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128話 開拓者組合ゼンダルア支部

大人に戻ったセフィールを寝室に運んだレンは、その後は何をするかと考える。



本当に身長が伸びるとは微塵も思ってなかったから焦った〜、持ってて良かったよ、激痛軽減…


さすがにこのままセフィールに顔も合わせず去る訳にはいかないしなぁ、組合にでも顔を出してくるか。



「メイドさん、この町には開拓者組合はあるのか?」

「はい、御座います」

「じゃあ少し出掛けてくるから、セフィールが目を覚ましたら、夜までには戻って来るから安静にしておくよう伝えておいてもらえるか?」

「かしこまりました、気を付けて行ってらっしゃいませ、皆さん!レン様がお出掛けになりますよ!」

『かしこまりました!』



えぇ…そんな大層にしなくても…



「それでは玄関までご案内致します」

「いや、さすがにもう屋敷の造りは把握したし、俺一人でも…」

「駄目です、これでもメイドの端くれ、お客様が屋敷内に居られる間は粗相は許されません」



粗相とはならんだろ…



「分かったよ、よろしくな」

「はい」



玄関まで案内され外に出ると。



『気を付けて行ってらっしゃいませ!』



来たときと同じく、メイド達が左右に5人ずつ綺麗に並んでおり、お辞儀をして送り出してくれた。



「う、うん、行ってきます…」



若干陰キャが発動してしまうレン、悪意には強いが、過剰な善意には弱かった。



―――



「ああ〜恥ずかしかった、ああいうのはやめてほしいなぁ」



ゼンダルアの街並みを眺めながら、開拓者組合を目指す。



綺麗な町だ、全ての町がこんな栄えてるのなら、どんどん客を呼び込めばいいのに、魔王様の考える事は分からんな。



綺麗に整備された砂利敷きの道、砂利敷きとは言っても、アスファルトの様に転圧されており、びくともしない強固な道だ。


家の造りもどれも立派、しかし、異世界ならではの中世ヨーロッパ的な感じではなく、どちらかといえば地球の現代技術で建てられたような、馴染みのある木造建てだ。



な〜んか異世界っぽくないんだよなぁ、海外の田舎にある住みやすそうな高級住宅街って感じだ…



家は同じ造りのものはなく、それぞれにこだわりを感じる、一軒一軒が離れて建てられており、家と家の間は、小さな木や塀などで仕切られている。


大きな庭で子供たちが遊んでいたり、主婦と思われる人達が楽しそうに喋っていたりもした。



犬でもいて、走り回っていたら完璧だったな、それにしても平和そのものじゃないか、死にたくなかったらやめておくんだな、とか意味分からんぞ、ライフドめ…



そうこうしているうちに、遠くに組合の建物が見えてきた。



おお、珍しい、平屋なのか…だだっ広いな。



屋根が緑色の木造の建物、これまた田舎の学校みたいな雰囲気、入り口は建物の左寄りの方に設置されている。


建物は緑色と茶色のみで、全体的に優しい色合い、魔王国という名に相応しくないにも程がある、そう思うレンであった。


なんだか拍子抜けだと思いつつも建物に近づいていくと…



『ガッハハハハ!今日も儲かったなっ♪』

『おう姉ちゃん!一緒に飲まねぇか?』

『あたしに触るんじゃないよ!その汚い顔を治してから声掛けるんだね!』

『なんだとぉ!』

『俺の酒飲んだのは誰だこらぁ!てめぇか!表に出ろ!』

『痛ぇ!俺じゃねぇよ!ぶっ殺すぞコラァ!』



ガシャン!バキッ!ドカッ!



『おう!いいぞ!やれやれー!』

『そこだっ!潰せ!』

『ハハハハハ…』



えぇ〜、全然見た目の雰囲気と中から聞こえる声が合わないんですけど…


うん、これは確かに客を呼べないな。



引き気味な意見の割には、内心ワクワクしながら組合の扉を開くレン。



キィ〜



「…」

『…』



シーン…



うっ、なんという沈黙の圧…めちゃくちゃ見てくるじゃんか、俺は田舎者扱いか?どちらかと言えば余所者扱いか…



組合内の造りは、やはり他の組合と同じだったが、1階建てのため、2階への階段は無く、食堂の奥へ続く道がある。



あっちに組合長の部屋とかがあるんだろうな…くそっ、なんなんだよこいつら、さっきまで喧嘩してただろうが、何動き止めてんだよ荒くれ者共が!


