129話 まさかの再会
「お前生きていたのか、ははは♪」
「シン…」
「勇者様、知り合いで?」
「あ?あぁ、知り合いっちゃあ知り合いだな、まぁ奴隷みたいなもんだ」
「勇者様〜、私こいつに騙されたんですぅ」
キャロが気持ち悪い声を出してシンにすがりつく。
「ねぇ〜?誰の許可で私のシンに抱きついてるのかな〜?」
「!?す、すみません…」
そうだよな、シンがいるんだ、こいつもいるよな…
「あ!レンレ〜ン!死んでなかったんだね!良かったね♪」
「エリカ…さん」
けっ、なにが良かったねだよ、心にも無いことを言いやがって…
「エリカさんだなんてやだな〜、昔みたいにエリーって呼んでもいいんだぞっ♪」
「はは…そう、ですか、いえ、エリカ様と呼びましょう、よろしいですか…シン様?」
「ずいぶん冷静じゃないかレン、まぁ悪くない、殺してやろうかと思ったが、俺たちの計画の邪魔さえしなければ殺しはしないでおいてやろう、まぁ、どのみちお前なんかに邪魔はできんだろうがな」
「きゃー!エリカ様だって♪私、偉くなっちゃった!」
相変わらずだな、2人とも性格は変わっていない、あとは洗脳されているかだな…はぁ、こんな事になるならセフィールに精神を貸与したのは間違いだったな…ふぅ…よし、落ち着いてきた。
「お、お2人はどうしてこんな所へ?」
「現人神様がな、どうも魔法の調子が悪いというので調査に回ってるんだよ、ここへは今来たばかりなんだ、魔王は知らんと言うし、レンは何か知らないか?」
「申し訳ありませんが、知りません…」
「そうか、使えねぇな」
「レンレン使えな〜い」
「すみません…」
うるせぇよ馬鹿が!おっと威圧が出そうになった、あぶねぇあぶねぇ。
それにしても、魔法の調子…転移の調子も悪いのか?ふふふふ…結界は機能しているみたいだな、思わぬ情報の収穫だ、鼻くそざまぁ♪
「勇者様、話は済みましたか?」
「あぁ?なんだよてめぇは」
「す、すみません、俺はこの町のA級開拓者、ディグと言いまして」
「ああそうか、で?」
「いえ、そこのレンとか言うやつをぶちのめす最中だったものでして…」
「は?はは、ははははっ、それはいい!好きにしろよ、知り合いってだけで仲がいいわけじゃないからな、殺しても構わんぞ?」
「うんうん♪シン〜、じゃあ違う所に行こっか〜」
「そうだなエリカ、じゃあなレン、せいぜい生き残れる事を祈ってるぞ」
勝手に祈ってろよバーカ。
「…」
シンとエリカは良いものを見たと、嬉しそうにお喋りをしながら組合を出ていった。
空気同調…
シン達が聖堂を通るまで感知をしておこうと思い、レンは風魔法を発動させる。
今力を解放すると俺の強さがバレるからな、多分…
「黙っちゃったねぇ、レン君♪」
いや、なんかそんなに強くなさそうだったよな…しまったな、こっそりリスクリワード使っておけばよかった、すっかり忘れてたよ。
「怖くて声も出せないみたいね、ふふふ、いい気味だわ」
やはりこの世界には鑑定とかはないのかなぁ、勇者だったら覚えていてもいい筆頭の技能だよな、もし俺の事を鑑定出来たなら、あんな普通ではいられなかっただろうし…
「おい!黙ってねぇで謝罪でもしたらどうだ!今なら許してやらん事もないぞ?」
「そうだそうだ〜!」
ったく、人が考え事してる時にうるせぇやつらだな、てめぇらこそ少し黙ってろよ…
「あ?ああ、すみません?」
