132話 呪いの謎②
「すまんナナ、まだ少し待っていてくれないか?必ず助けるから」
「え…は、はい…」
そう言うと、ナナは絶望したような顔をして、また後ろを向き、地面を見て動かなくなってしまった、しかし、先ほどとは違い、ぷるぷると肩が震えている。
「可哀想な子なんだよ、見かねたこの店の店主がな、雇ってあげたって話だ」
「そうなのか…ナナ、大丈夫だ、必ず助ける、俺に二言はない」
「っかぁー!あんちゃん格好いいな!気に入った!今日は奢ってやるよ!」
「あんた、いつもナナちゃんを見て悲しそうな顔をしていたものね」
「ああ、不憫でならなくてな」
「おっさん…あんたも格好いいぞ」
「よせやい!あと、俺はおっさんじゃねぇ!」
はははは♪
「なあおっ…お兄、さん…」
「なんでそんなに言いづらそうなんだよ、素直にお兄さんでいいだろう、そろそろ泣くぞ?」
「名前は?」
「俺はルダンだ、よろしくな!」
身長はレンより少し高い180程度、程よい筋肉の付き具合でムキムキではなく、速さも力もバランスよく鍛えていそうな身体つきだ、短めの赤髪のツンツン頭だ、堀が深くて右頬に傷があり、レンよりよほど男前である、真っ赤な軽鎧でガントレットを紐で縛って肩に担いでいる。
近接の格闘家か、炎のような頭だな、まさに燃える男って感じだ。
「あたしはこの人の妻、メリーよ、よろしくね、あなたは?」
ウェーブの掛かった長い金髪のグラマラス美人、タレ目で優しそうだが、見た目と違って性格は明るくサバサバしている、青い軽鎧を付けて、左腰にはスピアを下げている。
スピード重視かな?
「俺はレンだ、よろしくなルダン、メリー、因みに、21歳、だ」
「おい、なんで年齢を強調した?」
「強調なんかしていない、気にしすぎだぞ、おっさ…ルダン」
「おい今…」
「まぁいいじゃないの、器がちっちゃいのよ、あんたは」
「そうだぞルダン、そんな綺麗な奥さんがいるんだ、別におっさんだろうがなんだろうが関係ないだろう」
「お、おう」
「あらぁ、レンは言うわねぇ、本当に21歳なの?」
「そうだぞ、レンこそおっさんじゃないか」
「そうだな、俺はおっさんだよ、自分でも理解しているさ」
「器の差がでたわね、あなたの負けよ」
「うぐぐぐ…」
「でも結婚はしていない、ルダンは勝ち組だよ」
「そうだろうそうだろう♪」
「はぁ〜、この人は、すぐに調子に乗るんだから」
まぁ奥さん候補が3人いるんだけどな、言わないでおこう。
「あとはお前だ、ナナ」
「え!?」
「俺に自己紹介してくれ」
「え!?えぇ…え、ど、どうしたら…」
「レン、無理はさせるな、振り向きたくても振り向けなくて、首の動きがおかしくなってるだろ」
確かに、途中まで振り向き掛けては前を向いての繰り返しで、壊れたおもちゃみたいだ、でもこの反応なら脈ありだな。
「振り向きたいってことは、お喋りしたいって事なんだよ、ナナ、俺の背中に向かって立て、周りを見なければ大丈夫なんだろ?」
「はい…」
「目を瞑って自己紹介するか、どっちにする?」
「背中…貸して、もらえますか?」
「おう、いいぞ」
ガサッ、ピトッ
ナナが立ち上がり、体をレンの背中に密着させてきた。
小人じゃなかったみたいだな、しかし…
「おお、これは…」
「おぉ!レン、感触はどうだ!?」
バチンッ!
「いてぇ!」
「あんた!いい加減にしな!」
「いやレンだって…」
「レンは独身!あんたは既婚者!全然違うよ!」
「はい、すんません」
「ははっ、ナナ、自分のペースでいいからな、ゆっくり話せ」
「モゴ…モゴモゴ…」
ああっ、息がっ!背中あったけぇ!
