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136話 魔王城

「魔王様、ご無沙汰しております」

「フィリアーナだったか、何か用か?」

「はい、この魔王街に、賢者に匹敵する程の開拓者が現れました」

「なに?」



レンがヴォルスターレに訪れた次の日…魔王街の中心にあるヴォルスターレ城、通称魔王城にある魔王デビライドの私室にて、デビルズホテルの支配人、フィリアーナが魔王にレンの報告をしていた。



「昨晩、わたくしが経営しているデビルズホテルに現れ、開拓者と揉め事を起こし、B級開拓者を片手間に処理、その時に損害の出たホテルの備品や壁などを、ものの数十秒で修復し、絡んできた開拓者へ修理費用の請求、さらに魔法的何かの枷を掛けました」

「なんと、嫉妬するほどの魔法技術だな…」

「そしてその後…転移と思われる技能か魔法を使用し、姿を消してしまいました」

「なんだと!?それで…逃がしたのか?」

「い、いえ、昨日はホテルに泊まる気分じゃないと、一旦拠点に帰ったようで、本日もまたこの国へ来るそうです」

「そうか…」



コンッコンッ…



「ん?1日に2人も人が訪ねて来るとは珍しい、誰だ?」

『魔王様、ゼンダルアのセフィール様がお見えになっております、魔王様に献上したい品があるとか、いかがなされますか?』

「ふん、また我に取り入ろうとする何者かの差し入れだろう、適当に受け取っておけ!我は今忙しいのだ!」

『そ、それが…何が何でも直接渡すと…』

「セフィールがそんな生意気を?口は悪かったが、いつからそんなわがままを言うようになった?まぁ構わん、気に入らなかったら説教してやる、通せ」

『は、はい、ではどうぞ…』

『おう、交渉ありがとな』

『いえ…』



ガチャ…コツッコツッコツッコツッ



献上品に自信ありのセフィールは、堂々と胸を張って魔王の前へ歩いてくる。



「「!?」」



声は確かにセフィールなのに、見た目が以前と全部違い、目を見開き驚く2人。



「魔王様、お久しぶりだ」

「誰だ?お前…セフィール、なのか?」

「ああ、呪いはもう大丈夫だ、とある人物に治してもらったよ」

「なん、だと?」



天井を見上げて、目を細める魔王。



「な、なにかございましたか?」

「いや、タイミングがな…それで?献上品とは?」

「フィリアーナもいたのだな、ちょうどいい、これだ」



腰に掛けた袋から時計を2個出して、魔王とフィリアーナへ渡す。



「わたくしにもですか?」

「ああ、魔王様と各町の長に渡そうと思ってな、全部で9個もらったんだよ、あ…」



長ではないが魔王側近の1人である、フィリアーナの分は計算に入れていなかった事を思い出したセフィール。


タイミング悪いなと少ししかめっ面だ。



「フィリアーナには…まぁいいか、またもらえばいいだろ」

「なによその言い方と顔は、まるで渡す気なかったみたいじゃない」

「それでこれは?」



そんな事はどうでもいい魔王、話を遮って質問してくる、



「時計だ」

「時計?これは…時間なのか!?」

「そう、針ではなく、数字で時間が分かる、こういうふうに腕につけるんだ、オシャレだろ?」



セフィールが付けているのは青色、フィリアーナにはシルバー、魔王は黒だ。



「ほう、デザインと色もそれぞれの違うのだな、これはどうなっている?どうやって時間を認識して、どういう原理で数字を表示している?」

「まぁ魔王様よ、そこはどうでもいいだろ」

「どうでもいい訳ないだろうが」

「違うんだよ、この時計の目玉機能はそれじゃない、一旦私は部屋の外に出る、その時計から音が聞こえたら右側の小さなボタンを押してくれ」

「なんだというのだ?」

「魔王様!これは爆弾では!?」

「なんだと!セフィール貴様!」

「爆弾じゃねぇよ!早とちりすんな!」

「だってあなただけ逃げようとしたじゃない!」

