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130話 不調の鼻くそ

中央都市ヒューニック、その街の中央にある巨大な城の隣接地に建っている大きな屋敷、ファーニックやルード、そしてシン達がツェファレンで行動する為の拠点だ。


その屋敷内の大きなリビングで、ルードが自分の髭をさすりながら難しい顔をしていた。



「う〜む…」

「現人神様、どうかしましたか?」

「おおシンか、なんだか魔法の調子が悪くての、儂も年か…」



北、東、南、全ての国が結界に覆われたその日、急に特定の場所への転移が発動しなくなったルード、魔法の調子が悪いと思い込んでいる。



「そんな日もありますよ、俺も早く最深層を攻略出来るように頑張って強くなりますから、それまでは少し体を休めたらどうですか?」

「そうだよおじいちゃん♪私たちにまかせなよ〜♪」

「エリカ…そうじゃのう、ちと張り切り過ぎていたやも知れんな、少し休もうかの」

「神様になるまでの辛抱です、その時は頼みますよ?」

「分かっとる、約束は守るわい」

「早く〜、私も神様になりたいな〜♪」

「焦るなよエリカ、神様にはなれない、その眷属だ」

「同じようなものでしょ〜?」

「あれ?シンさん、エリカさん、お久しぶりですね〜♪」

「カノン()、お久しぶりです」

「お久しぶりで〜す♪」

「カリンとセイトを見かけないのですが…死んでしまったのでしょうか?」

「あぁ、あの2人はねぇ、僕の候補者に適合しなかったから追放したよ♪正体も教えてないから安心して♪」

「そうですか、情けないですね」

「ほっほっほ、ファーニック様の候補者に適合するほうが珍しいのじゃ、お主らが特別なんじゃよ」

「ふふふふ、さっすが私たち♪」

「殺さなくてもよろしいのですか?」

「ダメなんだよ、無闇な殺しは上位神どもに目を付けられるからね、忌々しい」

「俺達が殺してきましょうか?」

「さすがは僕の候補者だね♪でもそれもダメ、昔ルードを通して指示をしてこうなったんだからね、2人とも気を付けてよ、あと僕はカノンだからね、ルードも気を付けて」

「りょ、了解しましたのじゃ」

「分かりました〜♪」

「了解しました」

「それで?どーしたのさみんなして」

「それがですなぁ、魔法の調子が悪いのですじゃ、儂も年ですからな」

「はっ?はははは♪ルードが年とか冗談言わないでよ〜、これはなんかあるねぇ、2人とも調査してきてよ、僕も独自に動くから、ルードは大人しくしててね」

「分かりましたのじゃ、ご迷惑を掛けてすみませぬ」

「いいよ、大切な僕の候補者だからね、じゃあ僕は行くよ♪」

「俺たちも少し組合を回ってみます」

「うん、よろしくね〜」



その後色々な組合を回ったシン達、ついには西の果てでレンを目撃する事になったのである。



―――東国、開拓者組合ラングロドル中央支部。



「いや、特に変わった事はないぞ?賢者の勘違いではないのか?」

「そうか…あと俺達の他に渡り人は見かけなかったか?」

「渡り人…?見かけてないな、見たら連絡しようか?」

「そうか、その時は中央の総本部まで連絡を頼む、あとレン、と言う名の渡り人が西にいるんだが、見かけたら気を付けろ、何を言っても絶対に信じるな、できれば殺してほしい、まぁ今頃死んでいるかもしれんがな」

「!?レン…ね、分かった…気をつけよう」

「邪魔したな」

「またね〜♪」

「…」



ガチャ、バタン…



「…キルミ!塩だ!塩を撒け!なんだよあいつら偉そうに〜!腹立つ〜!レンがそう簡単に死ぬわけないだろうが!」



バサァ!