「はぁ?それで謝ってるつもりなの!?」
「謝ってるだろ、相変わらず耳が遠いんだなお前」
「てめぇ…生かしてやろうと思ったのに、殺す」
「おお?決闘か!?頑張れ兄ちゃん!」
「俺は死ぬ方に賭けるぞ!」
「バーカ!それじゃ賭けにならねぇだろ!みんな死ぬ方に賭けるんだからよ!」
「確かにそうか!はつはっはっ♪」
ダメだなこいつら…よし、気配が無くなった、聖堂に入ったな。
「ふぅ、さて…おい受付嬢、今日は組合長はいないのか?」
さすがにおかしいだろ、こんなに騒いでるのに出てこないのは。
「はぁ?なんであんたが気にするのよ」
「いや、これだけの騒ぎなんだから、出てこないのはおかしいだろ」
「なによ偉そうに、もう勇者様には許可を貰ったのよ?いまさら組合長がなんなのよ、逃げようったってダメよ」
「そうか…すまん、セフィール〜、セフィール聞こえるかぁ?」
「え!?セフィール様!?」
『お?初めての通話だな!どうしたレン様』
「すまん、ダメだなこの組合は、最悪は更地になるかも知れない、先に謝っておくよ」
『そうか…やはりな、レン様よ、少しだけ待てないか?』
「分からんが、交渉はしてみるよ」
『すぐに向かおう、建物が残っている事を祈る』
「叶うといいな」
『ははは…後でな』
「おう」
まぁ殺しはしないさ、鼻くそと同じにはなりたくないからな、建物は…保証出来ん。
…
「と、言うわけで、今からセフィールがここへ来る、お前らはじっとしてろ、逃げるなよ?」
「はぁ?何を言ってるのよ!また嘘ついて、なかなかの声真似だったけど、ろくでもない技能ね、人を騙すための技能じゃないの」
「技能ね、とりあえず信じなくてもいい、話だけは聞いておけ、今のはこの時計の機能だ、遠くの者同士で会話をする事ができる、俺はセフィールに頼まれて、これを売り込みに来ただけなんだよ」
「はっ、見え透いた嘘だな!そんな便利なもの、セフィール様がわざわざ組合に買わせるわけねぇ!自分で買い取るだろうよ!遺言はそれで終わりか?」
「はぁ、ダメだったか、せっかく仲良くなった人の治める町だ…あまり荒らしたくはなかったんだがなぁ」
「ごちゃごちゃうるせぇんだよ」
ダンッ!
ガシ!
「なっ!?」
「ただ突っ込んできて殴るだけ…こんなもんか、まぁA級如きではこんなものだろうな…オーソロンのB級開拓者、ザンゲよりつまらんな、ふんっ!」
ボキィ!
「ぐぁぁぁ!」
掴んだ手を軽く握り潰し、前蹴りで吹き飛ばそうと…
優しく〜、優しく〜、おらぁ!!
ドスッ!ガシャーン!
「ぐ、ぐうぅ…な、なんで…」
「え?え?ディグ、どうして?」
「誰が弱いなんて言ったよ、強くなかったら言い返したりしないに決まってんだろ、全部演技だよ」
タッ…
「さて…」
タッタッ…
「さんざん言いたい放題言ってくれたなぁ」
タッタッタッ…
「歯ぁ食いしばれよ?人を殺そうとしたんだ、死ぬ覚悟も出来てるって事でいいよな?」
悪魔のような笑顔でディグの方へゆっくり近づいていく。
「ひ、ひぃ~、助けてくれ〜!」
ダッダッダッ…ガンッガンッガンッ!
「おい!なんで開かない!?どうなっているんだ!?」
「逃がすわけないだろうが、お前ら全員血祭りだ」
土魔法で建物の扉という扉を固定、全員逃げられなくなってしまう。
ブンッ、ギシギシ…
さて、威圧を受けてどうなるかな?洗脳されてるやつは…あれ?いない?