「してねぇよ!わ〜かったわかった、この場所でやるよ、けっ、つまんねぇな〜」



驚かせるつもりだったのに、楽しみが半減して、面白くなさそうな顔をしながら時計を口に近づけて…



「よ〜っす、聞こえるか?」

『よ〜っす、聞こえるか?』

「な、なんだと…時計から声が?」

『そういう事だ、機能は分かっただろ?今度こそ私は部屋の外に行くから、ボタンを押して話してくれ、いいな?爆発とかしないからな?逃げるなとか言うなよ?』



そう言うと、部屋の外へ行ってしまった。



「しゃ、喋ればいいのか、セフィール…聞こえるか」

『おう魔王様、ばっちりだ、セフィールも聞こえるか?』

「はい…物凄い魔道具ですね」

『だろ?どれだけ離れてても話せるらしい、魔王様よ、どうだ?気に入ったか?』

「気に入った、これを作った人物は?」



ガチャ…



説明はもういいだろうと部屋に戻りながら話す。



「分からん、でも、レンという人物からもらったんだ、呪いを解いてくれたのもそいつだ」

「またレンか…偶然?ではないのだろうな…」

「セフィール!今なんと!?」



またも天井を見つめ小さく呟く魔王、しかしその呟きは、フィリアーナの叫び声でかき消された。



「フィリアーナ、なんだよ急に、呪いは解けたと言ったんだよ」

「そんな事見れば分かるわよ!」

「そんな事だと?…てめぇ殺すぞ?」



ゴゴゴゴ…



セフィールの重力が発動。



「いい度胸じゃないの、ちびっこセフィール」

「言ったなてめぇ!今は小さくねぇだろ!てめぇはぜってぇぶっ飛ばす!」

「やめろ!どこで喧嘩をしている!」

「「す、すみません!」」

「それで?」

「セフィール、呪いの事じゃないわ、誰からもらったって?」

「レンだ」

「同じね、わたくしもそのレンの報告をしに来ていたのよ」

「なんだそうだったのか、あいつは凄かったろ?」

「ええ、とても人間とは思えなかったわ」

「なるほど、同一人物ってわけだな?興味が沸いた、連れてくることは可能か?」

「それはフィリアーナが最適だな、私はこれから、各町に寄って時計を渡しながら帰る予定なんだ」

「今日また来ると言っていましたので、仲の良い開拓者に話しておきます、とても我の強い人物ですので、素直に従うかは分かりませんが…」

「従わせちゃ駄目だろフィリアーナ、お願いしなくちゃ」

「魔王様からの呼び出しなのよ!?お願いなんて出来ないわ!ありがたく従うべきよ!」



もはや敵対しないように進言しに来たことを忘れているフィリアーナ、セフィールの方が精神が高い分、冷静だった。



「馬鹿、レンはこの国の人間じゃねぇ、魔王様に従う理由もないだろうよ、むしろ魔王様自らレンに会いに行くべきだと私は思うね」

「な!?」

「お前がそこまで言うのか」

「ああ、あいつは化け物だ、正直怒らせたらこの国どころか、世界が終わる可能性も秘めている、と、私は思っている」

「…そ、そうね、忘れていたわ、わたくしもそれを進言しに来たのでしたわ」

「はっはっはっ♪俄然興味が沸いたな!よしっ、我から会いに行こうではないか!」

「魔王様が笑った?」

「あ、そうだフィリアーナ、やっぱり時計は返してくれ」

「なんでよ!」

「いや、はは…長達と魔王様の分しか貰ってなかったんだよ、レン様と知り合いなんだろ?直接貰えよ」

「貰えるかしら…わたくしの印象は悪いと思うのよね…」

「お前…あの人に何をした?」

「それが…」



先ほど魔王に説明した事を、もう一度説明していく。



「フィリアーナ…よく殺されなかったな」

「ええ本当に、でもレン様は恐らくですけど優しい方よ」

「ああ分かる、私の町でも組合で大暴れして、レン様に失礼を働いた開拓者や職員どもを、私が殺そうとしてしまってな…逆にやり過ぎだと諌められたからな」

「そうだったのね、お互い生きていて良かったわね」