「うわっ!ぺっ…おい!私に向かって撒くんじゃない!扉に向かって撒くんだ!」

「列王様落ち着け、威圧が漏れてるぞ、くされ勇者どもに気付かれる」

「おっとすまん、それにしてもレンのやつ、勇者に見つかったのかよ、ったく…レン!おいレン!聞こえるか!」

『うい〜、なんだよ朝からうるせぇなぁ』

「おまっ、馬鹿!馬鹿お前!馬鹿野郎!」

『な、なんなんだよ、どうかしたのか?』

「今な、勇者が来たぞ」

『なに?シン達が?昨日の今日で?どんなルートで回ってんだよ…』



昨日の今日?ああ、だからレンが西にいると言ったのは昨日の事だったのか。



「そうだ、鼻くそが不調らしいな、その調査だとか」

『ああ〜、そんな事言っていたな、調査であちこち回ってるって』

「お前なぁ、連絡しろよぉ、私が組合長だから良かったものの、下手するとボロが出るだろうが」

『はははっ、サリーなら大丈夫だよ、ボロなんか出さないさ』

「どんな信頼だよ、まぁボロは出さなかったけど、他の組合じゃ分からんぞ?」

『まぁ別にバレてもいいよ、そしたらボコって黙らせるだけだからな』

「そういう考えで行くのか、分かった、あいつらお前を殺せとか言ってたぞ、騙されるやつもいるかも知れんから、気を付けろよ」

『そうか〜、分かった、気を付けるよ、あとカノンにも伝わるよなぁ、それも気を付けよう』

「カノン?」

『聞いたことないか?シン達と一緒にこの世界に来た勇者の1人だ』

「聞いたことあるかもしれんが…う〜ん、よく覚えてないな」

『俺はそいつが諸悪の根源、つまりルードの雇い主、元箱庭の神だと予想しているんだ、女神様の口から正解は聞けてはいないがな、とにかくカノンという名の開拓者にはマジで気を付けろ』

「神か、それは恐ろしいな、気を付けよう」

『元、だがな、他には何かないか?』

「ああ、大丈夫だ」

『じゃああとはカインド村、カリンとレイカ、セイトにも連絡しておかないとな』

「そうだな、レンももちろん気を付けろよ」

『おう、情報ありがとな』

「いいさ、またな」



レン、本当に大丈夫なんだろうな、心配だ…いや逆か、私達が心配されないように強くならねば!レンの弱点になる訳にはいかんぞ!



「よしっ、キルミ!鍛錬に行くぞ!」

「仕事しろ!そして塩も掃除しろ!」

「はい!」



通常運転のラングロドル支部であった。



―――カインド村



『と、言うわけなんだ』

「分かりましたのじゃレン様、もしこのカインド村を訪ねてきた時は適当にあしらうのじゃ」

『よろしく頼む』

「ティルや」

「なぁに?」

「皆を起こしてきてくれんか?」

「は〜い!」



タタタタタ…



『お母さん!お父さん!起きろ〜!』

『なんだ!?何があった!?』

『おじいちゃんが呼んでる〜』

『なんだよ〜、何があったのかと思った、分かったよ、着替えて向かうから少し待っててくれ』

『は〜い!』

「ティルは今日も朝から元気ねぇ」

「おおテラー、おはよう、今しがたレン様から連絡があっての…」



少しして、家族全員と、隣に住んでいるリルを含めた影法師達も集合、レンに言われた事を伝える。



「…そんな訳でな、今からレン様ではなく、レイン様じゃ、手分けして村中に連絡を頼めるかの?」

「ティルもいくー!」

「よしティル、私と一緒に回るぞ!」

「うん♪リル姉よろしくね〜」



―――北国、オーソロン城。



「レン兄ちゃん!?いきなりどうしたのさ!」

「すまんな、いきなり訪ねてしまって、皆を集められるか?」

「うん、大丈夫だよ」



通話よりも直接行ったほうが、より緊張感を伝えられると思ったレンは、最初にオーソロン城に訪れていた。



「レン兄様の匂い!兄様!」

「おいマリー、匂いで俺が来たことを察知するな、せめて気配と言え」



ぎゅ~っと抱きついてくるマリーを撫でながら、優しく諭すレン。



妻候補だから、あまり強く言えないな。



なんだかんだでテンプレに沿ってしまうレンであった。


いつまで経っても離れないマリーの頭をナデナデしながら状況を説明していくレン。



マリー、鼻息を抑えてくれ…話聞いてる?