「う、うぅ…レ、レン様、すみま、せん…お許しを」
う〜ん、洗脳が解けたって感じじゃないなぁ、ただの小悪党らしい命乞いだな。
「あぁ?女、てめぇが諸悪の根源だろ、あいつのあとはてめぇだ、その後はてめぇらだからな、覚悟しておけ!職員も全員だ!」
「だからやめなって言ったのに〜、キャロのバカバカ〜!」
「…う、うぇ、えぇ〜ん!死ーにーたーくーなーいーよ〜!」
「うるせぇよ!今更何を言ってんだ!ビィビィビィビィ虫みてぇに鳴きやがって!てめぇらが招いた結果だろ!覚悟もないなら面白半分に喧嘩なんて売ってんじゃねぇよ!」
「ご、ごめんなさい〜、グスッ、グスッ、うぇ〜ん!」
ギシギシッバキバキ…バキィ
レンの威圧でとうとう建物が壊れ始め、天井にヒビが入る。
ドンッドンッドンッ
『おい!どうなっている!なんで開かないんだ!?』
「セフィールか、意外に早かったな、無理しやがって…お前たち命拾いしたな、解除」
バタンッ!
「おお!開いた!レン様!?」
「ようセフィール、間に合ったな、まだ誰も死んでないぞ」
「えぇ!?あれがセフィール様!?お姿が…」
「めっちゃ美人なんだが!?」
「よく見れば確かにセフィール様だ!」
「うるさい!黙れお前たち!」
レンに非が無いことを知っているセフィールが、開拓者どもを威圧して黙らせた。
「セ、セフィール様、すみません…私がついていながら、キャロとディグさんの暴走を止められませんでした」
「はぁ、キャロ…お前か」
「す、すすす、すみま、せん…」
もうキャロは顔面蒼白、今にも死にそうな顔をしている。
「何が止められなかっただよ、私知らないとか言って放任していただろう」
「な、なんでそれを!?あ…」
「リルカ…」
「お前らもだ、人の生き死にで賭け事なんかしやがって、過去に何人の罪のない人間を殺してきたんだよ」
「…」
人一倍イジメに敏感なセフィールは、もう顔が真っ赤だ。
「レン様よ」
「なんだ?」
「私が許可しよう、全員殺せ!」
「い、いやぁー!助けて下さい!」
「バカ」
ベチンッ!
軽くセフィールの頭をひっぱたく。
「痛ぁ!なにすんだよこの野郎!」
「殺すのはやり過ぎだ」
「だって!レン様だって殺そうとしていたのでは無いのか!?」
「してねぇよ、口では言ったけどな」
「なん、で…?」
「人は変われる、チャンスをやってやれ、それでもダメなら、煮るなり焼くなりすればいいさ」
鼻くそは人間じゃねぇからチャンスなんかやらんけどな…シンとエリカは、まだ分からん。
「変われる…そうか、すまん」
「いいさ、さぁお前達!懺悔の時だ!今までの悪事をセフィールに報告しろ!大丈夫、俺がこいつを抑えてやる、手出しはさせない」
「レ、レン様…よしっ、私は…」
キャロを筆頭に出るわ出るわ悪事の数々、聞いているセフィールはもう頭から湯気が出そうなほど顔を赤くして聞いている。
「ふしゅ〜!ふしゅ〜!」
ギシギシ…
「おい、抑えろ、出てる出てる、重力が出てるよ、それでも精神5万以上なのか?」
「で、でもこいつら!」
「それでもダメだ!幸い殺しには手を染めていない、まだやり直せる」
そう、ただその場の流れで盛り上がっていただけで、さすがに殺しは行われていなかった。
「よし、お前達!」
「「「はい!」」」
「今日はいい教訓になっただろう、人を貶めようとするならば、それ相応の覚悟が必要だ!もう二度と同じ過ちは繰り返さない事、分かったな!」
「「「はい!」」」
「答えはイエッサーだ!」
「「「イエッサー!」」」
「あと、先ほどの勇者の2人は敵だ!覚えておけ!」
「「「イエッサー!」」」
「賢者にも気を付けろ!やつも敵だ!」
「「「イエッ…えぇ!?」」」