「と、言う訳で時計は返してくれ、それは長達の分なんだよ」

「なによ、まぁいいわ…はい」

「すまないな、レン様に会ったらフィリアーナにもあげてくれって言っておくよ」

「是非お願い」

「さてこれで話は済んだな、では私はこれで」

「ああ、ご苦労だったな、報告ありがとう」

「!?い、いえ、では失礼致します」



ガチャ…



魔王から感謝の言葉が出てくるとは思ってもいなかったセフィール、恥ずかしそうにしながら部屋を出ていった。



「わたくしも失礼いたします」

「ああ、フィリアーナもありがとう、気を付けて帰れ」

「…は、はい!」



同じくフィリアーナも、うっすら笑顔の魔王になんとも言えない気持ちになりながら部屋を出ていった。



「ニャル、出てこい…」

「はいにゃ!」



シュッ、スタ…



天井から音もなく降りてくる、ラーメン屋のオーナー、ニャル。



「どうやらお前が言っていた人物と同じらしいな」

「そうだにゃ、間違いないにゃ、ナナの呪いも一時的に解いたにゃ」

「そうか…お礼をしなければな」

「また見かけたら報告するにゃ、でも…私は時計を貰ってないにゃ…」

「そんな落ち込むな、レンというやつはお人好しなんだろ?仲良くしていれば貰えるんじゃないか?」

「そうにゃ!ラーメンを無料にするにゃ!そしたら貰えるかもにゃ〜」

「我も会いに行くからな、先に会えたら頼んでみるとするか」

「お願いしますにゃ〜、じゃあウチはナナが心配だから行くにゃ〜」

「押し付けてしまってすまないな、ナナを頼む」

「まっかせろにゃ〜!」



レンか、こやつに頼ればもしくは…



―――――



「今日も西に行くの?」

「おう、変な呪いが流行っててな、今は目から麻痺ビームが出て制御不能なやつをどうにかしようと思ってるんだよ」

「麻痺ビームって…技能が制御できないの?」

「そうだ、技能の名称が黒塗りになってて、しかもその技能はパッシブで発動しちゃうらしいんだよな、全員がそうなのかは分からんけど、なんか魔力を遮断するメガネか何かは作れないか?」

「簡単に作れるよ、私達がつけてるアクセサリーにも魔法防御結界があるじゃない?作ろうか?」

「頼む、さすがはレイカだな、よしよ〜し」



頭をナデナデして褒める。



「えへへぇ〜…あ!も、もう!子供扱いしないで!」

「レイカ、朝から頭を撫でてもらって、羨ましいぞ」

「お、カリンおはよう」

「レン、帰っていたのだな」

「ああ、そんなに遅くなかったけど、お前達はもう寝てたからな、起こすのもなんだし俺もすぐ寝たんだよ」

「鍛錬で疲れてたんだよ、レン…あたしも撫でてくれ」

「お前…図太くなってねぇ?」

「カリン…恥ずかしげもなく、そんな真剣な顔で言われたら、恥ずかしがってる私が馬鹿みたいじゃないの」

「馬鹿って事なんじゃないのか?」

「な、なんだとぉ!レン!撫でて!」

「あたしもだ、レン」

「分かった分かった、なんなんだよ、2、3日会ってないだけで甘えすぎだろ」

「女とはそういう生き物だ」

「そうかよ、便利な言葉だな」



禿げるんじゃないかというほど撫でまわし、久々にレイカの朝ごはんを堪能したレン。



「ふぃ〜、美味かった〜」



あれ?なんか忘れてるような…



「レン、はいこれ♪」

「ああメガネか、忘れてたよ、ありがとう」

「解決できるといいねっ♪」

「おう、めんどくさいからな、早く解決すればいいけど…」

「行ってらっしゃい♪」

「気を付けてな」

「おう、西が解決すれば、ゆっくりする予定だから、それまでは心配掛ける」

「ゆっくりしたら町造りね♪」

「おう、じゃあ行ってくる、転移」



ヒュッ



ヴォルスターレに戻り、ナナにメガネを渡そうとラーメン屋の前まで来たレン…



あ、レイカにラーメンの事伝えるの忘れてたのか…

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