「そっかぁ、あいつらとうとう動いたのか、そんで?レンちゃんはどうするの?」

「動いたというか、ただ鼻くその不調の原因を調べてるだけだ、その途中、西の組合で俺とばったり会っただけだよ」

「2人は強くなってた?」

「戦ってはいないからな、分からん、それに…お前達の例もある、どうなるか様子見だな」

「そっか、僕はどうしたらいいかなぁ」

「セイトはまぁ、フキノを守ってやればいいんじゃないか?あと、組合にはしばらく顔は出さないほうがいいな、カリンは心配するな、俺が守るさ」

「そうだね、うん、そうするよ♪姉ちゃんをよろしくね、と言っても、今はレイカちゃんのダンジョンで修行する事しか出来そうもないから、顔は合わせると思うけど」

「とにかく油断するな、レイとマリーもな」

「うん、僕は王様だからね、隠れる訳にもいかないし、いつも通りにしてるよ」

「もし訪ねて来たら、結界の事は隠さなくてもいいからな」

「いいの?」

「レイ、結界はあくまで名目は魔物避けだ、それを解除しろなんて言ってきたら完全に黒だろ、そこまでは馬鹿じゃあるまい」



急に冷静になり、自分の考えを話しだすマリー。



「さっすがマリー、製作に携わってただけあるね♪兄ちゃんに抱きついたままじゃなかったら格好よかったよ!」

「マリーがいれば安心だな、レイを頼むぞ」

「兄様…うん!任せてくれ!」

「じゃあ俺はあちこち回ってくるよ、何かあったら連絡よろしく」

「「「了解」」」



―――北国、開拓者組合セルマータ支部。



「レン様!お久しぶりで〜す♪」

「おうリーニャ、久しぶりだな、セーラはいるか?」

「はい♪少しお待ち下さい!」



タタタタタ…



ツインテールをふりふりしながら手を広げて走っていくリーニャ。



『組合長〜!…あれ?くみあいちょーー!!』

『なによリーニャ、大声出して』

『レン様来てま〜す♪』

『あらそうなの?今行くわね』



相変わらず元気いっぱいだな。



「お久しぶりです、レン様」

「よう、久しぶり、調子はどうだ?」

「おかげさまでセルマータ村全体の生活水準が上がって、かなり豊かになったかと、もう町と言っても過言ではございませんね」

「そうか、大きなお世話にならなくてな良かったよ」

「ふふふ♪そんな事にはなりませんよ、それで、本日はいかがなされましたか?」

「ここに勇者は来ていないか?」

「勇者、ですか…北王様より話は聞いております、こちらには来ていませんが」

「その話もそうなんだが、結界の事までは聞いているよな?」

「はい、存じております」

「それでな…」



シン達、ルード、カノン、現在の状況をひと通り説明、受付嬢であるリーニャとメルにも、一緒に話を聞いてもらった。



受付嬢が一番最初に対応する事になるだろうからな。



「かしこまりました、全開拓者、町の人々、出来るだけ伝わるように努めて参ります、情報感謝致します」

「よろしくな、できれば他の組合にも伝えてくれ、まぁ北王が手を打つとは思うがな、念の為だ、俺はまだ回るところがあるから、じゃあな」

「はい、またのお越しをお待ちしております」



あとは、あそこに行ってみるか…



「レン様!」

「おっ?ギリーじゃないか、元気にやってるか?」



この組合でレンのカオスゴブリンを横取りしようとした男、ギリーバーンがレンの姿を見かけて話しかけてきた。



「はい!元気にやらせてもらっています、その節はありがとうございました!」

「いいさ、元気にやってるなら安心だ、頑張ってセルマータを盛り上げてくれな」

「はい!それで、これなんですが…」

「ん?金か…返してくれるのか?」

「はい、皆と相談して返そうという事になっていたのですが、なかなか会えなくて、ははは…」

「大丈夫か?無理はしていないか?」

「まったく問題ありません!これでもこのくらいは軽く稼げるようになりましたので!」

「そうか、分かった、でも…それはやるよ、俺からのプレゼントだ、町の皆にでも奢ってやれ、よくやったな、ギリー」

「えっ!?あ、ありがとうございます!」

「じゃあ、俺は用事があるから行くよ、落ち着いたら飯でも食おうぜ、他の、え〜っと、キャスリィとディールに、ローラだったか?皆にもよろしく言っておいてくれ」

「はい分かりました!言っておきます!俺たち、もっと強くなって待ってますから!」

「おう頑張れ、お前ならまだまだ強くなれるさ、じゃあな」



いいねぇ、面倒見たやつが立派に成長するのは気持ちがいい、町を作ったらそういう方向の町を作るか…



―――とある村の門の前。



「よう、入っても大丈夫か?」

「見ない顔だなぁ、こんな場所に訪ねて来るとは珍しい客人だ、いいぞ、ここは無法地帯だ、お前のような荒くれ者は歓迎する」

「おい、人の顔を見て、勝手に荒くれ者判定をするんじゃねぇ」

「ははっ♪そんな体して何言ってんだ、荒くれ者に決まってらぁ、口も悪ぃしな!」

「勝手に言ってろ、じゃあ入らせて貰うぞ」

「おう!ようこそ文無し村ノースリレーへ、暴れてこい!」



暴れねぇよ!分からんけど…


ずいぶん前と対応が違うよな、ガルディンに怒られたか?偽装を解いて美男子から荒くれ者になったからか?まぁいいや。



「よう見ねぇ顔だなぁ兄ちゃん、あんた…強ぇな?」



少しも進まないうちに、レンなんかよりもよっぽど荒くれていそうな、髭面の男が話しかけてきた。



盗賊みてぇな顔してんな、こんなやつばっかりかなのか?



