131話 呪いの謎①
ノースリレーの大商人、ガルディンの屋敷内で、レンは食事をご馳走になりながら、シン達の企みと現在の状況を説明していた。
「なるほどねぇ〜、分かったわぁ、もしも勇者がここに来たら、レインと言う名前の開拓者が、国の安全を守る為に結界を張ったらしいと言っておけばいいのね」
「ああ、頼むな」
「それにしてもあなた、名前まで偽ってたなんて、んもう、ひどいんだからっ!」
「すまんな、どうしてもあの頃は賢者に勝てる確信が無かったものだからさ、今はもう大丈夫になったんだよ、俺も心苦しかったんだ、親に貰った名前も大切だけど、命だって大切だろ?」
「それを言われたら何も言えないわねぇ、命のほうが大切に決まってるいるもの」
「それで、レインという名前なんだが、実際にカインド村には、俺がレインだった頃の銅像も建てられてるから、気になるならカインドに行けって言っておいてくれ」
「あら、そうなのね♪私も見に行こうかしら」
「カインドへは行ってないのか?」
「あっちはねぇ、前にスライムに襲われたじゃない?少し怖くなっちゃってねぇ、セルマータの方へ向かう方向にもゴブリンがたまに出るけど、最近倒してくれたみたいだし、そっちの方が安全だわ」
例の変異体ゴブリンの事か?誰かが討伐したんだな、ギリー達かな?
「護衛はつけないのか?」
「つけてるわよ〜、でもねぇ…ここの連中は見た目ばっかりでそんなに強くないのよ〜、嫌んなっちゃうわ」
「見た目よりもステータスの世界だからな、魔法の知識ならいくらか教えられるから、あんたから皆に伝えておいてくれないか?」
「そうなの?私も強くなれるかしら」
「なれるなれる、自分で言うのもなんだけど、世界が変わると評判なんだ」
「あらぁ〜、それは儲りそうな話ね♪」
「商人らしい考えだな、安くしてやれよ、世界の命運が掛かってるんだから」
「勿論よ〜、私はこれでもこの村1番の商人よ?市場調査なら得意なの」
「そうか、なら安心だな、まぁ失敗しても俺は知らんけど」
「もうケチね、私とあなたの仲じゃないのよ」
「どんな仲だよ、まぁ知らない仲じゃないからな、助けられるなら、助けるさ」
「ありがとっ、ちゅっ♡」
ガルディンの投げキッスを瞬時に躱すレン。
「おい!精神干渉してくんな!」
「うふふふ、照れちゃって、可愛いわねぇ」
「はぁ、まぁいい、魔法の説明をするぞ」
「待ってましたぁ、よろしくねぇ♪」
「ああ、魔法はな、想像力で…」
ひと通りの属性の特性と、少しばかりの科学知識を説明していく。
「すごいわ…すごいわよこれ!世界が変わるどころの話じゃないわ!生まれ変わった気分よぉ!」
「ガルディンは真面目だな、ちゃんとメモまで取るとは、きっと強くなれるよ」
「当たり前じゃない、こんな儲け話はなかなかないわ!」
「儲けるためかよ、言っておくけど、他の町では通用しないかもしれないぞ?もう結構出回っている話だからな、ここは転移門がないからみんな知らないだけだ、小さな町や村なら少しは期待出来るかもだが」
「そうなのね、まぁこの村だけでも十分よ」
「そうか、まぁ頑張ってくれ、俺はそろそろ行くよ」
「あらそう?泊まっていったら?」
「これでも忙しい身でな、暇ができたらまた遊びに来るよ」
「分かったわ、今日はありがとね」
「おう、じゃあな、転移」
ヒュン!