「近すぎぃ!ナナさん近すぎるよ!背中に口は付けなくてもいいでしょ!」
「ぷはっ、す、すみません…」
「ハハハハッ♪ナナちゃんって結構お茶目なのね♪」
「さあ、ナナの事を教え…」
「お客様〜、順番なのですが、お食事は?されます〜?」
「「「あっ」」」
ちっこいこれまた別の魔女っ子店員が話しかけてきた。
「す、すみません…私の、せいで…お食事、お楽しみ下さい」
「ナナ、お昼はこの方達で終わりだから、いつもの部屋でご飯食べちゃってね」
先ほど声を掛けてきた、ちっこい魔女っ子店員がナナに指示を出してきた。
「なぁ、魔女っ子店員さん」
「魔女っ子!?」
「え?魔女の格好だよね?」
「ええ、まぁそうですが、子って言われたので驚いてしまいました、そんな若くないので〜、えへへへ〜」
「…十分若いだろ」
チラッとルダンの方を見てから言ってみる。
「レン、後でよく話をしようか」
「なんの事かな?」
「ハッハッハッ!」
目が笑ってねぇ…
「ところで店員さん、この店は個室とかあるのか?」
「はい、ございますよ〜、少しお高くなりますが、いかがなされますぅ?」
「じゃあそこで、ナナも一緒に食事だ」
「「「「えっ!?」」」」
レン以外が声を揃えて驚く。
「お、お客様!?それはオススメいたしません!」
「大丈夫、なの、か?」
「ナナと仲良くしたくないのか?」
「いや、仲良くはしたいが…」
「私だって仲良くしたいわ、大丈夫なの?」
「俺に考えがある、一時的にナナの呪いを解いてやる、ほら、さっさと行くぞ」
さっさと店内に向かって歩きだすレン、距離が開くと不味いことになるので、慌ててレンの背中にくっつくナナ。
「モゴゴゴッ、モゴモゴ!モゴゴゴ!」
「はははっ、何言っているか分からんなぁ♪」
「お、お客様!あぁもう!どうなっても知りませんよ!」
「いいよ、責任は自分でとるさ」
「ま、待ってくれ!メリー、行くぞ!なんか面白いことになりそうだ!」
「そうね!行きましょう!」
―――
「おお〜♪高級中華料理店みたいだな!」
「なんだよちゅうかって」
「あ、あぁ、俺の故郷近くの郷土料理みたいなもんだよ」
「そうなの?食べてみたいわね」
「モゴモゴッ、モゴッ」
あ、背後霊がいたんだった…
「ナナ、お前に技能封印という名の技能を一時的に貸してやる、ステータスを開いておけ、技能封印が確認できたら、黒塗りの技能を封印してみろ」
「モゴッ!」
いいかげん離れろよ!少し癖になってんだろこいつ…安心感か?閉鎖空間愛好家か?
なんだよ閉鎖空間愛好家って…
「行くぞ、貸与」
「モゴッ!?モゴーモウグウ!」
技能封印って言ったんだよね?
「あ…景色が…う、うぅぅ〜」
「おいナナ!どうした!?」
床に膝を付き、急に泣き出しすナナ。
「け、景色が、色がみえますぅ〜、オヨヨヨ…」
オヨヨて、お前、実は無口キャラじゃねぇな?
「よし、次はルダン、メリー、あんたらだ」
「ごくり…」
「あんた、なによそのごくりって、口で言う事じゃないでしょう、ナナちゃんの目を見ればいいのね?」
「そうだ、ナナ、立ち上がって、2人の事を見てみろ」
「だ、大丈夫で、しょうか…」
「大丈夫だ、ダメだったらメリーだけは助けてやる」
「おいレン!俺も助けて!お願いします!」
いいキャラしてるな、楽しい。
「心配しなくても大丈夫だよ、ほらナナ」
「はい…」
目を瞑りながら、ゆっくり2人の前へ、そしてとうとう目を開けるナナ。
ルダンは目を糸のように細くして、梅干しを食べたときのような顔になっている、完全にビビっていた。
「ぶっ」
やめろ、変な顔すんな!