こんなに目立つと思わなかったし、威圧しないように注意して…



タッタッタッ…



「こんにちは」

「…」



受付嬢に声を掛けるも、無視される…


椅子に座って足を組み、爪を研ぎながらチラッとレンの顔を確認して、また爪研ぎをし始めた。


受付嬢は3人いるが、他の2人も同じような感じだ。



ふ〜ん、いい度胸だな…



『ぶっふふふ…みろよあいつ、無視されてんぞ』

『余所もんだろ?見たことねぇもんな』

『可哀想に、もう少し顔が良ければ私が面倒見てあげたのにねぇ』



外野の声は聞こえないフリをしつつ…



「こんにちは」

「…」



しつこく声を掛けるレン。



まだだ、ここで暴れてしまっては面白くない。



「こんにちは」

「…」

「こんにち…」

「うるっさいわねぇ!聞こえてるわよ!」

「こんにちは」

「はぁ?」

「こんにちは」

「はいはい、こんにちは、これでいい?」

「やっと聞こえたか、お前、そうとう耳が遠いんだな」

「はぁ?だから最初っから聞こえてたってのよ!失礼なやつね!」

「じゃあなんで返事しなかったんだ?失礼なのはお前の方だろ、もしかして休憩中だったのか?」

「あんたみたいなのは見たことないからよ、私は知らないやつには期待しないのよ、どうせこの町の人間じゃないんでしょ?」



それでも仕事はしなきゃダメだろ。



『ひっでぇ、あの兄ちゃん泣いちゃうぞ』

『新人は通る道なんだよ、俺も泣かされたもんだ』



外野も好き勝手言いやがって、なるほどな、ここではこれが通常運転なのか。



「返事してほしかったら実力を上げることね」

「お前は俺の実力を知っているような言い振りだな」

「ふん、見たこともないやつが、こんな辺境の町に来ている時点でたかが知れているわ」

「凄い考察のしかただな、よくそんなんで今まで生きてこられたものだ」

「グダグダと本当にうるさいわねぇ、それであんたはなんなのよ」

「いや別に?ただこの組合を見に来ただけだが?」

「は?ああそう、なら見れて良かったわね、お帰りはあちらで〜す」

「そうか、確かに目的は果たしたな、とりあえず今はセフィールに世話になってるからな、報告だけはさせてもらおう、じぁあな」



レンはそう言うとくるっと振り返り、足早に組合を去って行った。



―――



「なんなのよあいつは」

『おい、今セフィールって…』

『俺もそう聞こえた』

「ねぇねぇキャロ…」

「何よ」



セフィールの名に聞き覚えがある隣の受付嬢が話しかける。



「今の人セフィールって言ってなかった?」

「だから何なのよ」

「セフィール…知らないの?」

「はぁ?知ってる訳ないじゃないの…あれ?いや、どこかで…」

「本当に?本当に知らない?」

「あぁっ!町長の名前じゃないのよ!そしてここの組合長じゃないの!」

「そうよ、あんたヤバいんじゃないの?」

「…」



シュッ!ダッダッダッ!バタン!



「ちょっと今の人!」



急いで立ち上がり駆け足、扉を開いて外を確認して叫ぶ…しかし、かなり見通しがいいにも関わらず、レンの姿はもうなかった…



「い、いない!?なんで!?」

「うわぁ、やっぱり普通の人じゃなかったんだよ〜、私し〜らない」

「う、うぅぅ…どうしよう、殺されちゃう…」

『おいおい、俺たちもヤバくないか?』

『馬鹿にしてたの絶対聞こえてただろ…』

『聞こえるように言ったからな…俺、この町出ようかな』



ぷっ、バカどもめ…まぁ面白いから報告はしないでおいてやるか、後でもう一度しれっと来てみよう…ぶははは♪転移。



扉を出た瞬間転移で組合内に戻り、潜行で身を隠して様子を伺っていたレン、相変わらず最悪な性格をしていた。



まぁ、あいつらが悪いんだからな、悪意には悪意を、だな!