「転移!?あの時は転移じゃないと言っていたのに…レン、あたなはいったい何者なの?」
―――西国ゼンダルア、セフィールの屋敷に戻ってきたレン。
「ただいま」
「帰ってきたか、いきなりどうしたんだよ、誰かから通話がきたと思ったら、用事だと言って、いきなり姿を消したから驚いたぞ」
「すまんな、烈王からの通話でな、勇者が結構広範囲で動き回ってるみたいだから、知り合いだけにでも警告しておこうかとな」
「烈王!?北といい、本当にとんでもないやつだな」
「流れでな、そうなっちまったんだよ」
「ふふっ、まぁいい、この町でもやる事は済んだんだろ?次はどこか行くのか?」
「ヴォルスターレに行ってみるよ」
「そうか、ならしばらく大人しくしていろ、私が魔王様に時計を渡したり、レン様の話をしてみるから、お呼びが掛かるのを待っていろ」
「おうありがとう世話になった、またなセフィール」
「ああ、またな」
―――――
『そうか、ヴォルスターレに行くのだな、鼻くそもそうだが、魔王にも気を付けろよ』
「分かったよ、そっちにはシンのやつはいってないのか?」
『南にはこないよ〜』
「なんでだ?」
『なんでって…あれ?なんでだろう?』
「はぁ?レイカ…少し休めよ、どうせ朝から晩まで物作りしてるんだろ」
『そ、そんな事ないよー』
「その言い方はバレるやつだろ、少しは演技を覚えろ、本当にシン達が来たらバレるぞ?カリン、お前が対応しろ」
『私が?それは大丈夫なのか?』
「たぶんもうお前のほうが強いよ、下手すりゃ鼻くそよりもな…居場所がないから南に来たと言っておけ、カリンなら大丈夫だ、カリンなら」
『私だって大丈夫だよ〜!』
「分かってるよ、冗談だ」
『んもう、ひどいんだから』
「その言い方やめて、誰かを思いだすから」
レイカ…お前ガルディンっぽいぞ。
「じゃあまたな」
『うん、気を付けて』
『うむ、シンは任せろ』
さて、ヴォルスターレで宿でも探しますかぁ。
―――
聖堂の左壁、手前から2番目の扉を通りヴォルスターレに到着。
ここが魔王街か、まんまだな…建物は全部ボロボロだし、街全体が薄暗いし…
ボロボロとは言ったが、そうなったという感じではなく、敢えてそういう風に造って建てた、といった雰囲気だった。
なんか凄い…クオリティの高いお化け屋敷というかハロウィンの世界というか…なんかドキドキしてきた、ゾンビとかが出てきて歌い出しそうだ…
リスクリワードで宿を検索し、ゆっくり歩く…
ボーン、ボーン、ボーン…
鐘?…お昼か、世界観の作り込みが素晴らしいな、なんかその辺の店にでも入ってみるか。
しばらくキョロキョロしながら歩き、いい匂いが漂って来る方向へ誘われ、ある店の前へ辿り着いた。
芳ばしい匂いを放っている店はここか、混んでるな…
開拓者っぽい客が結構並んでいて、最後尾あたりに黒いローブを着た、魔女みたいな店員と思われる人物が最後尾の看板を持って…地面に体育座りしている、隈が凄く、目が虚ろだ。
「いらっしゃいませ…お食事、ですか?」
「あ、ああ、いい匂いがしたものでな、1人なんだが」
「大丈夫です、お並び下さい」
「ああ…」
レンが最後尾に立つと、魔女っ子店員は体育座りのままレンの後ろにサササッと移動して、地面を見つめて動かなくなった。
キモッ、なんだよ今の動き…まさかこの身長で立ってるわけじゃないだろうな、この顔の大きさでそれはないか、ローブの中が気になる…
ああ!いかんいかん、レディの服の中を気にしちゃダメだろ俺!今はご飯だ!
サササッ
サササッ
サササッ
「…」
列がだんだんと進んでいく、レンが並んだあとは何故か誰も客が並ぶ事もなく、レンが一歩進む度に魔女っ子がレンとの間を詰めてくる、こちらに背中を向けたまま…
なんだよこいつっ、なんか!なんかモヤモヤするっ!