メリーは真っ直ぐナナの目を見つめ返している。
「ナナちゃん!凄いわ、やったわね!キャ~♪やったやった〜!」
「め、メリー、さん、苦しい…」
たまらずナナに抱きつくメリー。
本当に優しい人だな、良かったよ成功して、これでセフィールの時と同じだという事が判明した訳だ、さて、どこのどいつが、何のためにそんな事をしているのか…
アシュリー、アッシュ…すまん、お前達にはまだ働いてもらわなきゃならんかもしれん。
断固として魔力可視化の技能を創らないレン。
働きたくないでござる。
「さて、食事でもしながら、詳しい話をしようぜ」
「おう、俺は必ず成功すると信じてだぜ!」
「ルダン、お前…」
「あなた、はぁ…」
「ルダン、さん…ありがとう」
この野郎、半分信じてなかっただろ、まぁさっきの面白梅干し顔で勘弁してやるよ。
「それで、ここは何の料理が食べられるんだ?」
「知らないのか?ラーメンだ」
「あぁラーメンか、ん?なん、だと…今、なんと?」
「ん?いや自分でラーメン言い返してただろ、知っている口ぶりだったじゃないか、まぁラーメンは細い糸みたいなのがスープに入っていて…」
バァーン!ガタッ!
テーブルを叩いて、勢いよく立ち上がって叫ぶ。
「ラーメンだとっ!?」
「うわぁ!びっくりしたぁ!」
「なによ、いきなりどうしたのよレン」
「まさに俺の国の郷土料理じゃないか!」
中国の人が日本で開発した麺料理だからな、半分中華料理みたいなもんだが、まぁどっちでもいいさ、権利だなんだでお金が絡む話なんだろうけど、くだらねぇ…美味しいは全世界共通なんだよ、みんなが幸せになって、みんな儲ければいいのに…まぁ地球の事はどうでもいいか、次はカレーを探そう、うんそうしよう!
「それで?美味しいのか?」
「ああ、旨いぞ」
「味は?」
「味噌と醤油だ」
「グッド」
「あのぉ〜、ご注文はぁ…はっ」
サッ!
先ほどの魔女っ子店員さんが恐る恐る部屋の中を覗いて、ナナが自分の事を見ていることに気付いてサッと身を隠した。
「魔女っ子さん、大丈夫だ、今だけは呪いは発動しない」
「えっ、本当に!?」
「ニャル、本当、だよ、今は大丈夫…だよ」
「ナナ…ナナ〜!よかったねぇ」
うんうん、友情だねぇ。
「これで私も少しは仕事が楽できるかな♪」
おまっ…感動を返せコノヤロウ!
「魔女っ子、そんな事より飯だ」
「そんな事!?」
「俺にとっては、こんな呪いなんて、呪いでもなんでもないんだよ、普通だ普通、ラーメンはよ、メニュー全部持って来い」
「えぇ、このお客様、目が怖いんですけど…」
「大丈夫だよ、ニャル…ラーメンを、早く食べたくてしかたが、ない、腹ペコさん、なだけ」
「そうなのね、失礼しました腹ぺっ子様」
「腹ペっ子様!?」
「お返しですっ♪メニュー全てですね〜、しばらくお待ち下さ〜い!ナナは皆さんとお喋りして、少しでも話し慣れときなよ〜♪」
タッタッタッ…
キラッとウインクをして、レンをからかい去っていく魔女っ子。
「腹ぺっ子様…」
「レン、諦めろ、先に魔女っ子って言ったのはレンだ」
「いい…」
「は?」
「いいぞ!始めてだ!あだ名なんて付けてもらったのは!」
「お前…人付き合い下手くそかよ」
「ああ、下手なんだよ俺は、そういう試練の元生まれてきたんだ…」
「なに訳わかんねぇこと言ってんだ」
「レン様…私も、分かります…」
「ここにも共感者が1人いたよ!」
「私も子供の頃は苦労したものだわ」
「メリーは何もないだろ!お前がボケるの珍しいね!?やめて!頭おかしくなるから!」
突っ込みのルダンはおいといて、自己紹介は食事の後にするという事にして、まずはお喋りをしながら料理を待つ4人。
「お待たせしました〜、各種醤油ラーメンで〜す♪」
おおっ♪ラーメンだよ!