やはり悪意には強い男であった。



―――



『お帰りなさいませ!』

「お、おう…ただいま」



やめて〜、恥ずい〜



「セフィール様はお目覚めになっております、さぁこちらへ」

「うん、よろしく…」



やはり陰キャ発動、口調も少し優しくなっている事に自分では気付いていなかった。



―――



メイドに案内されてセフィールの寝室に向かう、部屋に入ると、ベッドの上で上半身を起こし、青いサラサラの髪を手櫛で撫でているつり目の美女がいた。



「レン様か…本当にありがとう」

「いいってことよ、それよりこれからが大変だぞ?」

「ん?なんでだ?」

「そんなに姿が変わったんだ、確かによく見ればセフィールだけど、普通に別人だぞ」

「ははは…確かに、まぁ実力で分からせるさ」

「いやいや、技能を封印しているだろう、魔力とか使えるのか?」

「実はな…目覚めたあと、一度封印を解いてみたんだよ」

「はぁ!?やめろよ!そういうのは俺がいるときにしてくれ!死んだらどうするんだよ!」

「ありがとう、レン様は優しいな…」

「おまっ、違う!優しさなんかじゃねぇ!俺が生かしたんだ、死んでもらっちゃ困るだけだ!」

「はは、そういう事にしておこう」

「ぐぬぬぬ…」



くそぉ、調子狂うぜ、なんで俺がこんなツンデレみたいなキャラになってるんだよ…



「とにかく、大丈夫だったんだ、魔力も普通に使えそうだし、身長も縮まない、多分これ以上は成長しないのだろうが、十分だろ」

「ああ、十分大人だ、もしかしたら老化もしないかもしれないぞ?」

「それはさすがに恩恵が過ぎないか?」

「恩恵ねぇ、老化しないってのはな、人によっては地獄だぞ?」

「そうなのか?」

「寿命まで延びるのかは分からない、だがもしそうであったなら…そのうち人生に飽きるぞ、数百年も経てば、きっと生きる目的を見失って、感情が気薄になるか、無くなるだろうな、人間の記憶領域だって無限じゃない、そのうち昔の事を忘れ、大切な人達の記憶も消えていく、もしかしたら記憶の取捨選択をするようになるかもな、魔法でどうにかなるかもしれんが」

「そうか…そうかも知れないな、確かに地獄だ、その時はまぁ…自害でもするさ」



そんな泣きそうな顔で言うなよ。



「大丈夫だ、俺も不老だからな、他にも何人か不老仲間もいるんだ」

「そうなのか!?」

「そのうち俺は、自分の町を作ろうと考えている、人生に飽きたら遊びに来い、歓迎するよ」

「ああ、ああ…そうするよ、まだ不老って決まってないけどな、にひひ♪」

「よし、少し元気になったな、それで?技能はどうする?」

「返すよ、必要になったらこれで呼ぶさ、いいなこれ、便利だ」

「そうだろ?いつでも呼んでくれ」

「ありがとう、あんたは恩人だ、なんでも力になろう、まぁその必要は無さそうだがな」

「そんな事はないぞ?魔王様によろしく言っておいてくれ、俺には出来ない事だ、それに、お前の身長を見れば興味くらい沸くだろ」

「確かにな、魔王様でさえ出来ない事をやってのけたんだ、絶対気にすると思う」



ここで急に組合の事を思いだす、報告はしまいと思っていたレンだが…



「そういえば今日、セフィールが寝ている間に組合に行ってきたよ」

「そうなのか、バカどもに迷惑を掛けられなかったか?」

「そんな事はない、楽しい組合だったよ」

「そう…か?そんな事があるのか?あの組合が?ふ〜む…怪しい」



勘が鋭いな…



「俺はトラブルが大好物だ、その観点からすると楽しかった、もし普通の組合だったらがっかりしていたところだ、これだけは言っておこう」

「…分かった」



さぁどうなるかな?



「今日はいちおう寝ておけ、何があるか分からないからな、技能は明日返してもらうよ」

「ああ分かったよ、おやすみレン様」

「おやすみ、じゃあメイドさん看病よろしくな」

「本日は本当にありがとう御座いました、セフィール様のお食事はこちらまでお運び致しますので」

「ああよろしくな、俺も大分早いけど今日は部屋でゆっくりしている事にするよ、食事も大丈夫だ、自前のを持っているからな、おやすみ」

「はい、おやすみなさいませ」



元気にはなったが少し顔色が悪いからな、そりゃそうか、あれだけ一気に成長したんだ、普通なら死んでいただろう。



部屋に戻り、カリンとレイカに連絡をして今日の事を報告したり、魔法の考察、筋トレなどをして時間を潰し、明日はもう一度組合に行ってやろうと思いながら眠りにつくレンであった。



