すレンとカリン、レイカもしれっと受け取り部品倉庫に仕舞ってしまった。



「気は済んだか?」

「よう魔王、すまんな騒がしくしてしまって」

「ああいいさ、こちらに不手際があったんだからな」

「話の分かる御人だぜ」

「我の事はデビルと呼んでくれ、親しい者はそう呼んでいたんだ」

「デビルか、カッコイイけど呼びづらいよ…ビル、じゃあ駄目か?」

「ビル…愛称というやつか、それは良い、ビルと呼んでくれ」

「おう、よろしくな、ビル」

「改めてよろしく頼む、レン」

「よかったにゃあ〜、もう!サルとウル!だから言ったにゃ!」



サルとウルて…左と右って事?聖堂の門番、レイフド、ライフドみたいだな。



「貴様ら、起きろ…」

「う、ぐぅ…」

「うぅぅ…」

「起きろと言っておるのが聞こえんのかぁ!」

「ビル、そりゃ無理ってもんだ、気合でどうにかなる問題じゃない、回復」



2体の鬼人の体が淡い緑色の光に包まれ、傷が回復した。



「ほれ、治ったろ?はよ立てクソオーガ共」

「う、む?き、傷が…」

「早く立てよ、魔王がキレるぞ?」

「「は、はいぃ!」」



ザザッザ!



急いで立つサルとウル。



「お前達は3階の部屋でしばらく謹慎だ」

「え…そ、そんな」

「行け!!」

「は、はいぃ!」



ズドドドド…



床を揺らし掛けていく2人。



「さて、ようやくだな、ようこそ魔王城へ」

「招待ありがとう、まずはお互い軽く自己紹介からだな」

「うむ、まずはこちらの面々から…」

「と、その前に…」



床に散らばった黒曜石のようなものを手に取るレン。



う〜む…いけるか?



右手に鉱石を持ち、左手の平を上に向け集中すると、瞬時に同じ物が出来上がる。



こんなもんか?あとは扉だが…原型が無いからなぁ、まぁ適当でいいか…



ズズズズズ…



壊れた壁と扉が直り…



「こんな感じだったか?」

「話には聞いていたが凄まじいな…」

「レン…扉の上、もう少し丸かったよ」

「おお流石タイムだ、年季が違う」

「やめてよ、おじいちゃん扱いしないで」

「魔物?人か?」

「僕は魔物だよ魔王様、名はタイム、よろしくね」

「こいつは100年以上前の渡り人だ」

「なんと…」



こいつ、常に宙に浮いてるからな、確かに人間かどうかは気になるよな、前にそれはどうなってるのかと聞いたら、リッチってそういう設定でしょ?って、まぁリッチといえば浮いてるってイメージはあるけどさ…



ニャルとタイムから修正箇所の指摘をされながら扉を修理し、改めて部屋内に集まった面々と向かい合う。



う〜ん、歓迎されてなさそうだなぁ…殺気を向けてきてるのが2人、興味無さそうなのが2人、目が死んでるのが1人、キョドってるのが1人、目がキラキラしてるのが1人、あとはセフィールとナナ、9人?あれ?なぜ支配人がここに?こいつもニャルみたいに魔王の部下だったのか?