「ラーメン♪」
コトッ
「濃厚醤油ラーメン♪」
コトッ
「チャーシュー麺♪」
コトッ
「濃厚醤油チャーシュー麺♪」
コトッ
「野菜ラーメン♪」
コトッ
鼻歌調に料理名を口ずさみながらテーブルにラーメンを置いていく魔女っ子ニャル…だが。
シュッ
「えっ、消えた!?」
ニャルが目を丸くして驚いている。
「俺の技能、収納の中に一旦仕舞わせてもらった」
「レン、なんでだ?なんでそんな事を…」
「魔女っ子さん、まだまだいっぱい出てくるんだろ?」
「驚きましたね〜、はい〜♪まだまだありますよ〜、厨房は大忙しです〜」
「そういう事だ、ラーメンは放っておくと伸びてしまう、熱いほうが美味しいしな、俺の収納は時間停止に出来るし、それに食いきれないだろ、食いたいものを熱々のまま、少しづつ食べることが出来るぞ?」
「いいなそれ!」
「取り皿をお持ちしますかぁ?」
「大丈夫だ、ほいっ」
テーブルの上に、大量の取り皿が表れた。
「す、凄いわね、あなた何者なのよ」
「まぁただ者ではないんだろうな、飯の後に話すよ」
「聞くのが恐いな」
「レン様…凄い、です、魔王様の次、に、尊敬します…」
「ははっ、それは光栄だな」
その後、味噌ラーメン、塩ラーメン、各種一品料理などが揃い。
「塩ラーメンもあるのか、豚骨ラーメンとかあったらよかったが、さすがに贅沢か…」
いや、レイカにこの店で1日働かせれば、ワンチャンいけるかもな、あとで連絡してみるか。
「お客様…とんこつとは?」
「う〜ん、ラーメンって下準備で色々な野菜とかを煮込んだりするだろ?」
「はいに…」
はいに?なんだよそれは、こいつも変わってんなぁ。
「プラスで豚の骨…この辺りならビッグボアとかの骨をよ~く血抜きして洗って、煮込んで、、灰汁抜きしたものを砕いてさらに煮込むんだよ、そうすると豚骨スープの元が出来るんだ、ただ、これには好嫌いが激しく出ると思う」
「へぇ!店長に言ってみますね♪」
「おう、出来上がりを楽しみにしておこう」
「は〜い、それではごゆっくりお召し上がり下さい♪」
さてさて、味の方は?ちゃんと下準備に時間を掛けているみたいだからな、これは期待出来るな。
「俺は濃厚チャーシュー麺で、醤油だ」
「私は塩ね、野菜で」
「私は…醤油ラーメン、で、お願い、します」
「はいよ、なんか俺が店側の人間みたいになっちまったな」
「頼むぜ、腹ぺっ子店員さん」
「任せておけ」
「ふふふ、可愛い名前ね」
俺は、味噌にするか…
「いただきます」
「「「いただきます!」」」
え!?いただきます…みんな知ってんの?
「レン、どうした変な顔して、匂いでやられたか?」
「あ、あぁ、懐かしい香りで泣きそうになっていたよ」
「そうか、味も口に合えばいいな」
「ああ、では」
実食!!
ズズッ、ズズ〜…
「ほっ、うぅまぁ〜」
「よかった、俺も…ズズズッ、うんうん、これだ、相変わらず旨いなぁ」
普通にラーメンだよ、凄い再現度だ、あとはレイカを送り込むだけだな、まぁ、持って帰るから、食べるだけでもいけるかもしれんがな。
…っていうか、あれ?
「みんな、箸使えるんだな」
「この店で練習したんだよ」
「あたしたち、毎週この店で食べてるからね♪」
「そうなんだな」
「レンも箸の使い方、うまいな」
「はい、とても…綺麗な持ち方、です」
「ラーメンは故郷の料理だと言っただろ、勿論この箸もなんだよ」
「そういう事か」
少し食べては味を変え、味噌、醤油、塩、それぞれ少しずつ食べ比べをしてみた。
「ふぅ、全部美味かった〜、もう入らん」
「ああ、塩は始めて食べたが、意外といけるんだな」
「だから、あんたは食わず嫌いだって言ってるでしょ、男は黙って醤油か味噌なんて、意味が分からないのよ」
「ごちそうさまでした…」
「ナナも大分話し慣れてきたな」
さて、食事も済んだことだし、ナナの自己紹介を聞こうか、少しでも犯人の手がかりが掴めればいいけど。




