126話 セフィール邸
『お帰りなさいませ、セフィール様』
セフィールの案内で屋敷の前に到着したレン。
うわぁ…こういうの本当にあるんだ。
入り口の両脇にメイドが5人ずつ、綺麗にお辞儀をして家主であるセフィールを迎える。
こういうのって、どうやって主人が帰ってくるのを察知してるんだろうな…あぁ、文字通り技能で察知でもしてるのかな?どうでもいい事か。
「うむ、ただいま、この方はレン様だ、私よりも実力の高いお方なので、皆粗相のないようにな」
「なんと、それはそれは…」
1番先頭の年配メイドが口を開いて言ってきた。
「客間の準備を、あと夕食もだ」
「かしこまりました」
そう言うと、また深くお辞儀をして動かなくなった。
「さあ入ってください、レン様」
「ああ…」
なんだか日本人としては気が引けるな。
―――
リビングに通されたレンは、大きなテーブルの適当な席に座り、セフィールに質問をする。
「中央からだいぶ離れているのに、この町はずいぶん発展してるんだな」
「中央以外はどこの町もこんなものですよ」
「そうなのか…他の国とはずいぶん違うんだな」
「そうなのですか?」
あ、でも俺、他の国でもそんなに町々を見て回ってないな。
「いや、まぁそうらしいってだけなんだがな、基本的には中央に近いほど栄えているのが普通みたいだぞ?」
「へぇ、この国は各町の長達の仲が良いですからね、長達は全員、魔王様の側近、という立場なのですよ」
「町はいくつあるんだ?」
「中央都市のヴォルスターレを含めて、25あります」
「なるほど…中央を除いて、西、北西、南西、それぞれの方角に聖堂が、各8堂づつあるって事かな?」
「そうですね、まぁその先にも聖堂はありますが」
「そうだったな、その先は危険区域だもんな、西にはどんな魔物がいるんだ?」
「浅層ではスライム、ゴブリンなどの弱い魔物、中層はボア、ディア、ウルフ、ベアなどの獣系の魔物、深層はの魔系の魔物ですね」
「まけい…とは?」
「魔力の魔で、魔系です」
「魔系…ふむ」
中層までは他と変わらんな、浅層に獣系がいないのは違うけど、まぁ誤差の範囲だろう、あと魔系とは…なんぞ?悪魔の事か?スケルトンとか、レイスとか?
魔って言葉は、あまりいい言葉ではないからなぁ、殺す者とか、悪魔とか、色んな意味が含まれるんだよな、ちょっと悪い事をすると、魔がさすとか言うしな。
「そうか、まぁそれはあとの楽しみにしておくか」
「楽しみ?」
「ああ、俺は少しステータスを上げすぎたが故に、深層の魔物じゃなきゃ修行にならないんだよ、今では第3区でも少し退屈するくらいだし、最深層はあまり荒らしたくないしどうしたら良いかと思ってな、魔系ってのは初めて聞くから、少し期待しているんだよ」
「は、はは…とんでもないお方だ、魔王様より強いとは過信ではなかったのですね」
「まぁ、魔法は想像力で強さが変わるからな、そればかりは分からんが、魔王様の想像力次第じゃないか?」
「想像力…」
「お前の重力魔法だって中々の想像力だったぞ?ちょっと足りなかったけど」
「お、教えてくれ!コツを!」
「いいぞ、あとその喋りでいい、敬語はやめろ、なんからしくないぞ」
「うぅ、わかったよ…これでいいか?」
「おう、気楽にいこうぜ、かしこまってもつまらないだろう」
「それはまさに強者だからこそ言える事だよ」
「俺もそう思う、はははっ」
魔法と想像力についてコツを教えていると…いい匂いが漂ってきた。
「セフィール様、レン様、お食事をお持ちしました」
「おう、あんがとな」
「いえ、それでは準備いたします」
―――