他の客も、街ゆく人々も、慣れているのか誰も気にするものはいなかった…
「な、なぁあんた」
「!?」
レンは我慢出来なかった。
声を掛けると凄い勢いで首だけ振り返り、レンをじっと見つめる魔女っ子、目をこれでもかと見開き凝視してくる。
『お、おいあいつ…ナナに話し掛けたぞ!』
『本当だ!どうなる!?』
『凄い強者もいるものだな、こりゃあ死んだか?』
『年に1人は犠牲者が出るものだよな…』
『でもあいつ普通に目を合わせてないか?』
『なんで大丈夫なんだ!?』
え!?えぇ!?なに?なんなの!?話し掛けちゃダメな生物だったの!?
「わ…」
「わ?」
「私に…」
「…」
「話し掛けるなぁ!!!!」
「怖っ!いきなりなんだよお前、なんで話しちゃダメなんだよ」
そうは言っても自分が強者だと認識しているレン、いつものテンションで会話を続行。
「え…な、んで?なんで私の目を見て平気なの!?」
「なんでって、何が?」
顔を近づけ、メリーの目をじーっと見つめるレン。
ふ〜む、綺麗な紫色の瞳だな…
「普通に綺麗な目をしてるぞ?」
「!?」
ぷいっ!
レンから目をそらし、また地面を見つめ、ガタガタと震えだした。
「は?おい、おい!なんだよ!お前の目がなんなんだ!教えろ!気になるだろ!」
「あんちゃん」
「あ?」
「話に入ってすまん、そいつの目はな、見た相手を麻痺させてしまうんだよ、麻痺しない人なんて、魔王様以外ではあんちゃんが始めてなんだよ、あんた凄いな」
「えぇ…そんな事があるのか?」
「あんちゃんは違う国のやつか?呪いと言われているが、実際は技能が暴走しているとも言われている」
「呪い…技能の暴走…ね」
セフィールの事を思い浮かべるレン。
「この国ではこういうやつがたまにいるんだよ、生まれつき技能が制御出来ないと思われる、呪われたようやつがな、まぁナナ以外に、一般人で呪われてるやつは聞いたことないけど、まぁあんちゃんも気をつけな」
「丁寧にありがとう、最初は睨め付けて悪かったな、おっさん」
「おい、俺はまだ23だ」
「え!?あんたも呪われてんのか!?」
「ハハハッ!言われてるねぇ、あんた!」
おっさんの前に並んでいたお姉さんが陽気に笑い出し、おっさんの肩をバンバン叩いている。
彼女か奥さんかな?
「うるせぇ、俺は老け顔なんだよ」
「ワイルドで格好いいと思うぞ、おっさん」
「おっさん言うなや!」
「ハッハッハッ!」
あ、それよりもナナだ。
「なあナナとやら、俺がその呪い、解いてやろうか?」
「無理…」
「なんで?」
「魔王様…無理……言った」
「魔王様ねぇ」
な〜んか違和感があんなぁ、こいつといい、セフィールといい、世界が相手じゃないかもしれんくなってきたか?
「お前、技能が1部黒く塗りつぶされて見えなくなってんだろ」
「え!?な、んで…知ってる、の?」
「やっぱりなぁ、セフィールと一緒かよ」
「セフィール?あんちゃん、あの暴走幼女と知り合いか?」
「暴走幼女、あいつらしい二つ名だな、残念だがもう幼女じゃないよ、俺があいつの呪いを解いたからな」
「え…」
「あ、あの!本当、ですか?」
「ああ本当だぞ、嘘は言わんよ、ナナだったらリスクも無さそうだし、治して…いや、待てよ?」
これは、セフィールとは状況が違う、あいつは魔力を吸われて、身体に影響が出ていただけだ、成長した体は子供に戻る事はない、技能封印を返しても、またそこからの成長が妨げられるだけだ、恩恵もそのまま使える、実質パワーアップだな、しかしナナは?セフィールと違って自身には影響がない呪いだ、その代わり周りに影響を及ぼしている…技能封印を返した瞬間、恐らく元通りになってしまう、技能を制御出来るように、根本的な黒塗りをどうにかせんとならんぞ、恐らくだが技能封印を貸しっぱなしにしなきゃならなくなるぞ…
技能解読、技能把握、技能制御、どうするか…封印よりはいくらか頭痛はマシだろうが…全部いってみるか?
原因を叩き潰したほうが早いかな?