―――――次の日。



メイドに起こされ、1人で食事をしていると、セフィールがおぼつかない足取りで食堂へやってきた。



「おはよう」

「おう、セフィールおはよう、調子はどうだ?」

「まだ少し歩き辛いけど、すぐに慣れるさ」

「そうか、無理はするなよ?」

「分かってるよ、レン様は意外と世話焼きさんだな」

「うるせぇ、俺の中ではセフィールはまだ小さいまんまなんだよ」

「そうかよ、今日はどうするんだ?」

「それなんだが、なにか組合にお使いはないか?」

「また行くのか?意地の悪いやつだな」

「そんな褒めんなよ」

「褒めてない、はぁ~、まぁそうだな、時計を売りに行くっていうのはどうだ?」

「いいねそれ♪お前に頼まれて、少し卸しに来たと言おう」

「ほどほどにな、あれでもこの町の大切な資金源の一つなんだ」

「分かってるよ、ぬっふっふ…」



セフィールは苦笑い、だが悪い気もしてなかった、レンが来たことにより、何かが変わりそうな気配を感じていたのだ、レン本人は何も考えていないが…



―――



キィ〜



「あっ、昨日の!い、いらっしゃいませー♪」

「ん?昨日とはずいぶん態度が違うじゃないか」

「え、ええ、今日は少し調子が良いものでして〜」



ニコニコ♪



ニヤつきやがって、分かりやすい小悪党だな、まぁいい…



「そうか、体調管理はしっかりな、客商売なんだから、町長に怒られるぞ?」

「うっ、そ、その〜、セフィール様には?」

「なんだ?」

「報告とかなんとか、言っていましたよね?」

「ああ、よくやっていると報告しておいたよ」

「え…」



予想外の報告をされていて、困惑顔の受付嬢。



「昨日の態度が通常なんだろ?それならしっかり仕事をしていたってことじゃないか」

「通常…そのまま報告を?」

「ああ、安心しろそこまで詳しくは…」

「おい」



突然、後ろから肩を掴まれて話を遮られた。



釣れたな…まぁ向かってきていたのは分かっていたが。



「よおてめぇ、新人か?余所者か?さっきからごちゃごちゃと、嬢ちゃんを困らせてんじゃねぇよ」

「デ、ディグ…やめて、その人を怒らせないで」

「ああ?なんでAランクの俺が気を使わなきゃならないんだよ」

「で、でも…」

「おい、お前だって困らせてるじゃないか、めんどくせぇ名前しやがって」



ティアとかティルとかがいるんだから間違えそうな名前はやめてくれよな、覚える気ないけど。



「なんだと!?俺の名前がなんでめんどくせぇんだよ!この余所者が!」

「余所者って、ここは西国で1番最西端の組合だろう、最西端の開拓者が何を言っているんだよ、他から来てくれるだけでもありがたいとは思わんのか?」

「うるせぇ!この国は内側だろうが外側だろうが優劣なんてねぇんだよ!」

「だったらなおさら余所者呼ばわりはダメだろう、お前は馬鹿なのか?」

「うるせぇ!うるせぇ!ならてめぇはどこのヤツなんだよ!」

「この国の人間じゃないな」

「あぁ?てめぇ…結局余所者じゃねぇか!」

「そうだな、余所者扱いするのはこのタイミングが正解だな」

「ディグ!ダメよ!」



レンからしたら物凄くおっそいパンチを出してきたので…



「ぐわぁ〜」



ガシャーン!



わざと殴られた振りをして、食堂の方へ大げさに吹っ飛んでみた。



「おお!?びっくりしたぁ!昨日の兄ちゃんか!?」

「喧嘩か!よしいいぞ!やれやれ!」

「だ、大丈夫なのか?町長に殺されねぇか?」

「そんなもん、嘘に決まってんだろ!」

「う、うぅ…」



床に膝を付いて大げさに痛がる素振りをしてみる。



「確かにそうだぜ!セフィール様がこんな弱っちいのを相手にするかよなぁ!はははは!」

「何よ!嘘だったの!?確かに姑息な嘘を付きそうな顔だわ、よくも騙してくれたわね!ディグやっちゃって!」

「キャ、キャロ〜、本当に大丈夫なの〜?」

「大丈夫よ、昨日あいつが本当に報告しているなら、私はもう生きてないわよ」

「た、確かにそうだけど〜」

「おいおい、これはどうなっている?なんの騒ぎだ?」



む?この声はまさか…



「ん?その顔…お前、レンか?」



おいおい、なんでこんな辺境にこいつがいるんだよ…めんどくせぇ〜

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