そこそこ美味しい何かのステーキを食べながら、魔法に関して教え込んでいく。
「なるほど…世界が私達を下に引いているのか」
「そうだ、物が下に落ちるのはその力だ、その力をサポートすればいいだけなんだよ」
「考え方が違いすぎる…」
「特殊な知識を持っているからな」
「でもその考えなら、魔力の消費も少なそうだ」
「そう、押さえるんじゃなくて引く、しかも世界のサポートをするだけ、簡単だろ?」
「後で試してみよう」
「お前の魔法適正はなんなんだ?」
「う…魔法適正は、無い…」
「…そうか、すまない、失礼な事を聞いてしまった」
「大丈夫だ、その代わり技能に重力という名前があったのだ」
「ふむ、それで?」
「私は子供の頃、周りにイジメられて育った、お前には魔法の才能が無いと、毎日からかわれていた」
「重力の意味が分かってなかったのか?」
「ああ、魔法の先生にも馬鹿にされた、なんで才能の無いやつに教えなくてはならないのかと、時間の無駄だと、な…」
「今日は町の巡回中に、昔の魔法の先生だったやつにばったり出会った…」
「まさか…あの巨漢の男か?」
「見てたのか?」
「ああ、目に入ってな」
「怒鳴り散らしてたからな、頭に血がのぼってたんだよ、魔王様に力を見初められ、重力の意味を教えてもらい、奴には復讐を果たした、その時2度と私の前に現れるなと言ったのだがな」
「じゃあなんで俺にも絡んだんだよ…」
「絡んできたのはあんただろ」
「そうだった…」
「まぁでも頭に血がのぼっていたのは確かだ、誰でもいいから殺したい気分だった、そんな私の網に獲物が掛かったものだからな、何を言っても動じないレン様にイラッとしてしまってな」
「怖っ!俺、お前よりも弱かったら死んでたのかよ」
「分からん、数発殴れれば落ち着いたかも知れんな」
「もういい大人なんだから精神を制御しろよ、精神貸してやろうか?」
「なんだよ貸すって、そんな事…もしかして出来るのか?」
「おう、出来るぞ、他のやつらにも貸してるからな、貸した数値の割合で利息が貰える技能なんだよ、だから他のやつらにも貸してるけど、今だに精神は10万だ、他の能力も全部そうだ」
「もう訳分からん、神様だろあんた」
「聞き飽きたよ」
「どうする?一泊の恩義に貸してやるぞ?その代わり…」
「な、なんだよ…」
「俺が返してくれと言ったら必ず返せ、そうしないと…お前は死ぬことになる」
「怖っ!レン様の方がよっぽど怖ぇよ!」
「しょうがないだろ、そういう技能なんだから」
「どういう育ちをしたらそんな技能を習得するんだよ」
「まぁ、色々とな…ははは」
「私の精神は2000くらいなんだ、貸してもらえるか?」
「低いなぁ、この世界の人はそんなもんなのかもしれないな、よし分かった、お前には5万貸してやる、そしてしばらく貸しておく、返して欲しい時は通話で言うから素直に返してくれ、潜在能力が爆上がりするから、その後レベルを上げに行け」
「5万!?そんなに、いいのか?」
「いいぞ、これだけで1日1500の利息が入るんだ、一ヶ月も経たないうちにまた10万に元通りだよ」
「凄すぎるな、限界を突破したくなるのも頷ける」
「そうだろ?じゃあ貸すぞ、貸与」
「む、おぉぉ…これは」
セフィールの顔がみるみる、無表情になっていく。
「落ち着いたか?」
「ああ、なんで昔イジメられたやつを見て、腹を立てたのか、よく分からなくなってきたよ」
「そこまで変わるのか、俺は…あんまり変わらなかったがなぁ、まだ復讐心は残ってるし」
「復讐?」
「俺はこの世界の人間じゃない」
「!?」
「おっと、勇者じゃないからな?勘違いするなよ?」