「詳しくはセフィールに聞いてくれ、全て話してある」
「「「…」」」
「返事は!」
「「「イエッサー!」」」
「よし、これで大丈夫だな」
「なにが!?」
「セフィール…大丈夫だ」
「えぇ…なにこの謎の説得力」
実はこの組合には組合長がいない、セフィールが町長と組合長を兼任していて、毎日町の巡回がてら組合にも顔を出していたのだとか。
なるほどなぁ、どうりでいつまで経っても組合長が出てこなかった訳だよ、セフィールが顔を出した時だけはしっかり仕事をしているフリをしていたんだな。
「ディグ」
「イ、イエッサー!なんでしょうか!」
「お前、もういい年だよな?」
「はい!自分は今年で48になりました!」
「はぁ、そんな年して、若い芽を摘もうとすんなよ」
「す、すみませんでした!」
「お前、今日からここの組合長な」
「イエッサ?えぇ!?組合長…お、俺が?」
「セフィールを除けばこの町1番の開拓者なんだろ?適任じゃないか、しっかりやれよ、セフィールも仕事を教えてやれ」
「わかった」
「素直!えぇ!?セ、セフィール様、俺なんかがよろしいので?」
「レン様がいいと言ったのだから、いいんじゃないか?」
「盲信!」
「ダメだったら他のやつと代われ、セフィールも放任はダメだぞ?放任は」
「ぐっ…」
キャロを放任したあと一人の受付嬢、リルカがこっそりダメージを受けていた。
「はい!これにて一件落着〜」
「は、ははは…なんか嵐のような出来事だったな」
「俺はいつもこんな感じなんだよ」
「レン様…」
「ん?」
キャロだ、真剣な顔して、何かを言おうと前に出てきた。
「お?なんだ?まだ悪事を隠してるのか?」
「い、いえ…この度は本当に申し訳ありませんでした!」
「「「申し訳ありませんでした!」」」
組合内の職員、開拓者、全員が謝罪をしてきた。
「いいよ、今後は行動で示せ、本当に人を貶すのは、相手が悪人の時だけにしろ、そのほうが気持ちいいし、何より格好いいと思うぞ?」
「は、はい!」
「さて、帰るか!」
「ああ、はぁ疲れた…」
―――レンが去ったあとの組合内
「レン様…」
ポッ
レンが帰ったあと、キャロが受け付けのカウンターに頬杖をついて、切なそうに呟いた。
「あーキャロ〜、ダメだよ〜、私も狙ってるんだからね」
「無理よリルカ、叶わぬ恋だわ…せめて呆れられないようにしなきゃっ!よしっ!頑張るぞ〜!」
「「おおー!」」
「あら、珍しいわね、ダーニエが口を開くなんて」
「ん…」
「?相変わらずよく分からない子ね」
受付嬢のあと一人、無口のダーニエ、開拓者が受付に訪れても、一言も喋らないという無口っぷり、ぶっちゃけなんで受付嬢としてそこに配属されているのかは分からない、何人もの開拓者が喋らせようと受付に挑戦しているが、今だに成功した者はいないとか…
「レン………」
ダーニエはボソボソと独り言を呟くが、小さすぎて誰も気付いていなかった。
―――
「セフィール、おはよ〜」
「おはようレン様」
「昨日はお疲れ、だいぶ顔色が良くなったな」
「おかげさまでな、あ、そうだ、技能を返し忘れていたな、返そう」
「そうだったな、では返還を」
「おう」
「よし、まぁそんなに頻繁に使う技能ではないからな、使う時は連絡しろ」
「分かったよ」
『レン!おいレン!聞こえるか!』
なんだなんだ?朝っからうるせぇなぁ、これは、サリーの声か、トラブルでもあったか?
「すまんなセフィール、知り合いから連絡が来た、朝食は先に食べてくれ」
「人気者だな、では先にいただこう」
「すまんな…うぃ〜なんだよ朝からうるせぇなぁ」
この通話で、レンの忙しい1日が幕を開ける事になる。