「ああ強いぞ、やるか?」

「いや、やめておこう、こう見えて俺は慎重な男なんだよ」

「そうかよ、人は見かけによらんな」

「言うねぇ、自信の表れだ、こりゃあ本物だな、どれ、この村を案内してやろうか?」

「お?本当に見かけによらず、おっさんはいいやつじゃないか」

「おっさん言うなや、これでもまだ俺ぁ35だぜ」

「十分おっさんだろ」

「ガハハハ!参った!それで?なんでこの村に来たんだ?」

「ああ、ガルディンっていう知り合いに会いにな」

「なに?お、お前…そっち系なのか?最初の、やるか?ってそういう意味だったのか?」



レンから少し距離をおきながらそんな事を言ってきた。



「おい!引くんじゃねぇ!そんな訳ないだろうが!キモい想像するな!」

「ははは♪そうか、そうだよな…本当に違う、よな?」

「違うよ!疑うなよ!」

「分かったよ、ガルディンさんなら中央の屋敷に住んでるよ、ほらあれだ」



村の中心と思われる方を指差しながら言った。



「あれか、ずいぶん良い家に住んでるな」

「この辺りで商人と言えばあの人くらいだからな、ここで飲み食い出来るのもあの人のおかげなんだよ」

「なるほどねぇ、なかなか凄いやつだったのだな」

「そうだ、だから殺したりしねぇでくれよ?」

「しねぇよ、そういう知り合いじゃねぇ、久々に挨拶にきただけだよ」

「そうかい、あそこに用事なら案内は必要ないな、俺は酒でも飲んでくっかぁ」

「昼間っから酒かよ、いい御身分だな」

「酒に昼も夜もねぇんだよ、オフの日は飲む!それだけよ!ガハハハ!じゃあな!」

「おう、ありがとな」



ガニ股で去っていくおっさん。



陽気だねぇ、この自由な感じがいいのかもな、確かに他の町では感じられない雰囲気だ、住めば都とはまさにここの事だな。


さて、行ってみますかぁ、ガルディン、いればいいけど…



村の陽気な雰囲気を感じながら、少し気分良く屋敷の前まで歩いていくレン。



俺も変わったよなぁ、地球にいた頃だったら、こういう雰囲気の場所には絶対近寄りたくなかったのに、今は逆に居心地いいんだもんな、やっぱり自信とか、強さの影響だよな。



コンッコンッ…



「ガルディ〜ン!いるかぁ〜?」





「お〜いっ、ガルディ〜ン!」

『は〜い!ちょっと待っててねぇん』



久しぶりの声だ、このテンション高めのオカマ口調、定期的にこの成分を補給したくなる声なんだよな、動画サイトでたまに見返したくなる、みたいな?



バタン!



「はぁい、ん〜?誰かしらぁ?」

「久しぶりだ、姿が少し変わったから分からないだろうけど、レインだよ」

「ん?んんっ?レイン…?え?本当に!?全然見た目が違うじゃないの!どうしちゃったの!?」

「ああ、ははは…偽装っていう技能でな、訳あって姿を変えていたんだよ」

「あらん、そうなのねぇ〜、でも今の見た目もいいわよっ♡」

「そ、そうか、ありがとう」

「いえいえ〜♪あの時は助けてくれてありがとねぇ〜、もうレインったら、お礼もしてないのにどっか行っちゃうんだもの!」

「すまんな、今ほど心に余裕がなかったんだよ」

「そうなのねぇ、でもまた来てくれて嬉しいわぁ♪ささっ、こんなところじゃなんだから中に入って!どうせ、何か用事でもあるんでしょ?」

「お見通しか…じゃ、じゃあお邪魔するよ」



たまに声を聞きたくなると思ったが、もうお腹いっぱいになりそうだ…



ほんの少しだけ屋敷に踏み込むのを躊躇したが、どうせ何かあったら返り討ちにすればいいかと、素直にお邪魔する事にした。

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