「待たせてすまない」

「問題ない、ではこちらから自己紹介を…」

「いらないでしょ魔王様」

「トール貴様!」



トールと呼ばれた金髪の優男が、魔王の言葉を遮り、セフィールに怒鳴られた。



殺気を放ってる1人だな…



「ああビル、別に自己紹介は要らんぞ、したいやつだけでいい、したくないやつはここから退場してくれ」

「はぁ?自分から呼び出しておいてその態度はなんなの?」

「呼び出しに応じておいてその態度ならいらねぇって言ってんだよ、ただ調子込みたいだけのためにここに来たクソガキだろ?さっさとこの場から消えろ」

「てめぇ…殺す!」

「や、やめろトール!!」



バリバリッ!パンッ



セフィールの静止も間に合わず、トールの腕から青白い光が放たれ、レンに直撃するも、小さく弾けて消えていった。



「あぁ?ああ…電撃かぁ、名前がトールで電気とは、良く出来てんな」

「な、なんで効かない!?」

「ただの静電気で人が死ぬかよ」

「なんだと!」



レンは激昂するトールを無視して魔王に話し掛ける。



「ビル、どうする?やっちゃっていいのか?」

「はぁ、やめるんだトール、レンは大切なお客様だ、強さとは関係ない、少しは大人になれ」

「ふん、防御力が強いだけのやつがよ!立場を守るのもうまいみてぇだな!」

「言ってろよクソガキが」



別になんでもいいよ、あと一人殺気を向けきてるやつがいるからな、まとめて相手してやる。



「さて、セフィール、支配人、久しぶりだな」

「おう!レン様は相変わらずだな!にひひ♪」

「お久しぶりです、わたくしはフィリアーナと申します」

「なんだ、お前がフィリアーナだったのか、なるほどなぁ、どう見ても20歳に見えなかったから、選択肢にも入らなかったよ」

「20歳に見えない…」

「落ち込むなよ、大人っぽいって事だ」

「あ、ありがとうございます」

「けっ!仲良しちゃんかよ!」



うるせぇなぁこいつは、いちいち文句付けなきゃやってられないのかよ、何で来たんだよ。



「お前うるせぇんだよ、そんなに構って欲しいのか?気に食わないなら早く帰ればいいだろ」

「なんだと!?お前殺す…」

「セフィール、時計は全員に渡したのか?」

「おう♪」

「あいつだけ没収だな」

「分かった、おいトール!聞こえたな!時計をレン様に返せ!それはレン様からの贈り物だ!」

「あぁ?」

「いいから黙って返せ!そうだな…レン様、フィリアーナに渡しても?」

「おう、いいぞ」

「早く渡せ!」

「はっ、嫌だね、これは俺のものだ」

「貴様ぁ!」



まぁ地球だったら成立していたがな、譲渡したものはそいつのもの、だが…ここは異世界!



ヒュッ



全力でトールに近づき、手に持っている時計を華麗に奪う。



「ほら、フィリアーナ」

「え?」

「奪ってきたよ」

「な、ない!なんで!?」

「ははっ、さすがレン様だなっ♪」

「ふふっ、残念だったなトール、少しは精進しろ」

「魔王様…そんな」

「あとそこの女、お前も没収だ」

「な、なんでよ!」

「お前…ずっと殺気を放ってるだろ、話を聞く気が無いなら時計を置いてそいつと出ていけ」

「…ネル、そうなのか?」



セフィールが意外そうな顔して聞いた。



「ふ、ふん!知らないわよ!」

「俺が分からないとでも思ってるのか?何のためにここに来た?」

「あんたが呼び出したんでしょ!魔王様の招待を断れるわけないじゃないの!」

「ビル、本当にこいつらは呪い子なのか?」

「そのはずだが…トールはちゃんと制御してレンに攻撃していたな、ネルは…鱗はどうした?」

「確かに…昔はトールの体はいつもバチバチしてたし、ネルは体の鱗を嫌がってたよな…」

「が、頑張ったのよ!」

「ほう、他の者たちにそのコツも教えず2人だけの秘密か?」

「弱いのがいけないのよ!ここは強いものだけが生き残れる世界なのよ!」

「そうだぜ、防御力だけでイキってるクソ野郎が」

「おい!いい加減にしろ!」



セフィールが2人の命を守るため、またも静止するが。



「ああそう、なら死ねよ」



ちょっぴりイライラしているレンはお仕置きを決行、指向性の威圧を2人に浴びせる。



「れ、レン様やめてくれ!」

「「!?」」



2人は固まって動けなくなってしまう。



「弱いお前らが悪いんだ、死んでも文句はないんだよな?俺より弱いから生き残れなかっただけだ」

「ぐ、うぅぅ」

「や、やめて、許して…」



命乞いはやっ!



「お前は…ネルだったか?てめぇは同じ施設で育ったやつらを仲間だと思ってなかったらしいな、そんなんじゃ誰も助けてくれねぇぞ?死にたくねぇなら相手の力量を測ってから物を言え」

「す、すみ、ません…」

「うぅ、く、くそ…」

「取り敢えず謝ったし、ビルとセフィールの顔に免じてネルは解いてやる」



ネルだけ威圧を解除、トールはまだ反抗心があるのか、苦しみながらも尚、レンを睨んでいる。



「ふぅ、はぁ、息ができるわ、す、すみませんでした」

「…」



魔力が多いと威圧もなかなかにチートだよな、技能にもなってないのに…しかしトールはなかなか耐えるね、まだ目が気に食わねぇな…


そうだ、ムフフ…



「!?な、なん、だ?」



またろくでもない事を思いついたのか、トールへの威圧も解除してあげた。



「はぁ、はぁ…ふん、まだ卑怯な技能を持ってたんだなレンさんとやらよぉ、魔力切れかぁ?」

「ん?あぁそうだな、だから続きは彼女にやってもらうよ…ナナ、こっちへ」

「はい、どうしました?」

「はぁ?そいつがナナだと?」

「トール、久しぶりだね、私は変わったのよ」

「ふん、泣き虫のナナが、なんだよその目は、とうとう抉り取ったのか?ひゃははは♪」

「…」

「ナナ、なんで呼ばれたのかは分かるな?」

「…はい」



さて、ここらで自己紹介といこう。



「さあ、まずは自己紹介だ」

「レン、いいのか?」

「いいよビル、このままじゃ本題も話せねぇ」

「うむ、分かった、邪魔するなよトール、次は殺す」

「わ、分かったよ魔王様…」



あれだけイキっておいて死ぬのは恐いんだな、まぁ生き物として当たり前だけど…なら、あんなに調子込まなければいいのに。


っていうか、ナナの名前を言った瞬間殺気が増えたんだけど、なんなの?ナナはそんなに恨まれてるのか?技能が暴走して迷惑でもかけたのか?



「はぁ…」



まだ面倒くさい事態が続きそうだと思い、小さくため息をつくレンであった。

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