「じゃあなんなんだよ」
「ただ単に拉致されて連れてこられただけだよ、賢者にな」
「なんだとっ!?」
めんどくさいから説明しちゃうか…
「これから俺が話す内容はかなり濃い、信じるも信じないもお前次第だ、ただ、別に他言無用でも何でもない、信じたならば周りに言いふらせ」
「普通は他言無用なんじゃないか?」
「言いふらすことが復讐にも繋がるんだよ」
「なるほどな、まずは聞いてからだ」
「俺は…」
この世界に来た経緯、箱庭の事、鼻くその事、全て詳しく説明していく。
「なるほど…言いふらしたほうがいい理由も分かった、私は信じるぞ、とにかく洗脳された者を助けなくてはな」
「お前、いいやつなんだな」
「失礼な言い方をするなよ、私はこれでもまともな方の町長だ」
「まともじゃないやつもいるのかよ…楽しみだな」
「楽しむんじゃない」
「まぁ、そんな訳で、俺は打倒鼻くその為に色々と動いてるんだよ」
「了解した、魔王様や側近どもにも話しておこう」
「助かる、じぁあ今日はもう休むよ、客間は…」
「レン様、こちらになります」
「おう、よろしくな、おやすみセフィール」
「ああ、おやすみ、ゆっくりしていってくれ」
ドアの横に待機していた年配メイドが一歩前に出て言ってきたので、後に付いて行く。
―――
「こちらになります」
「ありがとう、食事も美味しかったよ、おやすみ」
「はい、おやすみなさいませ、ゆっくり休んで下さいまし」
さてと…寝る前に金を換金するか、むむぅ〜
換金の意志を確認しました。
換金しますか?
「イエス、とりあえずサリーをこの国の金へ」
知り合いの名前が金の単位だと違和感が凄いな…
1サリー→1デビル
デビル!?
「確か魔王の名はデビライド…だったか、すげぇ通貨単位だな、まさに魔王国の通貨だな」
とりあえず10億デビルに換金しておくか。
チャリン♪
やはり何度聞いてもいい音だ…
さて、明日はどうするかなぁ、組合でも覗いて、あと一泊してから…ヴォルスターレに行くか。
間の町々を見て行っても良かったけど、あまり変わらないと言っていたからな、飽きそうだし。
『レン、まだ起きているか?』
「カリンか?起きてるぞ〜」
『西はどうだ?』
「うん、まぁ、思ったよりも普通だったな、今は1番西から一つ手前の、ゼンダルアっていう町にいてな、町長の屋敷で世話になってるんだ」
『迷惑掛けてないだろうな?』
「おかんかよお前は、迷惑なんて掛けてない…はずだ」
『今の間は何だ?』
「少し喧嘩をふっかけたのは事実だからな、でも今は仲良しだよ、話してみるといいやつだった」
『くれぐれも注意してくれ、これでも心配しているんだ』
『そうだよ〜、カリンったら心配でず〜っと泣きそうな顔してるんだから』
『おいレイカ!そんな事はないぞ!あたしは泣きそうになんかなってない!』
「心配してくれてありがとな、カリン」
『う、うむ…』
『私だって心配してるんだよ〜、ちゃんと金剛魔鉱石作ってくれてるかなぁ、ってね』
「そっちかよ、相変わらずだな、心配するな、ちゃんと作ってから寝るから」
『強さに関しては全く心配してないからね〜、カリンと違って』
『レイカ!お前いい度胸だな…勝負だ!表に出ろ!レンおやすみ!』
『望むところだ〜!負けないよ〜、レンおやすみ〜、私達はひと汗流してから寝るよ〜』
「お、おう、ほどほどにしろよ、おやすみ」
…何やってんだあいつらは、仲良さそうで何よりだな、しかし…実際どちらが勝つのかは興味あるな、後で結果を聞こう。
2人が仲良さそうに戦っている姿を想像し、少しニヤつきながら眠りにつく。




